クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!

二ヶ月、空いちゃった(*ノω・*)テヘ
いや何考えてんだよ(白目)

申し訳ない、の一言に尽きますかね(´・ω・`)
私、どうして時間がないんだろうかと涙を流したい。

では、本編どうぞ!


第19話 知恵

「それでは……始め!」

 

 先生の声と学校のチャイムを合図に、クラス全員が一斉に閉じられた冊子を開く。

 各々の持つペンを走らせ、文字列とにらみ合い。

 

 やがて五十分が過ぎ、再び電気質の鐘がスピーカーを通して流れ出す。

 回収の呼びかけと共に、縦列の最後尾の生徒が席を立ち、己が列の分の解答用紙を預かっていく。

 

 それが三回程続いて、その日の授業は終了。

 試験なので、授業と言えるのかどうかは定かでないが。

 

 テスト一日目終了を労い合う者達。

 出来を報告し合い、一喜一憂する者達。

 足早に教室を出て、放課後を迎える者達。

 

 皆が皆、各々の課後を迎え入れていた。

 

 俺はというと、最後の部類に近いだろうか。

 ただ、少し違った点は、教室を出た後の目的地だ。

 自宅ではなく、学校の図書室――でもなく、コンピュータ室。

 

 残された新聞の課題は、僅か。

 あと一時間も作業をすれば、終わる程度だ。

 気が滅入る暑さに顔をしかめながら、爽やかな風が通る廊下へと出た。

 

「待ちなさいよ」

 

 既にコンピュータ室へと向かっていた足を止め、声のした方を振り返る。

 声や口調から想像できていたが、やはり綾瀬だ。

 

「せっかく人が待ってあげたのに、無視はないでしょう」

「待ってくれと頼んだ覚えもないのに、強要はないでしょう」

「あんた、絶望的にその口調が似合わないわね」

「ほっとけ」

 

 小柄な彼女が追いつくのを待って、コンピュータ室へ。

 ここで待たないと、後が怖い。

 

 俺に綾瀬と同じような口調が似合わないことは、自分自身でもわかっている。

 ただ、俺が彼女に関して言うのならば、逆にあの口調以外だと違和感を感じてしまう。

 漂う雰囲気に、イメージとの相違を感じざるをえない、と言うべきか。

 

 並ぶ彼女を、横目でちらと見た。

 傾国の美女、と称するには、失礼だが華がつく言い方だろう。

 しかし、これで男を掌で転がすような性格を持つ女性だとしたら。

 正直、転がらない男がいるのか、甚だ疑問である。

 

「……どうしたのよ」

「あ? いや、特には」

「特に何もないのに、こっちをジロジロ見られると私が嫌なのよ。何だか落ち着かないわ」

 

 横目で見ていたはずなのだが、バレていたか。

 何という用もなく凝視されることに、気味が悪いというのも頷ける。

 男だろと女だろうと、同性異性関係なくずっと見続けられることに対して、不快感を抱くものだ。

 少なくとも、いい気分はしない。

 

「強いて言うなら、今まで何人の男を誑かしてきたんだろうなあ、と」

「人をビッチみたいに言わないで頂戴」

「そんなつもりじゃねーよ」

「……今までに、一人よ」

「交際経験、ってこと? それとも、遊んだ方?」

「前者に決まってるでしょ。『遊ぶ』って言葉の意味について小一時間ほど問い詰めてやりたいわ」

 

 ほう、これほどの容姿を持ちながら、一人。

 はっきり言って、意外だった。

 五、六人はいるのかと思っていたが。

 

 入学初日で、遥斗から教えてもらった話だ。

 曰く、告白してきた男を全て玉砕した、と。

 それを考えると、一人いるだけでも驚くべきことなのだろうか。

 確かに、あの綾瀬を惹くような男と言われれば、かなりハードルが高そうだ。

 

「そんなことはどうでもいいのよ、私は。あんたに聞きたいことがあって待ってたのよ」

「これまた改まって珍しい。どうしたよ」

「大したことじゃないわ。テストの手応えよ」

「ん~……可もなく不可もなく、ってところだな」

 

 本当のところは、結構な手応えはあった。

 だからといって、かなりいい出来だと思う、と言うのも気が引ける。

 それで綾瀬や高波、遥斗にも点数が低かったらさぞかしいじられるのだろう。

 

