クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!
少しずつ、ペースがよくなってきたと思っています。

今回は、看病回!
そしてようやく(?)現れる少しのデレ!
そろそろ、出してもいいんじゃないかなぁと(/ω・\)チラッ

では、本編どうぞ!


第14話 滑稽な頼み

 朦朧(もうろう)とする意識を掻き分け、重い扉を開く。

 

「やっほ~」

「本当に大丈夫なの? 顔、赤いよ?」

「……三人、だったのかよ」

 

 インターホンの画面を見る限りは、遥斗だけだったのだが。

 とうとう自分の視覚さえも、おかしくなったのだろうか。

 

「あぁ、代表で出ただけだよ。お邪魔するね~」

 

 遥斗が有無を言わさず、部屋の中へと入る。二人も、それに続いた。

 別に追い返すつもりでもないので、拒否はしない。

 

 綾瀬がすれ違う瞬間、こちらを見た気がするが、錯覚だろうか。

 酷い頭痛と視界のブレで、記憶すらもあやふやになってきた。

 

 立っていることにすら疲弊を感じ始め、直ぐ様自室へと戻り、ベッドへとなだれ込む。

 

「あんた、そんなんで本当に意識あるの?」

「あぁ、綾瀬か。いや、あるにはあるが、それがまた何というか」

「返答も危ういわね」

 

 正直、自分でも内容を考えていない。否、考えられない。

 素直に言葉の受け答えができるほど、思考が安定しているわけではなかった。

 

 声だって、弱々しく震え続けている。

 傍から見ても、一発で病気を患っているとわかるくらいだと自負できるかもしれない。

 

「……氷、持ってくるわ。冷蔵庫開けるわね」

「あ~、わかった。すまない」

 

 綾瀬が部屋から去る姿を、横になったまま見守る。

 冷蔵庫を開ける音、氷を掬う音がした暫く後に、彼女は戻ってきた。

 

 その顔は相変わらず呆れ顔で、少し困っているようにも見える。

 額に当てられたビニル越しの氷が、どうにも気持ちがいい。

 ベッドの側に座っている綾瀬が、静かに口を開いた。

 

「あ~、うぁ~……」

「少し食器類も見たわ。あんた、朝と昼は食べたの?」

「あ、あぁ? 食べていない。食べる気力すらない」

 

 食事という行為に、疲労を予感する。

 口を動かし、嚥下する。咀嚼を何度も繰り返せるほど体力が残っていそうにもなかった。

 

 そもそも、何もしていないのにもかかわらず、体力がどんどんと減っていくのがわかる。

 熱だって収まらない上に、全身の関節という関節が痛みを帯びているのだ。

 歩く度に膝が軋み、腕を伸ばす度に釘を打たれる。

 それが連なると、とてもではないが、耐え難い苦痛となって体へとのしかかった。

 

「やっぱりね。……二人共、私は買い物に行ってくるわ」

「七海ちゃん、夕食の買い出しに行くの?」

「そうよ。どこかの誰かさんが、今日一日何も食べていないらしいからね。自分の分のついでに、多めに買うわ。二人はどうする?」

「俺はまあ、荷物持ちにでもなりますかね」

「じゃあ、私も手伝いに行くよ」

「……とのことよ。行ってくるわ。お粥と冷たい麺類、どっちが食べやすいかしら?」

「い、いや、俺はいいんだって――」

「馬鹿ね。風邪のときほど、食事は取りなさい。それで、どっちがいいの?」

 

 そう言われても、どう答えていいのか咄嗟には判断できない。

 けども、直感で応答するのならば。

 

「――冷たいなら、この際何でもいい」

「わかった。一応、麺類にしておくわね。行ってくるわ」

 

 俺がそれから何を言う前に、三人が家を出てしまう。

 どこから取ったのかは不明だが、しっかりと鍵を閉める音まで聞こえた。

 勿論、今から止めに行く元気もなく、制止する張りのある声も出せない。

 

 俺にできたことは、ただ白い天井を無気力に見つめるだけだった。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 制服のままで、学校の方向を戻ってスーパーへ。

 財布は学校のカバンにいつも入れてあるので、わざわざ取りに戻る必要もなかった。

 

「ねぇ、どういう風の吹き回しなの? 急に買い物に行く~、だなんて」

「さあ? 私が一番聞きたいわ。でも、ついでなら別にいいかな、って」

「俺からも聞きたいんだけど、俺達は家に行って何もしていないんだよね。何で自分から氷を取りに行ったの?」

「そりゃあ、何しに家に向かったかわからないでしょ」

 

 何をするために家まで向かったかと言われれば、当然看病だ。

 遊びにやってきたわけではないのだから、当たり前と言えば当たり前。

 ただ、それだけのことだ。

 

 目的地に着いてから、カートの車輪を転がして、売り場を回る。

 野菜やら肉やらを手に取って、かごへと移していった。

 

