「ああ・・・・はっきり言って、我々業界の信頼を揺るがしかねないものだ」
「だったら・・・・!」
「だが、従わざるを得まい・・・・四年前の大罪を、引き合いに出されてしまってはな」
「――――何の為の、
本部に戻ったわたし達が見たのは、銃口を突き付けられる司令さん達だった。
中には抵抗してしまったのか、明らかに殴られて気絶している職員もいる。
・・・・射撃された人がいないだけでも、不幸中の幸いと思わないといけないだろうか。
「何故今になって活動の制限などかけてくる!?現状が分かっているのかッ!?」
今目の前では、政府から派遣されたという、お手本通りの『いけすかねぇお役人』が。
司令さんと言い合いをしている。
「しかし、そこの装者が発動させた未知の機能についてはどう説明するつもりかね?我々日本政府は、報告を受けていないぞ!!」
「ッ確かに、S.O.N.G.は報告を逐一提出することによって、日本国内での活動を認められている・・・・!」
「その通り!報告を受けていない、未確認事項が明らかになったのだ!そちらの不手際を追及するのは当然のことではないかね?」
この野郎、重箱の隅つつくようなこと言いやがって・・・・。
『人に指向けちゃいけません』って、ママに習わんかったんか!?おおん!?
「けれど、異端技術において想定外なんて日常茶飯事」
司令さんを援護する様に口を開いたのは、了子さんだ。
「特にシンフォギアは、適合者の精神状態に大きく左右されるのだから。ある日突然新機能が生えてくるなんて、十分にあり得るわ」
にやけ顔をやや睨みながら、まっすぐお役人を見据える。
「日頃の報告には、毎度そのことを含めて明記しているのだし。
「ふむ、一理ある・・・・しかしだね」
しかし、賢者様の威圧もなんのその。
今だ余裕を崩さないお役人は、意地の悪い目をわたしに向けてきて。
「――――何よりも問題視しているのは、その小娘が『前科持ち』であるということなのだよ」
――――ッ!!
それ、今持ち出すゥッ!?
「『ファフニール』であったかね?国際的にも大々的に指名手配されている、凶悪な連続殺人犯。そんな危険人物を匿っているのはーーーー」
「響君の罪状については、国連、日本政府共々再三に渡り散々説明したはずだッッッ!!!!」
お役人の話をさえぎって、司令さんの怒号が轟く。
落雷みたい・・・・。
「何より、翼、マリア君と肩を並べて四度も大きな事件を解決に導いているッッッ!普段の救助活動だってそうだッッ!!」
司令さんは掴みかかってしまいそうな剣幕で、腹の底から声を出す。
「手にかけてしまった以上の命を救ってきたことッッ!!!国連はもちろん、日本政府もその功績を認めていたんじゃなかったのかッッ!!!?」
「――――本人の償いの意思が強いこと、何より犯罪に走った切欠が、個人の努力ではどうにもできない環境こそが原因であったことを、耳にタコが出来るほど散々っぱら話したはずだけれど?」
・・・・・・
了子さんの目が、ガチだ・・・・。
いや、今わたしが理不尽に追及されてる大変な場面なんだけれども。
そんなん吹っ飛ぶくらいの怒気というか、殺意というか・・・・。
ちょっと他人ごとにならないと狼狽えてしまうそうになるほどの、プレッシャー・・・・!!
「そんなのは私だって承知の上だ!だが、それが日本政府の決定だ!」
『そもそも!』と、お役人はますます調子づいて両手を広げる。
舞台俳優のつもりか?似合っとらんぞー。
「先だっての、最終決戦で見せた『青い炎』についての報告もまだ上がっとらんではないか!!お前達、まさか日本の国家転覆を謀っているんじゃないだろうな!?」
「ッ言いがかりも甚だしい!!」
とうとう了子さんも声を荒げる。
金色の目を鋭く釣り上げて、お役人に詰め寄っていく。
「あれに関しては、我々としても未知の部分が多いのだッ!本人が自在に制御できるわけでもない!発動条件が何かも分からない!」
心なしか、毛先もフィーネさんになりつつあるように見える。
「今のこの状況が切欠に成り得るやもしれんのだぞッ!!?」
流石のお役人も、大賢者様の威圧を受けて後ずさっていたけれど。
やっぱり権力を笠に着ているだけあって、退いてくれることはなかった。
「それはますます放置するわけにはいかんな!不確定要素が満載の危険物ッ!!なおのこと改めねばならんッ!!」
鬼の首を取ったような、勝ち誇った笑みが腹立たしい。
「今後、アマルガムとやらの使用は全面禁止、立花響は拘束とさせてもらうッ!!」
「・・・・了解した、だが今は有事!装者達のギアの所有は認めてもらうぞ!!」
「ふん、落としどころは必要か」
とはいえ、あんまりごね過ぎれば立場が悪くなるのはこっちだ。
結局、S.O.N.G.は一部活動を制限されてしまうことに。
未知の機能であるアマルガムを理由に、緊急査察が入ることになってしまった。
・・・・拘束されることになったわたしの留置場所が、本部のものであるのは幸いと考えるべきか。
(・・・・そんでもって、この騒動っていうか、一連の裏にいるのは)
手錠をかけられながらも、なんとなくを装って翼さんを見る。
・・・・・なんというか。
(黒だって言ってるようなもんだよなぁ、あのお爺さん)
襲撃された米国の砕氷船、鏖殺が行われた翼さんのライブ会場。
ライブ会場以降の、翼さんの不調。
そして、今回の。
『怪物達』を助けるような、本部への緊急査察。
引っ立てられつつ、『お年寄り』への疑念を強く持つ。
◆ ◆ ◆
――――走る、走る、走る。
脱走による懲罰なんて、考える余裕はない。
それ以上に優先するべきことがある、確かめなければならないことがある・・・・!!