「へえ、そう」

「どうした、今回は悪そうなのか?」

「……ええ。あまり言いたくはないけど、あんたに勝てるのかすら微妙よ」

 

 料理教室の後、遊べるはずもなく各々の家に帰宅。

 三人の反応を見る限り、しっかりとした準備はできていないように見えた。

 

 特に綾瀬に至っては、他の二人よりも尚更危ないだろう。

 新聞作りの作業をしていてわかったが、彼女の作業効率はお世辞にも良いとは言い難い。

 タイピングの速度は人並みかそれ以下。

 内容を作る手際に関しては目を見張るものがあったが、無理矢理それでタイピング速度の遅さを補っている印象を受けた。

 それにもかかわらず、綾瀬の作業は俺と同じくらいだった。

 

 前日、学校で綾瀬が済ませた所と、翌日に作業を始める所。

 明らかに違った時もあったので、校外で作業をしているのは明白だ。

 本来彼女のテスト勉強に使われたであろう時間は、それに使われたと言っても過言ではない。

 

「ま、返却前に何を話そうと変わらないさ。それより、今日は早めに終わらせようぜ」

 

 そう言い終わってから、丁度良くコンピュータ室に着いた。

 戸を開いても、テスト期間なので、さすがに生徒会の人影もない。

 

 通学用バッグと手提げ袋を置いて、カーテンを開け放ち、パソコンを立ち上げる。

 俺と綾瀬が席に着いて作業を始めてから、数十分も経っていないだろうか。

 

 扉が開く予期しない音が聞こえ、そちらを見た。

 遥斗と高波が来てくれた。

 最初に言ってくれたように、最後の確認をしてくれるらしい。

 

 そして、作業開始から三十分と少しが経って。

 

「――うん、大丈夫だと思うよ」

「こっちも問題なし、かな」

「よっしゃ、終わり!」

「あ~……疲れた」

 

 俺と綾瀬は、二人で同時にのびをした。

 普段はあれほど冷ややかなのに、のびが小さい。

 のびているのに、身長が身長なので小さく見えた。

 

 普段と違う一面が見えると、本来よりも増して可愛く見えてくる。

 

「さっさと出して、帰るか。先に皆は帰る準備しててくれ。俺はこれ、提出に行ってくる」

「ああ、私も行くわ。それに、職員室に寄るだけだから、あんたも用意してきなさい」

「あ~……いや、鍵閉めて、返してから行く。すぐだから、先に下に降りてろ――」

 

 そこまで言って、ふと気付いた。

 俺達は。厳密に言えば、俺と綾瀬は。

 最初に入った時に、鍵はどうしただろうか。

 

 ――開けていない。

 否、鍵がかかっていなかった。

 少し部屋を見渡して、コンピュータ室のキーが壁にかけられているのが見える。

 俺も、俺以外の三人も、鍵に触れるような行動は起こしていない。

 

 一日中、鍵が閉まっていなかったということもないだろう。

 使用後に戸締まりはするだろうし、忘れていたとして、先生が閉めにくる。

 

 それに、今日は月曜日。テスト期間が始まった日だ。

 前日は日曜日なので、先生の管轄外でこの部屋を使ったとも考えにくい。

 

 コンピュータ室を使う時は、大抵は生徒会が使用中で、鍵を取りに行くことも少なかった。

 ただ、今日は生徒会の姿は一人すら見えない中、鍵だけが置いてある。

 やや不審に思いながらも、三人が部屋を出たのを見送った後に鍵を手に取り、電気を消す。

 

 廊下を歩きだして一分もかからずに、職員室に着いた。

 ノックをしてから、軽い音を立てて扉は開かれる。

 

「おっ、そろそろだと思ってたよ」

 

 ちょうど里美先生が職員室から出てきて、鉢合わせた形となった。

 手に持っているメモリを見て、作業終了を察したようだ。

 

 メモリを渡してから、もう一つの俺の持ち物に気付いたようで、声を上げる。

 

「鍵、閉めてきたのか?」

「え? えぇ、まあ」

「あ~……すまない。先に言っておけばよかったな。生徒会の一人が、先に来て作業を始める予定なんだ。悪いが、戻って開けておいてくれないか?」

「そうだったんですか、わかりました」

 

