チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ちょうと短いですが、プロローグ故。
何卒・・・・何卒・・・・!


魔法少女事変
膿んだ傷、壊す者


ずるり。

ぐちゃり。

音がする。

汁気のあるものを啜っているような、そんな音。

聞こえるたびに背筋が凍って、耳を塞ぎたい衝動に駆られる。

目の前は真っ暗闇、出所は分からない。

手を伸ばしても、何にも触れなかった。

 

「・・・・ッ」

 

動きたくないのに、体が勝手に歩き出す。

自分の足なのに、言うことを聞いてくれない。

まともに歩けているのかも分からない中。

近くなってくる音を感じながら、ただひたすらに突き進む。

やがて、空中にぽつんと。

小さな深淵が二つ。

いや、

 

「・・・・!」

 

目玉が無くなった空洞でこちらを見る、わたしがいた。

底の見えない空洞は、不気味さを如実に表している。

口元は真っ赤に汚れていて、ほっぺたはたっぷり膨らんでいた。

口からは、頬張りきれなかった中身が伸びている。

赤くて長いそれの先を、辿っていくと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――」

 

気がつけば、見慣れた天井。

目を落とすといつものタオルケットが見えて、自分の部屋なのを思い出した。

喉がひりつく、息がしづらい。

そんな中、さっきの光景が蘇って。

 

「・・・・~~~ッ!!」

 

ベッドを飛び出して、キッチンへ。

コップを一つひったくって、ありったけ出した水を注ぐ。

 

「・・・・・っ・・・・ぐ・・・・んぐ・・・・・ご・・・・・!!」

 

ぼしゃぼしゃたくさん零しながら、何とか飲み干せば。

 

「・・・・・っは・・・・は・・・・」

 

鈍くて、深いため息が。

 

「はああああああ・・・・・・・!!」

 

長く、長く、吐き出された。

水は出しっぱなしだけど、今は気にする余裕が無い。

心臓は早鐘を打っていて、なのに体はどんどん冷えていく一方だった。

意味が無いって分かっていても、胸元を握り締める。

シャツが伸びるだけで、やっぱりなんの意味もなかった。

 

「――――響?」

 

そんなところに声をかけられたもんだから、びっくりして飛び跳ねてしまう。

ものすごく勢いをつけて振り返ると、未来が心配そうに近寄ってきていた。

 

「・・・・ごめん、起こした」

「ううん、そんなとこ一人にできないよ」

 

蛇口を閉めてから、わたしの体にそっと手を添えてくれる未来。

・・・・ああ、情けない。

未だにそんな顔をさせてしまうなんて。

 

「怖い夢でも見た?」

「・・・・そんなとこ」

 

抱き寄せて、ゆっくり頭を撫でてくれる。

優しくてあったかい手のひらが、怖さを少しずつ解いてくれた。

 

「大丈夫?」

「・・・・まだ、きつい、かな」

 

ああ、大分弱ってしまっているらしい。

こんなにあっさり弱音を吐き出してしまうなんて。

・・・・もう、揺らがないようにって。

色々解決したから、強くなろうって。

そう、思って、いたのに。

だけど、一度皹が入った心は、簡単に持ち直してくれなくて。

 

「・・・・みく」

「ん?」

 

腕を回す。

未来の首元に顔を埋めると、いいにおいがした。

 

「・・・・ちょっと、だけ・・・・ちょっとだけ・・・・・終わったら、すぐに戻るから」

「・・・・うん」

 

とてもおちつく、あまいにおいにつつまれて。

そっと目を閉じる。

未来の腕が回ってきて、またゆっくり頭を撫でてくれた。

温もりが、においが。

波立つ心を、落ち着けてくれたけれど。

一度開いて、膿んでしまった傷は。

未だ、ジュクジュクと痛んだまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

座して見つめる。

視界に映る、ここではないどこかを。

薄暗い路地を駆け抜ける、もう一人の視界を。

 

『目標確認、市街地を地味に逃走中。指示を請う』

 

偵察に向かわせた手駒も、同じ個体を捕捉したようだ。

脳内に声が響いた。

視界を照らし合わせ、さっと思考して。

 

「少しばかり追い立てろ、だが騒ぎすぎるな。まだ奴等と相見えるわけにはいかん」

『派手に了解』

 

手短に指示を出して、視界を元に戻した。

次に考えるのは、相対予定の敵について。

特に想起しているのは、撃槍を纏った彼女。

虐げられ、幾つもの絶望を味わい、人間の醜い部分を散々目の当たりにして。

それでも、なお。

守ることを、救うことを選んだ。

逆境、絶望からの快進撃。

 

(まさに『奇跡』と呼ぶに相応しい存在・・・・)

 

――――そして。

 

 

 

 

この手で屠るに、実に相応しい存在。

 

 

 

 

 

殺すと誓ったあの日から、幾百年。

まさか本当に手にかけられる日が来るなんて。

 

「・・・・・ああ、楽しみだな」

 

虚空へ手を伸ばす。

その顔は、自分でも分かるくらいにうっとりしている。

 

「お前をこの手で、手折りたいな」

 

そのまま握り締めれば、首を掴んで締め上げるような感覚を覚えて。

背筋が、悦びに震えた。




壊れたものを直す・・・・なお・・・・。
・・・・直るんか、コレ()

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