クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

13 / 30
どうも、狼々です!

意外と早かったでしょう。そう信じたいものです(´・ω・`)
ただ、少し短めとなっております。

では、本編どうぞ!


第13話 刺さる針

 扉を開けて挨拶をした後、綾瀬に続いて家に上がる。

 リビングに入る限り、過度な装飾できらびやかすぎることもなく、落ち着いた様子だ。 

 あまり光が強い部屋は、好みではなかったりする。

 

「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」

「え、あ、えぇと、紅茶で頼む」

「わかったわ。適当に座って頂戴」

 

 彼女のこの対応にも、驚かざるを得ない。素直に席に着いて、出来上がりを待つ。

 つい今日、それも数時間前まであれほど素っ気なかったのにもかかわらず、俺に家に上げているのだから。

 女心の理解というものは、俺には早すぎたのかもしれない。

 

 湯を沸かす準備をした後、彼女は手早く雨を拭いていた。

 さすがに覗いたわけではないが、透け具合が変わっていた。うぅむ残念。いや残念じゃない。いややっぱり残念。

 

「……はい」

 

 と、ぶっきらぼうな言い草で投げられたのは、白のタオル。

 何か格ゲーの技を彷彿とさせる言葉だが、本当にタオルを投げられたのだ。

 ふらふらと不安定に、俺の手元に不時着。

 

「使いなさい。お互い様よ」

「あ~、悪い。洗って返すとするよ」

 

 これでプラマイゼロ、というわけらしい。

 彼女も中々損な性格というか、譲らないというか、きっちりとしている。

 それが今は、ありがたいというものだが。

 

「――っくし!」

「あんた、本当に大丈夫? 風邪引いてない?」

「あぁ、大丈夫だと信じたい。……にしても、今日は何かと優しいじゃないか。機嫌が良いのか?」

「元々私のせいだしね。それに、あれがデフォルトよ」

 

 そうは言うものの、やはり今日は口数が多い気がする。

 いつも一言二言くらいなので、この著しいかつ突然の変化についていけない。

 

 それを口にしようとした時、ティーポットの湯が沸いた音が響く。

 まぁ、明日になればきっと元通りなのだから、言うほどでもないか。

 頭で誤魔化すように靄をかけて、こぽこぽと紅茶を淹れる綾瀬の姿を見た。

 どこか様になっていて、失礼ながら感心したのだ。

 

 運ばれたりんごの爽やかな香りがする紅茶に、座った彼女と同時に口をつける。

 普通に美味しい上に、手慣れた淹れ方。

 

「紅茶、淹れ慣れているのか?」

「……えぇ。ちょっと、ね」

 

 彼女のその言葉は、どこか沈んでいた。

 嗜虐的でも、自慢気でもなく、光を失った太陽のように、悲壮が張り付けられている。

 とはいえ、今までこんな顔をされたことも覚えがない。

 俺に原因がないことは明白であり、他人の事情を、垣根を飛び越えて詮索する必要もなく、義理もない。逆に失礼に値する。

 

 結論付けた頭で感じた二口目のアップルティーは、何故か一口目よりも酸っぱかった。

 

「そういえば、明日は水泳だったか。さぞ華麗な泳ぎを見せてくれるんでしょうねぇ、綾瀬さん?」

「は、はいはい。わかったから。あんたが明日風邪を引いたら、不戦勝になるから好都合だわ」

 

 言いながら、こうして家に上げて紅茶まで出しているのはどこの誰だろうか。

 長居するのも落ち着かない上に図々しいので、一思いに茶を仰ぐ。

 

「ごちそうさま。美味しかったよ」

「当然よ」

「はいはい、わかったから。ありがとうな」

「感謝は後で形にして返すことね」

「仰せのままに」

 

 適当に返事をして、リビングから出る。

 外の雨も気のせいか弱くなっていて、これ以上は濡れずに済みそうだ。

 見送られ、扉に鍵が閉まる音を聞きながら、浅い水たまりを蹴った。

 

 

 

 家に帰って、すぐに風呂へ。

 早いところ暖かくしないと、本気で風邪を引きそうだった。

 

 風呂から上がって夕食。

 最近コンビニやらスーパーのお惣菜やらにグレードアップした、俺の家の夕食。

 本来なら買いにいくところだったが、今日はそんな気分も起きなかった。

 

「だりぃ……」

 

 体が鉛のように重い。

 瞼が震え、声が霞み、意識が朦朧の渦中へと飲み込まれる。

 視界は明滅し、渦潮からは三十分ほど経った今でも、未だ抜け出せないでいた。

 

 とてもではないが、外に出られそうにない。

 歩くことさえやっとな体で、綾瀬から借りたタオルを洗濯し終えてから、すぐにベッドへと倒れた。

 大体、想像がついていた。今この体調である原因に。

 

