お ま た せ
いや、本当に申し訳ないです。
風邪やらテスト期間やらで忙しかったのです(言い訳)
まぁ、そのテストも昨日で終わりなんですがね!
では、本編どうぞ!
――戸惑っていた。
自分の感じたことのない、感情に。
持ちえなかった感情に、戸惑うばかり。
薄暗の中、控えめな灯りを頼りに、掻い潜る。
本当に少し、僅かだけ先導している彼の後ろで、考えている。
かといって、等閑視もできそうにない。
自分の中で、心がそれを許さない。
早く適当な『こたえ』を出して、楽になればいいのに。
頭ではそう思っているのだ。
が、どうにも上手くいかない。そんなはずは、ないのに。
「……どうした? ちゃんと付いてきているか?」
「えっ!? あ、え、えぇ」
不意に聞こえた、いつもの声。
慌てる必要もないのに、変に驚きを前面に出してしまう。
その理由すらもわからず、疑問詞が頭で飛び交った。
疑問符が飛び交うものの、一向に解決する気配がない。
ローファーのコンクリートを蹴る音が、静寂の中、夜道に響く。
……こんなにも、大きい背中だっただろうか。
数度見た限りなので、勘違いかもしれない。
けれども、私には彼の背中が大きく、大きく見えた。
「……ほら。家、着いたぞ」
「え……あ、でも、今度はあんたが危ないじゃない。私も――」
「ば~か。それじゃあ、一人で綾瀬がここまで戻らないといけないだろ。何のために待ったのか、わからなくなる」
一方的にそれだけ言って、夜道に消えていく彼。
引き止める間もなく、闇に。
最初は、何も感じずに言えた言葉。
今となっては、躊躇してしまう言葉
敢えての関係性の裏返し。
「練習、しなきゃ」
どうしてこう思うんだろう。
冷たいままで、過ごせばいいのに。
―*―*―*―*―*―*―
「あ~……随分と、遅くなっちまったか」
家に着いた頃には、既に夜。
夜中とまではいかないが、下校時点でも暗かった。
さすがに女の子を一人置いて、男が一人帰る、なんて気がひける。
こんな時間になったようだし、待っていて正解だったか。
あいつも、自分のことをもう少し自覚した方がいい。
いつ襲われてもおかしくない淡麗な容姿、小柄な体躯。
狙われやすい、とまでは言わないが、危険は常に付き纏う。
「手伝えるなら、手伝ったのにな」
早く終わっただろうし。
どうしても言えない、というのなら口出しする気も権利もないのだが。
と、ここで通学用カバンの中から、着信音とバイブ音が聞こえた。
低い音にさらに層を重ねたような低い音と機会的な高音が、控えめに部屋に響く。
カバンの中から取り出し、電話に出る。
「あ~! おにい、何回鳴らしたと思ってんのさ!」
「あ~、まあ、それに関しては、うん。ごめん」
「いや~やっぱ誠意足りないっしょ。もっと私を敬うように――」
「切るぞ」
「すみません私が全面的に悪かったです申し訳ない」
いや、自分でも着信に気付かないのは悪かったと思っている。
けども、敬うとなったら話が別だわ。
「……で、何の用だよ。こんな時間に」
「あ~、そうそう。そうだったね」
んんっ、と軽い咳払いが耳元の向こう側で聞こえる。
一拍だけ置かれて、会話は続く。
夜とはいえ、今は夏。
『焼け』とは違い、蒸し暑さに見舞われる。
汗が滲みそうになる直前、告げられた。
「夏休み、期日期間未定で
「……はい?」
翌日。まだまだ夏は終盤どころか、全盛期にも入っていない。
これ以上に気温が上がると考えると、気が滅入る。
窓から覗く青空も、上昇を止めない気温も、青天井。
ドラスティックな気温に蹂躙される、こちらの身にもなってほしいものだ。
そりゃホッキョクグマも大激怒だわ。
あれらしいね。アザラシが獲れなくなって、痩せ細ったホッキョクグマも確認されているらしいね。
だったら、まず図書室の冷房弱めようか。
いくら暑いとはいえ、俺、寒い。
風邪引いちゃうよ? 俺、夏に冷房で風邪引くとか、情けない情けない。
そうそう、北極では風邪のウイルスがあまりの寒さで死滅するから、逆に風邪引かないらしいね。知らんけど。
実際に体感したわけでもないから、確証があるわけではないのだが。
「それで、どうなのそれ?」
「うん……俺が言うことでもないけどさぁ……ひどすぎじゃない?」
「あぁ、俺自身で自覚しているから大丈夫だ」
やっぱり、俺には無理だよ、
こうして並ぶ昼食は、普段のそれとは形から違っていた。
お弁当、というやつだ。いや、
これをお弁当、とはさすがに言い難いだろう。
何これ、俺は砂を食べているのかな?
