いやぁ、反省してませんね私。
前回に告知したものの、全く反省の色が伺えない(´・ω・`)
八月の夢見村が、完結しまして。
なんと8月17日現在で、調整平均9.42という怒涛の数字を叩き出してまして。
びっくりですよ(´゚д゚`)
感動できた、という声を多数いただきまして。
よければ、そちらの方も……という宣伝でした(´;ω;`)
では、本編どうぞ!
雨が止む気配もなく、互いの同意でコンピューター室を出る。
これ以上校内にいても、雨は止まない上に暗くなる一方だ。
安全の意味では、今から帰宅を始めるべきだろう。
少し濡れた廊下を転ばないように注意しながら歩き、昇降口へ。
ローファーに履き替えて、彼女よりも先に外へ出て、様子を見る。
軒先から見ただけでも、すごく強い雨だ。音から違う。
束になった雨の集団が、一気にコンクリートへと叩きつけられ、辺りに水しぶきを飛ばしている。
それが連続しているので、耳障りにも思えてきてしまうのだ。
「……待たせたわね」
「別に『待たせた』って言われるほど待ってない」
答えながら傘を広げるが、やはりどうしようかと迷ってしまう。
ここにきて迷うのもどうかと思うが、女の子にとってはあまり良く思わないのも事実。
相合傘など、それはもう物理的距離は近くなり、雰囲気もどうにかなりそうだ。
そんなある意味での「シリアス製造機」を、綾瀬が受け入れるだろうか。
ここ最近、いつでも不機嫌そうだ。
かといって、明確に突き放されているわけでもない……と思いたい。
「あ~、綾瀬? 俺が傘預けるから、明日返してくれれば――」
「あんたはどうするのよ。雨の中走って帰るつもり?」
「まぁ、帰れない距離でもないしな」
「じゃあ、あんたが差せばいいじゃない。私の家の方が近いんだし」
「風邪引くだろ」
「あんたも同じよ。一緒の傘に入ればいいだけでしょ」
どうにも、回避する方法はないらしい。
自分から言い出したものの、どうしても恥ずかしく、渋ってしまったのだが。
ここまで言われて渋り続けるわけにもいかず、静かに傘を開く。
できるだけ彼女が濡れないように、傘を傾けて足並みを揃えて歩く。
黒いこの傘も、大きいのだが二人ともなると話は変わってくる。
さすがに厳しいか、俺の肩辺りが濡れ始めた。
「……肩、濡れてるじゃない」
「いいんだよ、別に」
そう答えたが、下着にまで染み始めた。
肩だけなのでどうということはないのだが、彼女はそうじゃないらしい。
若干の開いた距離が、殆どゼロとなる。
腕は接触していて、半袖の夏服だと、彼女の白い柔肌が直接俺の肌に当たっている。
正直、気が気でない。
今までの対応の冷たさと今起こっている状況のズレがひどすぎて、俺の頭がついていかないのだ。
やがて車軸が流れるような強さへと変わり、傘も殆ど意味がなくなりそうだ。
何とか綾瀬を濡らさないようにしているが、それでも限界がある。
と、突然に。
「あ……」
何を思ったか、綾瀬が感嘆の声を小さく上げて、傘の下から駆け出した。
「お、おい、ちょっ!」
急いで追いかけるが、追いつくまでに綾瀬は激しい雨に打たれる。
先行する彼女へと傘を伸ばして、俺はめちゃめちゃ雨に打たれる。
二人で、特に追う側の俺が暴雨に晒された。
ようやく彼女が止まって、俺の傘に彼女が入ったのは、目立たない路傍。
そこに一人の幼い男の子が、傘の陰で涙目になって立っている場所だった。
「ボク、一人?」
「え……う、お母さんと、はぐれた」
身を屈めながら、子供の目線に合わせて話す綾瀬。
優しげな声質が、いつもの声とは違う柔らかな雰囲気を出していた。
どうやら迷子らしい子供も、驚きながらも拙い返事をする。
傘は持っているが、如何せんひどい雨なので、ところどころが濡れてしまっている。
「そっか。どれくらい前にはぐれちゃったの?」
「えっと、ついさっき、かな? 五分も経ってない、と思う」
見たところ、少年は小学生低学年くらいだろうか。
辺りがすっかり暗くなっているので、この辺りの歳が一人で夜道に佇むのは危険だ。
気温も夏とはいえ低いので、濡れたままだと風邪も引いてしまう。
「――そうね。一旦交番に連絡しましょうか……もしもし」
スマホを取り出して、連絡を手早く始めた綾瀬。
場所、時間、大まかな出来事を的確に、スムーズに伝えていく。
判断の早さと行動の正確さに、驚くことしかできなかった。
唯一、俺にできたことは。
「ほ、ほら~、大丈夫だからな。お~よしよし」
少年の不安を解くことくらいだった。
それも、あまり頼りにならなそうな励まし。悲しきかな。
「わ、お兄さん、手がおっきいね」
「お、おうよ。君もいつか、このくらいになるといいな」
「うん! お兄さんみたいに、おっきくなる!」
なんだろう、とても可愛らしい。
まだ純真無垢な時期、この反応は幼気な可愛さを孕んでいる。
涙目も収まって、元気な笑顔を引き出せたことが幾分かマシだっただろうか。
暫くして、警官が一人の女性を連れてやってきた。
反応を見る限り、この少年の母親。
