チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ザババの絆

「戻ったゾー」

 

チフォージュ・シャトー。

響達をあしらったミカが、ぴょんぴょん跳ねながら帰還。

玉座の間の中央にある装置へ、持っていたデータディスクを挿入する。

すると、空中に画面が展開。

首都圏周辺のマップと、何らかの流れが表示された。

 

「派手にひん剥いたな」

「ええ、上出来ね」

 

流れが集中している地点を見つめながら、ファラとレイアは満足げだ。

ミカもしてやったりと言わんばかりににやついていたが、やがて笑みを収めると踵を返す。

 

「待て、どこへ行く?」

「やるべきことは分かっている、あとは好きにさせてほしいゾ」

 

気が付いたレイアが引き止めると、やや苛立った口調で返すミカ。

一瞬眉をひそめたレイアだったが、ふと、頭上を見上げたことで意図を理解した。

 

「・・・・そうか」

 

それぞれのオートスコアラー達の上に下がっている垂れ幕。

そのうちの一つ、ガリィがいなくなった代わりに、模様が刻まれた青の垂れ幕を見上げながら。

去っていくミカを見送りつつ、次は赤の垂れ幕だろうと予想をつけた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――昔はすっごく優しかったんです、お姉ちゃん」

 

一夜明けて、鈍行列車の中。

すっかり回復した香子は、景色をぼんやり見ながらとつとつ語りだした。

同行していたマリア(髪留めと帽子で変装済み)は、静かに耳を傾ける。

 

「小っちゃい頃、眠れなかった時があって。一緒に夜更かししてくれたことがあったんです。『お母さんにないしょね』って、ジュースを飲ませてくれたり、同じ布団で寝てくれたり」

 

懐かしむ横顔は、楽しそうにも、寂しそうにも見えた。

一緒に寝るくだりはマリアにも覚えがあったので、思わず笑みをこぼす。

 

「お姉ちゃんはいつもわたしの憧れで、だから、大きくなったらお姉ちゃんみたいになりたいっていつも思ってて」

 

こぼれるのは、『妹』特有の想い。

誰から見ても理想の姉に憧れる、微笑ましい願い。

 

「――――でも」

 

そんな純粋な言葉が、陰る。

 

「お姉ちゃんは、そう思っていなかったんでしょうか」

 

香子が思い出しているのは、昨日のやり取りだろう。

響がすでに帰ってしまったことを聞かされた彼女は、マリアから見ても落ち込んでいた。

 

「本当は面倒くさいって思ってて、だからわたしを置いていったのかな」

 

ふと、視線を落としたマリア。

膝に置かれた香子の手が、きつく握られているのが見える。

 

「未来ちゃんとの旅に、連れてってくれなかったのかな」

 

いつの間にか、語る言葉は寂しさに満ち切ってしまっていて。

心なしか、声に涙が混じっているようにも聞こえた。

 

「・・・・私から言わせてもらえば」

 

がたん、かたんと、電車が揺れる音に耳を傾けながら。

ゆっくり口を開く。

 

「あの子は単に臆病なだけよ、ボロを出さないよう必死に取り繕っているだけ」

 

見上げてくる香子の視線を受けながら、マリアは続ける。

 

「大切だからこそ、距離を置いて離れようとする・・・・そういう人なのよ、あなたのお姉さんは」

「大切・・・・」

 

言い終えた後で、香子の様子を見てみる。

吐いた唾は呑み込めないと言えども、言い過ぎではないかと思ったからだ。

そんなマリアの胸中を知ってか知らずか、香子は俯いて黙っていた。

落ち込んでいる、というより、考え込んでいるようだった。

 

「・・・・でも」

 

やがて、香子は再び口を開く。

 

「でも、わたしは、一緒に行きたかったです」

 

切なく、それだけを零して。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

さて、調と切歌の不仲はまだまだ続いていた。

一夜明け、学校も終わった帰り道。

何となく距離を置いて歩く二人の間に、会話はない。

考え方は違えど、思うのは昨日の戦闘だ。

 

『どうして守ったのか』

『どうして守らせてくれないのか』

 

沈黙は続き、感じないはずの痛みを感じて仕方がなかった。

 

「・・・・私に、何か言いたいことがあるんじゃないの?」

 

やがて、調が口火を切った。

やや苛立った口調で、前を歩く切歌に言葉をぶつける。

 

「それは調の方じゃ・・・・!」

 

