チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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モチベーション的な理由で大分難産でしたが、不透明だったAXZ編を思いついてからは余裕でした。
XVで何事もなければこれでいけるはず・・・・。


財宝じゃない

「――――」

 

涼しい風に、未来は起こされた。

瞼越しでも分かる茜色から、時刻が夕方だと分かる。

頭を押さえながら身を起こしたところで、呼吸ができることに気づいたのだった。

 

「未来ちゃん!」

 

ぼんやりする前に、飛びつかれる。

見ると、香子が額を擦り付けていた。

 

「起きましたか、未来さん」

「緒川さん」

 

周りを見渡すと、以前も泊まったコテージであると気づいた。

近寄ってくる緒川の後ろに、マリアの姿も見える。

 

「未来ちゃんが海に落ちた後、二人が助けてくれたんだよ」

 

『変な人も追い払った』と香子に説明され、未来はシンプルに『そう』と返事する。

 

「ありがとうございます、マリアさん、緒川さん」

「気にしないで、間に合ってよかった」

「まだ横になっていた方がいいですよ、顔を蹴り飛ばされたようですから」

 

『装甲が無ければ、骨を砕かれていた』と。

頬の湿布に触れる未来を、緒川が気遣ってくれた。

 

「キョウちゃんも、怪我はなかった?」

「うん、ちょっと擦りむいたくらいだし、へーき」

「そう・・・・よかった」

 

頭をゆっくり撫でると、嬉しそうに目を細めたのだった。

だがそれも束の間、急に顔を陰らせた。

 

「キョウちゃん・・・・?」

 

マリアと緒川もいぶかしむ中、未来にしがみついた香子は。

零すように、口を開いた。

 

「・・・・お姉ちゃんも」

 

視線は、頬の湿布に釘付けだ。

 

「お姉ちゃんも、同じことやってるの?」

「・・・・なんでそう思うの?」

 

一瞬動揺した未来だが、何とか笑みを崩さず問い返す。

 

「だって、お姉ちゃんがマリアさんと仲良くなれる理由って、それくらいしか思いつかないし」

 

目を見開く未来の前で、『それに』と続ける。

 

「前お父さんが会ったって言った時、救助活動してたって言ってたから。シンフォギアなら、瓦礫持ち上げたり、人をいっぱい運べそうだなって」

 

マリアと緒川も、思わず互いを見あってしまった。

まさか、これほど敏いとは思わなかったのだ。

・・・・もっとも。

年端もいかぬ少女に、図星を突かれてしまった動揺もあっただろうが。

 

「・・・・さっきのわたし、未来ちゃんに守ってもらってばっかりだった」

 

・・・・香子の脳裏、過る。

 

「それだけじゃない。マリアさん達がいなかったら、ここにいなかったかもしれない」

 

敵の前に立ちはだかったマリアの背中と、海に飛び込み、あっという間に未来を引き上げた緒川の姿。

 

「怪我して、もたついて、何にもできなかったぁ・・・・」

 

震える声。

未来はその振動を知っている。

 

「・・・・だからなのかな」

 

顔を上げる香子。

ぼろぼろ零れる、涙にぬれた表情は。

 

「だからお姉ちゃん、突き放すのかな・・・・」

 

姉とそっくりな、自責の顔。

 

「邪魔だから、会いたくないのかなあぁ・・・・!」

 

言葉を零しきった香子は、そのままわぁわぁ泣き出してしまった。

いくつもの雫が、未来にかけられたタオルケットに落ちて染みになる。

緒川もマリアも、なんと慰めればいいのか分からない。

そんな中、一見沈黙を保っていた未来は。

やがてわなわな震えだして、

 

「ちがう」

 

掴みかかるように、香子の肩を抱いた。

 

「未来ちゃん・・・・?」

「ちがう、ちがう、そうじゃない、キョウちゃんも響も、何も悪くない」

 

同じか、それ以上に震える唇。

しゃくりあげていた香子も、ただ事ではないと気づく。

 

「ゎたしが、わたしだ、わたしが悪いんだ、全部、全部、わたしのせいなんだ」

 

