チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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しないフォギアのノリでお楽しみください。


閑話:小ネタ1

『一方その頃』

 

「――――動機はこんなところかしら」

 

二課の息がかかった医療施設の一つ、存在を秘匿された個室。

匿われていた了子は、見舞いに来た弦十郎へ。

永い物語を語ったところだった。

 

「ね?悪役らしい身勝手さでしょう」

「・・・・ああ、確かに身勝手だ」

 

一息置いた彼女は、口元を吊り上げて自嘲する。

対する弦十郎は、数瞬黙ってから口を開いた。

 

「だが、全部悪いとは思わないな」

 

しかし次の瞬間には、そんなことをのたまった。

がしがし頭をかきながら、一度目を伏せる。

 

「始めは私情だったろうが、それでも言語が破壊されたとき、君なりに人が繋がれる方法を模索したんだろう?そこは素直に賞賛すべきだと思う」

「・・・・・けど、人間達が争う原因になったわ」

 

糾弾されなかったことに動揺して、了子は目を逸らす。

実際、人間たちは与えた技術で殺すことを覚えた。

そこから無辜の人々が恩恵を受ける発明も生み出したものの、やはり了子にとっては苦い出来事として記憶されているらしい。

 

「技術も道具も、使う人次第だ」

 

そんな彼女へ、弦十郎はっはっきり断言する。

――――包丁がいい例だろう。

料理はもちろんのこと、『うさぎりんご』をはじめとした飾り切りも出来るが。

ひとたび刃を人間に向ければ、命を奪う凶器へ変貌する。

しかし殺しに使われたからと言って、製造者の罪まで問われるものなのか。

弦十郎はその事柄に対して、はっきり『否』を叩きつけたのだった。

 

「あなた、甘いってよく言われないかしら?」

「ああ!性分だからな!」

 

了子はせめてもの抵抗にねめつけるものの。

当の弦十郎はいつも通り快活に笑うだけで、特に気にした様子も無い。

しかしそんな気の抜けた表情も、すぐなりを潜める。

 

「とはいえ、イチイバルやネフシュタンの強奪を始めとした暗躍は、無視できないものが多い」

「・・・・なるほど、裁きは下すということね」

「ああ、そこでだ」

 

ここで彼は、あるファイルを了子に渡した。

首を傾げながら受け取った彼女は、早速中身に目を通す。

内容は、ここしばらく行われていた米国との交渉結果だったが。

次々読み進めていた了子は、怪訝な顔からどんどん目を見開き。

最終的には驚愕を全面に現す。

それから呆然と弦十郎を見て、恐る恐る口を開く。

 

「・・・・正気?」

「本気だぞ?」

 

にべもなく返ってきた返事に、今度は頭を抱えたくなった。

だがどれだけ唸ろうが、手元の結果は変えられない。

 

「優秀な頭脳を手放す理由はないし、こちらは君の弱みを握っている。有効活用するほかないだろう?」

「・・・・はは、確かにそうね」

 

了子は乾いた笑みを零す。

敵わないと思いながら。

この上司の下で動けることに、喜びながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

『打ち上げ』

 

米国との交渉も一通り纏まり、『ルナアタック』に関する火消しもほぼ終了。

実に一ヶ月と言う時間がかかったものの、二課はやっと一息つける状況になれた。

 

「では、改めて紹介する!」

 

そんな中行われた打ち上げ。

前方に立つ弦十郎の隣に、照れくさそうな響と、恥ずかしげなクリスが並んでいた。

 

「ガングニールの装者、立花響くんと、イチイバルの装者、雪音クリスくんだ!」

「どーもー」

「よ、よろしく・・・・」

 

手馴れた様子で笑う響と、俯いたまま小さく一礼するクリス。

それぞれの反応に、大人達の温かい視線と拍手が送られる。

 

「特に響くんは、うちの正式な職員として迎えることになった。先輩になる連中は、しっかり面倒を見てやってくれ!」

 

――――本来なら学校に通っている響だったが。

ここではガングニールの侵食が進んでおり、発症した障害の数が夥しいことも相俟って。

通学はせずに、二課で職務につくという選択肢を取っていた。

 

「あったり前田のよしこさーん!」

「響ちゃんよろしくー!」

 

弦十郎の言葉に、ノリのいい若手達は威勢よく返事。

彼らの熱意に大いに満足しながら、次へ。

 

「それからもう一つ!入ってくれ!」

 

会場の入り口に向け、一声かければ。

ドアが開けられ、一人の人物が歩いてくる。

誰もが知っていて、だからこそ驚愕した彼らはざわつく。

 

「「・・・・ぎ」」

 

特に、雇われたり飼われていたりした響とクリスは。

わなわな震えながら、口をぱくぱくさせ。

 

「「ギャーッ!出たーッ!!」」

「・・・・言い返せないわね、言い返したいけど」

 

死んだとばかり思っていた彼女を見て、ひしと抱き合った。

 

