チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ご感想お返事できずにすみません。
ちゃんと目を通しています。
ひとつだけ言わせてもらうなら・・・・。


おとん『とは』なにもないですよ、とだけ。




『水責め』

「そういえば」

 

シンフォギアの修復に追われるS.O.N.G.本部。

忙しなくキーボードを打ち続ける藤尭は、思い出したように口を開く。

 

「執行者事変の際の・・・・了子さんが、ネフィリムをぶちのめした能力って?」

「ああ、あれ?」

 

いろんな意味で忘れられない出来事であったため、了子はすぐに思い出せたらしい。

 

「やっぱり錬金術なんです?」

「ええ、そうよ。ちなみに未来ちゃんを治療したのもそれね」

 

特に隠す理由もなかったらしい。

あっさり白状された内容に、藤尭は感心したように声を上げた。

 

「ささ、早いとこ進めちゃいましょ。響ちゃん一人に負担が集中しちゃってるんだから」

「はーい」

 

話は切り上げられ、作業を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、響?」

「やっほ」

 

未来が今日の学校を終えたところ、校門の前に響が待っていた。

私服であるため、仕事というわけでもないようだ。

 

「状況が状況だから、半ドンで終わったんだ」

「ああ」

 

そういえば、また物騒な輩が出てきたらしい。

翼やクリスが大変なことになったとかで、先日まで響が忙しそうにしていたのを覚えている。

説明に納得して頷いたものの、未来の胸中はもやがかかっていた。

 

(神獣鏡さえ使えたなら、せめてクリスだけでも助けられなかったのかな)

 

一応装者として登録されているものの、纏うべきシンフォギアがない未来。

国連からは、未だに作成の許可が下りないらしい。

・・・・手助けする為の力も手段もあるのに、自分だけではどうにもできない。

一度考え始めると、暗雲はさらに立ち込めていく。

 

「あれ、ビッキー?」

「本当だ、お久しぶりですね」

「わたしだよー、みんな元気そうでよかった」

 

そんな暗い思考を一時払ったのは、後ろからやってきた、弓美、詩織、創世の三人。

久方ぶりに会う友人に、響の顔がどことなくほころんだ。

はにかんだ笑顔が、本人の知らぬところで未来を救う。

 

「何々?旦那サマらしくお迎えとかー?」

「んっふっふっふっ・・・・そこを見抜くとは、やはり只者ではないな。越後屋ァ・・・・」

「いえいえ、お代官様ほどでは・・・・」

 

未来の内心など露知らず。

演技を始めた弓美と響の隣で、未来は照れるやら呆れるやら。

今度は微妙にひきつった笑みを浮かべていた。

校門の前で何時までも駄弁っているわけにもいかないので、ぼちぼち帰路へ就く。

お互いの近況や昨日のテレビ、学校や職場での愚痴など。

話題を二転三転させながら、ゆったり歩いていく。

 

「あー、そだ」

 

と、その最中。

何か思い出した響が、ぽつっと語りだす。

聞けば、先日の騒動の中で、S.O.N.G.が保護した子がいるらしい。

落ち着いたら外出も出来そうなので、よければ一緒に遊んでやってくれないかと言うことだった。

 

「へぇー、相変わらず大変そうね」

「男の子?女の子?」

 

どこか感嘆の声を上げる弓美を横目に、当然の疑問を口にした創世。

すると、

 

「女の子・・・・うん、女の子、だね」

「え、何々?その言い方、気になるじゃない」

 

響はどこか困ったように言いよどんだ。

何だか含みのある言い方に、好奇心をくすぐられた弓美が、もっと聞き出そうとして。

 

「――――ハァーイ」

 

ふいに掛けられた声には、危機感を煽る響きがあった。

勢いよく振り向けば、先日後ろから刺しに来た青い自動人形(オートスコアラー)―――エルフナインによれば『ガリィ』というらしい―――が。

いやらしい笑みを浮かべてこちらを見ている彼女は、徐に何かをばら撒く。

内側で赤い光を燈す結晶が何なのか、分かっていたからこそ。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron !!」

「ッみんな、伏せて!!」

 

響は直ちに唱えて、飛び出す。

未来達がそろって身をかがめれば、現れた傍から刃を突き立てられるノイズ達。

何かことを起こす前に、次々赤い塵と消える。

 

「来るとは思っていたけど、こんなに早いなんてね」

 

響は挑発的に笑いながら、指の間に刃を挟めて構え、威嚇。

一方のガリィは流石に驚いていたようだったが、また濃く笑みを浮かべた。

 

「そりゃあ、あんたは最大の不安要素なんだから」

 

両手に水をたたえて、同じように構える。

 

「早々に仕留めとかないとねぇ?」

「あっはー!モテるって辛いなー!」

 

未来達が、顔の見えない背後にいるのをいいことに、思いっきり狂暴な笑みを浮かべた響。

一瞬未来に目配せした後、強く踏み込んでガリィに飛び掛った。

 

「今のうちに、響なら大丈夫!!」

「いる方が邪魔になるか、分かった!」

 

目配せを受けた未来が、友人達を逃がしているのを察しながら。

響は彼女等に向けて放たれたノイズを、片っ端から殲滅していく。

至近距離で目の当たりにして思うのは、人形とされる敵の、造詣の精密さ。

手元や足元の球体関節を見なければ、人間を名乗られても信じてしまうだろう。

そして手を上げることを、わずかばかり躊躇ってしまうかもしれない。

だが、人間ではないと聞かされている今では。

油断なく躊躇いなく、攻撃を加えることが出来た。

 

「おっら!」

 

