『東方魂恋録』ないしは『捻くれた俺の彼女は超絶美少女』、はたまた、両方見てくださっている方は、
私だ。
今回、ヒロインがクーデレということで進めていきます。
こちらは、先二作の交互投稿に加え、不定期の投稿とさせていただきます。
あらかじめご了承ください。
では、本編どうぞ!
第1話 儚く、美麗で
晴れ渡った青空。今は五月。まさに、春眠暁を覚えず、といった日差し。暖かくて、今にも二度寝してしまいそうだ。
ベッドから飛び起きて登校の準備を終え、着たこともない制服に袖を通し、服装を整える。玄関から出て、春の暖かさを全身で受けて、つい欠伸を漏らしてしまった。
太陽からの日差しを真っ向から受けながら、見慣れない通学路を歩む。通う高校が歩いて15分と近いのが幸いし、迷うことはない。
事前に通る道は確認したし、抜かりはない。
俺、
正直、友達作りとかは苦手中の苦手だ。できる気がしない。それに関しては、半ば諦めてしまっている。早すぎだろ、おい。今日が転入初日だぞ。
……そこ、ぼっち言うな。
校門付近になり、見慣れない顔ということで生徒から注目を集めながらも、職員室へ。
「失礼します。今日から転入する、東雲 蒼夜です」
「あぁ、君が東雲君か。私は、君の入るクラスの担任の、
優しそうな女性教師が応えてくれる。
女性教師って言い方には、どことなくエロスが漂っている気がするのは、俺だけなのだろうか。
っと、そんなどうでもいいことは置いといて。
「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします」
少々拙いながらも、返事を返すことができた。どれだけコミュ障なんだよ。この学校もぼっちで過ごすことになるのかな……?
俺はこの性格上、あまり友人関係を築かなくなった。別に、他人と関わるのが嫌とかいう、捻くれた考えを持っているわけではない。
ただ、少し……あれだ、人見知り。シャイなのだ。シャイボーイなのだ。響きがかっこいいよね、なんか。
少しの時間をかけて、職員室で手続きを終えた後、三階の教室、三組のクラスプレートがある教室へ。
先生が先導してドアを開け、俺がそれに続いて教室に入室。
俺が入った途端に、周りがざわざわとし始める。そして、こちらに向けられる珍しいものを見るような視線。
俺はツチノコか何かなのだろうか? 絶滅危惧種なの、俺?
「はい、今日からこのクラスに転入する、東雲 蒼夜君だ。色々わからないこともあるだろうから、皆で教えてくれ。じゃあ、東雲君からも挨拶を頼むよ」
遠山先生の促しに小さく首を縦に振り、肯定の意思表示。
前に一歩出た瞬間、周りの視線を一層感じながらも、緊張をなるべく前面に出さないよう、自己紹介に移る。
「は、初めまして、東雲 蒼夜です。皆さん、よろしくお願いします」
無難な挨拶を終え、一歩下がると同時に、徐々に緊迫感も引いていく。
周りの対応もそれなりといったようで、特に悪目立ちすることもなかった。
ぼっちにしても、悪目立ちするのは止めたほうがいいだろう。
顔も悪いわけでもないが、整っているというわけでもない。
髪は普通の黒色だが、目がブルーのつり目。それだけだ。特に変わったことはない。
強いて言うならば、つり目が少し攻撃的と捉えられることがあるくらい。
勉強も中の上くらいなので、心配することはないだろう。そう信じたいものだ。
「東雲君は向こうの席に座ってくれ」
遠山先生が指した場所は、中央列の最後。中々いい場所だとは思う。
静かにその席に歩を進め、座ろうとした時。
隣の白色の髪が、視界の端で見えた。
そちらの方を向くと、その髪の持ち主の少女に、目を奪われた。魅了された。
さらさらとした白髪が肩まで伸びていて、春服で隠れるきめ細やかな白肌を、さらに隠している。
つり目気味なブルーの瞳はどこまでも澄んでいて、どこか清流を想起させる。
華奢な体つきは、抱き締めたら折れてしまうかと思うほどだ。
俺が彼女に抱いた第一印象は――
決して弱々しいわけではない。むしろ、彼女がそこにいるだけで絵になる程に美しく、確立した存在。
しかし、どこか儚い。夢の中の世界の住人のような気がしてならない。
彼女の優美さは、この世の者が持つべきなのか……?
そう思わせる程に、美しく、儚い夢のようだった。
彼女が俺の目線に気づき、数瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。
まぁ、初対面の異性からじっと見つめられるのは、誰だって不審がるし、良い気はしないだろう。
見惚れるのも程々にしよう、と自分に折り合いをつけ、席に着く。
「何かわからないことがあったら、取り敢えずは隣の、クラス委員の
と、取り敢えずって……さっき皆でって言ったのはどこの誰でしたかね?
