クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

2 / 30
どうも、狼々です!

第一話投稿して、早速章管理を忘れるという。
先が思いやられるぜ……! すみませんでした。

最初はプロローグからです。
登場人物紹介と、その性格等などの把握のためだと思って頂ければ。

では、本編どうぞ!


第2話 笑顔

 帰宅から(しばら)くして、俺のスマホが鳴り、電話の通知。

 俺の連絡先を知っているとすれば……まぁ、限られてるわな。

 

 数少ない連絡相手の名前を見ずに、電話を取る。

 

「あ、やっと出たね、おにい! 結構な時間出てくれなくて、寂しかったんだよ?」

「切るわ」

「あ待ってごめんね切らない――」

 

 ピッ、と音が鳴って、スマホには通話終了の文字。

 何もなかった。何も見ていないし聞いていない。

 

 ソファにスマホを放り投げようとした時。

 手に持ったスマホが、バイブと共に再び鳴り始める。

 面倒に思いながらも、通話開始をタップ。

 

「もう! 人がせっかく何回もコールしてるのに、なんで切っちゃうのさ!」

「あの……どちら様ですか?」

 

 俺は、まるで通話相手のことを知らないかのように言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()()()()

 

「え!? 嘘!? あ、す、すみません! 間違えてかけてしまったみたいです! 失礼しました!」

 

 そして、通話終了の文字が、スマホに浮かぶ。

 

「これでよし、と……」

 

 放り投げようとしたが、もう一度バイブと通知音。

 

「どうしたんだよ、全く」

「おにい! さっきおにいの番号にかけたはずなのに、違う人が出たんだよ!」

「はぁ? さっきって、これでかかってきたのは二回目だぞ?」

「嘘!? ごめん、後でまたかけるから、確認してくる!」

 

 そして、三度目の通話終了の文字。この短時間に三回も見ることになるとは、思わなんだ。

 

 それよりも……あれだな、うん。

 あいつ、底抜けのバカだな。アホすぎるだろ。

 

 またまたバイブと通知音。もうさすがにうんざりしてくるな。

 もう一度通話開始をタップ。

 

「で、どうだった?」

「怖いよおにい! 番号合ってるのに知らない人が出たんだよ!」

 

 ……もう何も言うまい。言葉にするのも億劫(おっくう)だ。

 

「気のせいか妖怪のせいか怪奇現象だろ。で、本当のところは何の用だよ、(あおい)?」

 

 東雲 葵。俺の二つ下――新中二の実妹だ。

 『おにい』と呼ばれることに、思春期真っ只中の男子高校生としては、思うところがある。

 

 いや、呼ばれること自体は、別にどうとでもいい。好きなように呼ぶがいいさ。

 けれど、葵は()()()()()()()『おにい』と呼ぶ。そう、文字通りどこでも。

 たとえ、俺や葵の友人が近くにいようとも。たとえ、人目につきやすい大型施設でも。

 

 特にやめてほしいのは、葵の友人同席のケースだ。

 葵が『おにい!』と言った瞬間、俺に冷ややかな視線が突き刺さるのだ。それはもう絶対抜けないやつが。

 あのダメージは、精神的に大きくくる。心を傷付けられるくらいならまだマシだが、抉られるレベルだ。

 深すぎる爪痕を残して、今でもそれが癒えることはない。

 

「あ、そうそう! 友達、できた?」

「あ? あぁ、まぁ一人はな」

「……え? 嘘? もっとマシな嘘を――」

「嘘じゃねぇよ本当だよ。どんだけ俺が友達できない奴だと思われてんだよ」

 

 心外である。ただただ心外である。

 実の妹にまで、こんなことを言われるとは。

 今のも結構爪痕を深く残していった。なんだ、今までの俺の傷は葵のせいか。

 

「おぉお~、よかったねぇ、よ~しよし」

「俺は動物園の動物じゃねぇんだよ。妹から『よ~しよし』とか言われる歳でもない」

 

