実に一週間ぶり。またしても、ごめんちゃい。すみません。
今回、七海ちゃん視点が入っています。
そして、デレも少し入ってるかな?
この作品の投稿日なのですが、Twitterの方で前日にお知らせしています。
ユーザーページにリンクがあるので、よければどうぞ。
では、本編どうぞ!
「はあぁぁ~……」
私は大きく溜め息を吐きながら、制服のままベッドに倒れ込む。
窓から差し込む斜陽を眩しいと言うように、手の甲を額に当てながら、仰向けの状態で天井を仰ぐ。
ここ二日、あの東雲とかいう奴に絡まれている。
そのお陰で、いつもよりも疲れを感じている。
口を開いたかと思えばふざけてばかり、こっちの身にもなってほしい。
まぁ、どうせ私がこのまま冷たく当たっていけば、すぐに皆のように遠ざかるだろうし、あまり気にする必要もないか。
そう、周りと同じように、知らないと目を背けるに決まっている。
私は、あまり人と接することが好きではない。嫌いなわけでもないが、一人で静かに過ごしていたい気分のときが多い。
素っ気ない態度を取っていると、自然と静かな環境は形成されていた。
けれど、それまでだった。一度形作られた陶器は、形を変えられないように、一度取り付いたイメージや第一印象は離れない。
後に残った選択肢は、このままの状態を維持するか、陶器を割って、砕いてしまうかのどちらかのみ。
第一印象の破壊など、不可能だ。だったら、自ずと私が取りえる選択肢は一つだけ。
でも、まぁ……楽しくなかったわけでは、ない……かも。
「……はぁ。何考えてんだろ、私」
二度目の溜め息と共に口から溢れた独り言は、照明の点いていない自室の中で、反響することなく消えた。
この部屋を照らすのは、さっきよりも弱々しくなった、夕の橙色の陽光のみ。
―*―*―*―*―*―*―
翌日の朝、晴れ渡る空から青白い陽光に包まれた教室に入った瞬間、
「あ、おっはよ、蒼夜! 図書委員で綾瀬と一緒に仕事したんだってな! すげぇよ!」
と、遥斗に極めて爽やかな笑顔で言われる。どのくらい凄いのかわからん。
こういうとき、俺はどういう反応をするのが正解なのかわからない。中身が無くとも肯定するべきなのか、相手の考えを割ってでも否定するときは否定した方がいいのか、無視するべきなのか。
俺はいつも、肯定しかしないのだが。仮初めだと割り切ってしまえばいいだけの話だ。
「そうか、ありがとう」
「おう、高波から聞いたぜ?」
そう言って、遥斗がある方向を見る。
視線の先には、緑髪をストレートに伸ばした少女――高波の姿が。
……え、同じクラスだったのかよ。昨日あんだけ考察したのに。
高波も結構な美少女なので、覚えていてもおかしくないはずなんだがな。何この発言危ない。
――あ、こっちに気付いて手を振ってきた。一応振り返すけども。
こういうときも、対処がわからない。今みたいにするか、会釈するかとか。
コミュ障の塊みたいな人間だな、俺。
昼休みを栄養バランスを度外視した昼食を食べることで過ごし、今日も放課後がやってくる。
教室にまだ明るい光が差し込む内に、SHRが終わって下校。
散り散りとなっていくわけだ。弾けて混ざるわけでもないが。
今日も昨日と同じく、図書室へ足を運ぶ。
扉を開けると、読書中の綾瀬の姿が目に飛び込んだ。
開け放たれた窓から吹き抜ける軟風が、彼女の髪をより魅力的に魅せる。
それと同時に、彼女がこちらに目を向ける。
彼女の濡れた瞳に映っているのが自分の姿だと思うと、予想以上に心臓が跳ねる。
視線がかち合い、謎の緊張感が全身に張り詰める。
「……今日は、随分と優雅じゃないか」
「まぁね。今日はあまり本が返却されていないの。こうやって読書をしている時間が、愛おしい」