「で、そんな綾瀬は何を作るつもりなんなのでしょうねぇ?」

「妥当なのは、うどんでしょうね。卵もネギも大根も入れられるわ。そうすれば、あいつも食べやすいでしょうからね」

「ほうほう、『ついで』と言いながらも、しっかりと東雲君のことを考えている辺りは?」

「……病人を優先するのは、当然よ」

 

 寝込んでいる相手に、勝手に作った食べにくいものを口に入れる、というのも気が引ける。

 第一、私は人の歪む顔が見たいような鬼のような人間ではない。

 膨張する気持ちを抑えつけながら、適当に返事をして、カートを引き続いて押す。

 

 硝子越しに外を見るが、少しだけ暗くなってしまっている。

 夏とはいえ、日の長さにも限界があるだろうか。

 

「二人は夕食、どうする? 一緒に食べるなら、多めに買うけど」

「ん、じゃあ一緒に――」

 

 駿河がそこまで口を開いてから、麗美奈が肘で彼の脇腹を軽く突いた。

 そのすぐ後に、麗美奈は耳打ちをして、こちらをチラチラと。

 どうせ、ろくでもないことを考えているのだろう。

 

 大抵、人の目の前で耳打ちするときは、よくないことが起こる前兆だ。

 言い訳だったり、見え透いた代替案だったり。

 それは今回も、例外ではなかった。

 

「――あ~、わりぃ。明日は今週末の用意、しないといけないからな」

「……えっと、今週末って?」

 

 正直、自分でも思い出せない。

 昨日がコンピューター室を使えた水曜日。

 そしてその翌日である今日が、木曜日。明日の金曜日は祝日で休み。

 金曜、土曜、日曜と三連休なのだが、何か共通の予定があっただろうか。

 

「料理会だったろ? 確か、今週のはずだよな?」

「うん。私、覚えているよ。約束したからね」

「で、でも肝心のあいつがあんな調子じゃあ――」

「さすがに土日には治っているでしょ。治り次第ってことで、当日に俺から連絡を入れておくよ。高波の連絡先は知っているから、経由してもらうさ」

 

 何も、そんなに面倒なことをしなくてもいいだろうに。

 東雲の状態を駿河が聞いて、それが麗美奈に伝わって、最後に私へ。

 無駄もいいところだ。

 

 しかしながら、今あいつに「連絡先、教えなさい」なんて言える状況でもない。

 見た限り酷い風邪だが、そんな状態で寝込む相手に連絡先を聞く。

 空気が読めないにも程があるだろう。

 そう考えると、この方法が唯一であり、また最善なのだろう。

 

「取り敢えず、用意だけはしておくわ」

「よっし、俺達は荷物だけ持って、すぐ帰るから。後は頼んだよ」

「私からもお願いするよ。それと、途中で帰ることになってごめんね」

「いいわよ。それに……いいえ、何でもない」

 

 あの風邪を呼んだのは自分のせいでもある、なんて言ったところで何もならない。 

 伝えても変わることはない上に、相合傘を飛び出した、等と口走ったときには、誤解を招きかねない。

 

 要らないことは、不必要のままでいいのだ。

 自ら口数を増やす理由など、あるはずもない。

 

 ……少しだけ、飲み物も買った方が楽だろうか。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「今戻ったわ。気分はどう?」

「あぁ、さいっこうだよ……」

 

 黒色に塗りつぶされた窓硝子の向こう側。

 静けさに包まれた今でも、俺の病状は変わらない。

 少しだけ楽になった気もするが、それも気のせいだとも思える。

 

 本当に、最高の気分だ。

 寒気は止まらないわ、頭痛も収まらないわ、食欲は湧かないわ。

 今日一日、散々苦しめられたというのに、まだ締め付けられるというのか。

 

「ついに思考回路もおかしくなったのね。病院より先に精神科に診てもらうのが先かもしれないわよ」

「そりゃご丁寧にどうも」

 

 皮肉ることはできても、それにまともに対応はできそうにもない。

 冗談めいた言葉を頭で探そうとしようにも、上手く記憶の本が開かない。

 本が開かないのならば、それは本としての役割を失った、ただの紙の集まり。

 正に今、俺の頭脳の状態そのままだった。

 

 聞くと遥斗と高波は、もう家へと帰ったらしい。

 それもそうだ。夏ではあるが、外はこの暗さなのだ。

 綾瀬に一人で残って、夕食まで作ってもらうとなると、

 

「あと十分くらいしたら、うどんが出来上がるからね」

「ありがとう」

 

 取り敢えずは、ちゃんとした返事ができるくらいには、喉から声が出るようになった。

 生憎ながら食欲は減衰したままだが、少しだが病状が軽くなっていることは確かだ。

 

