クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!

ペース上がると思ったのに、課題に追われて上がることはなかった狼々です。
……。ごめんね(´・ω・`)

今回はセリフ多めネタ多めにしました。
あんまり情景描写多いと、読むのに疲れることがようやくわかったからねん(*´ω`*)

では、本編どうぞ!


第17話 氷水

 権利、というものは持つ者の自由の象徴だ。

 自らを侵害される危険から身を守る、不可視の境界線。

 破ること、侵すことは許されず、昨今の日本も口を酸っぱくして告げ、行動している。

 

 そのはずなのに。

 

「あの~、私にはプライバシーっていうものはないのでしょうかね? 一応お聞きしますよ綾瀬さん」

「あると思っているのなら、とんだ思い上がりね」

 

 すなわち、人ならざる存在であると。

 人間という種族と比較して、別の劣等的な種である、と。

 

「訴えたら勝てるぞこれ」

「あら、やってみなさいよ。貴方にできるものなら、ね」

「はいはい、今のはどう見ても七海ちゃんがわーるーい」

「不法侵入を現行犯で見た俺はどうすべきかねぇ」

 

 俺達の仲裁に入った、麗美奈と遥斗。

 遥斗に至っては、仲裁というよりも通報に悩んでいそうだが。

 

 とはいえ、随分と量が多い。

 何の量かというと、両手にぶら下げた買い物品の、である。

 さすがに四人分ともなると、これだけ多くもなるか。

 

「名誉毀損罪と住居侵入罪で訴えてやる」

「さっさと昼食作るわよ。食べるのが遅くなるわ」

「訴えてやる!」

「あ~もう、うるさいわね。鍵はちゃんと返すわよ」

「すいません」

 

 いやちょっと待て。

 反射的に謝ってしまったのだが、俺別に何も悪いことしてなくないですかね?

 

 手に持っていた鍵を放り投げられ、拙く受け止めた。

 というか、本当にいつの間に取ったんだよ。

 置いた場所も言った覚えがないのだが。

 そんなに表立った所に放置していただろうか。

 記憶が曖昧なので、思い出して確かめることすらできない。

 

「……あんたの昼食、あんた自身の骨を茹でてあげるわ」

「茹でられた自分の骨食べるってどんな狂犬なんだよ。食べないぞ」

 

 狂気的すぎて他に言葉も出ない。

 

「冗談よ、本気で信じるなんて本当に犬みたいな頭してるわね」

「今のが本気だと思うかよ、あぁ?」

「あの~、喧嘩しないでよね?」

 

 喧嘩というよりも、俺が話を振られただけなのですがそれは。

 一方的に殴られるのは、喧嘩ではなくいじめに値すると思うのですよ。

 

「仕方ないわ、犬と会話はできないもの」

「思い切り吠えたろかこの野郎」

 

 今日の綾瀬は、特段言葉に棘がある。

 このままだと、本当に喧嘩に発展してしまいそうだ。

 

「そろそろ私も怒るよ~、その辺にしようね」

 

 それを見かねたのか、もう一度高波が警告。

 しかし、存外悪くない。

 

 綾瀬ならともかく、高波が怒ったら可愛くなりそうだ。

 逆に怒ってほしいという欲求が出てきたじゃないか。

 

 綾瀬も可愛いと言えば可愛いが、叱責に熱が入りそうではある。

 叱るというよりも、罵倒に近い感じだろうか。なにそれこわい。

 その点、高波は柔らかな印象が持てる。

 罵倒に対照させて言うのならば、諭しだろうか。

 

 ……彼女にするなら、高波かなぁ。

 いや、俺が選べる立場でもないのだが。

 

「わかったよ、悪かった」

「……あんた、高波には素直なのね」

「どうせ俺は犬らしいからな。優しい飼い主に尻尾を左右に振る本能くらいは持ち合わせてるとも」

「……あっそ」

 

 途端に静かになって、レジ袋から食材を取り出し、並べ始めた。

 興味の糸が切れたかのように、調理の準備まで進めている。

 白いワンピースの上から、青のエプロンを慣れた手つきで着ている。

 

 手際の良さに感心していると、高波がこちらを呆れ半分、軽蔑半分で見ていることに気が付いた。

 軽蔑というと、少し言い過ぎかもしれないが。

 

「わかってないね~、東雲君は」

「ホント、わかってないよ蒼夜は」

 

 それにつられるように、遥斗まで同じことを言い出した。

 同じ言葉を言っているはずなのに、気のせいか遥斗の方がイライラを誘う。

 小馬鹿にしたような表情が、何より神経を逆撫でするのだ。

 