 自由気ままな妹を持つと、兄としては大変なものだ。

 さらに困ったことに、葵の容姿は、かなりのスペックだ。

 百人の男子高校生がいたとして、その殆どが「可愛い」と言うだろう。実際そうだったし。

 

 なので、過去の友人からは、「そんなに可愛い妹がいて、お前は幸せだよな~!」

 とか言われたが、本当のところは面倒なだけだ。

 

「いいじゃん、別に。私はいいよ?」

「俺がよくないんだよ。で、それだけのために電話入れたのか?」

「いや? おにいは初めての一人暮らしで、料理できるのかな~って」

「言わずもがなだ。できないに決まってんだろ」

 

 自慢ではないが、炊事はできない。掃除洗濯はできても、料理はできない。

 これから練習しようとは思うが、正直元の腕が壊滅的なため、のびに期待はできない。

 

 朝食は、適当にパンとかで。

 昼食は、まぁ学校でパンとか買えばいい。

 夕食は、スーパーとかコンビニの弁当とかお惣菜で。このプランが、現段階最有力候補だ。

 

 おい、練習はどこいったよ。『れ』の字も見当たらないんだが。

 栄養バランスとか、欠片もないよな。

 さすがに練習しないとまずいか。

 

「うん、知ってた。じゃ、新生活頑張ってね~」

 

 葵はそれだけ言って、通話を終了した。

 何がしたかったのだろうか。結局最後まで分からず(じま)いだった。

 意味不明に焦って、脈絡のない会話だけして。

 確認できたのは、葵の馬鹿さ加減と自分の料理の腕。

 

 ……何があったか、俺にもよくわからん。

 

 部屋にはまだ、大量のダンボール箱が山積みだ。

 今は、最低限の家具のみを出している状態。

 さっさとこの山を片付けてしまいたい。

 

 この状況を見ると、どこかの潜入任務の人が歓喜のあまり小躍りするだろう。

 CQCを一度やってみたいと思ったのは、俺だけではないはず。

 

 

 

 

 翌日、学校のSHR後にて、遠山先生から職員室に呼び出された。

 呼び出された瞬間、自分の行いを凄い勢いで振り返っていた。

 何かまずいことをしていないかとか、それはもう色々と可能性を模索していた。

 

 しかし、どうにも見当がつかない。

 内心ビクビクしながらも、職員室へ。道は覚えた。

 

「失礼します、一年三組東雲 蒼夜です。遠山先生はいらっしゃいますか?」

「あぁ、東雲君か。こっちに来てくれ」

 

 遠山先生の手招きに従い、彼女のものであろうデスクの近くへ。

 椅子に座った先生の前に立ち、喉を鳴らす。二つの意味で。

 

 一つは、怒られるか否かの緊張から。

 もう一つは――先生の二つの山岳の高さに。

 

 明確に何が、とは言うまでもないだろう。誰しもがこの意味をわかるだろう。

 他で言うなれば……円周率のあれだ。

 昨日は緊張の余り、そちらには気が回らなかったが、それも和らいだ今、目に入らないわけがない。

 

 高々としたそれらは、高さだけでなく、十分な広さも持っていた。

 さらには、形が整いすぎて、山とは別種の何かなのではないかと思う。

 あえて山で例えるのならば、マグマの粘り気が強い火山の形だ。

 

 服の上からなので詳しくはわからないが、一つだけ、確定的に明らかなことがある。

 ――すごい。

 

「で、ここに呼んだ理由なんだが……」

「え、あ、はい」

 

 全く別のところに視線が向いていて、返事に焦りが伴った。

 いや、あれは反則だって。ブラックホールだろ。

 俺のあれもホワイトホールしそう。……これ以上はまずいか。

 

「委員会を選んでほしいんだ。今日の放課後までにでも決めておいてくれ。空いている委員会枠と、その委員会の活動内容は、今から渡す紙に全て書いてある。目を通しておいてくれ」

 

 そう言って、デスクの上の書類の一枚を手に取り、差し出す。

 受け取って、その場でさっとだけ目を通す。

 

