クーデレの彼女が可愛すぎて辛い   作:狼々

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どうも、狼々です!

おまたせしましたぁぁああ!
いや本当に、前回にもこんな感じだったと記憶しています。

言い訳としては、私の処女作が完結しまして。
一応、完結近くはその作品に専念して投稿します、という旨を活動報告に書いておいたのです(´・ω・`)

どうしても言い訳にしか聞こえないでござる。

では、本編どうぞ!


第11話 嫌なんて、一言も

 今日は、図書委員がコンピューター室を使える日。

 朝からずっと構想を練ってはいるのだが、どうにも納得がいかない。

 

 正直、作業スピードは悪くない。

 むしろ、順調すぎるくらいだ。急ぐ必要など皆無に等しい。

 が、それが災い、というべきか。

 

 作業進行速度と、計画立案速度が一致していない。

 つまるところ、作業が速すぎて内容の計画を立てる速度が追いついていないのだ。

 作業以外の時間の方が長いので、これからはないだろう。

 今回限りの問題なので、そう重要視することもないのだろうが。

 

 ともあれ、もう夏休みが近い。

 それが示すこと。つまりは、定期テストの再来だ。

 今度は期間がわかりきっているので、悪夢も一緒の再来はない。

 

 いやはや、笑いが止まらぬ。 

 俺は、その時が訪れる瞬間を心待ちにしている。

 かなり早い段階でテスト勉強を始めた俺に、死角はない。

 

 しかし。しかし、だ。

 いくら順調とはいえ、油断は危ない。

 一瞬でも隙を作る方が、絶対的に揺るがずダメなのだけれども。

 なんか、言い方がめちゃくちゃレベル高い戦闘モノの台詞みたい。

 

 取り敢えず、ほぼ全教科テスト勉強は終了。

 どの教科も、十分に満点を狙えるくらいには完成している。

 

 ……家庭基礎を除いて。

 

 

 

 この日は、生憎の悪天候だった。

 大粒の雨が、黒く淀んで、霞んだ空から容赦なく降り注ぐ。

 窓を叩き続ける軽い音が、讃頌(さんしょう)のようにも聞こえる。

 雨の恵みへか、それとも他の何かか、そればかりはわかりかねるが。

 天気に気持ちなど、存在するとは思えない。

 

 さて、今日は雨だと予想していなかった。

 俺は、自分こそが天気予報だと思っている。天気予報士ではなく、天気予報だと。

 空を見た感覚で、今日一日の天気を予想するのが俺の朝の日課だ。

 それが、今日は偶々外れただけだ。

 

 

 ――というのは全くの嘘でした。

 遅刻ギリギリの朝に、雨が降っていなかったので、傘を持たずに飛び出した、というわけだ。

 しかぁし! 我はそんなに甘くないのであ~る。

 置き傘なるものを、裏で進めていた。

 つまるところ、学校に傘を置きっぱなしにして、こういう時に困らないようにするという、画期的な作戦――

 

 

 

 ――というのも全くの嘘で、本当はただ持って帰るのを忘れただけでしたっと。

 いやぁ、助かった助かった。あっはっは。

 

 ということで、こうやって皆が悲嘆の声を上げている中、俺は一人悦に浸っているのだ。

 ただ一人、下校時間を知らせるチャイムが鳴る中、少々のドヤ顔で。

 

 

 

 ――というのは妄想で、皆はちゃんと天気予報を見ていましたとさ。

 傘を忘れたのは極少数で、俺もその中の一人に数えられる寸前だったのだよ。

 

 この教室も閑静となり、生徒は俺一人。

 されど、雨は硝子を鳴らす。

 その音に混ざりながら、上靴の音を刻み、コンピューター室へ。

 カバンと傘を手に取って、歩く。

 

 コンピューター室に入っても、異様に静かだった。

 一昨日はあれだけキーボードを叩く音で溢れかえっていたのに、今はそれが、ゆっくりとしか聞こえない。

 彼女のタイピング技術については、相変わらずのようだ。

 隣で見て、聞いている限り、使い慣れていないことぐらいはわかった。

 

「あい、お疲れさん」

「あんたが遅いのよ」

 

 これはまた、相変わらず辛辣なお言葉で。

 さて、一昨日と違う光景は、もう一つ。

 

「で、お二方はどうしてここに?」

「いやぁ、俺、暇だし?」

「あ、えっと……私は、手伝いに」

 