ずどん、と踏み込み。

衝撃が地面をダイレクトに揺さぶり、滑走して移動していたガリィの体勢を崩す。

ここで初めて苦い顔を晒したガリィ。

瓦礫の間に転がりながらも、接近してくる響に対応すべくノイズをばら撒く。

必然対応に追われる響、その合間にガリィは何とか立ち直った。

タッチの差でノイズを片付けきった響は、今度こそガリィへ急接近。

唸る拳を、鋭く突き出して。

 

「・・・・ッ!?」

 

虚しく弾けた水に、呆気に取られる。

 

「こっちだ、バァーカッ!!」

「な、ゎぶ・・・・!?」

 

一瞬は見逃してもらえなかった。

声がしたほうを振り向けば、大量の水に押し流される。

地に足を付けられず、水が引いた後も上手く立てずにきりもみする。

 

「げっほ、ごほごほごほっ!」

 

ようやく落ち着いても、喉に入った水で咳き込んでしまった。

ずぶ濡れでひれ伏す響を、ガリィは面白そうに見下す。

 

「ところでアンタ、いつまでいい子ちゃんぶるつもり?」

「・・・・一体何の?」

「とぼけたって無駄よ、自覚はあるんでしょ?」

 

バレェのようにくるくる回るガリィ。

 

「ちっぽけな『お宝』を取り上げられないように、幾百幾千もの命を刈り取ってきた邪竜ファフニール。アンタの両手には、殺された何千人もの怨念が染み付いていることでしょうね」

「・・・・そうだよ、だからわたしは」

「救い続ければ罪がなくなるとでも?あはははははッ!!甘い甘い甘いィ!!」

 

過去の罪を掘り返すガリィに対し、今更なんだと睨みつける響。

その顔は痛みを堪えているようで、反面、罪を背負う決意をした強い目。

しかしガリィは嘲笑を返す。

 

「アンタが何しようがどうしようが、アンタが殺したことに変わりはない!アンタが奪ったことに変わりはない!」

 

響がはっきり動揺を見せたのをいいことに、言葉で畳み掛けていくガリィ。

 

「だいたい誰が助けてくれって言ったのよ?誰が守ってくれっていったのよ!?全部全部アンタの独りよがりなんでしょ!?どぉーせさぁッッ!!」

「・・・・・ッ」

 

響が何も言い返さないのは、ぐぅの音も出ないほどに図星だから。

・・・・未来を守り続けたのは、失いたくなかったから。

そこに未来本人の意思があるかどうかを聞かれると、悲しいくらいに心当たりが無かった。

 

「・・・・は」

 

無意識に抑えた胸が、とても冷たいことに気付く響。

まるで穴が開いたように寒く感じた。

今まで以上に、下卑た笑みを浮かべたガリィは。

その大きな隙を見逃さない。

両手を地面に向ければ、生まれた水が氷となり、鋭い氷柱が響に襲い掛かる。

 

「あ、ぐ・・・・!」

 

間一髪の所で飛びのいた響だったが、かわしきれず右肩にくらう。

掠めた傷口から血が噴き出し、腕を伝って指から落ちて行く。

そうなっても考えるのは、ガリィに指摘されたことだった。

――――自分勝手なのは、重々承知しているつもりだった。

それでも立ち止まらなかったのは、笑ってくれる人がいるから。

感謝してくれる人がいるから。

だけどその『笑って感謝してくれる人』すら、ほんの一握りしかいないことに気づいてしまって。

大多数の掲げる、『人を殺してはいけない』という『正義』に。

自分自身は何より、その人達すら飲み込まれかねないことに気がついた。

 

「何もかも図星ってとこ?敵の目の前で呆けるなんて、どーしようもないわねッ!!」

「っは、わあっ!?」

 

再び襲う激流。

水の中に、一緒になって迫るノイズをちらちら見つける。

また水に足を取られながらも、接近するノイズを何とか撃退。

激流から抜け出して、今度こそガリィを殴り飛ばそうとして。

――――力が抜ける。

何事かと体を見下ろせば、まとったギアが消えていた。

 

「わっ、だっ・・・・!」

 

受身を取れず、もろに倒れこむ響。

胸やひじを強打し、痛みに顔を歪めた。

 

「あーあー、ギアにも見放されたァ?ダサッ」

 

一方のガリィは、敵が著しく弱体したというのに、なぜか不満げに見えて。

その様に、響はわずかながら違和感を覚える。

しかし、わずかであるがゆえに、すぐに自責で押し流され跡形もなく消えてしまった。

 

「ほらほら、早く纏いなおさないと死ぬよー?あははははははッ!!」

 

ガリィは容赦なく攻撃を続け、響は必死に避け続ける。

心にダメージを受けた体は重たかったが、止まれば死ぬのは明白だった。

 

「っしま・・・・!」

 

猛攻の最中、小石が手元に当たり、衝撃で握り締めていたギアペンダントが飛んでいく。

拾いに行こうと目を向けたのも束の間、気配を感じて弾かれる様に向き直れば。

眼前に迫るノイズ達。

今の響は生身。

 

「――――」

 

走馬灯が、走りかけて。

 

「――――Granzizel bilfen gungnir zizzil」

 

目の前をよぎる、太い極光。

とっさに飛びのいた響が、光が飛んできた方向を見てみれば。

マントのない状態の、黒いガングニールをまとったマリアが。

よほど急いできたのか、肩で息をしながら立っていた。

 

「無事?まだ生きてる?」

 

息を整えた彼女は、そんな軽口をたたきながら微笑みかける。




この主人公しょっちゅうメンタル折れてんな()

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