 まさか、まだ来ていなかっただけだったとは思わなかった。

 今来た道を引き返して、コンピュータ室へなるべく早く戻る。

 

 小走りで向かった先には、かなり背の低い金髪の女の子が立っていた。

 遠目で見た限りでは、あの綾瀬よりもさらに低い。

 だが、確かに彼女の左腕には、「生徒会」と書かれた体躯に似合わない黄色の大きな腕章がつけられている。

 

「あ~、ごめんごめん。遅かったね」

「ひっ!? いえ、その……大丈夫、ですから」

 

 狭い肩を存分に跳ね上げて、弱々しく呟いた。

 察するに、この子は一年生だ。

 彼女の背丈や小動物のように震え、怯える声は、高校一年生が一番近いだろう。

 

 言動、身長、そして大きな瞳は見た目の年齢をぐっと下げる。

 高校生というよりも、むしろ小学生みたいだ。

 おどおどとした様子を心配に思いながらも、手早く鍵を開けて、中の照明を点けた。

 

「あの、わざわざすみません、助かりました」

「いやいや、元々は俺が悪かったんだ。申し訳ない」

「え、えっと……では、私は仕事があるので、これで失礼します」

 

 そう言った彼女はお辞儀をして、逃げるようにコンピュータ室を去ろうとした。

 不審に思い、呼び止める。

 

「お、おい待てよ。鍵開けたのに、どこ行くんだ?」

「その、大丈夫ですから!」

 

 もう一度だけ頭を下げられ、脱兎の如くその場を離れられた。

 何か気に障る真似をしたのかと不安になったが、見当がつかない。

 強いて言えば、鍵を閉めたことくらいか。

 それに関しては、弁解の余地もないので納得せざるを得ないのだが。

 

 取り敢えず、考えても埒が明かない。

 当の少女は既に走り去った後で、何もしようがないのだから。

 

「ま、いっか。……あれ?」

 

 不意に手に虚無を感じて、疑問符を口にした。

 これだけ聞くと格好がいいが、持っているはずの手提げ袋がない。

 

 確かに、教室を出て綾瀬と会った時には持っていたはずだ。

 コンピュータ室でも、荷物を下ろした際に、通学用バッグと一緒に下ろした記憶もある。

 なら、どうして俺は手提げ袋を持っていない。

 先週、綾瀬に偉そうに言っていた自分に、特大のブーメランが帰ってきたらしい。

 

 コンピュータ室への無駄な往復のせいで、もう三人を随分と待たせている。

 今更ではあるが、携帯で遥斗に先に帰るようメッセージを送った。

 

 重い溜息を吐きながら、コンピュータ室を歩き回る。

 明るい室内を見渡しても、目につくのはパソコン一式、コピー機など、大きなものだけ。

 手提げ袋くらいなら、すぐに見つかりそうなものだが。

 

 五分が経って、捜索をやむなく諦めた。

 明日に行われるテストの教科に使う教材が入っているのだが、仕方がない。

 それ以外に、別の形で復習するしかないか。

 

 職員室を経由して、昇降口へと向かう。

 もうそろそろ靴箱が近い、というところで、通りかかった部屋の扉が開いた。

 開いた扉は事務室の扉で、それを開けたのは、先程の金髪少女だった。

 

「あ、さっきの」

「あっ、ご、ごめんなさい。邪魔してしまいましたね」

 

 俺の足が止まったことへの謝罪を口にする少女。

 そこまで過剰反応するか、と傷つきそうになるが、彼女の持っているものが目についた。

 

 茶色の包みに覆われた、直方体。

 何度か見ることがあるそれは、一目見ただけでコピー用紙だとわかった。

 今日で三度目のお辞儀をした彼女だったが、直方体に小さな体躯を振り回されていた。

 現に、今にも倒れ込みそうだ。

 

「あ~ほらほら、持つよ」

 

 あまりにも不安定なので、半ば奪い取る形でコピー用紙の束を受け取る。

 両腕にずしりとくる重みは、予想外のものだった。

 一つだと思っていた束は、二つに重なっていた。

 

 コピー用紙は一束につき五百枚の、二キログラムのものだ。

 二つ分なので、四キログラムか。

 こうして持ってみると感じるが、小柄な女の子がいっぺんに持つ重さではない。

 