 遥斗と高波が、そこにいた。

 何とも暇そうにしながら、綾瀬の座る席の近くに座って。

 結局何があろうとも、この四人のメンバーは集まるのだろうか。

 

 他に人もいないので、周りを気にする必要はなし。

 作業中の雑談としては、楽しくなるに違いないだろう。

 高波の考えは、残念ながら叶いそうにもない。

 やはり、支援者二人にできることは、誤字や誤用の修正くらいなのだ。

 

「あ~……そういえば、もう少しであれだね」

「えっ? あれって何?」

「そりゃあれだよ。夏になると、こぞって皆が騒ぎ出すあれ」

「はぁ? ――あぁ、水泳の授業か」

 

 夏の体育の時間の代表だろう。

 カンカン照りの太陽の下で、水しぶきが上がるプール。

 好き放題にやって、絶対一人は足がつるんだよね。

 

 あと、女子の水着姿ガン見する男子。

 いや、別にわからんでもない。薄布一枚のみを隔てた先の白い柔肌(エデン)を見たい気持ちは。

 けどさぁ、ガン見は……どうかと思うんだよねえ。

 目を奪われるならまだしも、完全に下心丸出しの猿がいるんだよ、ホントに。

 

「何するのかな。クロールとかは難易度として高校ではどうかと思うし~」

「バタフライとか、そこら辺じゃねぇの? それより、高波とか泳げるのか?」

「えっ、私? 何で?」

 

 いや、何でと聞かれましても。

 そりゃもう、色々とあるじゃん。

 

「……水の抵抗とか、すごそうじゃん」

「は~い、それ、セクハラだと思いま~す。東雲君になら別にいいけど」

「いいのかよ」

「だってそんなことをふざけないで言うような器の持ち主じゃないし」

 

 それもひどくないですかね。

 健全な男子代表の、紳士な私にだってヤればデキる――ごほん。

 

「はいはい、水の抵抗が少なくて悪かったわね!」

「いやそんなこと言ってないだろ」

 

 久々の綾瀬の不機嫌な大声だが、どうにも本気でご立腹の様子。

 いやぁ……今一度見ても、取り敢えず抵抗少ないことはわかるね。

 比べて高波は、水着を着る段階で色々と抵抗ありそうじゃん。何考えてんだ俺。

 

「じゃあその持ち前の抵抗の少なさで、華麗な泳ぎ見せてみろよ。あ?」

「あんたねぇ……! え、えぇいいわよ! 精々自分の不出来な泳ぎとも言い難い泳ぎと比較して泣きを見るがいいわ!」

 

 こんなに話したのは、いつぶりだろうか。

 いつぶり、と言えるほど長い期間でもなく、今の会話だって決して長くない。

 けれども、俺はこの時間に、どうしても嬉しさに似た感情を抱いてしまう。

 たった一人の女の子に、ここまで振り回されるとは思っていなかった。

 

 第一、振り回している気は向こうにはないのだろう。

 振り回しているのならば、まるで彼女は、俺のことを、好き、みたいな――

 

 

 ――何を、考えているんだろうか。本当に。

 

 そんなありもしない、どこか妄想めいたことを考えていて。

 高波の途中で止まった小さな呟きを追求し損ねる。

 

「……あれ? 七海ちゃんって、確か水泳は――」

「で、もう六時くらいだけど、大丈夫なの?」

「「えっ?」」

 

 遥斗の声が高波の呟きを遮った直後、俺と綾瀬の、間の抜けた声が重なった。

 同じく揃って、壁にかかった丸時計を見る。

 

 それの短針は、間違いなく六の数字を指している。

 長針に至っては、もう二と三の間ほどまでを指してしまっている。

 

 今から作業できたとして、三十分が限界だろうか。

 

「……中途半端に終わるよりも、今日はここまでにした方がよっぽどいいわな」

「あんた、それでいいの?」

「あぁ。今日一日だけならな。そも、期間に余裕は十分ある」

 

 殆ど作業らしい作業はしていないので、本日の進行度はほぼゼロ。

 ここから三十分あったとして、どこまで進むかは目に見えている。

 さらには、遥斗と高波もいる。どうせ三十分、ろくに作業しようとしないだろう。

 

