「戻ったゾー」
チフォージュ・シャトー。
響達をあしらったミカが、ぴょんぴょん跳ねながら帰還。
玉座の間の中央にある装置へ、持っていたデータディスクを挿入する。
すると、空中に画面が展開。
首都圏周辺のマップと、何らかの流れが表示された。
「派手にひん剥いたな」
「ええ、上出来ね」
流れが集中している地点を見つめながら、ファラとレイアは満足げだ。
ミカもしてやったりと言わんばかりににやついていたが、やがて笑みを収めると踵を返す。
「待て、どこへ行く?」
「やるべきことは分かっている、あとは好きにさせてほしいゾ」
気が付いたレイアが引き止めると、やや苛立った口調で返すミカ。
一瞬眉をひそめたレイアだったが、ふと、頭上を見上げたことで意図を理解した。
「・・・・そうか」
それぞれのオートスコアラー達の上に下がっている垂れ幕。
そのうちの一つ、ガリィがいなくなった代わりに、模様が刻まれた青の垂れ幕を見上げながら。
去っていくミカを見送りつつ、次は赤の垂れ幕だろうと予想をつけた。
◆ ◆ ◆
「――――昔はすっごく優しかったんです、お姉ちゃん」
一夜明けて、鈍行列車の中。
すっかり回復した香子は、景色をぼんやり見ながらとつとつ語りだした。
同行していたマリア(髪留めと帽子で変装済み)は、静かに耳を傾ける。
「小っちゃい頃、眠れなかった時があって。一緒に夜更かししてくれたことがあったんです。『お母さんにないしょね』って、ジュースを飲ませてくれたり、同じ布団で寝てくれたり」
懐かしむ横顔は、楽しそうにも、寂しそうにも見えた。
一緒に寝るくだりはマリアにも覚えがあったので、思わず笑みをこぼす。
「お姉ちゃんはいつもわたしの憧れで、だから、大きくなったらお姉ちゃんみたいになりたいっていつも思ってて」
こぼれるのは、『妹』特有の想い。
誰から見ても理想の姉に憧れる、微笑ましい願い。
「――――でも」
そんな純粋な言葉が、陰る。
「お姉ちゃんは、そう思っていなかったんでしょうか」
香子が思い出しているのは、昨日のやり取りだろう。
響がすでに帰ってしまったことを聞かされた彼女は、マリアから見ても落ち込んでいた。
「本当は面倒くさいって思ってて、だからわたしを置いていったのかな」
ふと、視線を落としたマリア。
膝に置かれた香子の手が、きつく握られているのが見える。
「未来ちゃんとの旅に、連れてってくれなかったのかな」
いつの間にか、語る言葉は寂しさに満ち切ってしまっていて。
心なしか、声に涙が混じっているようにも聞こえた。
「・・・・私から言わせてもらえば」
がたん、かたんと、電車が揺れる音に耳を傾けながら。
ゆっくり口を開く。
「あの子は単に臆病なだけよ、ボロを出さないよう必死に取り繕っているだけ」
見上げてくる香子の視線を受けながら、マリアは続ける。
「大切だからこそ、距離を置いて離れようとする・・・・そういう人なのよ、あなたのお姉さんは」
「大切・・・・」
言い終えた後で、香子の様子を見てみる。
吐いた唾は呑み込めないと言えども、言い過ぎではないかと思ったからだ。
そんなマリアの胸中を知ってか知らずか、香子は俯いて黙っていた。
落ち込んでいる、というより、考え込んでいるようだった。
「・・・・でも」
やがて、香子は再び口を開く。
「でも、わたしは、一緒に行きたかったです」
切なく、それだけを零して。
◆ ◆ ◆
さて、調と切歌の不仲はまだまだ続いていた。
一夜明け、学校も終わった帰り道。
何となく距離を置いて歩く二人の間に、会話はない。
考え方は違えど、思うのは昨日の戦闘だ。
『どうして守ったのか』
『どうして守らせてくれないのか』
沈黙は続き、感じないはずの痛みを感じて仕方がなかった。
「・・・・私に、何か言いたいことがあるんじゃないの?」
やがて、調が口火を切った。
やや苛立った口調で、前を歩く切歌に言葉をぶつける。
「それは調の方じゃ・・・・!」
同じく苛立つ口調で返す切歌。
だが、すぐに噤んでしまった。
また言い合いに発展するからだと気づいた調も、気まずそうに俯く。
どことなく重い空気が、流れようとして。
「きゃああああああああッ!!」
