クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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書いてたら長くなったので、二話に分けたうちの前半になります。
少し短いかもしれませんが、ご了承ください。


第3章 間違いの重ね合わせ
第24話 会長と委員長


「さて、昨日も話したように文化祭実行委員の話だ。女子からは立候補者が出ず、男子は立候補者が出た。本来は各クラスから男女一名ずつとのことだったが、各クラス最低一名を選出でもよいとのことだ。後から委員の参加を希望することも可能なので、女子はあと一名希望者が出てもよいということだな」

 

 朝のHR(ホームルーム)を迎え、里美先生が文化祭実行委員の概要を説明。

 今日で立候補者が出揃ったこともあり、普段よりも連絡事項が多い。

 

「で、このクラスの立候補者は東雲だ。通常の委員会よりも文化祭実行委員の仕事・会議の出席を優先すること。早速で悪いが本日の放課後、視聴覚室で立候補者及び生徒会で会議があるので忘れずに。帰りのHRが終わり次第向かうこと。出席できない用はあるか?」

「ありません、問題なく出席できます」

「よし。次は──っと、授業が始まってしまうな。続きは後ほど個人的に伝えるとしよう。各自授業の準備を済ませること。以上だ」

 

 普段よりHRが長引いたため、予鈴が鳴ってしまった。

 先生が足早に教室を去ってから、十人ほどに声をかけられた。

 名前と顔が一致している生徒もいれば、名前が覚えられていない生徒まで。そろそろ覚えなければ。

 交友関係が狭いのが阻害する原因だとわかってはいるのだが、いかんせん輪に入りにくい。

 

「あんたって、こういうのに積極的な人だったのね」

 

 寄ってきた全員と会話を終えて一段落して、授業の準備を整える隣人から声がかかった。

 元々愛想が良いとはお世辞にも言えない性格の彼女だが、ここ数日でさらに拍車がかかっている気がしてならない。

 彼女に何か起きたのか、それとも俺が気に障ることをしたのか。

 

「まあ。俺って優等生だからな、ほら」

 

 それに合わせるつもりはないのだが、こちらも準備を進めながら話す。

 面と向かうわけでもなく、差し出したのは特に面白くもない冗談だった。

 

「冗談でしょう? 本当に興味があったら、もっと早く立候補したと思うのだけれど」

「急にやりたくなったんだよ」

「そう。どういう風の吹き回しか、少し疑問だっただけよ」

「風の吹き回しってなあ」

 

 この言い方だと、まるで俺がらしくないことをしていると暗示しているようなものだ。

 事実そうなので、言い返せないのが悩ましくもあるのだが。

 

「……一つだけ聞きたいのだけれど──」

「ん?」

 

 少し間をおいて、彼女の方から声がかかる。

 しかし途中で授業開始の本鈴が鳴り、間もなくして先生が教室に入ってきた。

 

 会話をする雰囲気は完全に霧散した。

 すぐに聞き返すわけにもいかず、俺は彼女の声が聞こえなかったフリをした。

 

 

 一限目の授業が終わるまでどころか、放課後前まで会話は平行線をたどっていた。

 昼食はいつもの四人で取り、普段通りの会話が展開された。

 けれども、彼女が言いかけた話の続きは未だにできないままだった。

 

 頭の片隅で何のことだったか引っかかるのだが、本人が再び言い出さないということはそれほど大事なことではないということだ。

 であれば、触らぬ神に祟りなしということわざに則って、これ以上機嫌を損ねないように立ち回るのが最善だと思った。

 無理して空回りするよりも、時間が解決してくれるのを待つ方が安全だろう。

 

 帰りのHRが終わってすぐ、誰よりも早くに教室を抜け出した。

 里美先生もそれを見ていたようで、俺と先生の二人で視聴覚室へと向かう。

 

