チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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やっと終盤まで来ました・・・・。


いざ、決戦の地へ

――――考えるのは、ジャッジマンこと武永の目的についてだ。

他の二人と違い、故郷を襲撃なんてやらかしていないあいつ。

この前現れたときは、確かめたいことがあるとか言ってたな・・・・。

そのとき相対した翼さんの話では、未来が自爆した隙を突いて逃げてしまったらしいけど。

直前に、『目的は達した』みたいなことを言っていたらしい。

別にわたしや未来みたいな『同族』や、敵であるシンフォギア装者を倒したいってわけじゃない・・・・?

でも、だったらなんで攻撃してきた?未来を殺そうとした?

あ、ちょっと休憩。

真っ黒い感情が湧きそう。

 

気を取り直して。

 

キーポイントになりそうなのは、武永が『確かめたかったこと』。

武永はあれ以来ずっと大人しくしている。

迫害した連中に復讐することもなく、『裏切り者』であろうわたしや未来を積極的に害することもなく。

それがちょっと不気味でならない。

 

「装者達、指定のポイントに配置完了!」

「シャトルマーカーも展開済みです!」

 

オペレーターさん達の声で、現実に戻る。

弦十郎さんの隣で見るモニターには、海上のあちこちで待機する翼さん達。

それから、少し高い位置に滞空する未来。

 

「気になるか?」

「ええ、まあ」

 

気を使ってくれた弦十郎さんが、声をかけてくれる。

否定する要素はないので、素直に頷いておいた。

 

「けど、ちょっと前まで逆でしたから」

「・・・・そうか」

「はい」

 

そうだ。

わたしは否応なく見せ付けていたから。

傷ついてボロボロになる姿を、疲弊して参っている姿を。

だからこれくらい、なんとも無い。

なんとも、思っちゃいけない。

 

「それじゃあ未来ちゃん、始めて」

『――――はい』

 

了子さんの合図で、未来が歌い始めた。

出力がぐんぐん高まっていくのが、モニター横のメーターで手に取るようにわかる。

・・・・・散々『重い』『怖い』『暗い』だなんてからかわれる歌だけど。

実際に聞くと、なんか、こう。

照れくさいね・・・・!

こんな改まって真正面から『好き』『大好き』って言われる嬉しさとむずがゆさよ・・・・!!

これは、本人じゃなくても。

絶叫するうううぅ・・・・!

 

「どうした?」

「ぃ、いえ、何も・・・・」

 

とはいえ、今は大事な作戦中。

どうにか気を取り直して、モニターを見る。

未来が放った光が、二課が配置したシャトルマーカーに反射している。

跳ね返って、束ねられて、増幅した光は。

一筋の極光となって、海面へ。

大きな飛沫を上げて、飛び込んだ。

 

「ッ未来!!」

 

なんて見とれてる間に、未来に異変。

あちこちがショートしたと思ったら、ギアが砕けて解除される。

 

『――――ああッ!!』

「未来ッ!!」

 

何の守りもなくなった未来は、高い高い空から自由落下。

そのままだったら水面に叩きつけられて、骨の十本や二十本ダメになっていたところだろう。

 

『小日向!!』

 

そうならないための、翼さん達なんだけど。

クリスちゃんのミサイルを足場にした翼さんが、一際大きくひとっ飛び。

うまいことキャッチして、滑空しながら海面に降りた。

未来に怪我は無いみたい。

・・・・よかったぁ。

分かってても、本当にハラハラするよ・・・・。

だけど、これで終わりと言うわけじゃない。

 

「お、っと・・・・!」

 

ほっとするのも束の間、今度は大きな揺れ。

海が、正確には海底が。

大きな振動を起こしている。

奥底で目覚めた『そいつ』が、海上に出ようと。

もがいている、証・・・・!

