クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!

お久しぶりです、皆さん。
ついに10月は投稿すらせず、この作品は一ヶ月以上投稿されませんでした。

というのも、こちらでは、模試に期末、そして極めつけに風邪までもが襲いかかってきていまして(´・ω・`)
テスト勉強に続くテスト勉強で、学校には20時30分まで残って勉強という日常がここ最近の状態です。

模試は終わりましたが、期末の方がまだ終わっていません。
なので、これからもその日常が続くことになるのですが、それだとさすがにまずい、と。
というわけで、かなり短いですが、キリの良いところまで書きました。
長い期間投稿をストップさせてしまい、申し訳ありませんでした。

長くなってしまいましたが、本編どうぞ!


第15話 疑念に隠される半透明な疑念

 ――意識が、覚醒した。

 

 覚醒した、という言い方には、全くもって語弊など存在しない。

 まず、「覚醒」という言葉の持つ意味とは。

 一度闇へ沈んでしまった意識が、再び呼び覚まされることだ。

 萎んでもいない自我が継続して冴えている状態を、「覚醒」とは呼ばない。

 

 つまるところ、徐々に明白になり始める意識はつい先程まで、眠っていて。

 

 はっとなってすぐ起き上がり、窓と外を見る。

 相変わらず外は暗いままで、現在の時刻は午後八時過ぎ。

 あれから五分どころか、三十分を(ゆう)に超えている。

 

「しまったなぁ……あぁ?」

 

 と、夜の(とばり)が降りきった部屋に、細く小さな呼吸音が聞こえた。

 それは考えるまでもなく、自分のものではなくて。

 それは目で直接見て確認するまでもなく、疲弊の休息であって。

 

「……あら、起きたのね」

「悪い、起こしたか」

「いいのよ、別に」

 

 椅子に座ったまま安らかに船を漕いでいた綾瀬が、同じく静かに瞼を開く。

 読んでいた本は閉じて机の上に置かれていて、表情はかなりお疲れのご様子。

 いつものように毅然とした風貌だが、音のない溜息が、彼女の疲労具合を物語っている。

 

 気が付けば、俺の額から滑り落ちたタオルも、新しく冷たい水気を持っていた。

 乾いた皮膚に優しく触れる確かな潤いは、間違いなくそれだろう。

 誰がこんなことをしてくれたのかは、最早言うまでもない。

 

「起きたようなら、私はもう帰るわ。明日明後日のことに関しては、無理するようなことでもないから、体調が優れないようなら素直に言うことね」

「あぁ、本当に悪いな。今日は色々と、ありがとう」

 

 辿ってみると、今日はお世話になりっぱなしだ。

 御見舞に加え夕食まで作ってもらい、それにこの時間まで看病をしてもらっている。

 今更ではあるが、それはもう、随分と手厚いものだろう。

 

「だから、いいって言っているのよ。帰る前に一応ほら、体温計」

 

 どこから見つけたのか、俺へ体温計を差し出す綾瀬。

 素直に受け取って、脇へと挟む。

 金属特有の冷ややかな感覚は、僅かな寒波を送り出し、脳へと針になり伝わった。

 

 さて、この脇に挟む型の体温計、明確な測り方があるとか。

 脇の中心を、下から押し上げるようにするべきらしい。

 そこまで過剰に意識することでもないが、上から押したり、中心から逸れると正しい検温値は測れないんだと。

 

「ん、三十七度五分だな」

「大分下がったようね。今日は無理せず、もう寝なさい」

「そうさせていただきますよっと」

「じゃあ、私は帰ることにするわ。お疲れ様」

「あぁ、帰りは気を付けてくれよ」

「あら、もう止めないのかしら? 五分だけなら、待ってあげないこともないわよ」

 

 ちょっと何なんですか、その意地の悪くも可愛い、反応に困る笑みは。

 見下すでもなく、はたまた弄ぶでもなく、中途半端にいじらしい。

 小馬鹿にしているようで、自分の胸中に渦巻く小さな嗜虐心に忠実であるだけなのだ。

 

「傷口に塩を塗るってんなら、また明日にしてくれ」

「へぇ。治す宣言もきっちりと頂いたことだし、本当に帰るわね」

 

 既に数十分前にまとめられた荷物を手にして、部屋を去っていく。

 静かに遠ざかる背中へ、もう一言だけお礼を飛ばした後、部屋の扉が閉じられた。

 

 彼方から鍵の閉まる音を聞き届けながら、起こした体をベッドへ叩く。

 スプリングの小さく軋む音を最後に、静寂が戻った俺の部屋。

 思考もゆっくりと安定性を取り戻しながら、明白になりつつある事実。

 事実というよりも、疑念。疑惑。

 

「あれ……体温計、今日測ったか?」

 

 いや、そう言葉にすると、相違があるだろうか。

 この条件で限定するのならば、朝も昼も当てはまる。

 訂正しよう。「綾瀬達が来てから測り、加えて検温値を教えたか?」

 

 否。実に、否だ。

 結果を教えることは勿論、体温計を手に取った覚えさえない。

 自分でもそれはどうかと思うが、揺るがぬ事実なのだ。

 つまり、つまりは。

 

「綾瀬が俺の体温を測った、だと……!?」

 

 い、いや、あまりにも飛躍しすぎている。ついに頭も限界か?

