クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!

いやぁ、反省してませんね私。
前回に告知したものの、全く反省の色が伺えない(´・ω・`)

八月の夢見村が、完結しまして。
なんと8月17日現在で、調整平均9.42という怒涛の数字を叩き出してまして。
びっくりですよ(´゚д゚`)

感動できた、という声を多数いただきまして。
よければ、そちらの方も……という宣伝でした(´;ω;`)

では、本編どうぞ!


第12話 雨傘の下で

 雨が止む気配もなく、互いの同意でコンピューター室を出る。

 これ以上校内にいても、雨は止まない上に暗くなる一方だ。

 安全の意味では、今から帰宅を始めるべきだろう。

 

 少し濡れた廊下を転ばないように注意しながら歩き、昇降口へ。

 ローファーに履き替えて、彼女よりも先に外へ出て、様子を見る。

 

 軒先から見ただけでも、すごく強い雨だ。音から違う。

 束になった雨の集団が、一気にコンクリートへと叩きつけられ、辺りに水しぶきを飛ばしている。

 それが連続しているので、耳障りにも思えてきてしまうのだ。

 

「……待たせたわね」

「別に『待たせた』って言われるほど待ってない」

 

 答えながら傘を広げるが、やはりどうしようかと迷ってしまう。

 ここにきて迷うのもどうかと思うが、女の子にとってはあまり良く思わないのも事実。

 相合傘など、それはもう物理的距離は近くなり、雰囲気もどうにかなりそうだ。

 そんなある意味での「シリアス製造機」を、綾瀬が受け入れるだろうか。

 

 ここ最近、いつでも不機嫌そうだ。

 かといって、明確に突き放されているわけでもない……と思いたい。

 

「あ~、綾瀬? 俺が傘預けるから、明日返してくれれば――」

「あんたはどうするのよ。雨の中走って帰るつもり?」

「まぁ、帰れない距離でもないしな」

「じゃあ、あんたが差せばいいじゃない。私の家の方が近いんだし」

「風邪引くだろ」

「あんたも同じよ。一緒の傘に入ればいいだけでしょ」

 

 どうにも、回避する方法はないらしい。

 自分から言い出したものの、どうしても恥ずかしく、渋ってしまったのだが。

 ここまで言われて渋り続けるわけにもいかず、静かに傘を開く。

 

 できるだけ彼女が濡れないように、傘を傾けて足並みを揃えて歩く。

 黒いこの傘も、大きいのだが二人ともなると話は変わってくる。

 さすがに厳しいか、俺の肩辺りが濡れ始めた。

 

「……肩、濡れてるじゃない」

「いいんだよ、別に」

 

 そう答えたが、下着にまで染み始めた。

 肩だけなのでどうということはないのだが、彼女はそうじゃないらしい。

 

 若干の開いた距離が、殆どゼロとなる。

 腕は接触していて、半袖の夏服だと、彼女の白い柔肌が直接俺の肌に当たっている。

 

 正直、気が気でない。

 今までの対応の冷たさと今起こっている状況のズレがひどすぎて、俺の頭がついていかないのだ。

 やがて車軸が流れるような強さへと変わり、傘も殆ど意味がなくなりそうだ。

 何とか綾瀬を濡らさないようにしているが、それでも限界がある。

 

 と、突然に。

 

「あ……」

 

 何を思ったか、綾瀬が感嘆の声を小さく上げて、傘の下から駆け出した。

 

「お、おい、ちょっ!」

 

 急いで追いかけるが、追いつくまでに綾瀬は激しい雨に打たれる。

 先行する彼女へと傘を伸ばして、俺はめちゃめちゃ雨に打たれる。

 二人で、特に追う側の俺が暴雨に晒された。

 

 ようやく彼女が止まって、俺の傘に彼女が入ったのは、目立たない路傍。

 そこに一人の幼い男の子が、傘の陰で涙目になって立っている場所だった。

 

「ボク、一人?」

「え……う、お母さんと、はぐれた」

 

 身を屈めながら、子供の目線に合わせて話す綾瀬。

 優しげな声質が、いつもの声とは違う柔らかな雰囲気を出していた。

 

 どうやら迷子らしい子供も、驚きながらも拙い返事をする。

 傘は持っているが、如何せんひどい雨なので、ところどころが濡れてしまっている。

 

「そっか。どれくらい前にはぐれちゃったの?」

「えっと、ついさっき、かな? 五分も経ってない、と思う」

 

 見たところ、少年は小学生低学年くらいだろうか。

 辺りがすっかり暗くなっているので、この辺りの歳が一人で夜道に佇むのは危険だ。

 気温も夏とはいえ低いので、濡れたままだと風邪も引いてしまう。

 

「――そうね。一旦交番に連絡しましょうか……もしもし」

 

 スマホを取り出して、連絡を手早く始めた綾瀬。

 場所、時間、大まかな出来事を的確に、スムーズに伝えていく。

 判断の早さと行動の正確さに、驚くことしかできなかった。

 唯一、俺にできたことは。

 

「ほ、ほら~、大丈夫だからな。お~よしよし」

 

 少年の不安を解くことくらいだった。

 それも、あまり頼りにならなそうな励まし。悲しきかな。

 

「わ、お兄さん、手がおっきいね」

「お、おうよ。君もいつか、このくらいになるといいな」

「うん! お兄さんみたいに、おっきくなる!」

 

 なんだろう、とても可愛らしい。

 まだ純真無垢な時期、この反応は幼気な可愛さを孕んでいる。

 涙目も収まって、元気な笑顔を引き出せたことが幾分かマシだっただろうか。

 