絹を裂くような悲鳴に、肩を跳ね上げる。
振り向けば、傍らに見えていた屋台が燃えていた。
周辺には赤い結晶がばら撒かれ、次々爆炎が噴き上がっている。
「こ、これって・・・・わっ!」
「あたし達を焚きつけるつもりデス!」
驚愕を口にする前に、背後でまた爆発。
危険と判断した二人は、何とか損傷の少ない場所へ向かう。
はっと気配に気づいて見上げると、ミカがにやにや笑って見下ろしてきていた。
損壊した鳥居の上に、罰当たりに陣取っている。
「足手まといと、侮っているというのならッ・・・・!」
向けられる笑みに、不快感を覚えた調。
歯を向いて睨みつけつつ、ギアペンダントを握りしめた。
◆ ◆ ◆
「――――二人とも!応援の到着まで、なんとか持ちこたえてくれ!!」
当然、ミカの出現を察知していたS.O.N.G.本部。
交戦し始めた調と切歌を目の当たりにした弦十郎は、急ぎ他の装者達にも連絡を取ろうとして。
「うおッ!?」
激しく揺れる船体に、艦橋が一様に動揺した。
モニターを切り替えてみれば、海中で本部に攻撃を仕掛けている。
「巨大な人影、だと・・・・!?」
驚愕も束の間、再び揺れる船体。
「っぐ、何とか振り切るぞォッ!!」
奥歯を噛み締めた弦十郎は、すぐさま指示を飛ばし始める。
彼らが足掻いている一方。
高所から海面を見下ろしている影。
レイアだった。
「私達が地味に支援する。その間に果たすといい、ミカ」
その言葉に呼応するように、もう一撃加える海中の巨体。
もちろん逃げようとするS.O.N.G.だが、巨体も簡単に逃がしてくれない。
「ッ船体の損傷率、上昇!」
「このままでは、潜行が困難になりますッ!!」
再びの一撃に揺れる船内。
オペレーター達の報告に、弦十郎が苦い顔をした時だった。
「ッ私が迎え撃つわ!」
「了子さん!?」
一瞬ためらうような表情をした了子が、腹を決めて立ち上がる。
そして驚愕する友里の視線を受けながら、どこかへ移動し始めた。
「ッ俺たちはどうすればいい!?」
本来戦闘向きではない了子の出陣。
しかし、錬金術を始めとした異端技術に明るいのも事実。
足踏みの暇はないと、葛藤を何とか終わらせた弦十郎は。
モニターから目をそらさない程度に振り向き、問いかけた。
「奴を海上へ!さすがに水中じゃ分が悪いわ!」
「わかった!みんな、聞いたなッ!」
呼びかけに対し、オペレーター達は力強く返事。
航行速度や、上昇に最適なポイントを割り出しつつ。
魚雷で挑発と同時に、敵の攻撃を振り切ろうとする。
幸いというべきか、相手は殴打や掴みかかりなどの物理的な近接攻撃しかしてこない。
奴の指先をかすめる程度の速度で、何とか海面に浮かび上がる。
背後の敵も、同じように浮上。
大量の飛沫を上げながら、敵は姿を現した。
ぎょろりと巨大な目玉に、服の代わりのように巻かれた包帯。
そのビジュアルは、さながら巨大なミイラと言えるものだった。
S.O.N.G.の潜水艦を見下ろした巨大ミイラ。
海上に誘い出されてもなお、攻撃を加えようとする。
大木なんてめじゃない太さの腕が、振り下ろされようとして。
「――――カルナッ!!」
飛び込む、影。
躍り出たそいつは、力強く敵の腕をはじき返す。
あまりの力に仰け反る巨大ミイラ。
心なしか、その顔は驚愕しているように見えた。
「――――さすが、うちのスタッフは優秀ね」
艦橋に響く、了子の不敵な声。
彼女がつけているであろう通信機からは、キリキリという音も聞こえる。
「ここでなら、こいつも遠慮なく暴れられるってもんよ」
甲板が映し出されたモニター。
了子の隣に控える、人型の大柄な物体。
ミイラも同じように疑問に思ったのか、何者かと言いたげに凝視する。
「
言いながら了子が指を動かすと、今度はぶゎん、という音。
すると呼応するように隣の人形―――了子の言から察するに、『カルナ』というらしい―――が動き、槍を構えた。
再び聞こえたキリキリという音から、両手にはめた操り糸で操作しているらしい。
「私もこれを使うのは久々でな、せいぜい肩慣らしに付き合ってくれ」
煽るように笑いかければ、巨大なミイラは雄叫びを上げて応えた。
◆ ◆ ◆