そう言いながら、俺に向けられていた目線を本に向け、優しく撫で始める。
少しでも明確にこちらに目を向けてくれるようになったのは、進歩と言っていいだろう。
優しげな、いつも見せない笑顔にドキッとしてしまう。
受付に座っていた綾瀬の隣に座って話す。
「そうか。俺も読書は好きな方だ。図書委員に入ったのも、それが関係しているのかもな」
「あら、私と同じね。何だか残念だわ」
「おい。残念とか言うなよ。人としてどうなんだ。言って良いことと悪いことの区別つかないの?」
「つくに決まってるじゃない。ついているから言ってるのよ」
なんだろう、さっきまでのときめきを返してほしい。
こいつ、意外に毒を吐くからな。俺の精神が気付いたらボロボロになっているかもしれん。
言論の自由があるものの、侮辱罪だぞ。公共の福祉。
「……まな板が何を言う」
「ん? 何か言ったかしら?」
隣の笑顔が怖い。それやめない? すみません私も侮辱罪でしたね。
軽く脅迫できちゃうよ? 威圧感すげぇ。パワプロの一歩先を行っている。
「あぁ、言ったとも。言っていいと思ったからな? 高波と対極しているよな」
「そこまで言う必要ないじゃない! 私だって気にしてるのよ!」
気にしていたらしい。目に涙が溜まっている気もするが、気のせいだろう。
他愛のない会話をしていると、扉が開く音がした後、高波が入ってきた。
「やっほ~。今日も仲睦まじいね~」
「「それは絶対にない」」
「ほら、仲睦まじいじゃない」
二人で声が重なって、高波に茶化される。
今回は本を借りに来たようで、本棚の方向へ歩き始める。
歩を進める度に、ブレザーの奥の双山が揺れる。すげぇ、ブレザーありでもあれか。夏服はきっとすげぇぞ。
もうすぐ夏服に変わるらしいので、楽しみでもある。俺は変態だったのか。まぁ、男子高校生だし、仕方がない。
そして、ちらっと隣の胸元を一瞥。
ぺったんこである。壁。まぁ、俺は大きい方がいいとか小さい方がいいとか、そういう好みはないが。
「ちょっと。人のどこ見てるのよ」
「壁」
「はぁぁっ!」
「え? ちょ――ぐはぁっ!」
みぞおちに、綾瀬の肘打ち、炸裂す。字余り季語なしという俳句の完成。季語なしって大丈夫なのか?
それより、痛い。超痛い。俺は両手でみぞおちを押さえて
「ぐぉぉぉぉおお……!」
「今のはあんたが悪い。暴力を振るったのも致し方ない」
表情を見る限りでは、本当に不機嫌そうだ。
まぁ、そりゃ他人と胸の大きさ比較されたらこうなるわな。
遅まきながらそれに気が付き、慌てて弁解にかかる。
「ご、ごめん……! 俺の好みは巨乳貧乳関係ないからさ?」
「あんたの好みは聞いてないわよ……」
今度は呆れ顔になる綾瀬。逆効果でした。俺にはどうすることもできない。
今の状況に困りつついると、いつの間にか受付に来ていた高波に気付く。
持っている本は、今から借りていくのだろう。
その目は慈愛に満ちていて、何とも柔らかそうだ。他のところも柔らかそう。ナニとは言わないが。
「やっぱり仲がいいね。でも、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
「麗美奈にこのやり取りが仲良い、って言われるのは心外ね。隣の
「ねえ、ちょっと? 『これ』とか言わないでね? 俺も人間だよね?」
手際よく本を受け取った綾瀬が、手続きをしながら話す。
それを俺が横で盗み見て、やり方を覚える。これが一番安全で平穏な仕事の覚え方だと理解した。
昨日のやり取りを繰り返すことになるのは、さすがに面倒だ。体力的にも、精神的にも。
俺の人権が怪しくなっているところ。最早『これ』扱いである。
物かよ、俺は。さしずめ、俺は召使のルンバといったところだろうか。そんな高性能でもないか。