 クラス委員を始め、整美委員、図書委員、風紀委員に生徒会等など……十を超える数の委員会名が羅列していた。

 取り敢えず、クラス委員と生徒会はなしだな。俺に合わん。

 

 転入生の俺がいきなりそんな大役やれるか。

 それに、そのあたりの中枢となる委員会は、既に枠が埋まっている。

 

 まぁ、放課後までとか言っていたから、別に今決めることでもない。

 ゆっくりと、自分に合う……できるだけ簡単だったり、楽だったりする委員会がいいな。

 

「わかりました。ありがとうございます。……失礼しました」

 

 最後に一礼し、職員室を退室する。

 それと同時に、授業開始の予鈴がなる。

 急いで階段を上り、三組の自分のクラスの教室に入り、席に着く。

 

「あら、随分と遅い帰りだったわね。また学校で迷ってたのかしら?」

 

 隣の綾瀬から、本に視線を合わせたまま話しかけられる。

 

「そんなに方向音痴でもねーよ。委員会のことで、遠山先生に呼ばれてたんだ」

 

 話しかけられたことに驚きつつ、返事をする。

 昨日は一ミリも動かなかった彼女の視線が、ほんの少しだけこちらに向いた……気がする。

 動いたかどうかも怪しいが、動いたと信じたい。

 

「……そう。で、何の委員会にするつもりなの?」

 

 へぇ、これまた驚いた。

 昨日は、最後に綾瀬から声をかけられたのが最高レベル。

 話題なんて、自分から振ろうとしなかったのに、今は俺に質問をしている。

 

「まだ決まってないな。適当に決めるつもりだ」

「……そ」

 

 目線は完全に本に戻っていた。

 けれど、目が少し、ほんの少しだけだが。気のせいかもしれないが。

 

 

 ――悲しそうで寂しそうな雰囲気の目に変わっていた。

 

 

 

 

 今日も昨日のように、綾瀬にお世話になって授業と帰りのHRを終える。

 綾瀬はすぐに、教室から出ていってしまった。

 聞きたいこととかあったのに。中間テストとか。

 

 俺の帰りの準備をして、職員室へ向かう。

 朝と同じようにして、遠山先生の元へ。

 

「どう? 委員会は決まったかい?」

「はい。図書委員を希望したいです」

 

 今日一日考え続けて、空いた枠がある中で楽な委員会は、図書委員が一番だった。

 

「それはいいが……空いた枠は、放課後の仕事しかないが、いいのか?」

「はい。俺は構いません」

 

 笑顔を伴って言う。俺も会話が上手くなったものだ。

 今日できた友達はいないが。このまま遥斗だけでも十分なのだが。

 

 人との交流もできるだけ少なくなるというメリットもあったりする。

 ぼっちにはもってこいの仕事だ。放課後も暇なのでOK。部活も入る気はない。

 それよりも、自分でも友達作りを諦めていないか、心配になってくる。

 

「わかった。じゃあ、今日から早速仕事に取り掛かってもらうよ。内容はわかっているだろうが、図書室に行って、本の確認及び監理をしてほしい」

「わかりました。では、失礼しました」

 

 内容は紙に書いてあったので、把握はしてある。

 職員室から図書室へ向かう。事前に道も覚えた。抜かりはない。

 

 

 

 別棟に渡って、図書室の前に着いた。

 

 扉を開けると、風が吹き抜けた。

 

 

 真っ向からの風に少し目を細めながらも、中に入る。

 

 中に入って、一人の人物と――()()()、目が合った。

 

 涼しい風に揺れる白髪は、底知れぬ美しさを醸し出していて、非常に魅力的だ。

 彼女の透き通った青の瞳は、窓から差し込む陽光を吸収して、さらに凛としている。

 本を数冊抱えたその姿は、どこまでも人を魅了させる。

 彼女の驚いた顔は、俺の知っている顔とは全く違い、とても可愛らしい。

 素顔を見ているようで、妙に嬉しく、少しドキッとしてしまう。

 

 しかし、その表情も奥にしまわれ、いつもの不機嫌そうな顔に戻る。

 