負けないくらい涙を零す瞳は、香子が見たことないほどの暗い感情が渦巻いていた。

その通り、未来の胸中は荒れている。

後悔、悲嘆、自責、懺悔。

もう乗り越えたと思っていた暗い過去が、あの日自分が壊してしまったものが。

現実となって、再び目の前に現れたのだから。

ただの家庭だった、何の変哲もない家族だった。

会社で働くお父さんに、怒ると怖いけども優しいお母さん。

面倒見のいいお姉ちゃんと、愛情を受けて育っている妹。

そんな孫娘を見守るおばあちゃん。

何でもなかった、なんでもないからこそ。

温かくて、幸せで、尊くて。

だけど、あの日の選択が。

よりにもよって部外者である未来自身の選択が。

壊してしまった、引き裂いてしまった、傷つけてしまった。

忘れてはいけなかったんだ、償わなくてはいけなかったんだ。

だが、今までやってきたことはなんだ。

響に対して出来たことはなんだ、それに対して出来たことなんだ。

口だけの慰めを言うだけだ。

何が『悪くない』だ、何が『大好き』だ、何が『信じるよ』だ。

そうやって縋って、引き留めて、纏わりついて。

結局足枷になっただけじゃないか、罪を重ねさせただけじゃないか!!

追い詰めて、傷つけて、弱らせて。

背中の十字架を本物にしてしまって。

そうだ、響を悪魔に変えたのは自分だ。

無実の罪を着せたのも、両手を血でふやけさせたのも。

何より、本物のバケモノに変えてしまったのも。

何もかも、『小日向未来』ただ一人がやらかした。

とんでもない、大罪だ・・・・!!

 

「わたしが、わたしが、こ、ゎしたの、こわしたの、ひびきのことも、きょうちゃんのことも、めちゃくちゃ、に、だか、ら、だから・・・・!」

 

奪った、奪った、全部奪った。

並んでアイスを食べた駄菓子屋も、一緒にお迎えにいった幼稚園も、夕焼けの中でつないだあったかい手も。

大切な思い出の何もかもを、傷つけてしまった。

そしてあろうことか、都合よく忘れ去ろうとしていた。

 

「だから、だれも、わるくないの、わたしが、わたしひとりだけが、わるいの・・・!」

 

・・・・緒川も、マリアも。

響にばかり目を向けていたことを後悔していた。

未来は大丈夫だとばかり思っていたが、違ったのだ。

人と比べて、ちょっぴり、ほんのちょっぴり。

隠すのが得意だっただけだった。

抱えた闇も、傷も、何もかも。

自分よりも大変な人がいると言い聞かせて、負担にならないように笑顔を作り続けて。

そして今、その行動が、他でもない本人を苦しめている。

自覚した罪悪感は、仮面をあっという間に引きはがしてしまったのだ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・・ごめんなさいいぃ・・・・!」

「・・・・未来さん」

 

幼い体に縋って泣く様が、今はただただ、哀れに思えて。

緒川は、やりきれなさを呟きに乗せるしか出来なかった。

マリアもまた、唇を噛んで、痛々しく見ているしか出来ない。

 

「・・・・未来ちゃん」

 

そんな重く暗い空気に支配された中、未来の嗚咽が落ち着いてきた頃。

沈黙を破ったのは香子だった。

震える肩にそっと手をのせれば、未来は体を跳ね上げた。

 

「確かに、あの頃は大変だったし、嫌な思い出もたくさん出来たけど、でもね」

 

涙の跡が残った頬を緩めて、柔らかく笑いかけて。

 

「それが未来ちゃんのせいだって、全然思っていないよ」

「きょう、ちゃん・・・・?」

 

揺れる瞳を見つめ返しながら、香子はゆっくり語りだした。

先ほどまで泣きじゃくっていたとは思えない。

幼いながらも、どこか大人びた表情。

 

「逃げちゃったお姉ちゃんを追いかける前に、今どこに住んでるかを教えてくれたでしょ?だからあの日、会いに行こうって思えたんだよ」

 

『結局心配かけちゃったけど』と、照れくさそうに笑った香子。

 

「もちろん、知ったかぶりした知らない人だったら、さすがに疑っちゃうけど、でも」

 

気を取り直して、未来を思いっきり抱きしめる。

 

「他でもない、『もう一人のお姉ちゃん』だから、信じることが出来たんだよ」

 

