チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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シリアスが続きすぎた所為で、日常の書き方を忘れかけてました。
あまあま出来てるかしら・・・・!


砕ける安寧

「おでかけ、しない?」

 

さーて。

わたしが視力と声を失くしてから、数日が経った。

真っ暗な世界と喋れない不便に何となく慣れてきた頃。

いつも通りお見舞いに来てくれた未来が、そう提案してきた。

『どういうこと?』と、首を傾げてみる。

 

「ほら、ここのところ。大変なことがずっと続いたじゃない?もう少ししたら、フロンティアの起動もあるし」

 

そう。

失明したり失声したりしたとはいえ、ネフィリムの起動自体は成功していたんだ。

それに日本が大変な状態になっているとはいえ、月の落下も懸念されている中。

一国の事情にかかりきりと言うわけにも行かない。

だから、次の作戦はわたし抜きでやるとのことだった。

まあ、当たり前っちゃ当たり前だから、受け入れはしてるんだけどね?

 

「弦十郎さんにも許可は貰ってるし、後は響の返事次第なんだけど・・・・どうかなぁ?」

 

どう、と言われても。

絶賛お休みなわたしと違って、未来はこの後大仕事を控えている。

目が見えない上に喋れないわたしでも、英気を養う一助が出来るなら。

断る方がとんでもなかった。

なので、こっくり頷いて肯定を伝える。

 

「本当?やった!」

 

わたしの手を握って、嬉しそうに笑う未来。

・・・・よかった。

こんなになっても、まだ未来を笑わせることはできるんだ。

 

 

 

それでまあ、次の日。

 

 

 

外の空気って、こんなにおいしかったっけ・・・・!?

いや、都会なんだけど!びみょーに排ガス臭いけどね!?

やっぱあれだね、室内にいるよりずっとマシだね!

 

「響、浮かれてる?」

 

ありゃ、バレたか。

隠してもしょうがないので、ちろっとベロを出す。

すると、未来がくすくす微笑んでいるのが聞こえた。

 

「それじゃあ、行こうか。しっかり掴まっててね」

 

腕を組んでくる未来にこっくり頷いて、歩き出した。

バスに揺られて行く先は、近くの臨海公園。

病院からもほど近い、ちょうどいい場所にあるんだよね。

いざ着いてみれば、街中以上に澄んだ空気。

吹いてくる風には海の香りも混ざっている。

シーズンはとっくに過ぎてる所為か、未来がちょっと寒そうにしてたけど。

バスから降りたばかりの茹だった体には、ちょうどいいみたいだった。

 

「――――?」

「大丈夫、響がいるんだもん」

 

とはいえ。

付き合わせて風邪を引かせてしまったら大変なので、未来の方を見て首を傾げてみる。

こっちの思惑が分かりやすかったからか、未来は元気に答えてくれた。

 

「あ、あそこカモメがいるよ。鳴き声聞こえる?」

「――――」

 

確かにそれっぽい声が聞こえるので、こっくり頷く。

それからも未来は、見えたことを中心に色々教えてくれた。

お日様が暖かくて、絶好のお出かけ日和だということ。

意外と家族連れもいること。

対岸の港に、大きな貨物船が入ってきていること。

例え見えなくても、同じ景色を共有できるのに安心できて。

わたしは首が痛くなるくらい何度も頷きながら、未来の話を聞いていた。

 

「・・・・?」

 

と、そんなこんなでお散歩を楽しんでいると。

未来がふと立ち止まった。

しっかり腕を組まれているので、自然とわたしも立ち止まる形になる。

何があったんだろ。

 

「おっ、お嬢さん興味持ってくれた?よかったら見てってよ」

 

浮かんだ疑問は、気のよさそうなおにーさんの声で何となく解決した。

露店かな?

気になるものでもあったんだろうか。

 

「ぁ、ぃえ、その・・・・ご、ごめんなさいッ!」

 

だけど未来はどこかあたふたすると、そのまま全力疾走を始めてしまった。

わたしも引っ張られて、『あらら、またねー』なんておにーさんの声が、ドップラーで去っていく。

ど、どうしたの?