妙に食感がジャリジャリするんだけども。
あっ、この独特の深みある苦さは、焦げだわ。焦げ。
おっかしーなー、どうして玉子焼きから焦げが出てくるんだろう。
柔らか食感のはずなのに、ホントどうしてなんだろーなー 。
いやほんっとうに見当もつかないなー。
「それ、もう一種の才能ね」
期待していた綾瀬の声が耳に届くも、それは案の定興味のない平坦な声。
俺も慣れてきたかと思ったが、そうでもないらしい。
あっさりと淡白な声を聞くたびに、俺の心境は落胆へと変わる。
べたべたと仲良く、とまではいかないにしろ、普通に接するくらいを希望したい。
凹むからさ……うん。
複雑な心境のまま、右手に握られた袋の中のパンをひとかじり。
食べ慣れた昼食を味わいながら、先の砂を押さえつける。
……ん? お弁当はどうしたか、だって?
片付けたに決まってるじゃないか。パンを買っておいてよかった。
基本俺は食べ物を粗末にしない人間だ。出された物は素直に口に入れて
が、これは最早食べ物と言えるかどうかと、食べ物の定義の広さが危うい。
いや、もうこれ無機物なんじゃないの? まだ紙の方が美味しいよ。
ヤギは紙を食べるってイメージあるけどね。
紙を作るのに必要な薬品も一緒に体内に取り入れることになるから、やめるべき。
常識だね。特にトリビアというわけでもなし。
「学食にした方がいいんじゃない?」
「あ~、そうかもな~」
この生徒数極小高等学校にも、食堂はある。
メニューもある程度は充実している……らしい。
食堂に行くときは、自販機で飲み物買うときくらいしかない。
実際に確認したことは数度で、それもじっくりと確認したわけではない。
曖昧な記憶を辿っているのだ。
「――いや、パンで」
「いやなんで?」
「人。いっぱい来るじゃん」
いくら少人数とはいえ、それなりに集まるはずだ。
自学年ならまだしも、三学年分の生徒がオンパレード。
動物園の如きその様。定時になると群がって食事を始める様は、まさにそれ。
勿論、俺はそんなことをしない。
誰が好き好んで動物園の檻の中へ入らないといけないのだろうか。
「一回だけでも行ってみたら? 私も行ったことないから、あんまり詳しく言えないけど」
「前向きに検討することを検討しよう」
前向きな検討を検討する所存でございます。
検討さえも検討していくからね。
まぁ、候補の一つとして頭の片隅にでも書き留めようか。
味を気にしているわけではない分、幾分かは有力候補に食い込んでくるだろうか。
いざとなれば、食堂でパンを買って食べればいい。何も解決していない件について。
解決どころか矯正にもなっていないよ。
料理の練習中の今、自炊を諦めかけている。
俺がただの次々に食材をダメにするマシーンになりそうで怖い。
そう考えると、俺って一周回って結構すごいのかもしれん。
道具を使っているとはいえ、有機物を無機物に変えているのだ。
なんだ、俺って分解者だったのか。それにしては立派な菌類・細菌類ですね。
あっ、でもあれだから。キノコも菌類で分解者だから。
キノコ、キノコ……あっ。男性諸君よ、貴様ら全員分解者だわ。これはひどい。
「……じゃあ、誰かから料理を教わればいいんじゃない?」
そう言いながら、高波の目線は俺からズレる。
移動先は――綾瀬。
「何で私なのよ」
「そんなこと、一言も言ってないよ? 全員で料理、すればいいじゃん。駿河君は料理、できる?」
「少なくとも、こいつよりはできることは確かだろうな」
でしょうね。わかっていたよ。
どこまで下手だろうとも、玉子焼きで焦げと無機物創り出すことはないだろう。
まず、最低ラインを振り切った俺の横に並ぶこともない。
「よ~し! じゃあ今週末に皆でお料理会だ~、お~!」
「ん~、俺はいいよ~」
遥斗の間の抜けた声が、よく響く。
が、何か綾瀬は物申したいことがあるようで。
「ちょ、ちょっと、私は行くなんて一言も――」