頬も一緒に摺り寄せる香子。

呆然とされるがままになる未来。

二人の表情は、対照的だ。

 

「それに、ちょっとだけ教えてもらったんだ、二人がいなくなってからのこと。わたしは子供だから、ぼんやりとしか聞いてないんだけどね」

 

旅の話を聞いた。

それを聞いた未来は、また弾かれたように顔を上げる。

 

「でも、これだけは何となくわかるんだ」

 

驚いた顔を、面白そうに眺めた香子は。

年相応の、眩しい破顔を見せて。

 

 

 

「未来ちゃんの、おかげだよ」

 

「未来ちゃんが一緒だったから、お姉ちゃんは頑張れたんだよ」

 

 

 

「――――わたしが?」

「うん」

 

しっかり頷いた香子は、まっすぐ未来を見つめて。

 

「未来ちゃんが、ずーっと一緒にいてくれたから。だからお姉ちゃん、人助け続けるくらいに、優しいままでいられたんだよ」

 

だからね。

 

「ありがとう、未来ちゃん」

 

響がいつも口にしていて。

しかして、凡そ掛けられるべきではないと考えていた言葉。

 

「お姉ちゃんの優しいとこを守ってくれて、ありがとう」

 

未来が見上げる少女は、ためらいなく伝えた。

涙がすっかり乾ききった顔で、満面の笑みを浮かべて。

 

「悲しかったことも、苦しかったことも簡単には消えてくれないけど、でもね」

 

再び、思い切り。

一回り大きな未来の体を、幼いながらの力で、ぎゅーっと抱きしめて。

 

「やっぱり未来ちゃんが、大好きだよ」

 

きっと、姉にも伝えたい言葉を。

贈り物を渡すように、そっと告げて。

抱きしめられたまま、呆然としたままだった未来は。

やがて、布に水がしみるように涙をにじませて。

声を殺すように、香子の肩口にしがみついた。

 

 

 

 

 

 

 

――――少し経って。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いたようね」

「お見苦しいところを・・・・」

「いえ、実際に慰めたのは彼女だもの、こちらこそ何も出来なくてごめんなさい」

 

頭を下げる未来に、首を横に振るマリア。

緒川も同意するように頷いている。

褒められた香子は気恥ずかしそうにはにかんでいた。

そんな時、一斉に鳴り響くアラート。

香子が驚いて跳ね上がる横で、未来達は一斉に通信機を取り出した。

 

「またオートスコアラーですか」

「同じ個体・・・・よっぽど仕留めたいらしいわね」

 

画面に表示された情報に、苦い顔をするマリアと緒川。

狙われている、と言われた未来を、香子はやや不安げに見上げ。

一方の未来は、何か惟ているようだった。

が、そうそう時間をかけずに結論を出したらしい彼女は、香子を見下ろす。

先ほどまで泣いていたせいか、目元こそ腫れていたものの。

もう、か弱さは微塵も感じられなかった。

 

「・・・・未来は香子を逃がしてあげて、緒川さんは避難誘導をお願い」

「ええ、任せてください」

「でも、マリアさん一人で大丈夫ですか?」

「あなたこそ怪我しているじゃない。大丈夫よ、任せて」

 

マイクユニットを取り出しながら、手慣れた様子で指示を出し。

未来の不安げな言葉にもウィンクで返すマリア。

緊急時だというのに、香子は憧れのようなものを抱いたのだった。

 

「キョウちゃん、行こう」

「う、うん」

 

不覚にもぼんやりしてしまった香子の手を引き、未来は外に出る。

物々しい雰囲気の中、マリアと緒川が反対方向へ駆け出すのを後ろに見ながら、二人は駆け出す。

飛び出す前に、近くのシェルターは確認済み。

 

「未来ちゃんこっち!抜けたら近道できる!」

「分かった!」

 

行く道は公道ではなく裏道だが。

現地に詳しい香子がいることもあって、足取りに迷いはない。

顔面に飛び込んでくる葉っぱや枝をものともせず、とにかく安全圏へ突き進む。

 

「ここ抜けたら、もうすぐだよ!」

 

