チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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誠にありがとうございます。
多分(?)誰もが(?)待っていた(?)
あの対決です。


閑話:マリアVS響

『マリアVS響~傷だらけの思い出~』

 

「そういや・・・・」

 

二課本部、訓練室の一角。

差し入れを持ってきた未来も含めて、装者達が談笑していると。

思い出したらしいクリスが、マリアを見る。

 

「どうしたの?」

「前に、バカとあんたがぶつかったときはどうだったかなって、気になってさ」

 

直後、騒いでいた装者達が、ぴたっと静かになった。

 

「いや、野暮なのは自覚してっから、言いたくないなら言いたくないでいいんだけどよ・・・・」

 

クリスはしまったと自責しつつ、口を回してどうにか持ち直そうとした。

 

「上手に焼かれたねー、腕を」

 

が、軽い調子でのたまったのは響だった。

ぎょっと向けられる視線もなんのその。

鼻歌交じりに飲み物を口にする余裕すら見せている。

 

「・・・・言うじゃない、そっちこそ腕を圧し折ってきたくせに」

 

その様子に対抗心を燃やしたのか、マリアが身を乗り出す。

 

「なんですかー、こっちだってあちこち斬られて大変だったんですからね」

「私だって胸をぶち抜かれたわよ」

「先に胴体かっさばいたのは誰でしたっけー!?」

「何よ」

「何ですかー」

 

じわじわ溢れてくる剣呑な空気。

響とマリアは互いにガンを飛ばしながら睨み合う。

心なしか、唸るような声が聞こえてきそうだ。

 

「そこまでだ、二人とも」

「何よ!?」

「何ですか!?」

 

そんな空気に待ったをかけたのは、翼だった。

割り込みをかけられた二人は、噛み付きそうな勢いで振り向く。

威圧に怯むことなく、翼は腕を組んだまま呆れた顔をして。

 

「いいからそこまでだ、流れ弾が甚大な被害を生んでいる」

 

親指を向けた先。

 

「腕・・・・黒っ・・・・」

「血がぁ、血がぁ・・・・!」

「マリアァ・・・・!」

 

未来、調、切歌の三人が、プルプル小刻みに震えながら。

同じように呆れた顔をしたクリスに、ひしとしがみついていた。

 

「「あっ・・・・」」

 

いがみ合っていた二人も、さすがにその様を見せられては。

大人しく引き下がるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マリアVS響~その日、サンフランシスコ~』

 

――――ふぅ、と息を吐けば、白くなった。

夜の帳はすっかり落ちきり、繁華街の喧騒が遠くに聞こえる。

・・・・クリスマスが近くなったこのごろ。

本場アメリカ国内であるここでは、騒ぎっぷりが日本よりも顕著に思えた。

 

「・・・・さむ」

 

意味無く呟いてコートを着込みなおし、響は歩を早める。

誰かの笑っている声が、幸せそうな顔が。

昔を思い出させて、胸がムカムカする。

こんな日は、早いとこ戻るに限る。

今日は未来が、日本の土産を貰ったと聞いた。

久方ぶりの故郷の食べ物。

味は感じなくとも、楽しみであることに違いない。

ああ、いっそ走って帰ろうかなんて思いついて。

体を傾けたとき。

 

「――――こんばんは」

 

後ろから、声。

振り向けば人影が見える。

 

「・・・・ええ、こんばんは」

 

薄く笑みを浮かべて返事。

表面こそ笑っているが、内心は研ぎ澄まされている。

 

「いい夜ね」

「あなたみたいな痴女に会わなきゃ、最高でしたよ」

「言ってくれる」

 

冷たい夜風に、マントが靡く。

月光の下現れたのは、『前世の記憶』にある顔。

『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』が、そこにいた。

故に何故を考えかけて、そういえばと思い出す。

確か一週間ほど前、ノイズが現れたとき。

未来や、世話になっているマフィア達を助けるため、とうとうシンフォギアを使用したことを。

大方、彼女の組織に反応を捕まれたのだろうと、内心でため息をつく。

 

「出来れば、大人しく同行してほしいのだけど」

「知らない人にはついていきません」

「そう・・・・」

 

きっぱり返事すれば、彼女もまたため息。

しかし次の瞬間、両手の装甲を合体させ、一振りの突撃槍を携えた。

 

「なら、気絶させてでも連れて行く」

「どうぞご自由に?出来るもんならね」

 

身構えた響もまた、聖詠を唱えてギアを纏う。

両者共に臨戦態勢、話し合いなどもはや期待できなかった。

人気の無い路地裏に、ぴりりと張り詰めた空気が充満して。

 