「……あんたがここに来た理由が知りたいのだけれど」

「んあ? 俺は……図書委員の仕事をしに。そっちは?」

 

 そう言うと、彼女は再び驚いた顔をする。

 再び心臓が跳ねる。このギャップには、どうも調子を狂わされる。

 

 ――それに、少しだけ、嬉しそうに……見えなくも、ない。

 

「へぇ、()()()()()

「え? いや、綾瀬はクラス委員だろ」

「あら、知らなかったかしら? 私、掛け持ちしてるのよ。と言っても、放課後の仕事は誰もやりたがらなかっただけなのだけれどね」

 

 ははぁ~……まぁ、部活とか色々あるしな。それぞれの青春を過ごし、華のある高校生活を謳歌したいのだろう。

 俺は全くもってそうではないのだが。普通に過ごせればいい。

 

「じゃあ、今度からは俺がやるよ。掛け持ちしなくてもよくなったな」

「へぇ、どうやって仕事は覚えるの? 注意事項、仕事の詳細、その他諸々……わかるの?」

「う……」

 

 現時点で、この仕事の内容を一番理解しているのは、間違いなく綾瀬。

 もらった紙に、仕事の全てや注意事項等は書かれているはずもなく、簡略化されたもののみ。

 それを頭に入れているところで、仕事が上手くいくかいかないかは、目に見えている。

 

 彼女の顔に、嗜虐的な笑みが浮かぶ。

 嗜虐的とは言え、彼女の笑みは初めて見た。

 そんな笑顔なので、ドキッとすることもなかったが。俺は生憎、ドMではない。

 

「でしょう? じゃあ、当分は一緒に仕事をこなすことになるわね。で、それにあたって、何か私に言うことはないのかしら?」

 

 今度は意地悪な笑みを浮かべて、悪戯を仕掛ける前の子供のような表情に。

 またしても、静かな大人っぽいイメージのギャップにドキッとしてしまう。

 どれだけ俺はちょろいんだろうか。しかし、俺は男。男をなんて、所詮こんなものだ。

 悲しきかな。

 

「……これからよろしく」

「ダメね。誠意が足りないわ」

 

 こ、こいつ……この笑みが、一周回ってイライラしてくるんだが。

 俺も、苦笑いしか出ない。さらに、それさえも引きつってきている。

 

「……一緒に仕事してください、お願いします!」

「あ~、そこまで言われちゃ、しょうがないわね。不本意ではあるけれど、仕事が成り立たないのは問題よね。仕方なく、手伝ってあげるわ。そこまで言ってもらって、断るほど私は鬼じゃないわ」

「おい、あまりふざけんじゃねぇよ。言わせたんだろうが。第一、俺は――」

「何か言ったかしら?」

「いえ何でもないです本当にすみませんでした」

 

 逆らえないんだが。いい具合に支配されている。

 彼女の笑みがこう言っている。「教えてあげなくてもいいのよ?」と。

 屈服するしか……ないのか……?

 

「まぁ、これから仮にも一緒の仕事をするのだし……」

 

 やけに『仮にも』を強調して言われる。

 そこまで俺は嫌われているのだろうか?

 確かに、ここ二日で結構迷惑かけたかもしれないが、まだそこまで大きくはないはずだ。

 

 過去の行いを遡行して思い出していると、綾瀬が俺の目の前に来た。

 

「これからよろしくね、()()()?」

 

 彼女は、そう正真正銘の笑顔を見せて、俺の名前を呼んだ。

 その笑顔は、彼女の背後から差し込む夕焼けの光を受けても、際立って輝いていた。

 

 俺は、この笑顔に、見惚れてしまった。

 この笑顔を、もっと見たいと。素顔を知りたいと。

 

 

 ――そう、思った。




ありがとうございました!

プロローグはこの話で終了です。
私の作品は、二話分でプロローグは終わらせてますので。

次回から、本格的に物語が展開していきます!
蒼夜君と七海ちゃんの打ち解けていくストーリーをお楽しみに!

ではでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。