道路を横切り、再びこじんまりした林へ飛び込んで。

ラストスパートと言わんばかりに駆け出す未来。

元陸上部というだけあって、さすがのスピードだなと。

一生懸命ついていく香子が、ぼんやり考えた時だった。

 

「――――地味に見つけた」

 

現れたアルカノイズの群れと、鋭く着地してきた者。

レイアだ。

立ちはだかるように降り立った彼女は、人形らしくポーズを決めて目を向けてくる。

先ほど未来が負けた様を見た香子は、思わず後ずさるが。

対照的に、未来は前に一歩出た。

 

「未来ちゃん・・・・?」

 

不安げに見上げる香子へ、目だけを向けて微笑んだ未来は。

手早く聖詠を唱えて臨戦態勢に入る。

 

「敗北してなお向かってくるか、その意気地味に良し」

 

打ち出されるコインを、開いた鉄扇で弾いて。

お返しだとレーザーを発射。

アルカノイズを一掃する。

すぐ飛び出してきたレイアを食い止めるべく、未来も一寸遅れて前へ。

蹴りをいなして、回り込んだ背後へ一射。

咄嗟に体を捻って直撃を避けたレイア。

反撃で打ち出したコインは、未来の肩を掠っただけだった。

じわっと出血しながら痛んでくる傷を、未来は気にも留めない。

レイアは砂を散らしながら再び接近する。

鋭い蹴り上げが二連続、未来は体をそらすことで回避するが。

反転して振ってきた踵は、残念ながら避けられなかった。

叩き落され突き出した顎へ、ダメ押しの蹴り上げ。

未来の視界には星が飛び、更に一瞬ブラックアウトする。

 

「未来ちゃん!」

 

飛びかけた意識を、守るべき者の声が引き留める。

何とか踏ん張りながら目を向ければ、木陰から身を乗り出している香子の姿が。

未来の感覚からして、そこまで怪我を負っていないはずだが。

香子があんまりにも震えているもんだから、実は相当重傷ではないかと思えてしまう。

そこまで考えて、ふと、思い立った。

 

(響も、こんな気分だったのかな)

 

守りたい人に、あんなに悲しい顔をさせてしまう。

胸の中を直接引っかかれるような、あるいは心臓の血液が空っぽになってしまうような。

そんな罪悪感。

 

(わたしもきっと、あんな顔しちゃってたんだろうな)

 

だから響は、自分を捨てるような行動をとっていたんじゃないだろうか。

自分を責めるような結果を、出し続けていたんじゃないだろうか。

 

(ああ、結局、わたしの所為だったんだ)

 

響が傷つき続けるのは、結局自分の所為だったんだ。

泣かせないように、懸命に努力してくれたのに。

何度も何度も、上手くいかなかったから。

だから、自分が大嫌いになっちゃったんじゃないだろうか。

 

「――――ッ」

 

ざりっと音がする。

レイアが動き出した。

手を開けば、じゃらじゃらとにぎやかに集合するコイン。

生み出したトンファーを、無防備な未来の脳天に振り下ろそうとして。

――――鉄扇に、弾き飛ばされた。

 

「ッ!?」

 

動きが止まり、戦意を失ったとばかり思っていた相手の行動に。

レイアの顔は、ここに来て初めて大きく動いた。

鉄扇越しに見えた未来の、強い瞳に射抜かれて。

言いようのない危機感を覚えたレイアは、大きく飛びのく。

離れて全身が見えるようになった未来は、胸元に、手を。

イグナイトモジュールを、掴んでいて。

 

『Dainsleif !!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ずるい

 

あの子が泣いている。

泥の中から見上げながら、血のような涙を流している。

 

――――みくばっかり、わたしばっかり

 

――――ずるい、ずるい、ずるい

 

今も沈んでいきながら、あの子が泣いていた。

独りにしないでと、泣いていた。

・・・・だから、

 

「・・・・うん、ごめんね」

 

伸ばされた手を取って、抱きしめる。

自身も一緒に沈み始めたけども、気にしない。

 

「でも、もう大丈夫だよ」

 

どろどろと、ぶよぶよと。

嫌な感覚。

だけど、構わない。

 

「独りぼっちになんて、しないよ」

 

だって、わたしは。

小日向未来は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――もう、『財宝』じゃない」

 

