チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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「このデュエットちがくない?」と思われるやも知れませんが、「チョイワル世界ではこんな感じ」ということでここはご容赦を・・・・(平伏)


アマルガム

始めから殺すつもりの攻撃と、あくまで無力化を主軸にした攻撃とでは。

前者の方に軍配が上がりがちだ。

攻撃の鋭さもさることながら、『躊躇いのなさ』も威力に関わってくる。

それこそ、肉を裂き、骨を断つつもりの攻撃なら、なおのこと。

 

「・・・・ッ!」

 

装者達が普段通りであったなら、この程度の猛攻など容易く払うことが出来る。

しかし、響にノーブルレッドと、負傷者を四人も抱えている今。

それは難しいものとなっていた。

ノーブルレッド達もそれをよくよく理解していたので、一番重傷の響を連れて撤退しようと試みていたが。

全て妨害されてしまっていた。

 

「――――もう、止めにしないかね」

 

満身創痍の戦姫達へ、ヴラゥムが穏やかに語り掛ける。

 

「そんなお荷物を背負うから、そこまで追い込まれるんだ。足手纏いさえいなければ、もっと戦えたはずだ」

「あ"あ"ッ!?」

 

こんな状況にしたのは貴様らだろうと、青筋を浮かべてメンチを切るクリス。

 

「何を怒るのかね、何も違っていないだろう?」

 

ぱっくり、顔の下半分を割る様に笑って。

ヴラゥムは段々と高揚していく。

 

「そもそも君たちの目的は何かね?『人類を守る事』、これ一つに尽きるだろう?だというのに今はどうだい、取るに足らない何億分の一に構うばっかりに、窮地に立っているじゃないか」

「論外ね!その何億分の一すら守れないで、どうして人類を救えるのかしら!?」

「塵も積もればなんとやらデス!!」

 

声を張り上げて反論するマリアと切歌だが、ヴラゥムの余裕は崩れない。

ふと、視線が交差する。

翼と、目線を合わせてくる。

 

「ご高尚なことだ・・・・・だが、理想だけでは、心だけでは何も成せない。それは君達とて理解しているのではないのかね?」

「そ、れは・・・・」

 

手元がぶれる。

心が揺らぐ。

()()、目の前が赤くなっていく。

 

「結局は力なのだよ、何物をも置き去りにし、何物をも圧倒する力!それで他者が死んだとて、弱いそいつらが悪いのだ!!」

「ッざっけんな!!」

 

引き戻したのは、クリスの咆哮だった。

 

「それで生まれるのは争いだけだ!!潰して潰して潰して、終いは空っぽのつまんねー世界だけだ!!」

 

翼が光に気付いたような顔をする横で、クリスは獰猛に笑う。

 

「てめーら、それっぽいこといいながら、その実ビビってるだけだろ!!人と関わって、自分が変わるのが怖いんだ!!」

「・・・・何?」

「そりゃそーだよな!暴力の方が簡単だよな!!頭使わなくていいんだからよォッ!!あいつに!『ファフニール』に見限られて当然だよな!!置いてけぼりの三下共ッッ!!!」

「ヴウゥ・・・・!ご、ごの・・・・・!」

 

青筋を浮かべる『怪物』達の怒りへ、盛大に油をぶちまけるクリス。

誰にも気づかれないまま精神を持ち直した翼も、鋭く彼らを睨みつけた。

 

「・・・・仮に、そうだとしても」

 

『充血』が引いたことを苦々しく思いながら、それを悟られまいとヴラゥムは言葉を重ねる。

 

「君達が殺人を肯定し、容疑者を庇い建てしているのは事実だろう?」

「違う!!同じにしないで!!」

 

なおも心を揺さぶろうとしてくる怪物へ、声を荒げたのは。

辛抱ならんと前に出た、調。

脳裏に浮かぶのは、出会ったばかりの頃の響。

こちらの憎悪など、へいきへっちゃらとばかりにニコニコしていた彼女。

親しくなった今だから分かるのだが、響は受け流したりすることはあっても。

逃げることは決してしなかった。

そうやって、自分達の憎悪を受け止めて。

『マリアを殺しかけた』という罪に、きちんと向き合っていた。

思えば、彼女を信頼したのは。

そんな一面を見続けていたからかもしれない。

 