「――――これっぽっちィ?」
目の前。
絵馬に埋もれて痛みにもがく、調と切歌を見下ろし。
ミカは心底がっかりした様子でため息。
「これじゃあ、改造前の方がまだ手ごたえあったゾ」
「ッ舐めるなァ!!」
煽りに引っかかった切歌が、瓦礫を散らして飛び掛かる。
冷静さを欠いていることに加えて、疲労もあってか。
その攻撃は大ぶりで単調だ。
当然難なく捌かれ、突き飛ばされる。
「はあッ!」
入れ替わるように飛び掛かるのは調。
鋸を唸らせ、刈りかかる。
一つ、二つ、三つ。
途中でヨーヨーも加えて、さらに苛烈に攻めていく。
手数を駆使した連撃は、
「そぉりゃッ!!」
「ああッ!」
しかし、ミカには届かない。
「調ッ!このッ・・・・!」
憤慨した切歌が、また攻め立てようとするが。
疲労とダメージが蓄積しきった体では、再び弾かれて終わった。
「ぐ、は・・・・!」
「切ちゃん!」
胸と腹。
胴体二か所に重い打撃を撃ち込まれて、今度こそ倒れ伏す切歌。
「まずは一人ダゾォー!!」
好機と言わんばかりに両手を上げたミカは、ありったけの火炎を放った。
炎と熱気の濁流が、切歌の小さな体を飲み込もうとして。
「――――させる」
阻むように立ちはだかる。
「――――もんかぁッ!!」
調。
めいっぱい巨大にした四つの鋸と、踏ん張りの利きにくいヒールで。
必死になって、食い止めていた。
高温に炙られて、一気に赤く腫れあがる肌。
「調ッ!?」
目の当たりにした切歌が、案じて身を起こしたところで。
攻撃は止んでくれた。
「調ッ!」
切歌は崩れ落ちる調に駆け寄り、抱き上げる。
真っ赤になった肌は、見ているだけで痛みを想像させた。
「なんで、なんで庇ったりしたデスか!?」
有様に動揺した切歌。
気づけばそんな怒声を放っていた。
意識を失いかけていたのか、寝起きのようにゆっくり目を開ける調。
やがて、唇を動かす。
「大好き、だから」
ミカは勝ちを確信しているからか、手を出してくることはない。
静寂が訪れていたからか、切歌の耳には、やけにはっきり聞こえた。
「切ちゃんが、大好きだから」
傷ついた姿は弱弱しく。
しかし、嘘をついているようには思えない。
調はこんな局面で、ふざける子ではない。
「マリアが、響さんに殺されかけたあの日・・・っ・・・・復讐以外に、決めたんだ」
痛みに耐えながら起き上がる調。
切歌はそれを手伝いつつ、耳を傾け続ける。
「マムも、マリアも、切ちゃんも、守りたいって・・・・だからッ」
疲労と痛みで震えながら立つ姿に、切歌は呆然としていた。
だってその願いは、決意は。
切歌だって、胸に秘めているものだったから。
同時に気づいたから。
調にも、願いを抱える意思があると。
だからこそ、踏み出して。
「・・・・それは」
倒れそうになった肩を支えて、ミカを見据える切歌。
「それは、あたしだって同じデス!調もマリアも、まとめて守りたいんデス!」
ミカは鳥居の上。
単純に高いところに立っているだけなのだが、それだけでずっと強敵のように思える。
――――だから、なんだ。
「だったら・・・・!」
調も同じことを考えていたのか。
ぐっと踏ん張って、切歌と肩を並べる。
「だったら、二人でやろう。きりちゃん・・・・!」
負けないようにミカを睨み返しながら、震えを抑え込んだ。
「二人で、まずはあいつを倒そう・・・・!」
しかし、蟠りを超えたとしても。
今のままではミカに一矢報いることすらできないだろう。
ならば、選択肢は。
「イグナイト・・・・やろう!」
「二人でなら、きっと!」
手を握り合ったまま、胸元に手を伸ばして。
「「――――イグナイトモジュールッ!!」」
「「――――抜剣ッ!!」」
同時に響く、『Dainsleif』の電子音。
瞬間、例にもれず闇が襲い掛かった。
これまでに抱いた恐怖、恨み、辛み。
暴風となった暗い感情が、心をかき乱し、自我を貪ろうとする。
正直言って、厳しい。
ふとした瞬間に、沈んでしまいそうになる。
しかし、しかしだ。
二人には、繋ぎ止める者がある。
同じ願いを、決意を抱く。
大切な家族が、隣にいる。
だから、こんな闇の一つや二つ。
(乗り越えて・・・・!)