同じく苛立つ口調で返す切歌。

だが、すぐに噤んでしまった。

また言い合いに発展するからだと気づいた調も、気まずそうに俯く。

どことなく重い空気が、流れようとして。

 

「きゃああああああああッ!!」

 

絹を裂くような悲鳴に、肩を跳ね上げる。

振り向けば、傍らに見えていた屋台が燃えていた。

周辺には赤い結晶がばら撒かれ、次々爆炎が噴き上がっている。

 

「こ、これって・・・・わっ!」

「あたし達を焚きつけるつもりデス!」

 

驚愕を口にする前に、背後でまた爆発。

危険と判断した二人は、何とか損傷の少ない場所へ向かう。

はっと気配に気づいて見上げると、ミカがにやにや笑って見下ろしてきていた。

損壊した鳥居の上に、罰当たりに陣取っている。

 

「足手まといと、侮っているというのならッ・・・・!」

 

向けられる笑みに、不快感を覚えた調。

歯を向いて睨みつけつつ、ギアペンダントを握りしめた。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「――――二人とも!応援の到着まで、なんとか持ちこたえてくれ!!」

 

当然、ミカの出現を察知していたS.O.N.G.本部。

交戦し始めた調と切歌を目の当たりにした弦十郎は、急ぎ他の装者達にも連絡を取ろうとして。

 

「うおッ!?」

 

激しく揺れる船体に、艦橋が一様に動揺した。

モニターを切り替えてみれば、海中で本部に攻撃を仕掛けている。

 

「巨大な人影、だと・・・・!?」

 

驚愕も束の間、再び揺れる船体。

 

「っぐ、何とか振り切るぞォッ!!」

 

奥歯を噛み締めた弦十郎は、すぐさま指示を飛ばし始める。

彼らが足掻いている一方。

高所から海面を見下ろしている影。

レイアだった。

 

「私達が地味に支援する。その間に果たすといい、ミカ」

 

その言葉に呼応するように、もう一撃加える海中の巨体。

もちろん逃げようとするS.O.N.G.だが、巨体も簡単に逃がしてくれない。

 

「ッ船体の損傷率、上昇!」

「このままでは、潜行が困難になりますッ!!」

 

再びの一撃に揺れる船内。

オペレーター達の報告に、弦十郎が苦い顔をした時だった。

 

「ッ私が迎え撃つわ!」

「了子さん!?」

 

一瞬ためらうような表情をした了子が、腹を決めて立ち上がる。

そして驚愕する友里の視線を受けながら、どこかへ移動し始めた。

 

「ッ俺たちはどうすればいい!?」

 

本来戦闘向きではない了子の出陣。

しかし、錬金術を始めとした異端技術に明るいのも事実。

足踏みの暇はないと、葛藤を何とか終わらせた弦十郎は。

モニターから目をそらさない程度に振り向き、問いかけた。

 

「奴を海上へ!さすがに水中じゃ分が悪いわ!」

「わかった!みんな、聞いたなッ!」

 

呼びかけに対し、オペレーター達は力強く返事。

航行速度や、上昇に最適なポイントを割り出しつつ。

魚雷で挑発と同時に、敵の攻撃を振り切ろうとする。

幸いというべきか、相手は殴打や掴みかかりなどの物理的な近接攻撃しかしてこない。

奴の指先をかすめる程度の速度で、何とか海面に浮かび上がる。

背後の敵も、同じように浮上。

大量の飛沫を上げながら、敵は姿を現した。

ぎょろりと巨大な目玉に、服の代わりのように巻かれた包帯。

そのビジュアルは、さながら巨大なミイラと言えるものだった。

S.O.N.G.の潜水艦を見下ろした巨大ミイラ。

海上に誘い出されてもなお、攻撃を加えようとする。

大木なんてめじゃない太さの腕が、振り下ろされようとして。

 

「――――カルナッ!!」

 

飛び込む、影。

躍り出たそいつは、力強く敵の腕をはじき返す。

あまりの力に仰け反る巨大ミイラ。

心なしか、その顔は驚愕しているように見えた。

 

「――――さすが、うちのスタッフは優秀ね」

 

艦橋に響く、了子の不敵な声。

彼女がつけているであろう通信機からは、キリキリという音も聞こえる。

 

「ここでなら、こいつも遠慮なく暴れられるってもんよ」

 

甲板が映し出されたモニター。

了子の隣に控える、人型の大柄な物体。

ミイラも同じように疑問に思ったのか、何者かと言いたげに凝視する。

 

