チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ここのところ、短編の日間ランキングにほぼずっといさせてもらっていますガタガタ
いや、ほんとうにありがたいです。
これからもどうか、暇つぶしにかまってやってくださいませ。


翼さんと了子さん

『風鳴翼』。

その名を知らぬ者は、現代日本においていないだろう。

かつて一世を風靡したボーカルユニット『ツヴァイウィング』の片割れにして、今もなお人々を魅了し続ける歌姫。

相方を失ってもなお歌を届ける様に『健気さ』を見出すファンが多く、最近では海外からもオファーがきているとか。

そんな今をときめく歌姫だが。

彼女にもう一つの顔が存在することは、誰にも知られていない。

 

「あーら翼ちゃんお悩み?」

「櫻井女史」

 

ここは特異災害対策機動部二課、その本部。

日本におけるノイズへの最後の砦であり、唯一の対ノイズ武装『シンフォギア』を保有する組織。

翼はそのシンフォギアを扱える、ただ一人の人間だった。

休憩スペースにて何か考え込んでいた翼に、白衣を揺らした女性が人懐っこい笑みを向ける。

『櫻井了子』は、シンフォギアの開発者。

現時点でシンフォギアを新たに製造できる、同じくただ一人の人間だ。

 

「悩み、になるのでしょうか・・・・」

「でも気になることがあるんでしょう?」

 

年上であることと、長年の付き合いであることが効いたのだろう。

翼はもう少し躊躇った後で、とつとつ話出した。

 

「あの、ガングニールの装者についてなんですが」

「ああ、こないだの」

 

半月前の話だ。

二課が元々保有していた聖遺物の一つ『ガングニール』。

『グングニル』とも呼ばれる、北欧神話の槍を加工したシンフォギアがあったのだが。

二年前、翼の相棒でもあった『天羽奏』とともに、その運命を共にしたとされ。

もう二度とみることがないだろうと思われていた。

そんな矢先に、見知らぬ少女が寸分違わぬ反応を示すシンフォギアを纏い、翼の前に現れたのである。

彼女はガングニールを使いこなしていたようで、視界を上手いこと遮られ、あっという間に逃亡されてしまった。

 

「あの子がどうしたの?」

 

了子に問いかけられた翼は少し考えて、言いたいことを纏めて。

 

「彼女が言っていた、『守るために手放す』という言葉が、どうも引っかかっているんです」

 

あの少女が、『立花響』が言っていた『守りたいもの』とは。

現在二課が重要参考人として保護している『小日向未来』のことだろう。

彼女は響に置いていかれたことが堪えているようで、今日学校で見かけたときも、聊か元気が無いように見えた。

『守りたい』という感情は、翼自身もよく分かる。

半身ともいえる相棒を失っても、今の自分には叔父であり上司でもある弦十郎や、隣にいる了子など。

守りたいと思える人は大勢いるのだから。

だが、響がとった行動はどうだろうか。

まるで『お前は足手まといだ』と捉えかねないくらいの突き放しっぷりは、翼にも思うところがある。

 

「んー、そうねぇ」

 

たどたどしくも、しっかりした翼の意見を聞いた了子は、頭を捻って唸る。

 

「荒事は専門外だから、一概にこうとは言えないのだけど」

 

やがて、そう前置きして語りだした。

 

「私は、響ちゃんのとった行動もあながち間違いじゃないと思うわ」

「そうなんですか?」

「ええ、そもそも『力』というのは、色んなものを引き寄せてしまうもの、いいものも悪いものも」

 

本人が望もうが望むまいが、勝手に傍へとやってくる。

 

「だから、自分の大事なものが傷つかないように、そんな危ない元から遠ざけるという点では、別に間違っているというわけではないのよ」

「なるほど・・・・」

 

感心して頷く翼を微笑ましく見つめつつ、了子は続ける。

 

「だけど、正しいかどうかといわれると、この場合は何とも言えないわね。未来ちゃん、一回塞ぎ込んじゃったし・・・・」

 

それに関しては、翼も覚えがあった。

今まで一緒にいた人が、ある日突然いなくなる喪失感。

体の中の、何ともいえない大事な部分が満たされない飢餓状態。

二年たった今でも、あの日を思い出す度に燻っては、翼の胸を苛むのだ。

傷を負ったばかりのあの子は、今の翼以上の痛みを感じているに違いない。

唯一の救いと言えば、離れた相方がまだ生きているということだろう。

 

「・・・・多分、これは翼ちゃんにかかっているかもね」

「私にですか?」

 

きょとんとする翼に、こっくり頷く了子。

 

「そうじゃなくても、私達にとって無関係ではないガングニールの担い手よ?ほっとけるわけないじゃない。そしてあの子に対抗できて、かつ連れて来れそうな人間と言えば・・・・」

「私、ということですか」

「そういうことー」

 

人差し指を立てていた手をぱっと広げておどける了子。

仕草こそ茶目っ気があるが、大事なことを伝えたいのは良く分かった。

 

「未来ちゃんを元気付けるにしても、ガングニールの出所を知るにしても、響ちゃんの確保は不可欠。もちろん私達だって、そのためのバックアップは惜しまないから」

「はい、私も全力を尽くします」

「その意気よん♪」

 

『かわいいやつめ』と翼の頭を撫で回す了子。

髪をかき回され、前が良く見えないのをいいことに。

言葉とは裏腹の、妖しい光を瞳に宿していた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ね

 

 

 

 

 

 

 

 

死ね

 

 

 

 

 

 

 

死ね

 

 

 

 

死ね、死ね、死ね

 

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

 

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ!!!」

 

がばっと身を起こす。

息が苦しくて、何度も何度も呼吸する。

ここはどこだっけ。

そうだ、昨日侵入した空き家だ。

鍵を壊して不法侵入したんだっけ・・・・。

袖で顔を拭えば、じゅく、という嫌な音。

うへぇ、汗びっしょりだぁ・・・・。

 

「っはぁー・・・・」

 

っていうか、今の夢なんだ。

物騒すぎるでしょう・・・・。

熱さは感じないとは言え、濡れた感覚が気持ち悪い。

だけどお風呂とか贅沢いってらんないし・・・・。

ぐぬぬ、無法者はこういうとき辛いよ・・・・。

せめてもの抵抗に上着を脱いで、すこしでも湿気から逃げようとする。

傍に放ったとき、ふと未来に上着を貸したときのことを思い出して。

そこから今頃どうしてるかなと気になった。

まあ、あの時読み取った気配からして、二課の方針は原作どおりと見ていいだろう。

多分未来は、わたしとつるんでいたとして、重要参考人として保護されているに違いない。

で、あの司令さんのことだから、学校にもきちんと通わせているだろうし。

っていうかこの間、街でリディアンの制服着てるの見かけたし。

だから、このままで大丈夫のはず。

・・・・一途なあの人とか、野良猫的に可愛いあの子とか。

アレコレ気にならないといったら嘘になるけど。

やっぱり『原作』がハッピーエンドになったのは、『響』が『響』だったからなのであって。

おおよそ『わたし』には成し得ないことだから。

だからこの世界では、翼さんと二課の皆さん(ゆかいななかまたち)に任せることにしよう。

わたしも早いとこ日本を出る算段整えないと、もたもたしてたらOTONA達に確保されちゃう。

せっかく、未来をわたしから解放出来たんだ。

このまま近くにいたんじゃダメだ。

 

「・・・・ッ」

 

・・・・ダメだって、分かっているのに。

感じないはずの痛みで頭が疼いて、寒くないはずの体が凍えた。




これは諦めて連載にでもすべきかしら(白目

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