「人を殺して、へらへらしている貴方達とッ!!罪から逃げずに向き合ってる響さんをッ!!」

 

故にこそ、連中の言い分は我慢ならない。

かつて同じ反社会的組織にいたというのなら、己らだって罪を犯してきたはずなのに。

それを棚に上げて、さも『自分達かわいそお』とばかりに被害者面している。

響が真面目に受け止めてしまっているのをいいことに、更に助長しているのが。

尚のこと質が悪い。

 

「同じにしないでッッ!!!」

 

だから、咆えた。

貴様らと響が同じだと、思い上がるなと。

 

「――――」

 

その、刹那だった。

 

「うわぁっ!?」

「ぐっ・・・・!」

「何ッ!?」

 

地面から突き上げるような揺れ。

跳ね上がって自由が利きにくくなったところへ、ワンテンポ遅れて衝撃波が襲い掛かる。

体勢を崩したところへ、追い打ちとばかりに隆起した岩塊が駆け抜けて。

装者達を吹き飛ばした。

 

「・・・・・うぶざい(うるさい)

 

下手人であるヴィクターは、静かに、されど確かに苛立った様子で。

もう一度腕を振り上げる。

 

うぶざい(うるさい)うぶざい(うるさい)うぶざい(うるさい)!!!!ごばいぶべに(弱いくせに)!!ばげべぶぶぜに(負けてるくせに)!!」

 

癇癪を起こし、何度も、何度も、何度もアームハンマ―を叩きつけるヴィクター。

元々消耗していたところを、インパクトに止めどなく襲われて。

装者達に成す術はない。

 

ばごめべ(まとめて)びね(しね)!!」

 

とどめとばかりに、腕が振り下ろされて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金に、阻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――は」

 

間抜けな声は、殴打によって吹き飛ばされる。

 

「てめっ」

 

狼ゆえの嗅覚で、何者かを察したシュバルツも。

反撃の間もなく蹴りを叩き込まれて。

 

「――――ッ!!」

 

ヴラゥムは、驚愕諸共に。

顔面を殴り抜かれた。

 

「・・・・な・・・・はっ!?」

 

次に仲間達は、己を包む球体に驚いていた。

シンフォギアの装着フィールドに酷似しているが、幾千と使用してきた感が違うものだと告げている。

これはなんだ、何が起きているんだ。

そもそも、あの『怪物達』を圧倒したのは、誰だ!?

 

「・・・・・ぁ」

 

回らない頭で目玉を動かして、必死に情報を処理して。

気付く。

背中に黄金の両腕を携えたそいつは。

変わらぬ一番槍として敵へ立ち向かった彼女は。

 

「響さん・・・・!!」

 

振り向かぬままでも、答える様に拳を構えると。

狼狽える『怪物達』をまっすぐ見据える。

 

「――――あの姿は、一体!?」

 

S.O.N.G.本部。

司令室では、安堵と驚愕が半々といったところか。

響の復活は喜ばしいものの、新たに顕現させた力に戸惑いも隠せない。

 

「――――直前に計測されたエネルギー反応からして、恐らくラピス=フィロソフィカスの力が混ざっている」

「ッ、あの時か!!」

 

了子のつぶやきに、すぐにアダムとの決戦を思い出した弦十郎。

あの日装者達が手繰り寄せた『奇跡』が、こんなところでも発揮されるとは・・・・!

 

「さしずめ、シンフォギアとファウストローブの融合症例・・・・そうね、『アマルガム』とでも名付けようかしら」

 

研究者らしく、了子がどこか恍惚と見つめるモニターの向こうで。

『怪物達』と一通りにらみ合った響は、体を前に傾ける。

 

――――行くぞ

「――――はい」

 

そして、『見えない誰か』(サンジェルマン)と言葉を交わして。

爆音とも取れる足音を鳴らしながら、飛び出した。

 

「真正面ど真ん中に 諦めずぶつかるんだ」

「クソッ、死にぞこないがよォッ!!」

 

怯まず飛び掛かるシュバルツの鼻っ柱が、文字通りへし折られる。

 

「全力全開で 限界」

―――突破して!

