チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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実際会ったらおっかない

二課本部。

機密を目撃してしまった弓美達は、諸々の注意事項を受けていた。

ようやく解放されたのは、23時を回る頃。

廊下に出たそれぞれが、伸びをしたりため息をついたりして、にごった頭をリセットしていると。

未来が座り込んでいるのを見つけた。

暗い顔で、ここではないどこかを見つめている。

 

「大丈夫?」

「ぇ、あ・・・・うん」

 

見かねた弓美が、代表して声をかけると。

意識をこちらに引き戻した未来は、慌てて笑顔を取り繕った。

 

「・・・・隣、いい?」

「・・・・うん」

 

それじゃあ、と。

それぞれ未来の隣にゆっくり腰を下ろす。

 

「・・・・ちょっと酷いやつよね、響って」

「しょうがないよ・・・・危ないのに首を突っ込んだのは、事実だし」

「だからって叩くこたないじゃない」

 

少しむくれるように弓美が言えば、未来は乾いた笑いを零した。

だが、弓美の不機嫌は治らない。

 

「叩くって?」

「怪我してんのを未来が気遣ったら、『いらない』って突っぱねたのよ」

「まぁ・・・・」

 

身を乗り出した創世にわけを話せば、詩織は口元を手で押さえて痛ましげに眉をひそめた。

 

「時々そういうことをする子なの、多分響なりに『危ないよ』って伝えてくれたんだと思う」

「そうなの?」

「そうなの」

 

叩かれた方の手を見つめて、どこか懐かしそうに語る未来。

 

「気が利くように見えて、変なところで不器用なんだから・・・・」

 

それっきり、黙りこくってしまった。

 

「みんな、送迎の準備が出来たわ。早いとこ帰らないと」

「あ、はい!」

 

そこへ二課の職員の友里がやってきて、四人に帰るよう促した。

特に断る理由も無いため、学生達はそろって立ち上がる。

案内される傍ら、ふと未来が気になった弓美は視線を滑らせる。

何か色んなことを考えすぎている、そんな難しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

風鳴翼は考える。

立花響という少女について。

来歴は、二課の諜報部や未来の語りで大体把握していた。

――――切っ掛けは、二年前。

翼自身も思い出すたびに頭が疼く、忌々しくてたまらない記憶。

あの時、奏が燃え尽きてでも守ろうとした少女が、響だった。

当時の自分は、至らなかった悔しさと、奏を失った喪失感でいっぱいで。

他の事に気が回らなかった。

子どもである、と言ってしまえばそれまでだが。

しかし翼は単なる子どもではない。

シンフォギア装者、ノイズに唯一対抗できるただ一つの剣。

故にそんな甘えは許されないと、二年もの間自責の念に苛まれていた。

・・・・そうやって自分にかまけていたから、響のような存在を生み出してしまったのだ。

あのライブで犠牲になった者の中には、避難経路をめぐる争いのうち殺された人もいた。

多くの人が亡くなったショックと、大切な人を無くした悲しみで歪みきった『正義』は。

虫の息から奇跡の快復を果たした少女にも、容赦なく牙を剥いたのだ。

当然病み上がりのか弱い体が、猛攻に耐えられるわけがない。

結果、『探さないで下さい』というシンプルな置き書きを残して失踪。

未来も付き添う形で一緒に行方不明となり、世間を騒がせた。

そして皮肉にもそれが切っ掛けで、生存者達への迫害は終息することになる。

響と未来の捜索は、懸命に続けられた。

途中、娘の失踪を聞いてとんぼ返りしてきた立花家の父親も加わったが。

結局成果を得られず、現在に至る。

そして、翼も世間も二年前の傷が癒えようかと言うとき。

響は未来と共に、この日本に戻ってきた。

 

『新たなガングニール適合者』として。

 

守るために手放すことを、距離を取ることを選んだ彼女。

その対象者になっている未来は、ここに留まることを選んで待ち続けている。

いつもふらっといなくなる響が、いつも通りふらっと戻ってくることを。

だが今回、明確に拒絶されたことが堪えている様だ。

先ほど見かけたときには、顔は目に見えて陰り、背中も心なしか縮こまっていて。

心に大きなダメージを負っているのが、よく分かった。

 

「ぁ、翼さん・・・・」

 

名前を呼ばれ、目を向ければ。

オペレーターの一人、友里に連れられている未来が。

友人達も一緒らしい。

改めて見た未来の顔はやはり暗く、放っておけば倒れてしまいそうな儚さを感じた。

だから、翼は歩み寄る。

 

「・・・・あまり、落ち込むな」

 

手を伸ばし、頭を撫でる。

人を慰めるという経験がなかったため、奏がしてくれたことをやってみた。

 

「小日向が暗い顔をしていたら、あの子もきっと悲しむ」

「・・・・そうでしょうか」

「そうだろうさ。優しいのでしょう?立花は」

 

笑いかけてやれば、俯いたまま小さく頷いたのが分かった。

夜も遅いため、お礼を言う彼女達を見送る。

・・・・何をするべきなのか、何が出来るのか。

今の翼には、分からないことばかりだ。

 

(それでも)

 

それでも。

人一人を笑顔に出来ず、何が防人か。

未来を撫でた手を握り締めて、響の確保を誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けた。

怪我した左手を動かしてみる。

まだまだ動きはぎこちないけど、傷口は完全に塞がっていた。

頬張った菓子パンを飲み込んで、袋をゴミ箱へ。

血が抜けすぎた所為か少しふらつくけど、今までの経験からしてまだ大丈夫な範囲だし。

んー、でもやっぱり無茶しちゃったかなぁ。

あんな某君が君らしくあるためのRPGみたいな特攻なんて、痛みを感じなくてもやるもんじゃないよ。

っていうか、善人じゃない自覚はあるけど、少なくともあそこまで暴力的じゃないよ?わたし。

必要があったら殴るだけで。

あれ?結局力尽く・・・・?

そういえば長い付き合いになりつつあるこの武器も、よくよく考えたら主人公と一緒だし。

もしかしたらあのオラオラな感じが感染してるのかな?

・・・・・あれ、今更か。

あー、ダメダメ。

考えが脱線してる。

とにかくだ。

昨日は邪魔が入っちゃったから、今日こそ行動開始しないと。

冗談抜きで逃げ道ふさがれちゃう。

そうとなれば、思い立ったが吉日!

というわけで、まずは北陸目指すぞー。

おーっ!

 

「――――見つけたわ」

 

立ち上がったところで、声。

早朝の公園、日の出を背負ってその人は立っていた。

 

「少しお話があるのだけど、いいかしら?」

 

満月みたいな、蛇みたいな目に射抜かれて。

気づくと首を縦に振っていた。




さすがに数千年分のプレッシャーには耐えられなかったよ・・・・。

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