チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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すみません、『ひろがるスカイ!プリキュア』の虹ヶ丘ましろに沼っていました(切腹)


雌伏

どうして。

 

ねえ、かみさま。

 

どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――S.O.N.G.に査察が入り、情報規制を担当していた部署が機能不全に陥ったところを突かれたな。こちらでも漏洩元を調べている』

「ああ、ありがとう。八紘兄貴・・・・」

 

ここは、どこにでもある普通のたばこ屋。

その正体は、風鳴ゆかりのメッセンジャーの一人が拠点としているところである。

そこの古めかしい公衆電話から、兄八紘とコンタクトを取っている弦十郎は。

誰が見ても分かる通り、弱っていた。

無理もないだろう。

言いがかりにも等しい緊急査察に寄る活動制限どころか。

守るべき味方が、S.O.N.G.の事情を知る響の家族が、かつての地獄に再び晒されてしまっているのだから。

どこから漏れたのか、響が世界的に指名手配されている『ファフニール』だと漏れてしまった。

このセンセーショナルな話題に、まるでピラニアの様に食いついた各メディアは。

テレビで、新聞で、雑誌で。

生肉に集るピラニアの様に、彼らの尊厳を貪っていた。

 

『・・・・あまり気に病むな、弦。今回ばかりはお前の責任ではないだろう』

「だが、子どもを守るのは大人の役目だ。何にも責任が無いわけじゃない」

『・・・・そうだな』

 

しばしの、沈黙。

ややあって、弦十郎意を決した様に口を開く。

 

「――――なあ、兄貴。今回の査察を指示したのは」

『そこまでだ、弦』

 

少々強い口調で、弦十郎の言葉が遮られる。

 

『私とて、考えなかったわけではない。しかし、それでもあの方は、責務を成し遂げてきた防人であり、私達の父親ではないか』

「兄貴・・・・」

 

――――言うまでもないことだが、八紘は無能ではない。

確かに、風鳴の男児、しかも嫡子でありながら、腕っぷしこそ他の兄弟に後れを取っているが。

外交という武力よりも難しい伏魔殿にて、凡夫を遥かに凌ぐ活躍を見せている。

そして、何より。

常日頃から、敵味方関わらず、人の醜い部分を目の当たりにしてもなお。

人の善性を強く信じる、その精神性。

そこが兄の強さであり、尊敬できるところだと、弦十郎は考えている。

 

『なぁに、いざとなったら国際社会からの圧力を盾に追及するさ。実際、今回の査察に関して疑問視する声が多く出ているからな』

「ははは、さすが八紘兄貴だ。兄弟の中で、一番おっかない」

 

笑い声を零せば、受話器の向こうでも微笑みが零れたであろうことが分かる。

 

「本当に、兄貴はすごいよ・・・・」

『・・・・・そう、思ってくれているのなら。兄として気を張り続けている甲斐があるというものだ』

 

弦十郎につられてか、八紘はやや沈んだ声。

 

『結局のところ、私が人の善性を信じるのは。意地であり、信念であり、覚悟だ』

 

既に『護国の鬼』の支配下にあった、暗い家に生まれて。

人の醜悪な様を何度も見せつけられて。

守りたいものを守れず、拠り所であった嫡子の立場も取り上げられて。

それでも、それでもなおと。

高尚な心を、手放さないよう握りしめるのは。

鬼になってたまるかという、最後に残った意地なのだ。

 

『――――話が逸れたな』

 

気を取り直して。

声を引き締めて、八紘は語り掛ける。

 

『気を抜くなよ弦、此度のこと、生剣の琴線に触れた様だ。何やら動きがあると情報を掴んでいる』

「まさか、義姉さん達が・・・・?」

『おそらくは・・・・』

 

二人して、同じ女性を。

翼の実母にして八紘の元妻、伴薙を想起した。

彼女と訃堂の間には、『浅はかならぬ』では片付かない因縁がある。

流血沙汰も十分にあり得ると、弦十郎は険しい顔をした。

 

『お前も風鳴の本家に名を連ねるものだ、何かしらの接触、あるいは追及が成されるやもしれん。あまり、追い込むようなことは言うべきではないが・・・・』

 

八紘も同じく険しい声色になったと思いきや、こちらを気遣う穏やかなものに変わる。

兄の優しさに感謝しながら、弦十郎は改めて気を引き締めた。

 

「ああ、ありがとう兄貴。こっちはこっちで、何とかしてみるよ」

『・・・・・分かった、どうか武運を』

「そっちもな」

 

互いに気遣いあったあとで、通話を終えた。

 

「・・・・いつも、お世話になってます」

 

去り際、メッセンジャーである老女へ一声かけると。

彼女は穏やかに微笑んで、軽く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――ふぁ」

 

早朝、響と未来の家。

あてがわれた部屋で、香子はあくびを噛み殺しながら起床した。

着替えを済ませて、寝癖を直して。

リビングに出る。

 

「おはよー・・・・」

 