(なんぼデース!!)
頭のどこか、撃鉄が下りるような音がして。
「・・・・にははははッ」
ミカが悦に笑う先。
闇を従えた、調と切歌が。
強く強く、見上げている。
不屈の視線を、たぎる闘志を向けられたミカは。
「楽しくなってきたゾオォ――――ッ!!!」
文字通り炎を爆発させる。
その威力は、自らの衣服を消し飛ばすほど。
髪もほどけ、人形としての特徴を惜しげもなくさらけ出した姿。
にじみ出る熱気が、彼女の本気を示していた。
広がる熱風に、一瞬目を細めた調と切歌だったが。
それだけで切り返すと、一気に踏み込んで飛び出した。
「にゃはははははははッ!きーはははははははははははッ!!!」
これまでとは比べ物にならないテンポで、結晶を生み出し飛ばしてくるミカ。
速度とサイズは、桁違いだ。
だが、調と切歌も負けてはいない。
飛ばされる結晶を斬っては捨て、切っては捨て。
時には足場にしながらミカに接近する。
まずは調がたどり着き、一閃。
続けてやってきた切歌が、背後から強襲する。
ミカはすれ違わせるようにいなして頭上を取ると、炎を豪雨のように降らせた。
降り注ぐ炎を薙ぎ払い、再び飛び掛かる調と切歌。
鋸と鎌、それぞれで炎を払い続けながら。
今度は切歌が先に到達。
大ぶりの連撃を繰り出し、ミカの行動を制限しようとする。
当然簡単に思い通りにならないミカ。
一瞬で見抜いて鎌を弾き飛ばすと、蹴り飛ばして距離を取ろうとする。
強い打撃に怯んだ切歌だったが、防御は間に合ったおかげで大したことはない。
そして、切歌の穴を埋めるように調が突撃。
切歌への攻撃をさりげなく防御しながら、もう片方で小型の丸鋸を連射してミカをけん制する。
だが、片手間の攻撃では攻め切れない。
ミカは防御で手薄になっている側に回り込むと、押しのけるように殴り飛ばす。
後方に吹っ飛んでいく調に、ミカは結晶を何本もばら撒いて。
哀れ、調は業火に包まれた。
「調ッ!こっの!」
歯を向いた切歌が、両肩からワイヤーを発射する。
しかし二本ともミカを掠ることなく、無意味にまっすぐ伸びていった。
「あははは!残念だったゾ!」
ミカは新たな結晶を握ると、まずは切歌を仕留めようと飛び掛かる。
片方が敗れたコンビネーション、迫りくる敗北、巻き返せない状況。
言うまでもなく勝利を確信していたミカは、
「――――なんちゃって、デス」
切歌が浮かべた笑みに、不意を打たれた。
刹那、背後で歌声。
弾かれるように振り向けば、力強く歌い続けている調の姿が。
切歌が放ったワイヤーを装着し、猛進してきていた。
いくらミカが人外と言えど、進みだしてしまった体を転換することは出来ない。
「爆発する小物なんて!」
「こっちはとっくに経験済みデス!」
ぎらつく鎌、唸る丸鋸。
煌炎を受けて輝く二刃は、決して獲物を逃さなかった。
◆ ◆ ◆
一方、S.O.N.G.本部の戦いも決着が着くところだった。
錬金術で凍らせた海を足場に、潜水艦から離れることに成功していた了子。
最後の仕上げとばかりに糸を引き絞り、弾ませて。
巨大ミイラの右肩にとりついた
邪魔だと言いたげにもう片手が伸ばされてきたタイミングを狙い。
了子は操る手で、菩薩の形を取って。
「――――ヴァサヴィ・シャクティ」
瞬間、激しく発光する人形の体。
巨大ミイラが思わず動きを止める前で、光が限界に達したとき。
はじけ飛んだ鎧が、トリガーになって。
