クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!

実に一週間ぶり。またしても、ごめんちゃい。すみません。

今回、七海ちゃん視点が入っています。
そして、デレも少し入ってるかな?

この作品の投稿日なのですが、Twitterの方で前日にお知らせしています。
ユーザーページにリンクがあるので、よければどうぞ。

では、本編どうぞ!


第4話 昨日と同じなら

「はあぁぁ~……」

 

 私は大きく溜め息を吐きながら、制服のままベッドに倒れ込む。

 窓から差し込む斜陽を眩しいと言うように、手の甲を額に当てながら、仰向けの状態で天井を仰ぐ。

 ここ二日、あの東雲とかいう奴に絡まれている。

 そのお陰で、いつもよりも疲れを感じている。

 

 口を開いたかと思えばふざけてばかり、こっちの身にもなってほしい。

 まぁ、どうせ私がこのまま冷たく当たっていけば、すぐに皆のように遠ざかるだろうし、あまり気にする必要もないか。

 

 そう、周りと同じように、知らないと目を背けるに決まっている。

 私は、あまり人と接することが好きではない。嫌いなわけでもないが、一人で静かに過ごしていたい気分のときが多い。

 素っ気ない態度を取っていると、自然と静かな環境は形成されていた。

 

 けれど、それまでだった。一度形作られた陶器は、形を変えられないように、一度取り付いたイメージや第一印象は離れない。

 後に残った選択肢は、このままの状態を維持するか、陶器を割って、砕いてしまうかのどちらかのみ。

 第一印象の破壊など、不可能だ。だったら、自ずと私が取りえる選択肢は一つだけ。

 

 でも、まぁ……楽しくなかったわけでは、ない……かも。

 

「……はぁ。何考えてんだろ、私」

 

 二度目の溜め息と共に口から溢れた独り言は、照明の点いていない自室の中で、反響することなく消えた。

 この部屋を照らすのは、さっきよりも弱々しくなった、夕の橙色の陽光のみ。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 翌日の朝、晴れ渡る空から青白い陽光に包まれた教室に入った瞬間、

 

「あ、おっはよ、蒼夜! 図書委員で綾瀬と一緒に仕事したんだってな! すげぇよ!」

 

 と、遥斗に極めて爽やかな笑顔で言われる。どのくらい凄いのかわからん。

 こういうとき、俺はどういう反応をするのが正解なのかわからない。中身が無くとも肯定するべきなのか、相手の考えを割ってでも否定するときは否定した方がいいのか、無視するべきなのか。

 俺はいつも、肯定しかしないのだが。仮初めだと割り切ってしまえばいいだけの話だ。

 

「そうか、ありがとう」

「おう、高波から聞いたぜ?」

 

 そう言って、遥斗がある方向を見る。

 視線の先には、緑髪をストレートに伸ばした少女――高波の姿が。

 ……え、同じクラスだったのかよ。昨日あんだけ考察したのに。

 高波も結構な美少女なので、覚えていてもおかしくないはずなんだがな。何この発言危ない。

 

 ――あ、こっちに気付いて手を振ってきた。一応振り返すけども。

 こういうときも、対処がわからない。今みたいにするか、会釈するかとか。

 コミュ障の塊みたいな人間だな、俺。

 

 

 昼休みを栄養バランスを度外視した昼食を食べることで過ごし、今日も放課後がやってくる。

 教室にまだ明るい光が差し込む内に、SHRが終わって下校。

 散り散りとなっていくわけだ。弾けて混ざるわけでもないが。

 

 今日も昨日と同じく、図書室へ足を運ぶ。

 扉を開けると、読書中の綾瀬の姿が目に飛び込んだ。

 開け放たれた窓から吹き抜ける軟風が、彼女の髪をより魅力的に魅せる。

 

 それと同時に、彼女がこちらに目を向ける。

 彼女の濡れた瞳に映っているのが自分の姿だと思うと、予想以上に心臓が跳ねる。

 視線がかち合い、謎の緊張感が全身に張り詰める。

 

「……今日は、随分と優雅じゃないか」

「まぁね。今日はあまり本が返却されていないの。こうやって読書をしている時間が、愛おしい」

 