玄関を開け放つ。
普段は当主がいる執務室に飛び込む。
「――――父上!!兄上!!」
腹の底から、雷鳴の如き怒号を轟かせて。
渦中の人物を呼ぶものの。
答えたのは本人達ではなく、次兄一人だった。
「訃堂、か?」
すっかり憔悴した様子の彼は、想像通りの疲れ切った声を出す。
「はは・・・・まさか、駐屯地から走って来たのか!?流石は、『
「そんなこと、今は良い!!それよりも、報せは本当なのか!?本当に、父上と兄上は・・・・!?」
「・・・・ああ、事実だ。なんの偽りもない」
身を案じる余裕もなく、肩をひっつかんで揺さぶれば。
次兄はこの世の終わりのような顔をしたのちに、うつむいて。
「――――父上と兄者は、連合国と密だった」
信じたくなかったことを、肯定したのだった。
「・・・・何故」
「訃堂」
「・・・・何故だ!?」
「訃堂、落ち着け」
「何故だ!!!何故、何故そんな・・・・!!」
信じられなかった、信じたくなかった。
誇りある大八島を、千年に渡って防人ってきた一族。
その当主である父と、後継ぎである長兄が。
心の底から尊敬していた二人が。
国を、一族を、己を。
――――何より。
今この瞬間も、命を懸けて戦っている多くの帝国臣民を。
裏切っていたなどと!!!!
「訃堂・・・・」
頭を抱えた己を、次兄がそっと労わる様に触れてくれる。
背中に温もりを感じる中、考えたのは。
「・・・・私は」
厳しくも正しく指導してくれる上官。
それぞれの理由で、確かな覚悟を持って訓練に挑む仲間達。
そして、共に国を防人ろうと誓った、親友の顔。
「・・・・私は、どんな、顔でッ・・・・彼らに・・・・!!」
理由は違えども、信念は違えども。
祖国の為にと立ち上がった、仲間達に。
なんと伝えればいいのか。
「――――訃堂、よく聞け」
うずくまる己に、次兄が芯を持った声で話しかけてくる。
「私はこれから、風鳴の当主として事態の収拾に当たる。その暁には、切腹を以て一族のけじめをつける」
思考が、止まった。
頭が理解を阻み、視界が狭まる。
「そ、れは」
「ああ」
それが意味するところは、即ち。
「私の次はお前だ」
「その先からは、お前が防人となるのだ」
――――双肩に。
語り尽くせぬ重さがのしかかる。
◆ ◆ ◆
(お姉ちゃん、大丈夫かな)
首都圏郊外の港町、立花家。
もきゅもきゅとご飯を頬張りながら、香子は浮かない顔をしていた。
先日、高圧的な役人から電話が来て。
S.O.N.G.が報告不備を咎められて、活動制限を設けられたこと。
それに伴い響達装者が動きづらい状況になってしまったこと。
――――そして。
それを理由に、有事の際には香子も戦闘に駆り出されることが知らされた。
戦闘に駆り出される件については、両親や祖母がものすごい剣幕で抗議していたが。
『あくまで有事の場合であり、出撃を要請しないこともある』と、あしらわれてしまっていた。
結局、次の週末から。
響の家に詰めることが決定してしまっている。
(具合悪い未来ちゃんを、一人にしないでいいのはいいんだけど・・・・)
何が起こったのか、何が起こっているのか。
詳細が欠片も分からないので。
一晩明けた今でも、漠然とした不安が残り続けていた。
香子自身、何か出来ることがあるのなら、積極的に手伝いたいと考えている。
しかし、幼稚園よりは大きくなっているはずだが。
それでも、姉達に比べればまだまだなんだと思い知らされる。
肉刺もなく、柔らかく、まだまだ小さい。
厚みだってない。
(・・・・わたし、本当に子どもなんだな)
ほう、とため息をついて。
『ごちそうさま』と、食器を下げる。
鬱屈とした気持ちのまま、ランドセルを背負って。
玄関を開けた。
「――――え」
その目に、飛び込んできたのは。
「――――あ、出てきた!!」
「この家の住人でしょうか!?玄関から人が出てきました!少女でしょうか!?」
向けられる。
レンズ、フラッシュ、目線、音響マイク。
不躾で、無遠慮で、無作法な。
好奇心による暴力。
「――――ッ!!」
本能の警鐘に従って、即座に扉を閉めた。
「――――人に戻る場所など」
「兵器には不要であろう」