絡繰人形(マリオネット)・・・・自動人形(オートスコアラー)の原型となった、機械兵器だ」

 

言いながら了子が指を動かすと、今度はぶゎん、という音。

すると呼応するように隣の人形―――了子の言から察するに、『カルナ』というらしい―――が動き、槍を構えた。

再び聞こえたキリキリという音から、両手にはめた操り糸で操作しているらしい。

 

「私もこれを使うのは久々でな、せいぜい肩慣らしに付き合ってくれ」

 

煽るように笑いかければ、巨大なミイラは雄叫びを上げて応えた。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「――――これっぽっちィ?」

 

目の前。

絵馬に埋もれて痛みにもがく、調と切歌を見下ろし。

ミカは心底がっかりした様子でため息。

 

「これじゃあ、改造前の方がまだ手ごたえあったゾ」

「ッ舐めるなァ!!」

 

煽りに引っかかった切歌が、瓦礫を散らして飛び掛かる。

冷静さを欠いていることに加えて、疲労もあってか。

その攻撃は大ぶりで単調だ。

当然難なく捌かれ、突き飛ばされる。

 

「はあッ!」

 

入れ替わるように飛び掛かるのは調。

鋸を唸らせ、刈りかかる。

一つ、二つ、三つ。

途中でヨーヨーも加えて、さらに苛烈に攻めていく。

手数を駆使した連撃は、

 

「そぉりゃッ!!」

「ああッ!」

 

しかし、ミカには届かない。

 

「調ッ!このッ・・・・!」

 

憤慨した切歌が、また攻め立てようとするが。

疲労とダメージが蓄積しきった体では、再び弾かれて終わった。

 

「ぐ、は・・・・!」

「切ちゃん!」

 

胸と腹。

胴体二か所に重い打撃を撃ち込まれて、今度こそ倒れ伏す切歌。

 

「まずは一人ダゾォー!!」

 

好機と言わんばかりに両手を上げたミカは、ありったけの火炎を放った。

炎と熱気の濁流が、切歌の小さな体を飲み込もうとして。

 

「――――させる」

 

阻むように立ちはだかる。

 

「――――もんかぁッ!!」

 

調。

めいっぱい巨大にした四つの鋸と、踏ん張りの利きにくいヒールで。

必死になって、食い止めていた。

高温に炙られて、一気に赤く腫れあがる肌。

 

「調ッ!?」

 

目の当たりにした切歌が、案じて身を起こしたところで。

攻撃は止んでくれた。

 

「調ッ!」

 

切歌は崩れ落ちる調に駆け寄り、抱き上げる。

真っ赤になった肌は、見ているだけで痛みを想像させた。

 

「なんで、なんで庇ったりしたデスか!?」

 

有様に動揺した切歌。

気づけばそんな怒声を放っていた。

意識を失いかけていたのか、寝起きのようにゆっくり目を開ける調。

やがて、唇を動かす。

 

「大好き、だから」

 

ミカは勝ちを確信しているからか、手を出してくることはない。

静寂が訪れていたからか、切歌の耳には、やけにはっきり聞こえた。

 

「切ちゃんが、大好きだから」

 

傷ついた姿は弱弱しく。

しかし、嘘をついているようには思えない。

調はこんな局面で、ふざける子ではない。

 

「マリアが、響さんに殺されかけたあの日・・・っ・・・・復讐以外に、決めたんだ」

 

痛みに耐えながら起き上がる調。

切歌はそれを手伝いつつ、耳を傾け続ける。

 

「マムも、マリアも、切ちゃんも、守りたいって・・・・だからッ」

 

疲労と痛みで震えながら立つ姿に、切歌は呆然としていた。

だってその願いは、決意は。

切歌だって、胸に秘めているものだったから。

同時に気づいたから。

調にも、願いを抱える意思があると。

だからこそ、踏み出して。

 

「・・・・それは」

 

倒れそうになった肩を支えて、ミカを見据える切歌。

 

「それは、あたしだって同じデス!調もマリアも、まとめて守りたいんデス!」

 

ミカは鳥居の上。

単純に高いところに立っているだけなのだが、それだけでずっと強敵のように思える。

――――だから、なんだ。

 

「だったら・・・・!」

 

調も同じことを考えていたのか。

ぐっと踏ん張って、切歌と肩を並べる。

 

「だったら、二人でやろう。きりちゃん・・・・!」

 

