前回の更新より、一週間ですね。
すみません、間が空きすぎでしたね。
できるだけ気を付けたいですが、投稿ペースが……
では、本編どうぞ!
第3話 図書室にて
「じゃあ、今から教えていくわよ」
「あ~はいはい。わかりまし――」
「あ、もう教えないわよ。そんな態度をとるのなら」
「誠にぃ! すいませんでしたぁぁぁああ!」
今、俺は途轍もなく、疑問に思っていることがある。
思わずにはいられない。だって、こんな状況なんだぜ?
……俺、何でこんなことしてんだろう?
「まぁ、今回だけ許してあげるわ。寛大な私に感謝することね」
そして、言わずにはいられなかった。
小声で、呟いてしまった。
「……心だけでなく、胸も大きいといいんだがな」
「ん? 何か言ったかしらね?」
「いえ本当に何も言ってないんです全く記憶にございません」
顔は笑っているが、目が完全に笑っていない。
その表情は、狂気的とも言えるだろう。
綾瀬は、俗に言う「貧乳」、というやつだ。
だって、膨らみが殆どないもの。今は春服で、さらに壁に見える。
そこら辺の本棚と間違えてしまいそうだな。
今度は綾瀬は薄く笑い、まるでこの状況を楽しんでいるようにも見える。
例えるなら……そうだな。鞭を持たせて、看守の格好させたら、ドSな女看守って感じ。それ微笑なの?
黒ブーツも履かせれば、これ以上にないくらいに、女看守に近づくだろう。
しかし、圧倒的に胸が足りない。不思議と、女看守は大きい、ってイメージがあるんだが、俺だけなのだろうか?
「よろしい。じゃあ、これらの本を、背表紙のナンバー通りに並べて。まずアルファベット。次に平仮名順でね」
十冊強の本を手渡され、背表紙を確認する。
綾瀬の言った通り、アルファベット・平仮名が書かれている。
恐らく、返却された本をもう一度棚入れするのだろう。
「ん、了解」
取り敢えず、言い渡されたことだけやろう。
開いた窓から溢れる斜陽と、もう少しだけ暖かくなった風を浴びつつ、指定のジャンルの、指定の場所に。
大体のジャンルで分けられた本棚があり、その中でナンバーが決められている。
暖かい風に乗って運ばれる、本の紙やインクの匂いに鼻を刺激されつつ。
初めてにしては悪くないであろう手つきで、本を収めていく。
半分程終わったであろう時、ガラッと音を立ててドアが開いた。
「お~、七海ちゃん、まだやってるね~」
「そっちこそ、いつも通り本をこの時間に返しにくるのね」
会話からして、綾瀬の知り合いであり、図書室の本を返却に来たのだろう。
相手の綾瀬の呼び方からして、親しい部類の生徒であり、同級生。
さらには、図書室の常連さん、ということだろうか。
こちらに気付いて、目を逸らそうにも、逸らす前に目線がかち合ってしまった。
「……へぇ~、放課後に七海ちゃん以外が、図書室の仕事をするなんてねぇ~」
「……ども」
「ふふっ、そんなに硬くならなくていいのに」
穏やかそうに笑っているが、どうにも俺は初対面の異性とは、とっつきにくい。
緑色の髪を真っ直ぐ伸ばし、どこかおっとりとしているようで、無邪気な雰囲気を漂わせている。
ピンクっぽい、垂れ気味の薄い赤の瞳に見据えられ、変に緊張してしまう。
満面の笑みを浮かべられながら、自己紹介を始められる。
「どうも、私は
「え、あ、えっと……」
「高波でも、麗美奈でも、れみちゃんでも、れみれみでも、好きなように呼んでいいよ? 個人的には、後ろ二つのどっちかを希望」
……その、あの、なんだろう、この掴みづらい感覚は。
ひどくもどかしいのだが。
「じゃあ……高波で」
「ん〜、仕方ないか、うんうん。君のことは、その無愛想なツンツンちゃんから話しかけられた~って、有名になってるから、知ってるよ」
おい、それ広めた奴詳しく。
「誰がツンツンちゃんだ! まず、私は好き好んで話しかけたわけじゃない!」
「ほら、そういうとこがツンツンなんだよ。それより、好き好んで話しかけた以外に何があるの?」
「あまりにも見ていて可哀想だったからね。あ、そういう意味では好き好んで、になるかな?」
皮肉たっぷりで、俺の方を向きながら笑う綾瀬。
そして、ほんわかと笑う高波。
さらに、苦笑いしかできない俺。
三者三様の笑いを浮かべている。笑うって、色々あるんだな。
……笑うって、なんだろうな。(哲学)
「そういうのは、好き好んでじゃなくて、同情って言うんだぞ。わかったか?」
「あら、目に余るってだけで、同情ほど哀れんだりしてないわよ?」
こ、こいつ……俺の苦笑いがさらに苦くなるぞこのやろう。
笑みが引きつり始めた時、高波が本をカウンターへ持っていく。
それを見て、綾瀬がカウンターへ移動、背表紙のバーコードを読み取ったりと、返却の手続き。
一応、俺も業務としてやるかもしれないので、一度見て覚える。
間もなくして返却が終わるので、ついでに俺が戻って回収。
「へ、へえ、ちゃんと仕事をする気はあるのね。まぁ、私をできるだけ楽させてちょうだい?」
「いい加減にしろ。今まで一人で頑張ってたんだろうから、少しは大目に見てやるが、それ以上はやめろ」
「あ、え、ぇ……大目に見る、なんて言っているけれど、本来大目に見るのはどっちでしょうね? 今の私とあんたの状況を見れば、どっちが見る側なんて一目瞭然よね? あの時話しかけた私は、一種の恩人なの。その恩人に仕えて仕事ができて、ましてやその恩人に、直々に仕事を教えてもらってるのよ? 少しは感謝の気持ちを持って敬いなさい。主人に使役される犬は、忠誠を誓っているのよ? 恩人に忠誠を誓えないあんたは、犬以下ってことになるわね?」
……なんだろう、何が言いたいのかさっぱりなんだが。いや、貶されていることは、かろうじてわかる。
怒涛の攻撃ならぬ口撃。ラッシュ、というのが最も相応しいだろうか?