「急な申し出だったが、何かきっかけでもあったのかい?」

「いえ、特に何があったというわけでもありませんよ」

「まあとにかく、希望という形で候補者を出せたのはこちらとしても喜ばしいことだ」

「そうですか」

「この後は前年度の文化祭で撮ったムービーを見ることになっている。今年度の催しの参考にしてくれ」

 

 無難な返答をしてその場をやり過ごす。

 天真爛漫(てんしんらんまん)かつ明朗快活(めいろうかいかつ)な性格ならば、こうして「やり過ごす」感を抱いて掴みどころのない返事をしなくて済むのだが。

 気の知れた友人ならまだしも、見知らぬ人や特に目上の人に対して垣根を壊す気になれない。

 

 目的地は同じ棟にあったため、移動にさほど時間はかからなかった。

 中に入ると既に役者は集まっていたようだ。

 生徒会も例に漏れず。会長の浅宮先輩が奥ゆかしく手を振ってきたので、軽くお辞儀を返す。

 

 流れる映像は、ごく普通の高校文化祭という印象を与えるものだった。

 以前通っていた高校のものとさして変わらない。

 鑑賞後に文化祭についての詳細な説明があったが、その印象が揺らぐことはなかった。

 唯一の相違点といえば、三年生が勉強しやすい環境をつくるためか、出し物を行わない点ぐらいか。

 

 一、二年はクラスで一つ出し物を決めるらしい。

 この出し物も教室ごとに各自で決定することになるようなのだが、俺は文化祭実行委員(こちら)側の参加を優先する必要があるので、教室(あちら)側にはあまり顔を出せなくなりそうだ。

 実行委員を結成する学校行事ではよくあることだ。

 

 今日は文化祭実行委員の中で実行委員長と副実行委員長を決めて解散という形になった。

 ここでも三年生に負担とならないよう、この二役に三年生が就かないようにとのこと。

 よってほぼ必然的に、委員長は二年生の内の誰かということになる。

 積極的な一年生がいれば別だが、決定の流れを見ている限り、該当する一年生はいないようだ。

 

 生徒会から委員長を選出するわけにもいかず、誰が委員長の肩書きを背負うかの様子見が繰り広げられる。

 この行き場のない粘着性ある空気の一端を自分が構成していると考えると、胸がつかえて止まない。

 

 責任感に流されたわけではないが、委員長に希望することを考えていないわけではなかった。

 ただこの重い雰囲気の中で挙手するということが、ハードルが高いように思えたのだ

 

「……お節介だろうが、一つだけ」

「はい?」

 

 俺の後ろに立つ里美先生が、俺のみに聞こえるほどの小声で話しかける。

 

「積極性に悩んでいるときは、実行に移した方が得なことが多い。大変だろうけどな。もちろん強いるつもりは毛頭ない」

「……すごいですね。正直、迷ってましたよ」

「そうか。本当は私がそう言わせてしまっているのかもしれない。だが君が自ら実行委員を希望したことを考えると、言っておいた方が良いかと思ってな。さっきも言った通り、ここから先の判断は君に任せる。私の言葉を忘れても構わない」

 

 それだけ言ってから、先生は一歩下がった。

 先生が俺に何かを期待し、助言しているとしたら、それはきっと買いかぶりだ。

 いち学生のいち委員長、正直誰が担当したとしても器量は十分足りている。ふさわしくない人材はいないと言っても過言じゃないだろう。

 そう考えると、ここで俺が委員長の札を掲げても特に問題はないのだろう。

 

「あの、他に希望者いないなら僕やりたいんです」

 

 助言を頂いてから張り詰めたような緩んだような微妙な雰囲気を壊すのに、そこまで時間はかからなかった。

 力強い印象を与えるほど声量が大きいわけではなかったが、この場に限っては十分過ぎる。

 

「よいのではないでしょうか。見たところ、他に希望者はいませんし。個人的な意見にはなりますが、彼なら十分任せられるかと」

 

 間髪入れずにフォローしたのは浅宮先輩だった。

 俺の意欲を歓迎してくれたようだが、「任せられる」と信頼されるのも不思議な話だが。

 生徒会長である彼女の一言もあって、俺の実行委員長就任に委員全員による拍手で承認された。

 