 相変わらず横になったままで、十分強が経過した。

 した、というよりも、する他なかったと言うべきか。

 体からは安静を強いられ、精神からは桎梏でのある意味雁字搦め。

 無愛想なその様子は、さながら風邪そのものだ。

 

 ……何を言っているんだよ。

 頭が回らないというのに、無駄なことには恐ろしいほどに思考が巡る。

 全くもって気力の使用が非効率的であり、馬鹿らしい。

 

 綾瀬から作ってもらったうどんをすすりながら、そんなことを考えていた。

 

「どう? 食べられそうかしら」

「あぁ、十分。あの綾瀬様が作られた料理の味がわからないのが唯一残念だ」

 

 こうして、ほんの少し無駄な口もきけるようになったのだから、よかったのだろうか。

 もしかすると、ただ食事がなかったことが中々大きな原因なのかもしれない。

 栄養分の摂取源が絶たれるのだから、よくよく考えなくとも、マイナスであることはわかる。

 彼女の言う通り、風邪こそ栄養供給が大切らしい。

 

 ともあれ、一旦口に運ぶと、思いの外食欲が湧いてくる。

 冷たくて食べやすいので、気持ちがいい。

 

「えぇ、本当に残念。それで思い出したわ。明日明後日で、あんたの体調がよくなったら料理教室するってさ」

 

 「するってさ」、ということは自分自身の言葉ではないのか。

 あの二人のどちらかか、はたまた両方か。

 いずれにせよ、病人の状態を考慮した結果とはとても思えない。

 

 ということは、言い出しは遥斗か。

 目星が付けやすくて付けやすくて、たまらない。

 

「あいよ。……ご馳走様」

「あ~、立たない立たない。洗い物はしておくから――」

「はいはい、わかったわかった」

 

 表面上だけでの返しで、さっさと器を洗ってしまった。

 後から小走りで追いかけてきたが、時既にお寿司もとい遅し。

 

 それと同時に、綾瀬に借りていたタオルを返した。

 さらに時を同じくして、綾瀬に貸していたタオルが俺の元へリターン。

 さすがに活動しすぎたのか、貧血と張り合えるレベルで目眩が襲ってくる。

 

「あ~ほらほら、ちゃんと横になりなさい」

「そうさせてもらうよ――なぁ、今日はよく俺と話すよな」

 

 どう考えても、言葉数は増えている。

 記憶をどれだけ漁り、掘り返そうともそうとしか思えない。

 比較する必要すらないほど、その差は歴然。

 

「あら、無視されたいなら最初からはっきり言えばいいじゃない」

「いやそんな笑顔で言われても」

 

 とびきりの笑顔だが、だからこそ怖い。

 普段絶対に見ないような笑いとは、時に恐怖を孕むらしかった。

 

「じゃあ、私は帰るわ。これ以上いる理由がないもの」

「あ……ま、待ってくれ」

 

 荷物を手に取って立ち去ろうとした綾瀬を、条件反射で引き止めてしまった。

 条件反射、というよりも根拠のない無意識がそうさせたのだ。

 どうして呼び止めたかも、そのための理由や言い訳も用意していない。

 

 声をかけた自分が、一番慌てていた。

 

「え、えっと……五分でいい。もう少し、いてくれないか」

 

 ――はい?

 いやいやいや、ありえないでしょ。

 何が、「五分でいい」「もう少し、いてくれないか」だよ。

 

 何を切り出して、何を彼方へと置いてきてしまったのか。

 削ぎ落とされる意識、輻輳(ふくそう)する単語の列、闖入する不必要な思考の連鎖。

 

「――ふふっ、あははは!」

 

 ……と、陽気な笑い声。

 

「は、はぁ?」

「はぁって、こっちの台詞よ、あはは! その顔、とても滑稽だわ!」

「いやうるせぇよ」

 

 弾けるような笑顔でそう言われても、不快感しか感じない。

 馬鹿にしているようにしか見えないのだから、仕方がないだろう。俺は悪くない。

 

 あの言葉だけ見据えれば、ドSとしか思えない。

 確かに突然何を言い出すのかと言われれば耳が痛いが、それにしても滑稽はないだろうに

 

「そんな顔しなくとも、五分くらいいいわよ、全く……ふふっ」

「おい。思い出して笑ってんだろうが」

「あら、何が悪いのかしら」

 

 そう冷たく言い放つ彼女は、隣の椅子へと腰掛け、カバンから本を取り出して広げる。

 この氷のような態度、棘がありそうで実際それほどない言葉の調子。

 間違いなく、いつも通りの綾瀬の姿だ。

 

 ――いや。

 少しだけだが、本を読んでいる顔が、微笑んでいるだろうか。




ありがとうございました!

今回の七海ちゃん、いかがでしたでしょうか。
まだデレを出さない方がいいのか、それとも出すべきなのか……
迷った末、出すことになりまして(´・ω・`)

次回のデレは、いつになるかのう。

ではでは!

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