チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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また小ネタです。
今回は393分が多くなりました。


閑話:小ネタ5

『神獣鏡』

 

「――――開発できない?」

「ええ、非常に申し訳ないのだけど」

 

二課本部、技術部にて。

了子に呼び出された未来は、首をかしげた。

 

「材料がない、とか・・・・?」

「いえ、要である神獣鏡の欠片は米国が所有しているし、要求すればいつでも取り寄せられるわ。その他のパーツも問題なく揃えられる」

「じゃあ、どうして・・・・」

 

未来の疑問に、了子はどこか苦い顔をしながら。

 

「神獣鏡が持ちえる、高レベルのステルス機能。国連が、どうもそれを危険視しているようでね」

 

『ウィザードリィステルス』とも呼ばれる、鏡に起因した神獣鏡の能力の一つ。

了子の語るところに寄れば、物体を不可視にするだけでなく、振動を始めとした一切のシグナルを遮断出来る。

まさに完璧な隠蔽機能を持っているというのだ。

国連もとい世界各国は、日本が、ひいては未来個人が。

それを用いてやましいことをするのではないかと、疑っているとのことだった。

 

「別に、率先して悪いことするわけじゃないのに・・・・」

「私達なら、未来ちゃんがそういうことしないって信頼できるわ。けど、友達の友達の友達、みたいな、関係が遠い第三者にとっては、そんな口約束気休めにしかならないもの」

 

だから分かりやすい制約で縛って、制限して。

そうやって安心を得ようということらしい。

 

「有事には開発できるよう、現在誠意交渉中ではあるけれど、しばらくはバックアップとして動いてもらうことになるわね」

「納得できないほど子どもじゃないつもりです、よろしくお願いします」

「お願いされました」

 

戦えない、響の隣に立てないというのに、何も思わないわけではない。

しかし、大人の事情が一切分からないような子どもでもない。

故に未来は素直に頭を下げて、託すことにした。

そんな彼女を見た了子もまた、一つ頷いて受け取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『照れ隠し』

 

「あ」

 

記者の女性からインタビューを受けた翌日。

団欒の中ふと思い出した響が、寝室へ足を運ぶ。

未来が首をかしげていると、ほどなく戻ってきて。

その手に小さな紙袋を持ってきた。

未来の記憶に新しいそれは、確か昨日の夜、ベッド脇に置いてあったはずだ。

 

「本当は昨日渡したかったんだけどね」

 

おおよそ予想通りの言葉で苦笑いする響と一緒に、あけてみた。

袋の底に、指輪が二つ。

シンプルに転がっている。

手に取り出してみてもやっぱり指輪で、中々センスのあるデザインなのが見て取れた。

 

「取材のお礼って、もらったの。あのおにーさんが作ったって」

 

片方を受け取った未来は、内心とても驚いていた。

だって、今この手の中にある指輪は。

あの日、露店で見つけたそのものだから。

知ってか知らずか、響は手にとって物珍しそうに眺めている。

・・・・・未来の脳裏。

小っ恥ずかしい考えが過ぎった。

 

「――――響、あの」

「んー?」

 

呼ばれた響が見てみれば、どこか赤い顔の未来。

一生懸命呼吸した彼女は、恐る恐る指輪を取って。

 

「これ、つけていい?左手、に」

 

そういいながら指したのは、左手の薬指で。

 

「――――」

 

その意味が何かなんて、どんなニブチン野郎でも理解できることだろう。

例に漏れなかった響もまた、顔を真っ赤にする。

始まる、気まずい雰囲気。

お互いの顔を見れないまま、時計の針が一周して。

 

「・・・・やっぱり、迷惑?」

「ッそんなわけないよ!」

 

若干涙目の未来へ、半ば掴みかかりながらネガティブな言葉を否定する響。

 

「そうじゃなくて、その、えっと、うれしい、けど・・・・・」

 

すぐに勢いをなくし、目を逸らしながらなおまごついて。

 

「・・・・あのね、みく」

「・・・・うん」

 

一呼吸置いた響は、意を決した顔。

 

「ロシアだと、右につけるらしいけど!?」

 

未来の右手をひったくりながら、そんなことをのたまった。

また沈黙が始まる。

時計の針が、一周、二週したと錯覚するほど、長く感じる。

 

「・・・・ふふっ」

 

先に破ったのは、未来。

顔をほころばせて、くすくす笑みを浮かべて。

手を差し出す。

 

「つけてくれる?」

「・・・・うん」

 

不安なんだか解せないんだか、微妙な表情をする響。

けれども、嫌な顔一つせず。

そっと、未来の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『好きな理由』

 

「あのーさ、未来?」

「どうしたの?」

 

ある日のリディアン。

弁当をつついていた未来は、対面の弓美に話しかけられる。

 

「未来と響って、付き合ってるじゃん?」

「・・・・そう、だね」

 

弓美の確認に、頬を染めながら頷く。

交際は事実だし、響が大好きなのも事実。

だが、面と向かって『付き合っている』といわれると、未だ気恥ずかしさを感じた。

 

「でも、二人とも女の子じゃん?」

「うん、まだちょっと珍しいみたいだけど」

「一昔前よりはいいでしょ」

 

同性で恋人というのは、やはり物珍しいようで。

怪訝な目で見られていたという、親や祖父母世代に比べたらマシなのだろうが。

視線はそれなりに気になる未来だった。

だから弓美のフォローは、とてもありがたく感じる。

 

「けど、それがどうしたの?」

「いやぁ、ちょっと気になって・・・・」

 

未来が首をかしげると、弓美は少しバツの悪そうに一度目を逸らしてから。

 

「未来、響が男の子だったら付き合ってたのかなって」

 

普段の仲睦まじさを知っているからだろう。

『何となく』で生まれた疑問らしかった。

確かに、同性と付き合っていたのなら、異性になると受け付けられなくなるのか。

気になるところではあるだろう。

弓美に悪意などが無いことを分かっていたから、未来は少し考えて。

 

「・・・・・多分、男の子でも好きになってたと思う」

「そうなの?」

「うん」

 

問いかけに、確信を持って頷く未来。

 

「響が響でいてくれるのなら、どんな姿だって、きっと好きになれるから」

 

そして、清々しい満面の笑みで。

きっぱり言い切ったのだった。

言った後で、はしたないことを言ってしまったかと、顔を赤らめて恥らった。

しかし、言ったことは紛れも無い本心で事実なのだ。

何を恥ずかしがることがあると、俯いていた顔を上げると。

 

「えっ?」

 

がらん、と。

人気が極端に少なくなった教室が飛び込んできた。

昼休みが終わってしまったか、はたまた次は移動教室だったかと慌てながら時計を見ると。

まだ十分に時間はある。

ついでに、次の授業も移動ではなかった。

 

「えっと、みんなどこに行ったの?」

「・・・・未来、今の反則」

「ええ・・・・?」

 

困惑しながら弓美に問うと、頭を抱えた彼女からそんな返事が返ってきて。

未来のクエスチョンマークは増えるばかりだった。

――――リディアンの自販機の記録によれば。

その日、コーヒーの売り上げがやけに伸びていたということだ。


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