闇を従えた証の、黒く染まった装甲。

両脇には二枚の大きな鏡が、控えるように浮かんでいる。

 

「・・・・派手に上等」

 

未来のイグナイト化に目を見開いていたレイアは、油断なく構えた。

動き出す、未来。

追従してくる鏡を警戒しながら、レイアも迎え撃つ。

飛ばされる無数のコイン。

未来はこともあろうに、襲い来る弾幕へ突っ込んでいく。

かと思うと、鏡が前に躍り出てコインを防いだ。

弾幕を抜けて突っ込んできた未来。

鏡の巨大さを利用して、隠れて構えていたレイアは。

その眉間を狙い、コインを撃ちだす。

ところが、

 

「なッ・・・・!?」

 

明らかに直撃したはずのコインは、額を()()()()()

どころか、未来の体の輪郭がぼやけ、霞のように消える。

何事だと立ち止まった背後、湧きあがった敵意に振り向けば。

すでに鉄扇を振りかぶっている未来の姿が。

刃が追加され、殺傷力の上がった一撃。

咄嗟に防御したレイアの右腕を、一瞬でズタボロに破壊した。

 

「ぐぅッ・・・・!」

 

繰り出される追撃を、ギリギリで躱したレイア。

反撃に顔面を蹴り飛ばそうとするが、これも不発。

再び掻き消える未来を目の当たりにし、苦虫を噛んだような顔で周囲を見渡せば。

両脇から、鏡が迫ってきていた。

慌てて飛びのくも、衝撃波に吹き飛ばされる形となる。

着地したレイアが顔を上げると、香子を守るように立っている未来の姿が。

砲撃の充填を終えていたところだった。

 

「派手に窮地・・・・!」

 

レイアが顔を歪めるのと、未来が砲撃を放つのは同時。

一条の極光は、敵を仕留めるべく猛進して。

あっという間に、レイアを飲み込んだ。

光と熱気から顔を庇っていた香子は、光が収まったのを感じてから。

恐る恐る腕をどけてみる。

 

「うっひゃ・・・・!」

 

真っ先に見えたのは、抉れた地面となぎ倒された木。

距離は町にほど遠いものだが、それにしたってとんでもない威力だと。

香子は思わず身を引きそうになる。

 

「・・・・ッ」

「あ、未来ちゃん!」

 

しかし、敵がいなくなって気が抜けたらしい未来が。

ギアを解除すると同時に座り込んだのを見てしまっては。

駆け寄らずにいられない。

 

「大丈夫?」

「ぅ、うん、ありがとう、大丈夫よ」

 

『腰が抜けただけ』と、未来は力ない笑みを向ける。

それが自分を安心させるためだと分かっていたからこそ、香子も何とか笑って答えた。

 

「・・・・キョウちゃん」

「なあに?」

 

そっと、頬に添えられた手。

香子は握り返しながら答える。

 

「響は、今、ちょっと悩み事があって、それで少し臆病になっちゃってるの」

「・・・・うん」

「だからね、キョウちゃん。響のことを、諦めないで」

 

言われたことに、香子は思わずきょとんとしてしまった。

だって、『もう少し待ってて』とか『そっとしておいてあげて』のようなことを言われると思っていたのだから。

 

「わたしが出来るのは、心に絆創膏を貼ってあげるくらいだから」

 

呆けた顔が面白かったのか、未来はくすくす笑ってから。

香子が握ってくれている手を引いて、両手で包み込む。

 

「ぐいぐい行くくらいじゃないと、響は話を聞かないよ?」

 

――――ああ、と。

香子は悟った。

この人は、姉と話す機会をくれようとしてるんだ。

気づいたとたんに、胸があったかくなった。

壊れたものが戻るんだと、嬉しくなった。

 

「・・・・うん、うん!」

 

香子はもう片手を添え返しながら、何度も頷いて。

 

「お姉ちゃんが戻ってくるまで、諦めないよ!」

 

出来る限りの笑顔を浮かべれば、未来もまた嬉しそうにはにかんでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――手ひどくやられてしまったようね」

 

「派手に情けないところを見せたな」

 

「いえ、おかげでこちらも・・・・んべ」

 

「――――ああ、地味に派手な成果だ」


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