「行かないとも言ってないよね? なんなら……
やけに緊迫のある一言。
こんなに強気に発言をする高波を、俺は見たことがなかった。
薄い雲が、青空を満遍なく覆った。
遮れきれなかった光だけが、教室の窓を割って入る。
遮られた光は薄暗へと変わって消えていく。
重苦しい雰囲気が、この四人の間のみで流れることなく停滞。
すぐ近くで笑うクラスメート達と、この四人とで隔壁ができあがる。
いや、もっと言うならば、綾瀬と高波の二人の間で。
「……別に、どっちでもいいわよ。行く理由も行かない理由もないのだから」
「じゃ、せっかくだからいこ~! そうしよ~!」
先程の重々しい空気は、嘘のように霧散した。
俺と遥斗は思わず、安堵の溜め息を吐いてしまうほどだった。
矛を収めた空気の中、俺は思った。
……えっと、いや、俺のためにやっているからさぁ、何も言えないけどさぁ。
俺としてもありがたいし、むしろ悪い気しかしないのだけどさぁ。
……俺に決定権は、ないのね。行くこと決定なのね。
「で、誰の家でやるのよ。さすがに学校の調理室を使うわけにもいかないでしょ」
綾瀬の気だるげそうな声は、どこか普段と違う。
冷徹でつまらなさそうな声が、少し跳ねているような。
「ま、蒼夜の家が妥当なんじゃない? 一番の目的は蒼夜の料理スキル向上なわけで、調理器具とか環境とか全部同じな方が楽でしょ」
「ん、俺はそれで十分にいいんだが」
片付けは普段からしているし、何より引っ越しからそれほど間もないので、無駄な物が少ない。
間もなすぎて空き部屋にまだ中身の入ったダンボール箱が数個だけあるレベル。
それはちょっとダメだわ。近々出してしまおうか。
葵も泊まりに来るらしいので、その部屋を使わせようか。
物置き部屋みたいで申し訳ないが、まぁ屋根と壁がある分マシだろう。厳しいね。
―*―*―*―*―*―*―
私が言わなかったら、七海ちゃんはどうしていたんだろうか。
あのまま、行かずにいたんだろうか。
素直じゃないだけなのだろうと、私はそう思う。
だって、本当に嫌いだったなら。
こうして昼休みに机を合わせることも、図書委員を二人で担当することも、一緒に下校をすることもない。
本心よりの拒絶じゃないことはわかる。
ただ、それは私が第三者の目線で見据えるから。
第二者の東雲君は、そうとは思えないかもしれない。
自分が避けられている。その仮の事実を知ってしまったとき、瞬間から、どうなるのだろうか。
何かこうなった原因を、誰だって自分に探すことだろう。
見つからないよ。だって、それは虚なんだから。
虚ではない部分もあるかもしれない。一部だけ嫌いなのかもしれない。
でも、それは逆部分の肯定と好意。裏返しだ。
そこまではいかなくとも、嫌ってはいないことは確かだろう。
帰り、彼女が図書室に行く前に、引き止める。
勿論のこと、東雲君はなしで。
「ねぇ、七海ちゃん。もう少し、正直になった方がいいんじゃない?」
「何に対して?」
「そりゃあ勿論、東雲君に対して」
そう言うと、彼女の顔が少し暗くなった。
夕焼けに照らされる赤らんだ顔。だが、そこに明るさはあまりない。
「……わからないわ。東雲の、ことが」
「そう。わからない、かぁ……」
嘘を吐いているわけでもない。
私も見当が大方見当はつくけれど、完全に
それに気付くと、私はつい笑顔を漏らしてしまう。
「何よ、その笑顔は」
不機嫌そうな顔だが、嫌そうではない。
そんな顔で、私の失笑に発言した。
「いいや、別に? 引き止めちゃって悪かったね」
「え、えぇ、それはいいのだけれどね。一緒に図書室、行く?」
「うん、そうしようかな?」
だったら、少しばかり、友人として応援したいね!
早く、気付くように。早く、そうなるように。
ありがとうございました!
半月近くも空いたのか……申し訳ないの一言に尽きます。
ただ、魂恋録の投稿を少しの間優先させてもらうかもしれないです。
もう少しで完結なので。
ではでは!