「ありがとうございます、先生」

「いいや。恐らく私が声をかけなくとも、君は最終的に手を挙げていたんだろう。タイミングが早まった効果があったか怪しい程度だよ」

 

 どうせ余りの椅子に誰が座ろうと同じだと心で言い訳するものの、それなりの責任を背負う必要がある。

 その責務を任せるに値すると踏んだのかどうかは知らないが、先輩といい先生といい俺を過大評価している節がある。

 

 寄せられた期待に応えられるよう善処したいが、確約はできない。

 なんにせよ、自分次第であることは確かではある。

 

 副会長と書紀の立候補も現れず、やむを得ず抽選となった。

 そこに至るにもかなりの時間がかかり、役員決めだけの会議のはずが午後六時を回ろうとしていた。

 視聴覚室で映像を見たのが午後五時前後だったので、一時間近くかかっていることになる。

 この時点で先が思いやられるが、だからこそ俺が奮起する必要があるのだろう。

 

 今後の予定と仕事内容、次回の集合予定日を確認して解散。

 当然午後六時は優に過ぎていた。

 カーテンを閉めきって照明をつけていたのでわからなかったが、廊下の蛍光灯が光るほど薄暗になっていた。

 

「文化祭実行委員、しかも委員長になるとは驚きました」

「……浅宮先輩」

 

 外の暗がりを窓から覗いていると、浅宮先輩に話しかけられた。

 今は生徒会や実行委員の区切りもないため、ただの先輩と後輩として会話が始まるのだろう。

 

「魔が差したってのに近いだけですよ。ノリってわけでもなければ、使命感がはたらいたわけでもないですから」

「根拠ない勘ですが、貴方があの中で一番上手く立ち回れる人間だと思いますよ」

「まさか」

「素性を知らない人間が多いのも事実ですが、貴方が適任かと」

「無い袖は振れないってご存知ですか?」

 

 才能がある分には振る振らないの選択があるが、ない分はそれさえ与えられない。

 人を動かす能力も才能の一種で、特筆すべき能力のない俺にそんな持ち合わせはない。

 となれば、名乗りを上げなかっただけで俺よりも適任な生徒がいたかもしれない。

 

「ええ。私が言っているのは、()()()()貴方を評価した結果ですから」

「たった一回、荷物持ちを手伝っただけですけどね。建築系かデートの荷物持ちの項目なら評価されそうですが」

「その一回の善行をできるかできないか。その差は大きいと考えていますよ、私は」

「そうですか。それでなんですけど」

「はい?」

「いつまでついてくるんですか?」

 

 話しかけられてから、俺は図書室へと向かっている。

 彼女を連れ回すことになるが、話を切り上げるタイミングを確実なものにするためだ。

 少しばかり長引こうとも、そこまで距離は遠くない。図書室に入るときに別れようと思っていたのだが。

 

 話していると、思いの外すぐに図書室に到着した。

 向かう場所が目前にある今、ドアの前で立ち止まって話をしている状況だ。

 浅宮先輩は話をやめる気がないらしく、会話が途切れる気配がない。

 

「もう少しだけ。ダメですか?」

「いや、別にダメってわけじゃ……」

「では、図書室の中で話しましょう。貴方も、ここに用があるのでは?」

 

 俺の目的地ならば問題ない、と言いたいようだ。

 図書室の明かりは点いているため、恐らく中にまだ綾瀬がいる。

 とはいえ、読書の邪魔にならない程度ならいいだろう。

 

 わかりましたと答える前に、浅宮先輩は扉を開けていた。




ありがとうございました。

8月7日までに一本、7日に一本出す予定です。
他の更新止めてでもこの予定で出そうと思ってますが、テストがあるのでこの通りにいくかどうかはあくまで予定ということで。

ちなみに8月7日は、旧暦の七夕らしいです。

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