 暫くして、警官が一人の女性を連れてやってきた。

 反応を見る限り、この少年の母親。

 

「本当に、どうもありがとうございます!」

「い、いえいえ。私はそんな……」

 

 照れつつある彼女の笑顔は、久々に見た気がする。

 というよりも、この表情は見たことすらなかっただろうか。

 

「お兄さん、お姉さん、ありがとー!」

「ふふっ、えぇ。今度は、はぐれちゃダメよ?」

 

 母親に手を優しく引かれながら、こちらを振り返って手を振り続ける少年。

 その姿は次第に遠くなり、闇へと消えていった。

 警官も、協力感謝の言葉を最後に、この場から去っていく。

 しかしながら、依然として雨は降り続ける一方だった。

 

「にしても、大丈夫か? 結構濡れただろ」

「私は、ね。あんたの方がもっと濡れてる。……ごめんなさい」

「何でだよ」

「私が飛び出したからでしょ?」

「あんなの見せられちゃ何も言えないし、もとより何も言うつもりはない」

 

 迷子の子供を助けるために、雨の中を飛び出す。

 そんな優しい一面を見せられたら、言う気にすらなれない。

 むしろ、雨に打たれることを代償にしたなら、安いくらいだ。

 

「あの子供、直接交番に届け出た方がよかったんじゃないのか?」

「いいえ。はぐれて五分も経ってないなら、親が戻ってくることも考えられるわ。それに今の御時世、連れ出したら誘拐とも思われる。無理に連れ出して泣き出されると尚更ね。そうなると面倒だし、交番に連絡してその場で待機するのが一番だと思ったのよ」

 

 あっけらかんと言っているが、驚くべきことだ。

 この思考を巡らせるまで、数秒とかかっていない。

 正直、目を見張るどころではないと思う。

 

 ふと、彼女を一瞥した瞬間。

 雨に濡れた一部が、白ではなく若干の薄橙色に変わって……()()()()()

 華奢な体つきを示唆するように張り付く、白い夏服の半袖シャツ。

 透けているところと透けていないところが、際どいラインで跨っていた。

 

 いや……言うべきなのだろうか。

 しかし、辺りは暗い上に、人気もない。

 街灯に照らされない限り見えないのだから、俺がわざわざ言って悪く思われる必要もあるまい。

 では、一人で楽しむとしようか。自分で思っていてなんだが、最低だな。

 

 一つ思ったことが、胸の大きさだ。

 意外とあって、着痩せするタイプであることがわかった。何の話だよ。

 貧乳がどうのこうのと話題になっていたが、脱げば案外そうでもないのかもしれない。いやだから何の話。

 

 あまりジロジロ見るとバレてしまうので、ここらで自重。

 気にしないながらも、横目でちらちらと見るに留めておくことに。見ちゃうのかよ。

 

「……っと、そうだそうだ。はい。使ってないから、使っていいぞ」

 

 カバンの中から、タオルを取り出して渡す。

 完全に乾いた状態で折りたたまれているため、まぁ使用を疑われることはないだろう。

 

 ただ、この行動に迷う俺もいた。

 このまま渡すべきか、渡さないべきか。

 嫌がられる可能性も十分過ぎるほどにあったが、風邪を引くことも考えられる。

 

「え、と……ありがたく借りるわ。明日、洗って返すわね」

 

 戸惑いながらも、差し出すタオルを受け取ってくれた。

 これで、「うわっ、キモ……」とか言われながら、水たまりにタオルを放られたらどうしようかと。

 辛辣な態度をとられなくて、本当によかったというものだ。

 

 あれだけ勢い良く降っていた雨も、少し弱まった。

 コンクリートに容赦なく弾ける水滴も、広がる波紋を狭めている。

 暗がりから不自然に降り注ぐ雨が、どこか美しくも、儚くもあった。

 

 雨が普通の強さくらいにまで弱まったくらいで、綾瀬の家に着いた。

 

「じゃあ、またな。風邪引かないように、気を付けろよ」

「え、えぇ……ま、待ちなさい」

 

 俺が踵を返して家に帰ろうとしたところを、呼び止められる。

 不思議に思いながらも、振り返って応答した。

 

「どうした?」

「あんた、そのままだと風邪引くわよ。……上がりなさい。お茶くらいは出すわ」

「い、いやそういうわけにも――っくし!」

 

 否定しようとしたが、くしゃみが出てしまう。

 雨に濡れたのは、綾瀬だけではなく俺もだ。むしろ打たれた時間は俺の方が長い。

 そうなると、冷えやすいのも俺であり、風邪を引きやすいのも俺。

 

 暖まりたいのも山々だが、女の子の部屋に入るのも気が引ける。

 後ろめたいことは何一つといってないが、抵抗がないわけではない。

 

「それで風邪引かれると、私が嫌なのよ」

 

 彼女は何というか……強情というか、頑固というか、意地っ張りというか。

 綾瀬からしてみれば、確かに自分のせいで俺が風邪を引く、という認識になるのかもしれない。

 が、家に上げてまで頑なになる必要もあるのだろうか。

 

 断りたいところだった、が。

 

「……お願いします」

 

 普通に、寒かったです。




ありがとうございました!

現在、夢見村の推敲を同時進行中なんですよん。
短いのは許していただきたい(´・ω・`)
近いうちに、捻くれとクーカノがメインで投稿される日がきますので(震え声)

今回……デレさせてはいないつもり。
むしろ子供のところはクールに書いたつもり。
意外と、ツンデレは想像しやすいのですが、クーデレは中々難しいのう……

ではでは!

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