 構成が完全に練られていない以上、作業の進度には限りがある。

 いずれそこに辿り着くのだから、今わざわざ根を詰めて作業に取り掛かる必要は全くない。

 それよりも、今日は構成に専念した方が、次回以降の取り掛かりがスムーズになるだろう。

 

「……そう。私は今日、他にもしなきゃいけないこと、あるから。先に帰ってていいわよ」

「……そうか」

 

 すぐそばに置いておいたカバンを手に取り、コンピューター室を去る。

 無気力に、何も考えずに廊下を通り、階段を降りる。

 そして、気付く。

 

 まだ降り続ける、柔らかな雨に。

 いや、柔らかだったのは、ついさっきまでか。

 窓を殴打する音は強く響き、心をざわつかせる。

 そのざわつきは、忘却へと繋がっていたらしい。

 

「――あっ、傘忘れた」

 

 思い出してすぐに、手の不充足感が湧き上がる。

 それと共に、激しさを増す雨。

 ほぼ無意識に、コンピューター室に戻る。

 そしてその途中、里美先生と鉢合わせになった。

 

「おぉ、東雲か。もう帰るのかね?」

「えぇ。まぁ、はい」

「あ~……悪いんだが、この棟の戸締まりを手伝ってもらえるか?」

「わかりました。この棟だけでいいんですか?」

「助かるよ。各教室の鍵だ」

 

 幾つかの金属音と共に、鍵が手渡される。

 素直に受け取って、足の向く方向を変え、里美先生と別れた。

 

 窓枠のなぞりながら、滴る雨粒。

 その中に、無軌道に揺れるものも混じり、硝子を駆け下りている。

 俺は、静かに近くの教室から戸締まりを始める。

 

 雨が、強くなった。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「……で、やることって、これ?」

「えぇ。私のせいで遅れたら、何も言えないから」

「でも、七海ちゃんが遅れてても、東雲君が速いから遅れないとは思うけど……」

 

 私は、その彼女の問いに、明確な反論を言うことができなかった。

 その理由さえも、私にはわからなかった。

 

 思えば、どうして私はこうやって、一人で作業を進めているのだろうか。

 作業が間に合わない、なんて思っているが、余裕は重なるほどにある。

 では、何故そんなことをするのか。

 ……どうしても、答えが出なかった。

 

「さぁ? 速いことに越したことはないでしょ」

 

 私には、それが限界だった。

 自分ですら、薄っぺらい子供の言い訳のようにしか聞こえない。

 胸に溜まる靄が晴れないことに、もどかしさすら憶える。

 

 が、今は大切な作業中だ。

 理由を考えるくらいなら、まず手と頭を動かせ。

 そう自分に言い聞かせて、ぎこちない、不慣れな手つきでキーボードを叩く。

 

「ん、打ち間違えてるよ」

「えっ? どこ?」

「そこ、えっと……下から三行目の真ん中辺り」

 

 時折、彼らの修正の声が飛ぶ。

 速度が遅い割りに、誤字の多さには我ながら驚いてしまえる。

 

 たまに、物凄くタイピング速度が異常に速いのがいるのよね。

 絶対クラスに一人はいる類の。

 どうやってやっているのかしらね? フライングとかブラインドとか言っていた記憶がある。

 

 折角憶えるのならばということで、それも練習中。

 キーの配置を覚えながら、極力キーボードは見ない。

 勿論遅い速度がさらに遅くなるのだが、何となく慣れてきたような気もする。

 気のせいか、二人からの誤字の報告も少なくなってきた。

 

 そして、そこから十分か二十分ほど経って。

 

「じゃあ、私達は帰ろうか。邪魔するのも悪いし」

「ん、了解。頑張れ、応援してるぞ、綾瀬~」

 

 その言葉を最後に、二人はコンピューター室を出ていく。

 この部屋には、無機質な遅いキーボードを叩く音しか、聞こえなくなった。

 

 雨が、少し止んだ。

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

「あ~、先生、終わりました」

「そうか。ご苦労様。助かったよ」

「いえ、それほどのことではありませんので。では、失礼します」

 

 全教室の戸締まりを終えて、微弱な溜め息の後に、再びコンピューター室を目指す。

 思わぬところで時間がかかってしまった。

 きちんとパーフェクトに戸締まりされている教室の方が少なかった。

 どこか窓が開いていたり、鍵がかかっていなかったりと、不備があったのだ。

 