 寒気で脳と肌と関節が凍りつき、回転を鈍らせる。

 体温を計る気力さえ立ち上がらないまま、意識は不意に閉ざされた。

 

 

 

 

 目が覚めたときには、既に手遅れだった。

 昨日の体の重さが、勢いを増して襲いかかる。

 結局、風邪を引いてしまったらしい。

 

 高校に欠席の旨を伝え、風邪薬を飲んですぐにベッドにとんぼ返り。

 ここで気付いたが、高校生が一人暮らしで病院に行くのは、中々不安だったりする。

 果たして初診が午前に予約ありだとしても、当日の午後に行けるのかどうか、だとか色々と。

 

 結局病院には行かず、寝込んで夕方を迎えることに。

 何かを食べる余裕すらなく、起きることもたった数回。

 寝すぎで眠気にすら誘われないまま、目を瞑って横になっていた。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 今日、教室内で私の隣の席は、沈黙を破ることがなかった。

 椅子を引く音も、紙に文字を記す音も、本のページを繰る音も。

 何もかも、些細な音という音全てが。

 

「今日は東雲君、風邪でお休みなんだってね」

「……えぇ。何かと静かだし、自由で助かったわ」

 

 授業も、休み時間も、昼食も、この図書室のカウンターで過ごす放課後も。

 いつも耳に届く声が聞こえない今日この日は、気持ちが楽だったような気がした。

 

 きっと、あいつの風邪は、昨日の雨に過剰に打たれたせいだ。

 家に上げて温めたので、私ができることはやった。

 

 そうは考えるものの、やはり罪悪感は残って止まない。

 いくら冷たい人間だと思われていても、私は罪悪感すら覚えない人間ではない。

 隣に置いた自分のカバンから覗くタオルを見ると、変に気にしてしまった。

 

「もう、またそういうこと言う。御見舞行こうよ、三人で。家の場所はさっき里美先生から聞いたじゃん」

「そうそう。俺も高波も時間かかって構わないから、後は綾瀬だけだよ?」

「私は……」

 

 正直、行った方がいいとは思う。

 風邪の要因は雨だが、間接的な原因は私にある。

 では逆に行かない方がいい理由があるかと言われると、そうでもない。

 胸の中で刺さる針を抜くためにも、行く方が賢明だろうか。

 

「わかった、行くわ」

「よっし、善は急げ! 早く行くよ~」

 

 エアコンを切って、戸締まりを済ませる。

 まだ夕焼けが見え始めたばかり。

 図書室を無人に留めるには、早すぎる時間だ。

 

 OPENからCLOSEへとプレートを裏返しにして、廊下を進もうとしたその時。

 

「今日は早く上がってくれて問題ないさ。できるだけ早く行ってあげた方が、一人暮らしの東雲は喜ぶだろうさ」

「心の声を聞いたような言葉ですね」

 

 突然にかけられた声と、本当に心を覗いたような発言に驚いた。

 まるで何かを待っていたように、壁を背にして寄りかかっている里美先生。

 

「大体のやること成すことは事前に限られるものだよ、生徒諸君。鍵は預かるから、行っていいよ」

「ありがとうございます。では、お願いしますね」

「はいよ、お願いされますねっと」

 

 どこか上機嫌な先生に鍵を渡して、昇降口へ。

 笑顔で見送る彼女の顔は、懐かしむような、感心しているような、そんな顔だった。

 

 淡々と階段を降りて、昇降口から外へ。

 昨日の雨が嘘だったような快晴が、茜色で広がっていた。

 殺到する夏の暑さは、夕焼けを連想させそうだとは言えない。

 まだまだ、夕方とはいえ夏のようだ。

 

 黒く焦げたコンクリートを歩みながら、彼の家へと向かう。

 取り敢えず私の家まで戻った後、記憶を頼りに再び歩を進めた。

 

 

 

 着いた感想としては、それほど遠くはなかった。

 小さな一軒家で、学生の一人暮らしとしては十分くらいだろうか。

 同じ立場の私に言えることでもないが。

 

「インターホン、押したら?」

「はいは~い。綾瀬が自分で押したらいいのにね。別にいいけどさ。……やっほ~、大事な大事な蒼夜君の御見舞に来たよ~」

『あぁ~、わざわざ悪いな。病人の家でよければ上がってくれ』

「おっけ、了解」

 

 カメラの画面が切れたのを確認して、三人でドアの前で待機する。

 思いの外長く待ってから、内側から解錠された音が聞こえた。




ありがとうございました!

次から蒼夜君の家の中に三人が。
彼氏彼女ではないが、将来なりそうな男女二人。
片方が病気で、もう片方は家の中。これはもう、あのイベントしか……ねぇ?

ありきたりだけども、楽しんでいただければ。

ではでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。