どのくらい激しいかというと、ポケモンの技、『インファイト』のエフェクトくらい。
ポケモンって、一見可愛らしそうに見えるが、あれは戦争だぞ。武器のない戦争。
お互いがお互いのポケモンを繰り出し、死力の限りを尽くして、相手をなぶり殺す。
だってあれ、HP尽きたら瀕死なんだぜ? どんだけガチなんだよ。動物愛護団体激怒間違い無しだな。
俺はあのゲーム好きだけど、ぼっちだから対戦相手が見つからない。さらには、交換相手も。
ネットでできるけれど、ハッサムとかキングドラは進化できなかった。交換が条件だし。
そのせいで、図鑑が一向にコンプリートできなかった。ちくしょう。
その点、ミラクル交換って、神システムだよな。ぼっちに優しいどころか、専用なまである。
そんな全く別のことを考えていると、高波が耳元で囁いた。
近いし、いい匂いはするし、胸も押し当たっているんだが。やわらけぇ。
ブレザーの上からでもわかるほど、大きい。
あれだな。高波の逆は? って聞かれたら、性格的にも体格的にも胸的にも綾瀬だな。
身長も俺より少し低いくらいだし。
「あのね、七海ちゃんは、照れたり恥ずかしかったりすると、ああやって口数が多くなるんだよ。よかったね」
「いや、よかったねも何も、俺は全然嬉しくない。聞いてる限り、俺は誹謗中傷されてる一方なんだが」
こんなんで喜ぶのは、ドMくらいじゃねぇの?
先の格好させたら、喜んで飛び回るだろうな。特殊なプレイみたい。
……ブーツで踏みつけられるとか、あいつは本気でやりかねんな。普通に危ない。痛そう。
「ちょっと! そこで何ひそひそと話してるの!」
「いや、あのね、東雲君が、七海ちゃんのことを好きなんだって」
「「え?」」
俺と綾瀬の声が重なり、反射的にお互いを見合わせる。
俺は心の底から驚いていて、綾瀬はわなわなと肩を震わせている。
「あ、ああ、あんたねえ!」
あ、ガチギレっぽい。
というよりも、俺は何もしていないんだが。俺が怒られるとか、何その理不尽。
「違うだろ! どう考えても違うだろうが! 俺が綾瀬を好きになるなんて、絶っっ対にねぇよ!」
「そういうのも失礼でしょ!」
「あぁ、二人共、これ、冗談だからね?」
遅く伝えられる真実。案の定と言うべきか、綾瀬はまだ不機嫌っぽい。
「ほら、ダメじゃないか高波。綾瀬には冗談が通じる頭がないんだからさぁ?」
「へ、へぇ、あんた、言わせておけばねぇ……!」
「よし、じゃあ俺は真面目だから、仕事に戻るとするよ。誰かさんが楽したいらしいからな」
そう言って、勝手にフェードアウト。完璧すぎる。
ごく自然にその場から去り、仕事を再開しようとする。
「あ! ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」
椅子から勢い良く立ち上がり、こちらに走ってくる。
「図書室ではお静かにお願いしますね~」
「あんたねえ……! ほら、半分貸しなさい!」
そう吐き捨てるように言うと、俺の持っている本の山を、半分取った。
それも、かなり無理矢理に。
俺と背丈が結構違うので、取るにも取りにくそうだった。
……わからないんだが。
「あんたのためじゃなくて、私が後から楽ばっかしてる、なんて言われたらたまらないからよ。勘違いしないでちょうだい!」
「あ~……はいはい、了解しました、お嬢様」
「お、お嬢様!?」
「ほら、だって俺は綾瀬に仕えているらしいし? お嬢様ってことになるだろ?」
「……それ、やめてちょうだい。寒気がするわ」
そこまで言うかよ。しかも、顔を見る限り本気だしさぁ。
そんなに引くかよ。自分で仕えろ、とか言っておきながら。
「じゃあ、私は帰るね。じゃあね~」
「あぁ、またな」
「えぇ、またね」
暫くおざなりに仕事を進めながらも、きっちりやる分はやって、綾瀬の様子を見に行く。
綾瀬は、まだ本を数冊持っていて、今は一番上段の棚に本を入れようとしている。