「後でこの俺様が詳しく説明してあげようじゃないか」

「いらねぇよ、どうせろくなことじゃない」

「ちょっと、誰のためにこうして集まってると思ってるのよ。手伝いなさい」

 

 まあ、元々この料理教室は俺の調理技術の取得のために開かれている。

 当の本人がこれだと、わざわざ集まった意味も、開いた意味もないわけで。

 

 何をすればいいのか全くわからないままキッチンへ向かう。

 とりあえずは、綾瀬の指示に従っていようか。

 

「一応聞いておくわ。何を食べたいかしら」

「材料買う前に言うべきだったな、それ。そうだな、ハンバーグとかなら俺でも作れそうだからそれで」

「わかったわ、そうめんね」

「お前話聞いてた?」

 

 なんだろうか、この意味のない会話は。

 どうせこんな返しが来ることは、正直ある程度は予想できていた。

 材料買った後で、わざわざ聞くなんてことはありえない。

 

「聞いてたわよ。あぁ、犬語だったから間違えたのかしら。それとも犬はそうめん食べられない?」

「まだ引っ張るか。それに、やけに攻撃的じゃないか、こっちだって考えがあるぞ」

 

 小ネギをまな板の上に乗せて、切ろうとしながら返事をされた。

 今日は普段よりも辛辣だ。何かあったのだろうか。

 いつも辛辣だが、それに増してさらに針がある。

 

「私だって――って、あんたが切らないと意味ないじゃない。ほら、切りなさい」

 

 それもそうだ。誰のための料理教室だろうか。

 俺が実践経験を積まないと、意味がない。

 納得しつつ、ネギくらいは切れるだろうと思い、包丁を受け取ろうとして。

 

「ちょっと? ハサミは人に刃を向けて渡さないって小学校で習わなかった?」

「習ったわよ。常識でしょ。それがどうかした?」

「包丁はいいだとか例外だと思ったら大間違いだ、とだけ言っておこうか」

 

 完全にそれ、人を刺す持ち方ですよ綾瀬さん。

 狂気が滲み出る渡し方、しないでいただけるとありがたいのですが。

 

 まな板に包丁が置かれるまで待って、改めて手に取る。

 この包丁、実際に握ったのはほんの数回だ。

 鉄製の重みが手首と腕全体にのしかかる感覚は、まだ馴れそうにもない。

 

「あ、あの、綾瀬さん。ネギ、切れないんですが」

「冗談でやってるのなら、私帰るわよ」

「いや、本気だから聞いてるんだが……」

「はぁ~……」

 

 綾瀬の口から、心の底から呆れた溜息が聞こえた。

 今までネギを切った覚えはなく、切り方がさっぱり。

 何を、どの手順で、どのようにすればいいのか、白紙なのだ。

 

「二つ言うわ。まず一つ、底は切り落とすこと」

「あ、あぁ、了解」

 

 言われた通りに、丸くなった白い部分を数センチだけ切り落とす。

 考えてみれば、他の野菜と同じく根やそれに近い部分は切り落とすか。

 

「あと一つは――はぁっ。ネギの切り方よ。小口切りは合ってるわ。ただ……()()()()()()()()()

「そ、そういうものなのか」

「ほんっとうに……切れないのはそのせいよ。切れたとして、一体何時間かけるつもりなのよ」

 

 綾瀬が呆れ尽くして、頭を抱えている。

 ネギ一つ切れないなど、頼りなくて仕方がない。

 小口切りはテスト勉強で覚えているのだが、やはり実践がないとどうにもならないことがあるらしい。

 

「あんた、本当にその包丁で大丈夫なの? プラスチックのやつ使う?」

「それは言い過ぎだろ。絆創膏くらいは用意できてる」

「怪我した後を考えるところが実にあんたらしいわ」

 

 用意周到と言ってもらいたいものだ。

 むしろ、逆に褒めてほしい。

 どうせなら、綾瀬より高波に褒めてほしい。優しそうだからな。

 

 それ以前に、あいつに「褒める」という概念があるのだろうか。

 誰かをけなすか適当にあしらう姿しか見ていないので、想像が難しい。

 

「一応だ、保険だ、リスクヘッジだ」

「物は言いようとはこのことね」

「そんなわけないだろ。それとも、本当に切るとでも思ってるのか?」

「逆に聞いとく。どこに切らないと思える要素があるのかしら?」

 