 そう言いながら、俺に向けられていた目線を本に向け、優しく撫で始める。

 少しでも明確にこちらに目を向けてくれるようになったのは、進歩と言っていいだろう。

 優しげな、いつも見せない笑顔にドキッとしてしまう。

 

 受付に座っていた綾瀬の隣に座って話す。

 

「そうか。俺も読書は好きな方だ。図書委員に入ったのも、それが関係しているのかもな」

「あら、私と同じね。何だか残念だわ」

「おい。残念とか言うなよ。人としてどうなんだ。言って良いことと悪いことの区別つかないの?」

「つくに決まってるじゃない。ついているから言ってるのよ」

 

 なんだろう、さっきまでのときめきを返してほしい。

 こいつ、意外に毒を吐くからな。俺の精神が気付いたらボロボロになっているかもしれん。

 言論の自由があるものの、侮辱罪だぞ。公共の福祉。

 

「……まな板が何を言う」

「ん? 何か言ったかしら?」

 

 隣の笑顔が怖い。それやめない? すみません私も侮辱罪でしたね。

 軽く脅迫できちゃうよ? 威圧感すげぇ。パワプロの一歩先を行っている。

 

「あぁ、言ったとも。言っていいと思ったからな? 高波と対極しているよな」

「そこまで言う必要ないじゃない! 私だって気にしてるのよ!」

 

 気にしていたらしい。目に涙が溜まっている気もするが、気のせいだろう。

 他愛のない会話をしていると、扉が開く音がした後、高波が入ってきた。

 

「やっほ~。今日も仲睦まじいね~」

「「それは絶対にない」」

「ほら、仲睦まじいじゃない」

 

 二人で声が重なって、高波に茶化される。

 今回は本を借りに来たようで、本棚の方向へ歩き始める。

 歩を進める度に、ブレザーの奥の双山が揺れる。すげぇ、ブレザーありでもあれか。夏服はきっとすげぇぞ。

 もうすぐ夏服に変わるらしいので、楽しみでもある。俺は変態だったのか。まぁ、男子高校生だし、仕方がない。

 

 そして、ちらっと隣の胸元を一瞥。

 ぺったんこである。壁。まぁ、俺は大きい方がいいとか小さい方がいいとか、そういう好みはないが。

 

「ちょっと。人のどこ見てるのよ」

「壁」

「はぁぁっ!」

「え? ちょ――ぐはぁっ!」

 

 みぞおちに、綾瀬の肘打ち、炸裂す。字余り季語なしという俳句の完成。季語なしって大丈夫なのか?

 

 それより、痛い。超痛い。俺は両手でみぞおちを押さえて(うずくま)る。

 

「ぐぉぉぉぉおお……!」

「今のはあんたが悪い。暴力を振るったのも致し方ない」

 

 表情を見る限りでは、本当に不機嫌そうだ。

 まぁ、そりゃ他人と胸の大きさ比較されたらこうなるわな。

 

 遅まきながらそれに気が付き、慌てて弁解にかかる。

 

「ご、ごめん……! 俺の好みは巨乳貧乳関係ないからさ?」

「あんたの好みは聞いてないわよ……」

 

 今度は呆れ顔になる綾瀬。逆効果でした。俺にはどうすることもできない。

 

 今の状況に困りつついると、いつの間にか受付に来ていた高波に気付く。

 持っている本は、今から借りていくのだろう。

 その目は慈愛に満ちていて、何とも柔らかそうだ。他のところも柔らかそう。ナニとは言わないが。

 

「やっぱり仲がいいね。でも、いつの間にそんなに仲良くなったの?」

「麗美奈にこのやり取りが仲良い、って言われるのは心外ね。隣の()()と仲が良いだなんて、恥ずかしいわ」

「ねえ、ちょっと? 『これ』とか言わないでね? 俺も人間だよね?」

 

 手際よく本を受け取った綾瀬が、手続きをしながら話す。

 それを俺が横で盗み見て、やり方を覚える。これが一番安全で平穏な仕事の覚え方だと理解した。

 昨日のやり取りを繰り返すことになるのは、さすがに面倒だ。体力的にも、精神的にも。

 

 俺の人権が怪しくなっているところ。最早『これ』扱いである。

 物かよ、俺は。さしずめ、俺は召使のルンバといったところだろうか。そんな高性能でもないか。

 