「ん~……!」
が……背が微妙に足りていない。
背伸びしても、足りていない。
まるで幼児を見るかの如く、俺は綾瀬を見ていた。
さて、ここで焦らして眺めるだけ、というのも悪くない。むしろいい。
彼女は貧乳だが、かなりの可愛らしい女の子。態度が悪くなければ、なおよし。
さらに、低身長ときた。愛くるしい、と思う男子も多いだろう。
その愛くるしいを楽しむのもいいが、それをやったとする。
そうしたら、『愛くるしい』ではなく、『I 苦しい』になってしまう。
自分の未来が苦しくなってしまうのを避けるべく、綾瀬を手伝う。
綾瀬の側に向かい、手の本を奪う。
「ほら、貸してみろ」
「あっ……」
俺の身長で、楽々と本棚に収める。
まだ綾瀬の持っている本の背表紙のナンバーは、高い位置に収めるものばかり。
黙ってそれを受け取り、それぞれを収めていく。
「……ほい、終わりっと」
「え、と、その……一応、ありがとう」
「へぇ、綾瀬の口からそんな言葉が聞けるとは、思ってもいなかったな」
「あんたねぇ……はぁっ、私だって、素直にお礼くらい言うわよ、バカ……」
それは、いつも素直じゃないってことを自覚している裏返しなんですが。
ほれ、もっと素直になりなよ。そうしたら確実に俺が楽になる。
少なくとも、俺が貶される回数は減るだろうな。
「で、後は何をするんだ?」
「えっと……そうねぇ。もう下校時刻に近いから、施錠して鍵を返しに行きましょう?」
そう言って、綾瀬は自分の荷物を取りに行く。
急いで俺も同じく荷物を取り、鍵を回収して図書室から出る。
施錠したことを確認して、鍵を手の中で弄びながら言う。
「じゃ、俺は鍵返しに行くわ。じゃあな」
「え、あ、えぇ、明日もあるからね」
綾瀬の声が聞こえた時には、既に背を向けて職員室へ歩を進めていた俺。
そんな中俺は、軽く右腕を上げて返事をする。
吹いていた風とは違い、まだまだ寒気が残る廊下に、ただ一つの足音を反響させる。
一定のリズムで鳴っていたそれは、俺の耳にいやに残った。
「――失礼しました」
職員室へ鍵を返却して、下駄箱で靴を履き替えて、外へ。
正門を通って帰ろうとした時。
一人の人影が佇んでいるところを、正門で見た。体格からして、女子だろう。
部活生は完全下校時間ギリギリまで部活をやっているはず。
かといって、部活生ではない生徒は、もうとっくに帰宅しているはず。
まぁ、一番可能性が高いのは、部活中の恋人待ちだろう。
全く、こういう人目につく場所で、そういうことはやめてほしい。
それを周りが見たところで、いい印象など与えられず、否定的にばかり見られるだけなのにな。
妬みだとか、嫉みだとかじゃなく、普通に目障りなのだ。言い方は悪いが、実際そうだ。
そんな女子が視界に入らぬように、横を自然に通り過ぎる。
「ちょっと、どこ行くのよ。せっかく待ってあげたんじゃない」
「……あ? 綾瀬?」
呆れ顔で、多少暖かい風に白髪を揺らした、綾瀬が立っていた。
思い切りのジト目に、案外魅力があって驚く。いや、そこじゃねぇだろ。
「待ってあげたって、別に俺は――」
「鍵を返してくれたんでしょ? 方向一緒で、先に帰るなんてしたくなかったのよ。……ほ、ほら! さっさと行くわよ!」
一人で答えて、一人で騒いで、勝手に歩いて行く。
俺がわけが分からず棒立ちしていると、後ろを確認され、先行した分を戻ってくる。
「一緒に帰るって言ってんのよ! ……行くわよ」
少し落ち着いて、先程よりもゆっくりと歩き始める。
俺も、ゆっくりと綾瀬の隣につく。
夏の涼しくもどこか優しく、透き通る風。
どこか神々しくもある、落陽の光が俺達二人を照らしていた。
ありがとうございました!
ちょっとだけデレを出していきました。
次回は、七海ちゃん視点を書く……と思います。
新キャラを連続してこうも出してしまい、申し訳ないです。
ではでは!