「うちの技術主任『櫻井了子』くんが、本日付を以って勤務に復帰することになった」

 

白衣を揺らした了子は、視線をものともせず堂々と立っていた。

 

「――――まずは、今まで迷惑をかけてごめんなさい」

 

前に出て、まずは一礼。

 

「恥知らずにも、恩情でどうにか戻ってこれました。この恩に報いるため、精一杯努めて行きたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします」

 

懐疑、警戒、困惑。

様々な感情を真正面から受け止めながら、最後にまた深々と一礼した。

 

「・・・・・思うところもあるやもしれない、だが、これまで培った時間が全て嘘のはずがない!そうだろう!?」

 

頼れる司令官の問いかけに、一人、また一人と。

同僚や先輩と見合いながら、控え目に頷きあう。

と、ここで音。

拍手だ。

皆が目をやると、翼が薄く笑いながら手を叩いている。

その姿を見た職員達も倣って、拍手。

始めこそまばらだった音は、会場中に満ちる。

 

「・・・・ありがとう」

 

喝采溢れる光景を目の当たりにした弦十郎が、了子を見やれば。

いつか自分にも見せた、『敵わない』と言いたげな笑みを浮かべているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『家に帰ったら』

 

旧リディアン周辺の閉鎖。

本来の物語より影響が少ないとはいえ、転居を余儀なくされた人々がいるのもまた事実。

立ち入り禁止区画に定められた円の中には、未来が住んでいたアパートも含まれてしまっていた。

これを受け、未来と、一緒に住むことになった響の住居は移転が決定。

弦十郎が後見人となり、リディアンの新校舎に近いマンションを借りることになった。

 

「おおぅ・・・・」

 

さて。

そんな新居へ、少ない荷物を持って到着した響。

思ったよりも広い部屋と小奇麗な内装に、思わず感嘆の声を上げる。

 

「なんか、ちょっと申し訳ない気分・・・・」

「あはは、分かる分かる」

 

同じく新居に圧倒されていた未来が、どこか不安げにこぼした呟きを。

響は苦笑いで肯定した。

 

「じゃあ、荷解きとか部屋割りとか、ぱぱっと終わらせちゃおう」

「そうだね・・・あ、その前に」

「んん?」

 

提案にこっくり頷いた未来だったが、ふと、何かを思いついたらしい。

どこか得意げな顔で響の前に回りこむと、両手を広げた。

 

「響、おかえりなさい!」

 

何事かと首をかしげる響へ、満面の笑みを向ける未来。

一方の響は少し驚いた顔をしていたが、一瞬泣きそうな顔になってから、穏やかに笑い返す。

 

「・・・・ん、ただいま」

 

抱きしめる。

相変わらず温もりは感じられなかったが。

愛しさが溢れているのは、紛れもない事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『料理』

 

ある日のこと。

未来は難しい顔でテーブルに座っていた。

恨めしく見つめる先には、真っ黒にこげた食材だったもの。

『響のためになるなら』と、苦手な料理に挑戦してみたものの。

結果は惨敗。

小火などのトラブルが起きなかっただけマシだが、それでも悔しいものは悔しい。

 

「・・・はぁ」

 

だが、いつまでもこうしているわけにはいかないと、ため息と共に立ち上がる。

今日も近くのスーパーで、弁当でも買おうと。

まずはこの『おこげ』を処分するべく、皿を手に取ったときだった。

 

「たっだいまー、何か臭うねー?」

「お、おかえりー!」

 

出先から帰ってきた響が、鼻をひくつかせながら入ってきた。

未来が隠す暇もなくリビングにたどり着いた彼女は、テーブルの上の皿を目ざとく見つける。

 

「――――何作ろうとしてたの?」

 

真っ黒な物体を見て、何をしたのか察したのだろう。

どこかあったかい目になった響が問いかける。

 

「・・・・に、にくじゃが・・・」

「ふぅん?」

 

一方の未来は、穴があったら入りたい気分で、俯きながら答えた。

響は特に責めるわけでもなく、ひょっこり皿を覗き込むと。

 

「ひ、響!?ダメ、焦げてるから!」

 

徐におこげを一つ摘み上げて、止める間もなく口の中へ。

あわあわする未来の前で、咀嚼してから飲み込んだ。

 

「うん、香ばしいね」

「そりゃそうでしょ・・・・って、また!?」

 

焦げているのだから、当たり前っちゃ当たり前の感想なのだが。

呆れる未来の前で、響はまた一つ摘んでいた。

 

「ダメダメ!!体に悪いし、おいしくないし!」

「人より頑丈だし、味も関係ないから大丈夫」

 

未来の心配も何のその。

あっという間におこげを平らげた響は、少しはしたなく指先を舐める。

 

「多少不味くたって平気だから、未来が納得できるまで付き合うよ」

「あう・・・・」

 

向けられた微笑みに、何も言えなくなってしまって。

未来は顔を真っ赤にして俯かせた。

 

 

なお、当然足りなかったので買い物には行ったそうな。


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