ネカフェマジ便利(
――――モニターの向こうの響を見たとき。
未来が抱いた感想は『ああ、やっぱり』だった。
『翼を呼んでくる』と飛び出していったあの時、素直に帰ってくる気がしなかったからだ。
案の定少し困惑した様子の翼が一人で戻り、『立花はどこにいった』と聞いてきて。
皆の反応を見るなり、すぐ様クリスを伴って飛び出して行った。
合流が遅れたところを見るに、響が入り口を塞ぐなどして足止めしていたんだろうと推測できた。
・・・・響は昔から、どこか臆病なところがあった。
何かトラブルに見舞われたり、不安を抱えたりすると。
反撃したり立ち向かったりせず、逃げや受けの姿勢を取っていた。
ちょくちょく未来や家族を困らせた、『逃亡癖』がその代表だ。
自分には勇気なんて無いから、力なんて無いから。
いつも困った笑顔で、そんなことを零していた。
一見すれば悪いところに見えるけど、それはちょっと違う。
怖がりで臆病だけど、それ以上に他人思いだ。
『勇気が無い』『力が無い』と卑下するのは、自分より優れている人がいると自制しているから。
ふらっといなくなったり距離を取ったりするのは、抱えている困りごとを他の人に背負わせたくないから。
笑顔を取り繕うのは、大好きな人たちを心配させたくないから。
怖いことや辛いことは、全部自分が抱え込んでいれば。
誰も傷つかない。
そうやって不必要な『痛み』を余計に抱え込んでしまう。
そんな子だった。
その不器用でも優しいあの子に十字架を背負わせたのは、紛れもない自分だ。
(・・・・ああ、そうだ)
言われるまでも無く分かっていた。
生き残って、生きていることを否定されて。
それでも死にたくないと反抗した結果が、あの夜の家出。
自分なんて、見かけてついてきただけの『おまけ』みたいなものだ。
でも、響にとっては違った。
大好きな友達で、大切な幼馴染で、守りたいものの一つで。
失うなんてとんでもないもので。
だから、奪おうと向かってくる暴力へ、暴力で立ち向かった。
臆病な心に蓋をして、怖いと叫ぶ本音を押し殺して。
たまたまついてきただけの、見捨てたってよかった『おまけ』を。
その身の全てで、守ってくれた。
・・・・当然、その代償はとても大きかった。
血に塗れて、泥で汚れて、相手と同じだけの傷を負って。
限界以上にボロボロになって、それでもなお立ち止まることを許されなくて。
痛みから解放されないまま生きなければいけないという、『呪い』を背負い続けることになった。
(分かっている、分かっているから)
自分の短慮が原因なのも、自分の弱さが原因なのも。
それ故に、何があっても響の味方で
全部全部分かっている。
分かっているから、どうか。
優しいあの子に、
◆ ◆ ◆
巨大化は負けフラグ(笑)
なんて思っていた時期がわたしにもありました。
まず手足の動き一つが鈍器めいた威力だし、鳴き声がうるさいし。
何より時々撃ってくるブレスが厄介!
当たればダメージ受けるのはもちろん、距離によっては光で目が眩んだりするんだよー!
明るさ自体は大したことないけど、夜の今は目が暗がりになれちゃってるから。
むしろそれが余計に辛いいいぃー・・・・。
かといって後ろに回りこんでも、ごんぶとの尻尾が鞭みたいに襲ってくるし。
あの倒せない曲が流れてきそう。
ゲームと違うのは、チャレンジは一回こっきりで、失敗は許されないという点だろう。
ちきしょー。
誰だよ最初に『巨大化は以下略(笑)』なんて言い出したヤローは!?
いっぺんはたいてやるから、前に出なさい!
大丈夫!死にはしないから!
死ぬほど痛いだけだから!
「っとぉ!!」
叩きつけられた尻尾を避けて後退。
直撃は避けられたけど、飛び散った砂利が当たって鬱陶しい。
視点が高くなったことで、翼さんやクリスちゃんの様子が見える。
何度も斬りつけたり、鉛玉ぶち込んだりしてるけど。
奴さんってば硬ーい硬ーい皮膚を持っているらしく。
有効打っぽいものを叩き込めても、すぐに再生されるし。
あまり効果は出ていないようだった。
「くっそ!あの頑丈さ反則じゃねーかァ!?」
「斬っても斬っても再生される・・・・攻めあぐねるとはこのことか・・・・!」
一旦引いた二人と合流して、改めて相手を見る。
コモドドラゴンのお化けみたいなビジュアルで、中々強キャラじゃないか・・・・!
理屈はなんとなく分かる。
無限の再生能力を備えたネフシュタンの鎧はもちろんのこと、血肉であるノイズはソロモンの杖で補充し放題。
対してこっちは人間やめてる小娘と、SAKIMOlyshな小娘と、鉛玉ばらまく小娘の生身三人衆。
どうあがいても先にバテるのはわたし達だ。
んにゃーもう!こーいうときに限って役に立たないんだからわたしってば!!
――――ガアアアアアアアアアアアアッ!!!
ってアカン!またブレスが!
そろって三方に飛びのく。
もはや役に立たないからか、放たれたブレスはカ=ディンギルをぶち抜いていた。
うっへぇ、例え痛くなくても当たりたくないなぁ。
「ッ立花ァ!!!」
その時、翼さんの切羽詰った声。
反応する前に、体に衝撃。
わけも分からないまま、また衝撃を感じて。
下へ下へ落ちて行く。
・・・・・あ、これカ=ディンギルの中?
そういえば避けたとき、周りが見えにくくなっていたんだっけ。
まだぼんやり光ってたカ=ディンギルの所為で、明るいとこに目が慣れちゃってたんだろう。
なんて考えた直後。
三度目の衝撃で、今度こそ意識を手放す。