「アアアアアアアッ!!!」

 

ヴィクターの叩きつけを真正面から殴り返して、腕をくの字に曲げた。

 

――――互いに握るもの 形の違う正義

――――だけど

「今はBrave!」

――――重ね合う時だ

 

相変わらず『見えない誰か』(サンジェルマン)とデュエットしながら。

血の鎖を破壊し、ヴラゥムの胴体をぶち抜く。

 

「支配され」

――――噛み締めた

「悔しさに」

――――抗った

「その心伝う気がしたんだ」

「ウガアアアアアアッ!!!」

「ガルルァッ!!!」

 

復帰したヴィクターの拳を『黄金』で受け止めていると、間髪入れずにシュバルツが飛び掛かってくる。

響は努めて冷静に自らの両手でそれも受け止めるが。

 

「全て、塞がったな?」

「――――ッ!」

 

膨れ上がる殺意。

血を手に結集させ、鬼もかくやという凶暴な爪を携えたヴラゥムが。

響の四腕が塞がったのを好機とばかりに、背後から迫る。

 

「極限の」

――――極限の

「想い込めた一撃・・・・!」

 

ヴィクターか、シュバルツか。

どちらかを引きはがそうとするが、どちらも最初からそれが目的だったのか。

指が食い込むほど組み付いて離れない。

 

「まずは致命傷だ!!」

 

無防備なわき腹が、引きちぎられそうになって。

 

「――――共に 一緒に 解き放とう!!」(――――共に 一緒に 解き放とう!!)

 

しかし、鮮血が散ることはなく。

新たに現れた、『幻影の腕』に阻まれたのだった。

 

「さ、三対目!?ぐああッ!!」

「ッソが!!そんなんアリ・・・・ぶっがッ!!!」

ぞんば(そんな)、グバァッ!!!」

 

『幻影の腕』がヴラゥムを投げ飛ばし、怯んだシュバルツは自らの手で殴り飛ばす。

そしてヴィクターは拘束を振り払ってから、『黄金の腕』で拳を叩き込んだ。

 

「I trust!! 花咲く勇気!!」

――――Shakin'hands!!

「握るだけじゃないんだ!!」

――――Shakin'hands!!

 

自らのものに、黄金と、幻影の腕を備えて。

まるで阿修羅の様に佇む響。

 

「こぶ!!」――――しを!!

「開いて繋ぎたい!!」(――――開いて繋ぎたい!!)

 

六つの拳を自在に操る猛者を前にして、『怪物達』は身も心も追い込まれていく。

 

「この、ざっけんな!!」

 

シュバルツが大顎を開いて、エネルギーを充填。

 

「ッゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

咆哮による攻撃を試みるが。

 

「I believe!! 花咲く勇気!!」

――――Shakin'hands!!

「信念は違えども!!」

――――Shakin'hands!!

 

響は三対の腕を前に出し、あろうことか音の攻撃を物理で引き裂いてかき消してしまう。

 

「嘘だろ!?」

「さあ!」

――――今!

「誰かの為なら・・・・!」

 

――――敵わない。

今、目の前に立つ。

死にぞこないであったはずの小娘は。

己らが持ち得る、あらゆる手段が通用しない・・・・!!

 

「『だとしても』と吠えたて!!」(――――『だとしても』と吠えたて!!)

 

その場を動かぬまま、六つの拳が虚空を殴る。

瞬間、衝撃が空気の壁となり。

豪速で『怪物達』の下へ駆け抜けて。

 

「ぼがああああッ!!!」

「ぐばァッ!!」

「ああああああああああッ!!!」

 

諸共に、実在の岸壁へ衝突したのだった。

 

「・・・・」

 

少し小高い所から、苦しみ悶える『怪物達』を見下ろす響。

今度こそ、彼らを無力化するべく。

その意識を刈り取ろうと、飛び出しかけて。

 

『――――止まれ、響君。作戦は中止だ』

「――――っへ?」

 

弦十郎からの、信じられない通信にたたらを踏む。

 

「ど、どうして司令さん!?あとちょっとであいつらを・・・・!」

『理由は後で話す・・・・・頼む、今は急ぎ帰投を』

 

どうして、何故、何が起こった?

混乱は響だけではなく、装者やノーブルレッド達にも伝播する。

――――本当に、彼女達は知る由もなかったのだ。

まさか、そんな。

味方であるはずの、日本政府所属の特殊部隊に。

S.O.N.G.本部が制圧されたなどと。




チョイワルXV編はここから盛り上がっていきます。
そう、『渋谷事変』のようにネ!()

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