 少し弱くなった水の音と、滑り始めた廊下の甲高い音を聞きながら、コンピューター室へ着いた。

 そして、ふと気付く。

 

 まだ、()()()()()()()()ことに。

 確か、綾瀬は別の用事があるから、と学校に残っていることはわかっていた。

 

 ……いや、アイツの性格ならば、十分に見栄を張る。容易に想像ができる。

 どうせ早々に終わらせようと、一人で作業をしているのだろう。

 

 心の中で先程よりもずっと大きい溜め息を吐いて、勢い良く扉を開いた。

 突然の音に驚いて、肩をビクつかせる綾瀬が見える。

 なるほど、意外と小動物みたいで、可愛いところもあるものか。

 

「……何であんたが戻ってくるのよ」

「あ? 傘、忘れたんだよ」

 

 やはり、俺と二人になったときの彼女の言葉には、若干棘がある。

 もう諦めるべきなのか、とも考えながら、傘を取って道を戻る。

 扉に手をかけて、思い留まった。

 

「なぁ。何やってんの?」

「……はぁっ。見ればわかるでしょ。続きよ」

「急ぐは必要あるのか?」

「私、打つの遅いから」

 

 ……戻る。

 彼女の隣へ。廊下ではなく、彼女の隣の席へ。

 

「で、あんたは何でまた戻ってくるのよ」

「見ればわかるだろ。続きだよ」

 

 やる気のない声で先程の綾瀬の言葉を借りて告げながら、パソコンを立ち上げる。

 聞き慣れた起動音が聞こえたときには、雨の勢いは強くなっていた。

 今から帰るより、少し作業して帰った方が、雨に関しては楽だろうか。

 

「あんたはいいでしょ。速いんだから」

「気が変わった。お前がやるなら俺もやるよ」

「……好きにしなさい。好きにすればいいじゃない」

「あぁ、好きにさせてもらうよ」

 

 少し攻撃的な彼女の言葉。

 だが、俺の口には自然と笑みが浮かび上がっていた。

 

「……ん?」

「今度は何よ?」

 

 ふと、隣を見た。

 左には綾瀬と彼女の荷物。右には俺の荷物。

 綾瀬の荷物と、俺の荷物を見比べて、気付く。

 そして、今この雨の音を聞いて、明確な疑問となった。

 

「なあ……綾瀬。綾瀬の傘、どこにある?」

「……あっ」

 

 間の抜けた声が、小さく聞こえた。

 最近の態度とは打って変わった声に、少しドキッとしてしまう。

 

 家から傘を忘れた人は極少数で、その中に綾瀬が入るとも思えない。

 この雨の中、折り畳み傘では不十分だろう。カバンに入っているとも思えない。

 じゃあ、どうしたのだろうか。

 

()()()、忘れてきたわ。はぁ~……取りに行ってくるわ」

 

 アホだ。こいつ、アホだわ。

 ……ん?

 

「あぁ、ちょっと待て。俺達の教室の棟、恐らく鍵はもう全部閉まってる。こっちの棟の戸締まり任されたくらいだから、あっちはとっくに終わってると考えていいぞ」

「え、えぇ~……?」

 

 さて、どうしたものか。

 ここで雨が止むまで作業するか。

 しかし、一向に止む気配がない。勢いなら弱くなりそうだが、完全に止むまでは程遠そうだ。

 

 女の子が雨に濡れながら下校、ねぇ。

 方向は同じ。俺は傘を持っている。帰り道の途中に彼女の家。

 

 ……ふぅん。

 いやまぁ、俺はいいんだが。

 

「あ、あぁ~っと……俺が入れるからいいぞ。嫌ならいいんだが」

「…………」

 

 何とも迷っている表情、というか、気難しい表情というか。

 

「……嫌なんて、一言も言ってないじゃない」

 

 どうやら、俺はまだ嫌われてはいなかったらしい。

 心の中で、盛大に喜んでいる自分に疑問が生じた。

 

 どうして、俺が喜んでいるのだろう、と。




ありがとうございました!

これから、本当に不定期になるかもしれません。
一ヶ月に一回とか、本当に。

途中で打ち切りは、ほぼ無いです、はい。
打ち切りならば、活動報告とTwitter、連載中の作品の最新話に、後書きに追加して報告します。

なので、期間が空いても、何も報告がなかったら続きは書きますので。
よろしくお願いします(´・ω・`)

ではでは!

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