覗き込めば、やはり誰もいない。

当然、返事もない。

 

「・・・・未来ちゃん」

 

陰った声で、この部屋の住人を呼んだ。

――――立花家が、不躾なメディアに突撃を受けて数日。

香子が住んでいる漁師町は、思ったよりも味方が多かった。

そもそも、ガソリンスタンド店員の父に、スーパーの店員な母と。

両親が、普段から町の人と接する機会の多い仕事に就いているのが幸いしているようだった。

それでもやはり、四年前の様に白い目で見てくる人はいるにはいるのだが。

・・・・ありがたいことに、学校の先生や友達は。

香子達の無実を信じてくれている。

姉響が、あのマリア・カデンツァヴナ・イヴと行動している姿がちょくちょく見かけられることも根拠になっているようだった。

とはいえ、何が起こるのか分からないので、こちらから接触を控え始めたところへ。

また高圧的な役人がやってきて、香子をここへ連れてきたのだ。

 

(だいたい、『保護のためだ』とかなんとか言ってたけど、要するにわたしをさっさと懐にいれたかったんでしょ。魂胆見え見えなんだよ、ばーかばーか)

 

未来がいないことをいいことに、行儀悪くぶすくれながら。

朝食の準備を始める。

弦十郎達が手をまわしてくれたようで、響の家が待機場所になったのは幸いだろう。

その時、出迎えてくれた未来は。

幽霊の様な、顔と、声で。

 

――――ごめん

 

――――ごめんね

 

・・・・耳元でささやかれた、あの謝罪が。

今でもはっきりリフレインする。

彼女はこの世で一番、『ファフニール』について罪悪感を抱いていると言っても過言ではない。

香子とて、家族をおいて自分だけ安全地帯へ来たことを気にしているが。

それでも、今はここに来てよかったと考えている。

 

(未来ちゃん、明らかに一人にしちゃいけない雰囲気だもんね)

 

食パンをトースターに放り込み、ベーコンエッグでも作ろうかしらと考えたところで。

 

「――――キョウちゃん」

「ッあれ!?未来ちゃんおはよう!!」

 

まさか出てくると思わなかった未来に、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「・・・・だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫」

 

恐る恐る問いかけてみると、こっくり頷く未来。

しかしその顔は、やっぱり大丈夫じゃない表情で。

一見なんでもないように思えて、どこか儚い気配を纏っていた。

 

「ごめんね、せっかく来てくれたのにほったらかしで」

「そんな、いいんだよ!未来ちゃん具合悪いんだし、自分のお世話くらい自分で出来るし!」

「それでも、だよ。こんな時にほったらかしにするのは良くないもん」

「まあ、そうだけど・・・・」

 

そりゃあ、香子の本音としては構ってもらえる方が嬉しい。

だって子供だもん。

しかしだからといって、未来のフォローをしなくていいかと言われたなら。

香子は全力で否定する所存だった。

さすがにそこまで求めれば、質の悪い我儘でしかないのだ。

 

「朝ごはんは・・・・もう作ってるんだ」

「う、うん!あ、未来ちゃんの分も作るよ!」

「ふふ、お願いしちゃおうかな」

「任せて!」

 

せめて、未来がこれ以上落ち込まないように。

努めて明るく振る舞う香子だった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

――――てっきり、拷問的な何かをされるかと覚悟していたんだけど。

今のところ意外と何もない。

やっぱり『神の器』だからだろうか、下手に傷つけらんないんだろうね。

まあ、要するに何が言いたいというと。

 

「ひまぁ・・・・」

 

それに尽きた。

いや、みんなは冗談抜きで大変なことになってるんだろうけどね。

あのいけすかないお役人が、鬼の居ぬ間にとばかりに好き勝手やってるのが容易に想像できる。

でも今のわたしは絶賛牢屋の中だし、お外に出られないし。

本すらない状態だからね。

鼻歌で気を紛らわそうとしたけど、逐一他所のお役人に怒鳴られるのでやめた。

ちくせう。

・・・・正直。

このくらいの鉄格子なら、簡単にぶちやぶれるんだけども。

出たら出たで、また難癖付けられるのが目に見えてるからね。

おとなしくぼんやりするしかない次第・・・・。

 

「はあ・・・・」

 

腕を顔にのっけて、考える。

・・・・どっかの、バカが。

わたしがファフニールであるっていう情報を、メディアに流したらしい。

なんてことしてくれやがる。

あまりの怒りに『怒ッ気怒気♡』が止まんねぇよ、ハハッ。

 

「・・・・ッ」

 

気付けば手に力が籠っていたので、深呼吸しながら手を開いた。

指の爪が食い込んでいたのか、手のひらにちょびっと血が滲んでいる。

そのまま見つめていると、じわじわ痛くなってきた。

静かにため息をつきながら、またぼんやりと天井を眺める。

 

「・・・・負けるもんか」

 

落ち込んだ心を、強がりの言葉で持ち直しながら。

残してきた人々を思うのだった。




ひろプリで何かしら書きたいな・・・・()

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