「あ、あはは……じゃ、じゃあね、七海ちゃん、東雲君」
ほら、あのおっとりした高波でさえ苦笑い。この状況の物悲しさを体現しているようだ。
再び図書室に静寂が訪れるかと思ったが、意外な来訪者。
高波が締めた扉が完全に締め切られる前に、途中で押し戻されて開く。
「へぇ、遥斗も本を読むんだな」
「おうよ。まぁ、二人の様子も見られて一石二鳥だ。はい、返却お願いするよ」
本を手に持った遥斗が扉を抜け、受付に。
綾瀬が受け取ろうとしたところを、俺が先に奪い取るようにして本を手に取る。
背表紙のバーコードを読み取り、パソコンを操作した後、生徒手帳に貼られた個人バーコードを読み取る。
そうして返却の手順は終わり、俺は席を立ってさっきの本を本棚に戻しに行く。
その後をつけてきた遥斗が、俺に耳打ちする。
俺は歩いて本を直しに行きながら、会話していない風を装うため、目線は真っ直ぐそのままに。
「なぁ、やっぱ綾瀬可愛いよ。胸が残念だけど、俺は全然ありだぜ?」
「あぁ、そうだな。俺としてはそういう話を平気でする遥斗に残念だがな」
そういう変態気質なことは、せめて心の中で留めておけよ。みぞおちに肘打ちされるぞ。誰かさんみたいに。
「いいじゃん。そういうの嫌いか?」
「いやむしろ大好き」
ここは正直にいこう。嘘なんて吐くものじゃない。
こういう変態気質な言葉でも、心の中で留めておくってのはいけないと思うんだよ。
とんでもなく曲がってくるブーメランだな。アボリジニもビックリだ。
「だろ? じゃあ、綾瀬は好みなのか?」
俺はちらと、綾瀬の方へ振り返って容姿を確認しようとしたとき。
――後ろで、綾瀬が冷笑を浮かべて立っていた。
……あっ。
「二人共、何か言い残すことは?」
綾瀬の口から、冷ややかな声色の音が聞こえる。
言い残すことはないか。それが示すことは俺達にはわからない。
けれど、これだけはわかる。ろくなことがない、と。
「俺は何もしてないだろ。胸を話題にしたのは遥斗だ」
すぐさま隣の遥斗を指差して、とにかく平静を保って言う。
懇願の目を向けられている気がするが、見て見ぬふり。
だって、本当のことだもの。胸が残念って言ったのは遥斗だ。俺じゃない。
故に、この場にいる者の中で、傍観者、第三者であると言える。
「じゃあ、言い残すこと。はい」
もう容赦がない。笑顔を満面に浮かべているのが、また怖い。
夕焼けが厚い雲に隠れ、図書室に差す光が弱くなる。
「……それでも地球は回っている」
うん、取り敢えず遥斗はガリレオ・ガリレイに謝ろうか。
同じくみぞおちに肘打ちを入れられた遥斗は、本を抱えて苦しそうに帰っていった。
本当に苦しそうで、見るのも可哀想だった。
俺は心の中で言った。ごめんな(笑)、と。
(笑)って、便利だよな。後につけたら何でも柔らかい表現になるな。
ぼっち(笑)。急に棘が付いたんですがそれは。
「……で、どうやってさっき返却の手続きしたの。私は教えてないわよ?」
「あぁ、そうだな。昨日の高波の返却見て覚えた。そうやったら、教える手間が省けるし、掛け持ちしなくてもいいだろ?」
「……ぇ?」
掛け持ちは正直、きついだろう。
本来一人で一つのところを、二人分やるのだ。
どれだけ掛け持ちする仕事が軽かろうと、それは変わらない。どれだけ軽くも重くも、一人分。
俺が図書委員として入った今、綾瀬は掛け持ちをしなくてもいい。
少し仕事を引き継いでさえすれば、すぐに交代してやれる。
今は大丈夫でも、必ずいつか支障が出る。
クラス委員を受け持っている以上、それは普通よりも大きな問題だ。
この問題は、早急に解決しなければならないだろう。その支障が、いつ影響するかわからない。