 

「ぁ、ご、ごめん!大丈夫だった?」

「――――」

 

ある程度走ったところで、未来はやっと我に返ったらしい。

いや、走ったこと自体は別にいいんだよ。

首を横に振ってから、『何かあったの?』というニュアンスで首を傾げてみる。

 

「な、なんでもないよ?」

 

えぇ~?ほんとにござるか~?

 

「ほ、ほんとだってば」

 

ちょっとからかうように前かがみになってみると、そんな可愛い反応が帰ってくる。

うむ、そのかわゆさに免じて見逃そうではないか。

 

「なんか、納得いかないこと思われた気がする・・・・」

 

きのせいですよ~、と。

かるーく口笛を吹いて、誤魔化しておいた。

 

「もう、響ったら・・・・」

 

口調こそ呆れていたけど、聞こえた息遣いはなんだか楽しそうで。

だからわたしも、思わず笑顔が浮かんだ。

それからちょっと先へ出て、未来の手を引っ張る。

もーちょっと歩いてみよ?

 

「ふふ、うん」

 

手を握り返した未来は、また腕を組んでくれた。

そのあとも、海で魚が跳ねたのが見えたとか、咲いてる花が何の種類か考えたり。

そうこう歩き回ってるうちに、すっかりお昼時に。

未来がお弁当を持ってきてたので、広げたレジャーシートの上で食べる。

ふと、『わたしどうやって食べたらいいんだろ』とか考えたんだけど。

疑問はすぐに解決した。

 

「はい、あーん」

 

まあ、そうなりますよね。

家とか仲間内でやるのは別にいいんだけど、こう。

外でするのは、まだ気恥ずかしい部分がありましてな?

いや、どっちにしろ食べるんだけど。

未来からもらった食べ物を、ひな鳥みたいに受け取ってもぐもぐ。

食感からしてハンバーグかな?

 

「おいしい?」

「――――」

 

言われるまでも無いので、頷く。

味覚は無くても、未来と一緒に食べるものならなんでもおいしい。

フシギダネー。

 

「おにぎりもあるよ?」

「――――」

 

ください!と口を開けると、未来がまた楽しそうに笑ったのが分かった。

――――お昼を食べ終わった後は、ちょっと一休み。

レジャーシートに座ったまま、なんとなーくうとうと。

潮風が気持ちよくて、このままだと眠っちゃいそう。

 

「ひーびき」

 

なんて考えていると、未来が頭に手を回してきた。

何々?と思っていると、横に倒される。

頭の下には、柔らかい感触。

これは・・・・膝枕ッ!?

い、いいんすか!?こんな役得なことしてもらっちゃって!?

 

「寝てていいよ」

 

優しい手のひらが、頭を撫でてくれる。

見えなくても、未来がどんな顔してるか簡単に想像できて。

・・・・そういえば。

こんなにゆっくり出来たのって、何時以来だろうか。

今年は特にバタバタしてたから、こうやって休むことはあんまり記憶に残ってない。

そうなると・・・・うん。

障害を背負ってしまったこと、そこまでネガティブに捉えなくてもいいかもしれない。

手を握り返せば、また未来が笑った。

・・・・ああ、いいなぁ。

あったかいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

そんな平穏をぶち壊す、ぐぅんという音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!」

 

現れた気配に飛び起きる。

未来も一緒に身構えたのが分かる。

 

「――――立花に小日向か、ちょうどいい」

 

一緒になって睨んだ先から、久しぶりに聞く声。

記憶とはちょっと違っているけど、間違いない。

 

「武永くん・・・・!」

「確かめたいことがある、手伝え」

 

目の前で、敵意が膨れ上がった。




今回、目が見えない描写をしましたが。
極力同じ症状の方に不快な思いをさせないよう配慮したつもりでしたが、もし気になり所がございましたら。

「ちげーぞオラアアアン!?」

と、遠慮なくご指摘ください。

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