「――――ふ」

 

先に踏み込んだのは、マリア。

響の眼前、烈槍の切っ先が迫って。

甲高い金属音。

左手を振り払って刃を弾き飛ばすと、刀身に手を置いて身を翻す。

そのまま体を捻って、鋭い蹴りをマリアの首元へ。

一方のマリアは響が乗っている烈槍を振るって、払いのける。

投げ出された響は壁の配水管に掴まって、マリアを見下ろした。

 

「・・・・それで優位に立ったつもりなら」

 

束の間、沈黙を保ったマリアは。

烈槍を掲げて、

 

「――――図に乗るな」

 

大きく薙ぎ払う。

斬撃の暴風が吹き荒れ、それは響がいる位置にまで及ぶ。

咄嗟に飛びのいた響の視界、暴風の中心に、マリアのぎらついた目が見えた。

戦意がたっぷり籠められたそれへの怯みを、引きつった笑みで誤魔化しながら着地。

低い姿勢で暴風を避けながら、マリアへ肉薄する。

正拳一閃、受け止められる、想定内。

もう一撃加えながらかかと落としを繰り出せば、防御が崩れる。

そこから流れるようにアッパーを発射。

間一髪の所で避けられ、顎を掠るに留まったが。

相手のメンタルに揺さぶりはかけることは出来た。

さらに拳を引き絞って放てば、胴体を穿つことに成功する。

響はよろめいた姿を好機と取り、意識を絶とうと飛び掛る。

殴打を繰り出すと、思ったよりも固い感触。

 

「――――舐めるな、と言ったはずよ」

 

盾代わりのマントの下から、睨みを利かせたマリアは。

響を思いっきり弾き飛ばして、烈槍を突きつける。

がぱりと開いた刀身から、極光があふれ出すのが見えて。

響に出来たことは、咄嗟に身を捩ることだけ。

 

「――――あああああああああああああああッッ!!!」

 

体を打ち付けた衝撃、腕を侵食する痛み。

のた打ち回りながら見てみれば、綺麗に炭化した左腕が。

冷たい空気が刺す様に触れて、痛みにいらぬアクセントを加えていた。

 

「・・・・最終警告よ」

 

マリアが、悠々と歩み寄ってくる。

項垂れる響へ、烈槍を突きつける。

 

「私と来なさい、これ以上苦しみたくないのなら」

 

その声には、どこか懇願するような雰囲気が籠められていた。

吹き抜ける風に混じって、響の荒い呼吸が聞こえる。

やがて、呼吸が落ち着いて、

 

「――――は」

 

叩き込まれる、左腕。

表面の炭がはがれ、所々から血が噴き出す。

烈槍で難なく受け取めたマリアは、ため息一つ。

 

「・・・・そう」

 

手首を捻り、響の体勢を崩す。

がら空きになる胴体。

響の視界に、烈槍を振りかざすマリアが見えて。

切っ先が、刃が、深く深く、食い込む。

響の体に、大きな溝が掘られて。

刹那、鮮血が噴水のように湧き出た。

 

「――――」

 

瞳から光を失いながら、どう、と仰向けに倒れる響。

呼吸はまだ続いているようだが、どう見ても虫の息だった。

 

「・・・・・は」

 

また一つ、息をついて。

マリアはどこか、悔いるような目で見下ろす。

・・・・下された指令は、『対象の拿捕』だが。

例え息絶えたとしても、サンプルとしての価値は十分にあるとも言われていた。

それでも、殺生には未だ慣れないし、慣れてはいけないと思う。

再三、ため息。

近くに待機している仲間へ、通信を繋げようとして――――

 

「―――――ゃだ」

 

あるはずの無い、声。

弾かれたように振り向けば、巨大な『手』が迫っていて。

 

「ぐぁ・・・・!」

 

防御は出来たものの、吹き飛ばされる。

烈槍を突き立てて勢いを殺して、前を見ると。

ゆらっと、幽鬼のように佇んでいる響。

 

「・・・・いやだ、いやだ、いやだ」

 

口元からぶつぶつと、うわごとが漏れてくる。

 

「いやだ、みくをまもるんだ、かえすんだ、かえるんだ・・・・・だから、だから、だから」

 

目が、ぎらりと。

獣のような光を、燈して。

 

「じゃま、させない」

 

がっくり、前のめりに。

傾いたと、思ったら。

目の前、至近距離まで肉薄してきた響。

眼前には、またあの『手』が迫っている。

防御も、回避も、不可能。

 

「ああっ!?」

 