「今までお疲れさん。さっきの遥斗のやつで貸出も覚えた。後少しだけ、よろしくな」
「…………」
その目は、何を見ているだろうか。
俺にもわからない。むしろ、わかることがない。
どこか憂いを帯びたようにも見える目は、今にも泣き出しそうだった。
何を思ったのか、何を感じたのか、何が言いたいのか。
それを考えるのは、ひどく意味のないことだ。絶対にわからないことは、追求してもわからないままだ。
それはいつの時代でも変わることじゃない。
生きる理由を考える、存在する理由を考えるということと同じだ。
明確な答えがない以上、そんなことは無価値だ。
「……もうすぐ終わり。鍵を返すから、外に出て」
「あ、いいよ俺がやる。これから俺が――」
「いいのよ。昨日やったでしょ? まだ二人で図書委員なんだから、交互にやるのが普通でしょ?」
顔は笑顔だが、目が変わっていない。それがとても痛々しく見えた。
淀んだ雲が太陽光を邪魔し、図書室を一気に暗くする。
元々照明を点けていなかった図書室は、すぐに暗くなった。
それが、下校時間の訪れを顕著に示していた。
言われるがままにカバンを取り、廊下に出る。
施錠した後、綾瀬は無言で職員室へと向かっていった。
小さいその背が、さらに小さくなっていく。
それを見届けてから、俺は校門に向かう。
下駄箱でローファーに履き替えて、コンクリートの道を通る。
一歩一歩を踏み出す度に、コツコツと石を叩くローファーの音が耳に入る。
……それがいやに耳に残って、頭から離れなかった。
―*―*―*―*―*―*―
「――失礼しました」
職員室の照明を眩しく思いつつ、もう暗くなった廊下を一人で歩く。
まだそんなに遅い時間ではないが、雲が空を覆うせいで、光が届いていない。
無心なようで、どこか空っぽな心で、目でその空を見つめながら下駄箱へ。
部活生も帰りの準備を淡々と進めて、早い部活はもう帰り始めている。
今まで一人での帰りだったのに、それが今日、少し寂しく思えた。
友人は、図書委員の仕事があるため、一緒に帰ることはない。
一ヶ月、それを繰り返してきたはずなのに。それが、急に寂しくなった。
「はぁ……」
何度吐いたかわからない溜め息を吐き、校門をくぐる。
「……おい、どこ行くんだよ」
ここ最近になって、聞き慣れた声が聞こえた。
――そこに立っていたのは、彼だった。
「……どうしたの」
「どうしたのも何も、待ってたんだよ。昨日と同じなら、俺も昨日と同じく待つのが普通だろ」
「変なところで律儀なのね」
「お互い様だろ。鍵一つくらいで交互にする、っていう誰かさんも。……帰るぞ」
そう静かに言って、彼は先導する。
彼の背中を見て、少し嬉しくなってしまった。こんな感情、あいつに抱くわけがないのに。
一緒に帰ることに、喜びを感じた。笑ってしまった。自分でも驚きだ。
その場で笑っていると、彼がこちらに振り向き、先導した分を戻ってくる。
その動きに、妙な既視感を覚えた。
「……ほら、さっさと帰るぞ」
今度は先程よりもゆっくりと歩きだしている。意識して昨日を再現しているのではないかと疑ってしまう。
その疑いに準ずるべく、私もゆっくり彼の隣につく。
厚く、黒く淀んだ雲は晴れて、太陽が顔を出す。
橙色の陽光が、軟風と共に私達に降り注がれた。
ありがとうございました!
私の作品にしては、デレが早い。まだこれで三作目、一つも完結してませんが。
知っている方もいらっしゃるでしょうが。
私の作品では、『彼』と『彼女』が多くなっております。
その理由が、自分に置き換えるため、という何とも悲しい理由です。
自己満足でしょうが、よかったら置き換えてみてください。
……置き換えて悶えるほど、甘い恋愛ストーリーを書けるかどうかは保証しませんが。
ではでは!