「――――ッ」
轟音が響く中、突風から顔を庇っていた了子。
飛ばされた眼鏡の安否をほんのり気にかけながら、腕をどけてみれば。
巨大ミイラは、右腕を根元から捥がれていた。
「――――ッ!!!!!」
片腕を奪われたことに、怒りを覚えたのだろう。
飛び掛かろうと、身をかがめたところで。
「待て」
肩に、レイアが乗ってきた。
「派手な怒りはもっともだが、このままでは地味に不利」
諭すように語りかけると、高所から了子を見下ろして。
「次派手に暴れるためにも、地味な撤退をするべきだ」
言葉に納得がいったのか、そもそもなんでも言うことは聞く性分なのか。
ミイラがあまり間を置かず頷いたのを確認して、レイアはテレポートジェムを使った。
「・・・・ふう」
敵がまとめて撤退していったのを確認して、了子も一息。
『了子君!怪我は!?』
「ないわよ、お気に入りの白衣が汚れたのと。眼鏡が歪んじゃったくらい」
埃を払ったり、すぐ後ろに落ちていた眼鏡に安堵したり。
通信に冗談交じりで応えれば、明らかにほっとした弦十郎の声。
『調君と切歌君の方も、無事敵を撃破したということだ』
「ひとまず落着ってことかしらね」
『そんなところだ。そっちにも迎えをよこす、戻ったらゆっくりしてくれ』
「はーい」
通信がひと段落したところで、もう一度息を吐く了子。
襲撃を乗り越えたとはいえ、事件解決にはまだほど遠いとみていいだろう。
問題だって山積みだ。
(あの子も、立ち直れるといいのだけど)
そのうちの一つ。
渦中にいる少女を想起しながら、やってくるゴムボートを見つけた了子だった。
◆ ◆ ◆
チフォージュ・シャトー。
安置されていた棺桶が、突如として冷気を吐き出した。
重々しい音を立てて蓋が開き、中で眠っていた人物が。
死亡したはずの、キャロル・マールス・ディーンハイムその人が。
体の調子を確かめるように、ゆっくり立ち上がった。
「お目覚めですか、マスター」
「ああ、記憶の転写は完了・・・・っぐ」
ファラに答えた途端、苦悶の声を上げて膝をつくキャロル。
「マスター?」
「気にするな・・・・転写を急いだばかりに、拒絶反応が起こるようになったようだな」
何でもないようにふるまっているものの、玉座に座った表情はよろしくない。
「・・・・少し、お休みになられては?」
「ならん、計画は予定通りに進める」
案ずるファラの提案を一蹴しながら、キャロルはここではないどこかへ意識を向けた。
『調ちゃんと切歌ちゃん、大活躍だって?』
視界が切り替われば、頼りないつくり笑顔を浮かべる響の顔。
『すごいなぁ、わたしも負けてらんないや』
「・・・・ああ、そうだな」
響の言葉に、キャロルは不敵な笑みを浮かべる。
「俺も、負けるわけにはいかん」
その真意は、果たして。
了子さんも割と出張ってしまった回。
ひとまず、(個人的に)かっこよく書けて満足。
おまけ
有事の備えとして、国連がS.O.N.G.に所有することを許可したフィーネの遺産の一つ。
筋骨隆々な、古代インドの重装歩兵の姿をした人形。
鎧が起爆スイッチの役割を果たしており、これをパージすることで点火。
火薬と炎の錬金術による強力な自爆攻撃を仕掛ける(この自爆で破棄出来ることが、所有許可の理由になった)。
元の戦闘スペックもなかなかのもの。
名前から別作品の彼を想像しがちだが、ビジュアルは全くの別物である。