そう頭で疑問符を浮かべていると、先程の少女がこちらを向く。
どうやら、この子がその『綾瀬』という人物らしい。
「……どうも」
「え? あ、あぁ、どうぞよろしく」
鈴が鳴ったような透き通った声が、一瞬自分に向けられたものだとわからなかった。
戸惑いながらも返事をしたが、すぐに顔は前を向いた。
……え? 俺ってこんなに短時間で嫌われる要素があるのか? 凹むぞ。
そこから十分ほどして、
もう入学式から一ヶ月が経過していて、既にある程度の友人関係が形成されている時期だ。
そんな中、俺が輪に入ることができるだろうか。いや、できないだろう。
できないのかよ。もっと自分に可能性を、希望を持てよ。
反語でより強調されているあたり、自信のなさが露呈してしまっている。
俺は別にどうってことはない。普通に過ごす上では。
ただ、よくある『アレ』が回避できないのが難点だ。
「はい、じゃあ好きな奴で二人組作れ~」というアレだ。
隣の奴でいいじゃん。なんでわざわざ好きな奴とで組ませるかねぇ。ぼっちとしては、不満しかない。
廊下へ駆け出す者、準備を早々に済ませる者、ペアやグループで話す者、ただ一人でぼーっとしている者。
同じ人でも、こうやって行動に大きな差があるのは、見ていて飽きない。
しかし、当然の如く、俺に話しかける者はいない。自分で思っておいてなんだが、悲しくなってくる。
隣の綾瀬……だったかな? 彼女の姿が目に入った。
彼女は、誰とも話さずに読書をしている。あの容姿だと、軽く人だかりが出来てもおかしくないだろうに。
まぁ、これはチャンスだろう。この子とはこれからなにかと交流があるだろうし、今の内に仲良くなっておこう。
「な、なぁ、綾瀬?」
「…………」
無言。無視。完璧に。目線が本からピクリとも動かされていない。
き、気付いていないのだろうか……?
「あ、綾瀬さ~ん……?」
「……はぁ~っ。聞こえてるわよ。で、何?」
溜め息を吐きながら、本に視線を向けたまま応える。
「え、え~っと……俺は東雲 蒼夜だ。よろ――」
「それはさっき聞いたわ」
俺の言葉を途中で遮りながら、澄まし顔のままページを
続く言葉に詰まってしまう。
「あ、あぁ~……綾瀬さんは、名前はなんて言うんだ?」
「……
「あ、あぁ、改めてよろしく」
どうにも話しづらい。慣れていないだけなんだろうが。少しずつ慣れていくか。
頭でそう結論付けて、滞った会話と言えるかどうかも怪しい会話を切り上げ、教室を出る。
廊下の生徒が、見慣れない顔を見てこちらを凝視する。
が、話しかけようとする者はいない。
どこか人の少ない場所に移動しようとした時。
「おい、え~っと……東雲!」
俺の名前を叫ぶ声が後ろから飛ばされ、声の主を探るため、後ろを振り向く。
瞳は黄色に染まっていて、明るい茶髪の、これまた笑顔も明るい好青年。
かっこいい顔立ちで、モテそうな見た目だ。
「よ、よう。あの綾瀬に話しかけるたぁ、随分と変わり者だな」
「え、っと……貴方は?」
「あぁ、すまない。俺は
そう言って手を差し出され、握手を促される。
「改めて、東雲 蒼夜だ。こちらこそ、よろしく頼む」
しっかりと彼の手を握りしめて、笑顔になる。
記念すべきこの学校での友達第一号、というわけだ。
「よっし、これからは名前で呼ぼうぜ! 堅苦しいのは無しでな、蒼夜?」
「お、おう、わかった。遥斗」
俺が戸惑いを隠せずに返事をすると、遥斗は爽やかな笑みを浮かべた。
この笑顔に惚れてしまう女の子は、きっと多いだろう。
俺もそうであればよかったんだがな。恋愛? 何それ美味しいの? 状態である。
誰だよ、年齢=彼女いない歴とか、童貞歴とか言った奴は。
「で、その綾瀬がどうかしたのか?」
「あ、そ~そ~。この学校一の美少女ってことなんだが、入学日から被告白数が二桁を悠々と超えた。そして、全部全部、片っ端から玉砕したっていう伝説を残してんだよ。中には、言い終わる前にフラれた生徒もいるんだとか」
は……!? 入学早々に、告白? しかも、二桁?