負けないようにミカを睨み返しながら、震えを抑え込んだ。

 

「二人で、まずはあいつを倒そう・・・・!」

 

しかし、蟠りを超えたとしても。

今のままではミカに一矢報いることすらできないだろう。

ならば、選択肢は。

 

「イグナイト・・・・やろう!」

「二人でなら、きっと!」

 

手を握り合ったまま、胸元に手を伸ばして。

 

「「――――イグナイトモジュールッ!!」」

「「――――抜剣ッ!!」」

 

同時に響く、『Dainsleif』の電子音。

瞬間、例にもれず闇が襲い掛かった。

これまでに抱いた恐怖、恨み、辛み。

暴風となった暗い感情が、心をかき乱し、自我を貪ろうとする。

正直言って、厳しい。

ふとした瞬間に、沈んでしまいそうになる。

しかし、しかしだ。

二人には、繋ぎ止める者がある。

同じ願いを、決意を抱く。

大切な家族が、隣にいる。

だから、こんな闇の一つや二つ。

 

(乗り越えて・・・・!)

(なんぼデース!!)

 

頭のどこか、撃鉄が下りるような音がして。

 

「・・・・にははははッ」

 

ミカが悦に笑う先。

闇を従えた、調と切歌が。

強く強く、見上げている。

不屈の視線を、たぎる闘志を向けられたミカは。

 

「楽しくなってきたゾオォ――――ッ!!!」

 

文字通り炎を爆発させる。

その威力は、自らの衣服を消し飛ばすほど。

髪もほどけ、人形としての特徴を惜しげもなくさらけ出した姿。

にじみ出る熱気が、彼女の本気を示していた。

広がる熱風に、一瞬目を細めた調と切歌だったが。

それだけで切り返すと、一気に踏み込んで飛び出した。

 

「にゃはははははははッ!きーはははははははははははッ!!!」

 

これまでとは比べ物にならないテンポで、結晶を生み出し飛ばしてくるミカ。

速度とサイズは、桁違いだ。

だが、調と切歌も負けてはいない。

飛ばされる結晶を斬っては捨て、切っては捨て。

時には足場にしながらミカに接近する。

まずは調がたどり着き、一閃。

続けてやってきた切歌が、背後から強襲する。

ミカはすれ違わせるようにいなして頭上を取ると、炎を豪雨のように降らせた。

降り注ぐ炎を薙ぎ払い、再び飛び掛かる調と切歌。

鋸と鎌、それぞれで炎を払い続けながら。

今度は切歌が先に到達。

大ぶりの連撃を繰り出し、ミカの行動を制限しようとする。

当然簡単に思い通りにならないミカ。

一瞬で見抜いて鎌を弾き飛ばすと、蹴り飛ばして距離を取ろうとする。

強い打撃に怯んだ切歌だったが、防御は間に合ったおかげで大したことはない。

そして、切歌の穴を埋めるように調が突撃。

切歌への攻撃をさりげなく防御しながら、もう片方で小型の丸鋸を連射してミカをけん制する。

だが、片手間の攻撃では攻め切れない。

ミカは防御で手薄になっている側に回り込むと、押しのけるように殴り飛ばす。

後方に吹っ飛んでいく調に、ミカは結晶を何本もばら撒いて。

哀れ、調は業火に包まれた。

 

「調ッ!こっの!」

 

歯を向いた切歌が、両肩からワイヤーを発射する。

しかし二本ともミカを掠ることなく、無意味にまっすぐ伸びていった。

 

「あははは!残念だったゾ!」

 

ミカは新たな結晶を握ると、まずは切歌を仕留めようと飛び掛かる。

片方が敗れたコンビネーション、迫りくる敗北、巻き返せない状況。

言うまでもなく勝利を確信していたミカは、

 

「――――なんちゃって、デス」

 

切歌が浮かべた笑みに、不意を打たれた。

刹那、背後で歌声。

弾かれるように振り向けば、力強く歌い続けている調の姿が。

切歌が放ったワイヤーを装着し、猛進してきていた。

いくらミカが人外と言えど、進みだしてしまった体を転換することは出来ない。

 

「爆発する小物なんて!」

「こっちはとっくに経験済みデス!」

 

ぎらつく鎌、唸る丸鋸。

煌炎を受けて輝く二刃は、決して獲物を逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

一方、S.O.N.G.本部の戦いも決着が着くところだった。

錬金術で凍らせた海を足場に、潜水艦から離れることに成功していた了子。

最後の仕上げとばかりに糸を引き絞り、弾ませて。

絡繰人形(マリオネット)を突撃させる。

巨大ミイラの右肩にとりついた絡繰人形(マリオネット)