 こりゃひどい。これでも高校生だぞ。しかも二年。

 自炊は確かにできないが、安全を図ることはいくらでもできる。

 一回の切る動作に時間をかけるだとか、徹底的に意識するだとか。

 それこそ、プラスチック製の包丁を使うだとか。

 

「ちなみに俺、何歳に見える?」

「そうね、生後三ヶ月くらいかしら。包丁で手を切るのはそのくらいでしょ」

「随分と大きい赤ちゃんじゃねえか。お前の目は飾りかよ」

「あらありがとう。まあ私の輝く目を見たら飾りと勘違いするのも無理ないわ」

「物は言いようってこのことだよな」

 

 気の緩い会話をしているが、俺はその中でも包丁を動かし続けている。

 今のところ怪我の兆候すら見えないので、少なくとも生後三ヶ月ではないと。

 

 一分弱ほどかかって、ようやくネギを切り終えた。

 自分でも遅すぎると思うが、盛大な切り傷を負うよりマシというものだ。

 

「やっと終わったの。次は麺を茹でるわよ。鍋の中に水入れて、沸騰させなさい」

「はいよ」

「案外、あの二人っていい感じのコンビじゃない? 私達必要なさそうじゃん」

「そうだよね。なんだかんだ息が合ってる気も――」

「「しない!」」

「ほら合ってる」

 

 全力で否定したら綺麗にハモリました。

 練習を積んだ合唱団と張り合えるレベル。

 

「私だって好きでやってるわけじゃないの。できることなら代わってほしいわ」

「お、じゃあ私が代わっちゃおっと。ちょっと見てみたい気もするんだよね」

「気を付けなさい。隣に立ったら、いつ包丁が飛んでくるかわからないわよ」

「まだ失敗してないよね! 今のところ順調だよね!」

 

 順調なはずだ。何も大事は起きていない。

 包丁が宙を舞っても、食材をダメにしてもいないはず。

 さすがの俺でも、刃物を飛ばす真似は、たとえしたくてもできないだろう。

 

「そ、そうだね……二人前ずつ、二回に分けて茹でよっか。お湯の量は、一人前で大体一リットルくらいかな。麺の方は、これだと二束で一人前だよ」

「今日初めて料理の指導を受けたって実感が湧いた」

「ネギ切れたの誰の御蔭か、言ってみなさいな」

 

 エプロンも脱いだ、やる気のない綾瀬の声が飛んできた。

 そう言われても、実感が湧き上がるのは今のが初めてなのは事実。

 

 そりゃあ、ツンツンした講師と優しそうな講師、どちらが好きかと言われれば後者を選びたくなる。

 一から十まである内の一ほどしかわからない俺にとって、丁寧に教えてもらった方が参考にもなる。

 何より、わかりやすい。

 

「あ、あはは……あっ、茹でた後、氷水に通した方がいいんだけど」

「氷、作ってないんだが」

「確か買ったはずよ。袋のやつ」

 

 綾瀬が呟きながら、レジ袋を漁った。

 

「ん、ほら」

「準備がよろしいことで」

 

 事前に言ってくれたなら、氷くらい作っておいたのだが。

 二、三時間ほどはかかるので、逆に言えば事前に言ってもらえなければ作れない。

 今の口振りから察するに、綾瀬の配慮によるものらしい。

 そこまで考えられるなら、もう少し人と柔らかく接することはできないのだろうか。

 

 そうすれば、もっと俺も話しやすくなるものだ。

 俺だけでなく、クラスや同学年全員に言える話でもある。

 最近、俺も綾瀬も友達らしい友達が増えてきたが、綾瀬の方は俺に比べて芳しくない。

 心の底から性格が悪いわけではないと知っている分、勿体無いと思ってしまう。

 

 袋を開けて、ボウルの中に氷を入れる。

 水を入れると、パチパチと水面を弾く音が聞こえてくる。

 手にかかった水が、夏だというのに、妙に肌寒かった。




ありがとうございました!

一旦切って、二話に分けたいと思います。
次話が少し短くなるかもしれませんが、予めご了承ください(´・ω・`)

活動報告にも書きましたが、18日に新作を上げます。
別作品が終わりそうなので、入れ替わりみたいな感じですかね。

東方の作品なのですが、私が既に上げ、完結した作品「東方魂恋録」の続きとなります。
二期があると知らなかった方へ、別作品の後書きながら告知させていただきます。
詳しくは、お手数ですが、活動報告の方を御覧ください。
別作品に長く書くのは、あまり好ましくないと思われますので。

ではでは!

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