ありえない。そう思ったが、彼女の容姿を思い出す限りでは、きっぱりと否定できない。
……ありえてしまう。俺の考えが一瞬で覆った。
「お、いい感じに驚いてんな。ま、当たり前だわな。だけど、ああやって静かってか……冷たい感じの態度とるから、周りが避け気味になってるってわけだ」
なるほど。確かに、当たりが冷たい感じはしていた。
あの人当たりと、ばっさりとした言い方が相乗効果、といったところだろうか。
まだ交流が浅すぎるので、なんとも言えないが。
「で、そんな綾瀬に転入生がいきなり話しかけて、俺含む皆が驚いたっつ~わけさ。それが珍しくて声をかけたんだよ」
「へぇ、そこまで言うんだな」
さぞかし……その、個性的な人なのだろう。
そこまで会話して、次の授業の予鈴が鳴る。
「お、そろそろ戻るか」
遥斗に頷き、二人で一緒に教室に戻る。
俺の席の隣では依然に読書を続ける、美しい綾瀬。
しかし、彼女に近づこうとする者は全くいない。
その姿と表情は、どこか悲しそうで、寂しそうにも見えた。
今日の授業が終わり、もう放課後になった。
教科書は綾瀬に見せてもらい、学校の施設は綾瀬に教えてもらう等など――
綾瀬と絡むことが、なにかと多かった。
一方の綾瀬も、少し面倒がりながらも、遠山先生から言われたからか、全て教えてくれた。
ありがたいの一言に尽きる。
帰りの準備を済ませ、教室を出て廊下へ。
が……校門までの道のりを覚えていない。
いや、嘘じゃなく、本当に。方向音痴とかでもなく。
この学校、色々と複雑な構造をして建っている。
職員室と下駄箱の距離は遠いので、職員室からここまで来たように辿って戻ることも意味がない。
じゃあ、どうやって職員室に行ったり、教室へ行ったかって?
先生についていったに決まっているじゃないか!
「え、えぇ、と……」
「……何してんの」
声をかけられ、驚きながら声を辿る。
そこには、綾瀬がいた。こちらをジト目で見ている。
そんな顔をしていても、容姿は非常に整っていて、とても綺麗である。
「あ、いや、校門までの道がわからないんだ」
「あんた、一体どうやって……はぁ、私が先に行くから、ついてくればいいわ」
またも少し面倒そうな顔を浮かべて、俺が返事をする前に廊下を通っていく。
再び綾瀬に頼ることとなり、少し悪い気がするが、本当にわからないのでついていくしかない。ついていくだけだし、いいよな。
お互いに立ってわかったが、綾瀬の身長が思いの外低い。
俺は170cmくらい。それから考えると綾瀬の身長は……155cm前後といったところだろうか?
そう思って歩を進めようとした時、遥斗に肩を組まれる。
遥斗から肩を組まれるくらいなので、俺と同じくらいの身長か。
「お、おい蒼夜! おま、綾瀬から話しかけられたのか!?」
「は? あ、あぁ、そうだが……」
言葉を返すと、話しかけた時の驚き顔が、一層鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
見ていて、とても面白い顔だ。心の中で笑ってしまう。
「い、いやいや、綾瀬から声かけるって、え? ……すげぇな。今までそんな奴は数人しか見たことねぇぞ」
「え? 一ヶ月間あったでしょ? そんなわけが――」
「あるんだよ、それが。相手から話しかけることがあっても、綾瀬からってのは殆どなかったんだよ」
ほう、それは嬉しいものだな。
ただ良心で話しかけられただけかもしれないが。
友達は少ない方なのだろうか。
「あ、じゃあ俺は行くよ。また明日な、遥斗」
「おう、またな、蒼夜」
遥斗と別れの言葉を交わし、見えなくなりそうになった綾瀬の背を追う。
少しついてくるのが遅かったせいか、後ろを確認された。
彼女はなんやかんや言って、心は優しいと思うんだよなぁ。
「ごめん、遅れちゃって」
「そう思うなら、早く道を覚えることね」
や、優しいと思うんだよなぁ……。
俺の家までの道のりは覚えてるので、問題はない。
のだが……
「で、いつまでついてくるの?」
「いや、俺もこっちなんだよ。ついてきてるわけじゃね~よ」
「……そ」
方向が同じでした。ついてくるとまで言われているし、今日一日で本格的に嫌われたのか?
綾瀬の家と思わしきところについた。俺の家はもう少し先にある。
「じゃ、また明日な」
「はぁ、わかったわ。明日ね」
綾瀬に戸惑われながら別れ、自宅へ。
一人で歩くことに
初日で友達が、少なくとも一人できた。順調な滑り出しだと言えるだろう。
当分の目的は、友達作りってところかな?
……ぼっちだな、これ。
ありがとうございました!
さすがに1話目でデレは出しません。
後方確認がそれっぽいですが、あれはセーフなはずです。
七海ちゃんには、徐々に心を開いてもらおうと思っています。
途中、ツンデレの要素が入る……かもしれません。
これから、この作品と私をよろしくお願いします!
ではでは!