「本当に、どうもありがとうございます!」
「い、いえいえ。私はそんな……」
照れつつある彼女の笑顔は、久々に見た気がする。
というよりも、この表情は見たことすらなかっただろうか。
「お兄さん、お姉さん、ありがとー!」
「ふふっ、えぇ。今度は、はぐれちゃダメよ?」
母親に手を優しく引かれながら、こちらを振り返って手を振り続ける少年。
その姿は次第に遠くなり、闇へと消えていった。
警官も、協力感謝の言葉を最後に、この場から去っていく。
しかしながら、依然として雨は降り続ける一方だった。
「にしても、大丈夫か? 結構濡れただろ」
「私は、ね。あんたの方がもっと濡れてる。……ごめんなさい」
「何でだよ」
「私が飛び出したからでしょ?」
「あんなの見せられちゃ何も言えないし、もとより何も言うつもりはない」
迷子の子供を助けるために、雨の中を飛び出す。
そんな優しい一面を見せられたら、言う気にすらなれない。
むしろ、雨に打たれることを代償にしたなら、安いくらいだ。
「あの子供、直接交番に届け出た方がよかったんじゃないのか?」
「いいえ。はぐれて五分も経ってないなら、親が戻ってくることも考えられるわ。それに今の御時世、連れ出したら誘拐とも思われる。無理に連れ出して泣き出されると尚更ね。そうなると面倒だし、交番に連絡してその場で待機するのが一番だと思ったのよ」
あっけらかんと言っているが、驚くべきことだ。
この思考を巡らせるまで、数秒とかかっていない。
正直、目を見張るどころではないと思う。
ふと、彼女を一瞥した瞬間。
雨に濡れた一部が、白ではなく若干の薄橙色に変わって……
華奢な体つきを示唆するように張り付く、白い夏服の半袖シャツ。
透けているところと透けていないところが、際どいラインで跨っていた。
いや……言うべきなのだろうか。
しかし、辺りは暗い上に、人気もない。
街灯に照らされない限り見えないのだから、俺がわざわざ言って悪く思われる必要もあるまい。
では、一人で楽しむとしようか。自分で思っていてなんだが、最低だな。
一つ思ったことが、胸の大きさだ。
意外とあって、着痩せするタイプであることがわかった。何の話だよ。
貧乳がどうのこうのと話題になっていたが、脱げば案外そうでもないのかもしれない。いやだから何の話。
あまりジロジロ見るとバレてしまうので、ここらで自重。
気にしないながらも、横目でちらちらと見るに留めておくことに。見ちゃうのかよ。
「……っと、そうだそうだ。はい。使ってないから、使っていいぞ」
カバンの中から、タオルを取り出して渡す。
完全に乾いた状態で折りたたまれているため、まぁ使用を疑われることはないだろう。
ただ、この行動に迷う俺もいた。
このまま渡すべきか、渡さないべきか。
嫌がられる可能性も十分過ぎるほどにあったが、風邪を引くことも考えられる。
「え、と……ありがたく借りるわ。明日、洗って返すわね」
戸惑いながらも、差し出すタオルを受け取ってくれた。
これで、「うわっ、キモ……」とか言われながら、水たまりにタオルを放られたらどうしようかと。
辛辣な態度をとられなくて、本当によかったというものだ。
あれだけ勢い良く降っていた雨も、少し弱まった。
コンクリートに容赦なく弾ける水滴も、広がる波紋を狭めている。
暗がりから不自然に降り注ぐ雨が、どこか美しくも、儚くもあった。
雨が普通の強さくらいにまで弱まったくらいで、綾瀬の家に着いた。
「じゃあ、またな。風邪引かないように、気を付けろよ」
「え、えぇ……ま、待ちなさい」
俺が踵を返して家に帰ろうとしたところを、呼び止められる。
不思議に思いながらも、振り返って応答した。
「どうした?」
「あんた、そのままだと風邪引くわよ。……上がりなさい。お茶くらいは出すわ」
「い、いやそういうわけにも――っくし!」
否定しようとしたが、くしゃみが出てしまう。
雨に濡れたのは、綾瀬だけではなく俺もだ。むしろ打たれた時間は俺の方が長い。
そうなると、冷えやすいのも俺であり、風邪を引きやすいのも俺。
暖まりたいのも山々だが、女の子の部屋に入るのも気が引ける。
後ろめたいことは何一つといってないが、抵抗がないわけではない。
「それで風邪引かれると、私が嫌なのよ」
彼女は何というか……強情というか、頑固というか、意地っ張りというか。
綾瀬からしてみれば、確かに自分のせいで俺が風邪を引く、という認識になるのかもしれない。
が、家に上げてまで頑なになる必要もあるのだろうか。
断りたいところだった、が。
「……お願いします」
普通に、寒かったです。
ありがとうございました!
現在、夢見村の推敲を同時進行中なんですよん。
短いのは許していただきたい(´・ω・`)
近いうちに、捻くれとクーカノがメインで投稿される日がきますので(震え声)
今回……デレさせてはいないつもり。
むしろ子供のところはクールに書いたつもり。
意外と、ツンデレは想像しやすいのですが、クーデレは中々難しいのう……
ではでは!