 第一、人の体温を測る側になるのだろうか。

 それこそ、綾瀬が可能な測り方にも限界があり、結果の値は、低い検温値が弾き出されるはずだ。

 

 にもかかわらず、「大分下がった」という文。

 単なるイメージとの比較なのか、本当に体温を測ったのか。

 可能性として高いのは、圧倒的に前者だ。

 

 というのも、いくら長く眠ったとはいえ、本格的な睡眠とは訳が違う。

 分類するならば、まだ『居眠り』の方が適切だろう、というレベル。

 そんな短時間で大きく体温が変化するとも思い難い。

 

 もっと前、すなわち俺が起きているときに測った可能性は、言わずもがな。

 俺の病状が思いの外深刻すぎて、最早記憶がぶっ飛ぶくらいであれば話は別だが。

 

「いやしかし、もしも、だ。綾瀬が測ったとしたら……」

 

 一体、俺は独り言をどれだけ重ね、全くもって意味のない思考を繰り返すのだろうか。

 本来この題は、どうでもいい、の一言で蹴り飛ばされる。

 

 でも、考えてみたまえよ、全国の男子諸君。

 少し冷たい物言いと態度とそれに似合わない小柄な体格に難ありとはいえ、学校屈指の美少女。

 難がありすぎて、目を瞑るどころか目の前が真っ暗になってポケセンに強制送還されそうだけれども。

 御見舞に来てくれるだけで心は高鳴り、風邪なんてなかったんじゃないのか、と錯覚するほど元気になる、単純な男子諸君よ。

 

 そんな彼女が、寝ている俺に体温計で体温を測った?

 もしかすると、額同士を当ててもいたかもしれない。

 夢のようなシチュエーションは、妄想という熟語を孕んで頭脳を縦横無尽に駆け回る。

 

 人間とはどうにも、自分にとって都合の良い解釈をしたがる傾向にある。

 それもそうだ。都合の良い分には、どれだけ無い事でも妄想し放題なのだから。

 わざわざ都合の悪いことを妄想するなど、根っからの根暗しかいないに決まっている。

 さらに述べるならば、都合の悪い妄想は、きっとそれは『妄想』から脱輪してしまっているに違いない。

 

「起きときゃ、よかったなぁ」

 

 限りなく、損。

 青天井に、後悔。

 悔やむ理由が本当にくだらないが、男は所詮そんなものだ。

 巻き上がる欲望に忠実なだけ、まだマシだというもの。

 

 端正な顔は目の前に近付き、体も近付き。

 至近距離である空想の瞬間を、少しは体験させていただきたかった。

 ほんの一瞬さえも許してはもらえないこの現状。世界は厳しかったのです。

 

「あ~あ……風呂入って寝よっと」

 

 叶わぬ願いに相変わらず後悔を馳せながら、着替えを用意する。

 肌触りの良いバスタオルを手に取り、風呂場へ。

 

 歩いていてわかったが、症状が大分軽くなっていた。

 目眩もなし、気だるさも緩和され、吐き気も欠片すら。

 安定した足取りが続くことに、安堵感と同時に再び心内で感謝を述べた。

 

 しかしながら、風邪のときに入浴とは、本当はいいのだろうか。

 いいとも悪いとも聞くが、湯冷めしなければ大丈夫なはずだ。

 しかしながら、夏に湯を張るのも気が引ける。

 さっとシャワーだけ浴びて、暖まったら早い内に上がるのがベストだろう。

 

 そう考えたはいいものの。

 ――本当に違和感を感じるべき箇所を、スルーしていたのだ。

 

 本来起こるはずのない事象が、陰ながらで起きていることに、気が付かない。

 他のことばかりに目を向けて、もっと大きく重要なことからは視線が外れている。

 見当違いな場所をじっくりと見つめている時間だけ、真実は遠ざかった。

 少し考えればわかることでも、今の俺にはわからない。

 疑念に隠されたのは、さらに半透明な疑念とでも言うつもりなのか。

 

 相変わらず隠れた答えどころか、謎の存在にすら認知できていない俺は、のんきに風呂場のタイルへ足裏を付けた。




ありがとうございました!

かなり駆け足で書いたので、誤字脱字が怖い。
確認はしたけども……風邪だからなぁ(´・ω・`)
頭が回らず、学校では少しフラつきますぜ。

こんなとき、七海ちゃんがいてくれたらなぁ、と妄想に浸っている狼々でした。
次回からは、料理教室の回となる予定です。

さて、半透明な疑念。
本来起こるはずのないことが起きています。一体何でしょうね?(*´ω`*)

ではでは!

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