「あ、あはは……じゃ、じゃあね、七海ちゃん、東雲君」

 

 ほら、あのおっとりした高波でさえ苦笑い。この状況の物悲しさを体現しているようだ。

 再び図書室に静寂が訪れるかと思ったが、意外な来訪者。

 

 高波が締めた扉が完全に締め切られる前に、途中で押し戻されて開く。

 

「へぇ、遥斗も本を読むんだな」

「おうよ。まぁ、二人の様子も見られて一石二鳥だ。はい、返却お願いするよ」

 

 本を手に持った遥斗が扉を抜け、受付に。

 綾瀬が受け取ろうとしたところを、俺が先に奪い取るようにして本を手に取る。

 

 背表紙のバーコードを読み取り、パソコンを操作した後、生徒手帳に貼られた個人バーコードを読み取る。

 そうして返却の手順は終わり、俺は席を立ってさっきの本を本棚に戻しに行く。

 

 その後をつけてきた遥斗が、俺に耳打ちする。

 俺は歩いて本を直しに行きながら、会話していない風を装うため、目線は真っ直ぐそのままに。

 

「なぁ、やっぱ綾瀬可愛いよ。胸が残念だけど、俺は全然ありだぜ?」

「あぁ、そうだな。俺としてはそういう話を平気でする遥斗に残念だがな」

 

 そういう変態気質なことは、せめて心の中で留めておけよ。みぞおちに肘打ちされるぞ。誰かさんみたいに。

 

「いいじゃん。そういうの嫌いか?」

「いやむしろ大好き」

 

 ここは正直にいこう。嘘なんて吐くものじゃない。

 こういう変態気質な言葉でも、心の中で留めておくってのはいけないと思うんだよ。

 とんでもなく曲がってくるブーメランだな。アボリジニもビックリだ。

 

「だろ? じゃあ、綾瀬は好みなのか?」

 

 俺はちらと、綾瀬の方へ振り返って容姿を確認しようとしたとき。

 

 

 

 ――後ろで、綾瀬が冷笑を浮かべて立っていた。

 

 ……あっ。

 

「二人共、何か言い残すことは?」

 

 綾瀬の口から、冷ややかな声色の音が聞こえる。

 言い残すことはないか。それが示すことは俺達にはわからない。

 けれど、これだけはわかる。ろくなことがない、と。

 

「俺は何もしてないだろ。胸を話題にしたのは遥斗だ」

 

 すぐさま隣の遥斗を指差して、とにかく平静を保って言う。

 懇願の目を向けられている気がするが、見て見ぬふり。

 だって、本当のことだもの。胸が残念って言ったのは遥斗だ。俺じゃない。

 故に、この場にいる者の中で、傍観者、第三者であると言える。

 

「じゃあ、言い残すこと。はい」

 

 もう容赦がない。笑顔を満面に浮かべているのが、また怖い。

 夕焼けが厚い雲に隠れ、図書室に差す光が弱くなる。

 

「……それでも地球は回っている」

 

 うん、取り敢えず遥斗はガリレオ・ガリレイに謝ろうか。

 

 

 同じくみぞおちに肘打ちを入れられた遥斗は、本を抱えて苦しそうに帰っていった。

 本当に苦しそうで、見るのも可哀想だった。

 俺は心の中で言った。ごめんな(笑)、と。

 

 (笑)って、便利だよな。後につけたら何でも柔らかい表現になるな。

 ぼっち(笑)。急に棘が付いたんですがそれは。

 

「……で、どうやってさっき返却の手続きしたの。私は教えてないわよ?」

「あぁ、そうだな。昨日の高波の返却見て覚えた。そうやったら、教える手間が省けるし、掛け持ちしなくてもいいだろ?」

「……ぇ?」

 

 掛け持ちは正直、きついだろう。

 本来一人で一つのところを、二人分やるのだ。

 どれだけ掛け持ちする仕事が軽かろうと、それは変わらない。どれだけ軽くも重くも、一人分。

 

 俺が図書委員として入った今、綾瀬は掛け持ちをしなくてもいい。

 少し仕事を引き継いでさえすれば、すぐに交代してやれる。

 

 今は大丈夫でも、必ずいつか支障が出る。

 クラス委員を受け持っている以上、それは普通よりも大きな問題だ。

 この問題は、早急に解決しなければならないだろう。その支障が、いつ影響するかわからない。

 