「これ、どこまで持っていけばいい?」

「あの、本当にいいですから……これ以上、迷惑をかけるわけには……」

「お互い様だよ。俺だって、さっき君に迷惑かけたからね。で、どこに持っていくの?」

「……さっきのコンピュータ室に、よろしくお願いします」

「了解」

 

 両手で抱える重みを直に感じながら、別棟のコンピュータ室へ。

 後ろをとことこと着いてくる彼女が視界の端で見えるが、なんとも微笑ましい。

 

 荷物を持っている俺よりも、何も持たない彼女の方が歩く速さは遅いらしく。

 時々に小走りになって、俺に追いついてくる。

 娘を持った父親、というのはこんな感覚なのだろうか。

 

 ……散々に可愛い、と騒ぎ立てる理由が垣間見えた気がする。

 

 それに気付いて、幸せな光景を味わい続けたかったが、歩く速さを彼女に合わせる。

 大分ゆっくりと歩くことになり、コンピュータ室に着くまでが随分と長く感じた。

 腕に残る疲労の痺れを受けながら、コピー用紙を机の上に下ろす。

 というか、なくなる前に誰か補充しとけよ。

 

「スパ――じゃなくて、その、何から何まで、本当にありがとうございます」

「い、いやこちらこそ。じゃ、俺はこれで」

 

 なんだろうか、少しはかっこつけたいのだが、腕が痛い。

 普通に持つ分にはいいのだが、長く持ちすぎた。

 ただでさえ遠い別棟のコンピュータ室に、牛歩で向かったのだ。

 その弊害は、思いの外大きかったようで。

 

「あ、あの!」

「ん? どうした?」

「よ、呼び止めてすみません。えっと……」

 

 大きな声で呼び止める彼女だったが、どこか迷う表情を見せている。

 どうしたんだ、ともう一度聞き返す寸前に、彼女は口を開く。

 

「お、お名前を、教えてください」

「えっ? あ、あぁ、東雲 蒼夜だ」

「東雲……やっぱり、貴方でしたか」

「へっ?」

 

 やはり、ということは、俺の名前を知っているか、見当がついていたか。

 どちらにせよ、不自然であることに変わりはない。

 勿論、俺とこの少女に接点はなく、今日が初対面だ。

 名前を大々的に知られる出来事など、あったはずもない。

 

「最近、少しだけ噂になってますよ? 東雲っていう中々かっこいい二年の男子生徒が転入した、と」

「か、かっこいいって……」

 

 面と向かって言われたのは初めてで、突然ということもあり動揺してしまう。

 幸か不幸か、褒められるようなことは今までになかった。

 だが、嘘だとしても名前を知っていることに説明がつかない。

 噂になっている、というのはどうやら本当らしい。

 

 ただ、本人の耳に届かないほど小さな噂でよかったものだ。

 もし肥大化しようものなら、俺の学校生活が危ぶまれていたところだ。

 

「その、転校生なら、私の名前も知りませんよね」

 

 初めて見せた彼女の笑顔が、どんなに俺の心を掴んだだろうか。

 純白、無垢、それ以外に形容し難い純粋な微笑みは、俺の息を一瞬だけ止める。

 そして、碧の瞳の持ち主は謳うように。

 

「私は、浅宮・ソーフィヤ。この学校の、()()()()です」

「……えっ?」

 

 生徒会長、ということは。

 少なくとも、一年生ではない。

 

「い、一応、学年は?」

「勿論、三年です。私のことは、ソフィーと呼んでもらえるとありがたいですね」

「え……えぇぇええ!?」

 

 陽気に笑う彼女の前で、驚きを隠すことは不可能だった。




ありがとうございました!

あの子、三年です。
ちょっとフラグっぽかったし、まあ想像できたかなって。
ソーフィヤの意味は、題名の通り、「知恵」という意味です。

「スパ――」って言いかけたの、なんだろうね。
ある国では、「ありがとう」って意味らしいよ。

最近、PS4のシージ友達が増えました。
読者の方からも、フレンドになりたい・一緒に遊びたい!
という方がいらっしゃって、嬉しい限りでした(*´ω`*)
……送っても、いいのよ?(´・ω・`)

PSNID送るときは、感想は人目につくからやめてねってだけ言おうかな。
ハメのメッセか、ツイッターのDMにどうぞ。

ではでは!

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