邪魔だと言いたげにもう片手が伸ばされてきたタイミングを狙い。

了子は操る手で、菩薩の形を取って。

 

「――――ヴァサヴィ・シャクティ」

 

瞬間、激しく発光する人形の体。

巨大ミイラが思わず動きを止める前で、光が限界に達したとき。

はじけ飛んだ鎧が、トリガーになって。

 

「――――ッ」

 

轟音が響く中、突風から顔を庇っていた了子。

飛ばされた眼鏡の安否をほんのり気にかけながら、腕をどけてみれば。

巨大ミイラは、右腕を根元から捥がれていた。

 

「――――ッ!!!!!」

 

片腕を奪われたことに、怒りを覚えたのだろう。

飛び掛かろうと、身をかがめたところで。

 

「待て」

 

肩に、レイアが乗ってきた。

 

「派手な怒りはもっともだが、このままでは地味に不利」

 

諭すように語りかけると、高所から了子を見下ろして。

 

「次派手に暴れるためにも、地味な撤退をするべきだ」

 

言葉に納得がいったのか、そもそもなんでも言うことは聞く性分なのか。

ミイラがあまり間を置かず頷いたのを確認して、レイアはテレポートジェムを使った。

 

「・・・・ふう」

 

敵がまとめて撤退していったのを確認して、了子も一息。

 

『了子君!怪我は!?』

「ないわよ、お気に入りの白衣が汚れたのと。眼鏡が歪んじゃったくらい」

 

埃を払ったり、すぐ後ろに落ちていた眼鏡に安堵したり。

通信に冗談交じりで応えれば、明らかにほっとした弦十郎の声。

 

『調君と切歌君の方も、無事敵を撃破したということだ』

「ひとまず落着ってことかしらね」

『そんなところだ。そっちにも迎えをよこす、戻ったらゆっくりしてくれ』

「はーい」

 

通信がひと段落したところで、もう一度息を吐く了子。

襲撃を乗り越えたとはいえ、事件解決にはまだほど遠いとみていいだろう。

問題だって山積みだ。

 

(あの子も、立ち直れるといいのだけど)

 

そのうちの一つ。

渦中にいる少女を想起しながら、やってくるゴムボートを見つけた了子だった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

チフォージュ・シャトー。

安置されていた棺桶が、突如として冷気を吐き出した。

重々しい音を立てて蓋が開き、中で眠っていた人物が。

死亡したはずの、キャロル・マールス・ディーンハイムその人が。

体の調子を確かめるように、ゆっくり立ち上がった。

 

「お目覚めですか、マスター」

「ああ、記憶の転写は完了・・・・っぐ」

 

ファラに答えた途端、苦悶の声を上げて膝をつくキャロル。

 

「マスター?」

「気にするな・・・・転写を急いだばかりに、拒絶反応が起こるようになったようだな」

 

何でもないようにふるまっているものの、玉座に座った表情はよろしくない。

 

「・・・・少し、お休みになられては?」

「ならん、計画は予定通りに進める」

 

案ずるファラの提案を一蹴しながら、キャロルはここではないどこかへ意識を向けた。

 

『調ちゃんと切歌ちゃん、大活躍だって?』

 

視界が切り替われば、頼りないつくり笑顔を浮かべる響の顔。

 

『すごいなぁ、わたしも負けてらんないや』

「・・・・ああ、そうだな」

 

響の言葉に、キャロルは不敵な笑みを浮かべる。

 

「俺も、負けるわけにはいかん」

 

その真意は、果たして。




了子さんも割と出張ってしまった回。
ひとまず、(個人的に)かっこよく書けて満足。

おまけ
絡繰人形(マリオネット)『カルナ』
有事の備えとして、国連がS.O.N.G.に所有することを許可したフィーネの遺産の一つ。
筋骨隆々な、古代インドの重装歩兵の姿をした人形。
鎧が起爆スイッチの役割を果たしており、これをパージすることで点火。
火薬と炎の錬金術による強力な自爆攻撃を仕掛ける(この自爆で破棄出来ることが、所有許可の理由になった)。
元の戦闘スペックもなかなかのもの。
名前から別作品の彼を想像しがちだが、ビジュアルは全くの別物である。

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