「今までお疲れさん。さっきの遥斗のやつで貸出も覚えた。後少しだけ、よろしくな」

「…………」

 

 その目は、何を見ているだろうか。

 俺にもわからない。むしろ、わかることがない。

 どこか憂いを帯びたようにも見える目は、今にも泣き出しそうだった。

 

 何を思ったのか、何を感じたのか、何が言いたいのか。

 それを考えるのは、ひどく意味のないことだ。絶対にわからないことは、追求してもわからないままだ。

 それはいつの時代でも変わることじゃない。

 

 生きる理由を考える、存在する理由を考えるということと同じだ。

 明確な答えがない以上、そんなことは無価値だ。

 

「……もうすぐ終わり。鍵を返すから、外に出て」

「あ、いいよ俺がやる。これから俺が――」

「いいのよ。昨日やったでしょ? まだ二人で図書委員なんだから、交互にやるのが普通でしょ?」

 

 顔は笑顔だが、目が変わっていない。それがとても痛々しく見えた。

 淀んだ雲が太陽光を邪魔し、図書室を一気に暗くする。

 元々照明を点けていなかった図書室は、すぐに暗くなった。

 それが、下校時間の訪れを顕著に示していた。

 

 言われるがままにカバンを取り、廊下に出る。

 施錠した後、綾瀬は無言で職員室へと向かっていった。

 

 小さいその背が、さらに小さくなっていく。

 それを見届けてから、俺は校門に向かう。

 下駄箱でローファーに履き替えて、コンクリートの道を通る。

 一歩一歩を踏み出す度に、コツコツと石を叩くローファーの音が耳に入る。

 

 ……それがいやに耳に残って、頭から離れなかった。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「――失礼しました」

 

 職員室の照明を眩しく思いつつ、もう暗くなった廊下を一人で歩く。

 まだそんなに遅い時間ではないが、雲が空を覆うせいで、光が届いていない。

 無心なようで、どこか空っぽな心で、目でその空を見つめながら下駄箱へ。

 

 部活生も帰りの準備を淡々と進めて、早い部活はもう帰り始めている。

 今まで一人での帰りだったのに、それが今日、少し寂しく思えた。

 

 友人は、図書委員の仕事があるため、一緒に帰ることはない。

 一ヶ月、それを繰り返してきたはずなのに。それが、急に寂しくなった。

 

「はぁ……」

 

 何度吐いたかわからない溜め息を吐き、校門をくぐる。

 

「……おい、どこ行くんだよ」

 

 ここ最近になって、聞き慣れた声が聞こえた。

 ――そこに立っていたのは、彼だった。

 

「……どうしたの」

「どうしたのも何も、待ってたんだよ。昨日と同じなら、俺も昨日と同じく待つのが普通だろ」

「変なところで律儀なのね」

「お互い様だろ。鍵一つくらいで交互にする、っていう誰かさんも。……帰るぞ」

 

 そう静かに言って、彼は先導する。

 彼の背中を見て、少し嬉しくなってしまった。こんな感情、あいつに抱くわけがないのに。

 一緒に帰ることに、喜びを感じた。笑ってしまった。自分でも驚きだ。

 

 その場で笑っていると、彼がこちらに振り向き、先導した分を戻ってくる。

 その動きに、妙な既視感を覚えた。

 

「……ほら、さっさと帰るぞ」

 

 今度は先程よりもゆっくりと歩きだしている。意識して昨日を再現しているのではないかと疑ってしまう。

 その疑いに準ずるべく、私もゆっくり彼の隣につく。

 

 厚く、黒く淀んだ雲は晴れて、太陽が顔を出す。

 橙色の陽光が、軟風と共に私達に降り注がれた。




ありがとうございました!

私の作品にしては、デレが早い。まだこれで三作目、一つも完結してませんが。

知っている方もいらっしゃるでしょうが。
私の作品では、『彼』と『彼女』が多くなっております。
その理由が、自分に置き換えるため、という何とも悲しい理由です。
自己満足でしょうが、よかったら置き換えてみてください。

……置き換えて悶えるほど、甘い恋愛ストーリーを書けるかどうかは保証しませんが。

ではでは!

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