乱暴に引っつかまれたマリアは、そのまま大きく持ち上げられて。

 

「があああッ!?」

 

地面に亀裂が走るほどの力で、叩きつけられる。

全身を揺さぶられ、意識を手放しそうになるマリア。

何とか繋ぎとめて目を開ければ、刺突刃が唸りを上げている。

間一髪、地面を転がって回避。

首元にかかと落としを叩き込むが、響は特に効いた様子もなく反撃。

烈槍を弾き飛ばす。

得物を失ったマリアだが、ここでやられるほど柔ではない。

すぐに従手に切り替え、格闘で応戦。

しかし、咄嗟に突き出した拳は、いつの間にか背中に抱え込まれていた。

響の両腕が、マリアの右腕をがっしり捉えて。

力を、加える。

 

「ああああああああああああああああああッ!!」

 

ぼぎん、嫌な音。

直後に殴り飛ばされ、マリアは地面をきりもみしていく。

あらぬ方向に反れた右腕は、赤黒く腫れているだろうことが容易に想像がついた。

壁を伝いながら、立ち上がる。

敵はまだ健在、背は向けられない。

腕が動かない右側を、自在に動くマントでカバー。

響の猛攻を何とか凌ぎ続ける。

相手は既に死に体、何とか粘りきれれば、こちらの勝ち。

・・・・なのに。

 

「がああああああああああッ!!」

 

まるで痛みなど感じていないと言わんばかりに、攻撃は激しさを増すばかり。

何十、何百もの切り傷を刻まれて、全身を血で真っ赤に染めて、なお。

響は抵抗を続ける。

一進一退の攻防、先に音を上げたのは。

 

「ぐあああッ!」

「っづう・・・・!」

 

マリアだった。

体当たりをもろに受け、後ろに倒れかけるマリア。

彼女の視界、さきほどの『手』が、遠くに突き刺さった烈槍を回収するのが見えた。

その切っ先が、こちらに狙いを向けたのも。

出来事は、颯のように駆け抜けて。

 

「―――――」

 

音が消えた。

そう錯覚した。

喉元、熱く鉄臭いものが込み上げてくる。

 

「ご、ぶ・・・・!」

 

耐え切れずに吐き出す。

地面に、大量の血反吐が零れ落ちた。

突き刺さったまま、振り回され、放り投げられる。

瓦礫の中に体を半分埋めたマリアは、やがてぴくりとも動かなくなった。

 

「・・・・はっ・・・・は・・・・は・・・・はぁっ・・・・!」

 

控えめになっていた響の呼吸が、足りない酸素を求めて荒くなる。

敵の沈黙を認めたところで、また大きく息を吐いて。

 

「――――マリアッ!」

「マリアアァッ!!」

 

降ってきた大声に、身構える。

見れば、新たな脅威が二人。

マリアの傍に着地したところだった。

彼らが暗がりにいた所為で、初めこそ何者か見えなかったものの。

すぐに目がなれて、見えるようになる。

『前世の記憶』で、マリアの家族として覚えている。

『月読調』と『暁切歌』だった。

慌てて瓦礫を掻き分け、マリアを回収した二人は。

一度、燃えるような視線でこちらを一瞥してから。

大きく跳躍して、去っていった。

・・・・どうやら、連戦はなかったらしい。

正直受けたダメージは半端無いので、響としてはありがたい限りだったが。

安堵したところで、はたと気付く。

 

(――――痛くない)

 

両手を、そして全身を見下ろす。

どうみても重傷なのに、不思議と痛みを感じなかった。

感覚が痺れた、という割には、意識もしっかりしている。

心当たりのある現象に、響はため息を一つ漏らした。

 

「・・・・ッ」

 

力を籠める、現れる『手』。

味覚や音感など、これまでにも感覚と引き換えに力の上昇は感じていたものの。

ここまで明確な変化は初めてだった。

ありがたいと思うと同時に、気が滅入る。

――――先ほど追い込まれた時。

『足枷になるくらいなら、痛みなどいらぬ』と、強く思った。

自分にはまだ、未来を日本に帰すという使命があるのだから。

だから、ここで倒れるなど許されないと。

ガングニールが応えてくれたのはいいし、とってもありがたい。

しかし、また一歩人間から遠ざかった自分を自覚して、再び気を滅入らせるのだった。

と、

 

「――――ぁ」

 

体が傾く、うつ伏せに倒れる。

指が一本も動かせない。

ああ、これはやばいなと、他人事のように感じながら。

 

「――――響ッ!」

 

大切な人の声を遠くに、目を閉じた。




だいたいこんな感じだったんだよという戦いでした。

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