 

「水面下より上昇する物体を確認ッ!!」

「大きい、このままだと、我々が上に・・・・!」

 

オペレーターさんが言い切る前に、変化。

海面が盛り上がったと思ったら、水しぶきと共に姿を現す。

大きな大きなオブジェ。

周辺を見てみると、そこかしこにも似たような柱やらなんやらがせり上がってきている。

・・・・フロンティア、いよいよか。

何となく、だけど。

武永の狙いは、フロンティアが要なような気がする。

ここを見ているような、ここに来るような。

そんな、第六感めいた確信があった。

・・・・翼さんもクリスちゃんも健在。

それに加えて、マリアさんや切歌ちゃん、調ちゃんもこちら側。

大きなイレギュラーが起こらない事を祈りたいものだけど・・・・。

 

「響さん、お、っととと・・・・!」

 

考え込んでいるところに、ウェル博士が話しかけてきた。

 

「あなたの腕っ節を見込んで、お願いがあるのですが」

 

揺れに翻弄されながらも言われたことに、わたしは思わず首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、起こせ」

 

周囲を取り囲む、サイケデリックな風景。

その合間合間を、ノイズ達が蠢いている。

 

「『審判』の為に、フロンティアを・・・・!」

 

バビロニアの宝物庫。

空間の『穴』から、海上に浮かぶ巨大な『船』を見下ろして。

ジャッジマンは恍惚と呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――響?」

「ああ、おかえり。未来」

 

翼に受け止められ、緒川に回収された未来。

フロンティアに打ち上げられた二課本部に戻ると、ウェルと連れ立って歩く響に遭遇した。

それだけならまだいいのだが、その出で立ちが彼女にとってスルー出来無いものだったため、未来もまた立ち止まる。

 

「響、それ・・・・」

「ああ、うん。ちょっとね」

 

いつもの上着を除いた二課制服。

その上に羽織っているのは、かつて身に纏っていたコート。

 

「これからが正念場だろうから、ちょっと気合でも入れなおそうかなって」

 

年季が入っていることに加え、二課に保護される直前、銃弾を何度も受けたこともあり。

未来の記憶にあるよりも、ボロボロになっていた。

自分でも全身を見ながら、どこか神妙に語る響。

右の袖口からは、あの刺突刃が見えた。

・・・・多分、予感しているのだろう。

ジャッジマンが、武永が、何らかのアクションを起こすことを。

 

「・・・・大丈夫なの」

「何とかするよ」

 

不安げな問いに返される、へらりと気の抜けた答え。

『大丈夫』でも、『大丈夫じゃない』でもない。

あいまいな返事だった。

――――恐怖が、ぶり返す。

失いそうになった怖さ、何も出来ない怖さ、背負わせてしまう怖さ。

それらが鈍く湧き上がり、胸中を侵し始める。

怖い、怖い、怖い。

怖くて、たまらない。

ねえ、いかないで。

 

 

――――それ、でも。

 

 

それでも、響はいくのだろう。

例えここで縋ったところで、結局はあの戦場にいってしまうに違いない。

死にに行くのではない、敵を倒すためでもない。

きっと、これまでと向き合うために。

一緒だったから、一緒に歩いてきたから。

未来には痛いほど理解が出来ていた。

だから、怯える己を宥める。

恐怖を押し殺す。

自分を、制する。

 

「・・・・そっか」

 

その成果は、笑顔だった。

 

「いってらっしゃい、気をつけてね」

「・・・・うん、いってきます」

 

意地は功を奏してくれたらしい。

ずっと難しい顔をしていた響は、笑顔を向けてくれた。

時間だからと、去っていく背中を見送る。

曲がり角を曲がって、足音が聞こえなくなった頃。

 

「――――ッ」

「未来さん!?」

 

耐え切れなくなって、その場に崩れ落ちた。

緒川に返事する余裕は無い。

格好こそ無様であるものの、胸は達成感で満たされている。

・・・・これでいい、これでいい。

だって、響が。

これまでに決着をつける、またとないチャンスなんだから。

だから、これでいい。

荒い呼吸で笑みを浮かべながら、何度も何度も安堵の息をついた。

 

「・・・・よく、頑張りましたね」

 

緒川も察してくれたのだろうか。

頭を撫でてくれる手は、正直なところありがたかった。


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