「これは・・・・!」
モニターに写った響の姿。
彼女が独断で単独出撃したというのは、すぐに分かった。
万が一に備えて弦十郎と緒川を仮司令部に残し、クリスを伴った翼が駆けつけてみれば。
大きくひしゃげた無残なシェルター口が行く手を阻んだ。
操作盤には鉄骨が突き刺さっており、システム的には開けられない。
かと言って物理で突破しようにも、みっちり突っ込まれた瓦礫と言う瓦礫が、心理にストップをかけてしまった。
「あいつ、まさか独りで・・・・!?」
呆然としたクリスの声に、自然と歯軋りしていた。
何度も手を伸ばして、すり抜けて。
近頃やっと心を開いて傍に来てくれた響。
そんな彼女は、傷が癒えきっていないまま。
また新しい痛みを背負おうとしている。
新しい傷を、その身に刻もうとしている。
(ふざけるな、ふざけるな・・・・!)
剣を握る手が強くなる。
胸で炎が燃え盛る。
「ッ足踏みなどしていられるか!!突破するぞ!!」
「あ、ああ!」
想いを力に変えて、翼は剣を振りかざした。
◆ ◆ ◆
特撮・・・・特撮だッ。
目の前に特撮キャラがいるッ!!
アレだ。
某ライダーに出てきそうな、幹部クラスに強い怪人。
あるいはたまに見かける、ライダーをリデザインして野生的な面を前に押し出したごっつい感じ。
どっちにしろヒーローって雰囲気じゃないよね。
っていうか、でもネフシュタンって男の人が纏うとああなるんだ。
ああいうデザインを『ロマン』っていうんだろーね。
「はぁッ!!」
「っと・・・・!」
飛び掛ってきたので、こっちも飛びのいて避ける。
体をひねって着地すれば、ロケットスタートで突っ込んでくるおじさん。
そのパンチを蹴り返すけど、競り負けて吹っ飛ばされる。
むむ、腐っても完全聖遺物か。
おじさんの表情は分からないけど、聞こえた息遣いでにやにやしてんのは分かる。
ちょっとむかつく。
「・・・・ッ」
飛び込んで肉薄。
ぐっと溜めて、顎目掛けて蹴り。
そのまま振り下ろして肩へ打撃。
鞭を振るわれたので一旦離れて、さらに体を仰け反って避ける。
相手は鞭を振るい続ける。
バク転で何度も避けながら、攻撃の隙をうかがう。
今のわたし、多分ハリウッドスターもびっくりな動きをしてる。
途中ちょっと身捌きが間に合わなくて、すれすれに鞭が振ってくる。
でもわたしはこれを好機と取った。
「それッ!」
戻されていく鞭を引っつかんで、思いっきり引く。
勢い良く引っ張られたおじさんが、こっちに飛んでくる。
怯まずに攻撃態勢取るのはさすが、でもこっちだってやられるわけにはいかない。
「おぉッ!」
「だぁッ!」
向けられた拳を迎え撃つ。
走った衝撃波が顔にぶつかって、ピリピリした。
そのまま滑らせて腕で迫り合い、弾きあう。
右腕の刃を展開して、また接近。
鞭の連撃を避け続けながら駆け抜ける。
頭上からの一撃を弾いて、胴体へ一閃。
自分でも鋭いと感じる突きが、胸に突き刺さる。
刺したまま、体を引き裂くつもりで振り払った。
「ギアアアアアアアア――――ッッッ!!」
響く悲鳴、吹き出す鮮血。
・・・・でもこれで死ぬわけが無いでしょう?
「あぁ・・・・ぐぅ・・・・・ふふっ、ふふふふ・・・・!」
ああほら、やっぱりー。
傷口はジッパーを閉めるみたいに塞がり、流れた血も巻き戻しみたいに戻っていく。
「・・・・ネフシュタンの恩恵、か」
「よく分かったな」
「間近で見る機会があったもんで」
両手をカタールに変形させて、突撃。
「でも負ける気はしないですね」
「言うじゃないか」
「だってあなたは、所詮人間でしょ?」
「・・・・どういうことだ?」
んー、やっぱ伝わらないか。
しょーがない。
「無限の再生、そりゃ素敵な能力だ。でも傷つくたびに痛みが伴う、致命傷ならなおさら苦しい」
「・・・・・ッ」
さすがのおじさんも理解したらしい。
どこか緊張した空気が生まれる。
相手が本気になったのを分かった上で、嗤ってやる。
「さて、そんなある種の『呪い』を持ってるメリケンさん?一体何回耐えられるのかなー?」
「――――何回でも、だ」
ぶわっと放たれるプレッシャー。
さっきの衝撃波以上に空間を揺らして、肌をビリビリ蝕む。
いや、痛いってわけじゃないんだけども。
何てのんきに考えてたら、おじさんがいなくなってる。
何処いったとキョロキョロしたら、頭上に気配。
見上げると、拳を振り上げているおじさんがいて。
あ、コレ想像以上。
「――――ッ」
避けられたけど、半ば吹き飛ばされる形。
体勢が崩れて着地どころじゃない。
やっと足が地面に着くってところに、おじさんはまた急接近してきて。
「ふんッ!!!!」
「ぁ、が・・・・!」
体のど真ん中、まるでハンマーを叩きつけられたみたいだ。
呼吸が叶わないまま、咳き込む暇なくまた吹っ飛ぶ。
瓦礫の中に埋まる形で突っ込む。
砂利が口の中に入ってわずらわしい。
誰も見てないので行儀悪く吐き出して、立ち上がった。
「お前こそ痛みを感じぬ体で、何時来るか分からぬ限界と戦うのだろう?小娘がどこまで耐えられるのかな?」
「っは、決まってるじゃん」
構えを取って、また嗤う。
「――――死ぬまでだ」
おまけ『前回NG』
「おおおおおおおお・・・・・・!」
自らの内、取り込んだ物を意識する。
途端に感じるのは痛み。
しかし今の自分にとって、これは十分耐えられる感覚だった。
衣服が裂け、替わりに纏うのは『鎧』。
「・・・・盗品で戦うとか、どうよ?」
一度目を見開いた彼女は、先ほどよりも鋭く睨んでくる。
「日本ではこの場合、こういうのだろう?」
ネフシュタンの鎧についている鞭を構えて、嗤ってやる。
「――――勝てばよかろうなのだ」
どう考えてもギャグだったので、ボツ。