チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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いつもご愛顧、ありがとうございます。
長くなりそうだったので分割しました。
次は割と早くに上げられそうです。


開花

「――――さて、どうかしら?」

 

現場から引き揚げた翌日の、医務室。

翼さんを庇ってまんまと負傷してしまったわたしは、了子さんに治療を受けていた。

展開されてた青い陣が引っ込められて、促されるままに肩をひねってみる。

うん、動作良好。

 

「うん、ばっちり。さすがですね」

「そう、よかった・・・・」

 

――――ところで。

いつもなら、こんな『魔法でぱぱっと』みたいな方法は取らない。

そりゃ、『治癒布』みたいに促進させたりはするけれど、それ以上のことはしていなかったというか。

『意図的にやっていなかった』が正しいか。

なんでも、ぱっと治すことは出来るんだけど、患者の体の負担が大きいんだとか。

まあ、術者本人もエネルギー使うだろうし、血管や神経も繋げるとなると心労もたまるだろうし。

さらに曰く、『普段からそうしてたらますます自分を蔑ろにするやつがいるから』って・・・・・うっす、いつもすみません(平伏)

で、なんで今回その避けている方法をとったのかと言えば。

 

「悪いわね、あんな大怪我負った後に」

「いえいえ、シェムハの腕輪が、神の力が悪用されてるかもしれないんでしょ?」

 

それに尽きた。

わたし達が出撃する理由になった、巨大なエネルギー反応。

解析の結果、米国から分けてもらってた腕輪の波形の一部と一致したらしい。

『神の力の敵対』という最悪の状況が、高確率で想定される中。

人類側の切り札が、『神殺し』が不在なのはものすごくまずいという、司令さん達の苦渋の決断によるものだった。

・・・・・そう考えると。

 

「取り逃がしたのはやっぱりまずかったですよね、もっといい判断出来たはずなのに・・・・」

「それこそ、翼ちゃんが本調子じゃないことを分かっていたはずの、私達大人の領分よ。子供はまず、自分を大事にしなさい」

「はぁーい」

 

こつん、と、おでこを指で小突きながら。

お小言を言われてしまった。

素直に返事する裏側で、ふと。

翼さんの『充血した目』が過ぎって。

 

(充血っていうか、あれは・・・・)

「どうしたの?」

 

考えていることが顔に出ていたのか、了子さんが覗き込んで来る。

 

「・・・・あの」

 

信頼出来る大人だし、普通に話そうとしたんだけど。

あの、人でなしの御老公が頭を過ぎって。

なんか、こう。

根拠のない確信めいた予感がして。

 

「響ちゃん?」

「・・・・・その、誰が聞いてるか分からないので、うまく言えないんですけど」

 

それでも、何も言わないのもいけない様な気がしたから。

 

「――――翼さんを、独りぼっちにしないで下さい」

 

限界ギリギリまでオブラートに包んだ、あいまいな表現。

正直通じなくてもしょうがないと思ったんだけど。

 

「・・・・ええ、もちろんよ」

 

了子さんは、確かに頷いてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

閑話休題(やることがおおい)

 

 

 

 

 

 

「――――すみません、お待たせしました」

「立花」

 

艦橋に入ると、真っ先に翼さんが話しかけてきた。

 

「お疲れ様です!」

「・・・・あの時は、すまなかった」

「お気になさらず、こっちこそご心配おかけしちゃって」

 

・・・・会話する傍ら、翼さんの目を覗き伺ってみる。

充血、というか、明らかに不自然な赤色は鳴りを潜めていた。

でも、あれが見間違いだなんて思えないんだよなぁ・・・・。

了子さんの方を見ると、任せてとばかりに小さく頷いていた。

頼れる(確信)

懸念もそこそこに、いつものミーティングが始まる。

 

「いい加減、振り回されるのはうんざりだ。こちらから打って出るぞ!!」

 

し、司令さんが、滅茶苦茶やる気満々だ・・・・。

でも、打って出るって・・・・。

 

「勇み足が過ぎねぇか?あいつらの根城も分かってないんだろ?」

「――――大丈夫、そこは抜かりないわ」

 

そりゃ、そろそろぶちかましたいところではあるけど。

クリスちゃんの疑問も当然のもの。

だけど自信満々に答えたのは、司令さんじゃなくて、マリアさんだった。

 

「実は、事前に話をもらっていてね。一服盛っておいたの」

 

自慢げに笑う手元には、ちいちゃなマイクロチップ。

どこからどう見ても発信機だった。

一服盛ったってことは・・・・。

 

「あのいけ好かないジェントルに仕込ませてもらったわ」

「マジか」

 

さっすが!出来る女!

頼れるお姉さんは伊達じゃない!

 

「もうとっくに位置も捕捉してる、後は出撃するだけだよ」

「知っての通り、相手はこれまでとは毛色が違う!今一度、兜の緒を締めて取り掛かってくれ!」

――――はいッ!!

 

さぁて、やってやろーじゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、兜って尻尾があるんデスか?」

「・・・・・『勝って兜の緒を締めよ』という、『油断大敵』と似た意味のことわざがある。この場合の『お』とは尻尾ではなく、固定するための結び紐だ」

「なるほどー!ありがとデス、翼さん!」

 

 

 

 

 

 

(今のところは大丈夫そうだな、翼さん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおい!花村ぁ!」

 

ある昼下がり。

昼食を終えて、次の訓練に向かおうとしていた時のこと。

親友を呼ぶ声に揃って振り返ると、同期の一人が駆け寄ってくる。

 

「お前の妹さんが門前に来てるんだ」

「ッ■■(NXG)が?」

 

普段から反応(リアクション)が大きい彼が、今回はすこし毛色が違う驚き方だった。

 

「次の訓練までまだあるだろう?上官殿も許可を出してくれたから、ちょいと会ってやれ」

「・・・・私は先に行っている、兄妹水入らずで語ると良い」

「ああ、そうだな!」

 

親友が、如何に妹を可愛がっているか、誇らしく思っているか。

妻の話と共によく聞かせてくれるので、多少は分かっているつもりだ。

だから、己なりに気遣って遠慮したのだが。

 

「あっ!いやっ!待った!お前も来てくれ!」

「何?」

「前に手紙でお前のことを書いたら、会ってみたいって返事が来たんだ。お互いいつ死ぬか分からんのだし、いいだろ!?」

「・・・・そういうことなら」

 

言い分に納得できるし、特に断る理由も見当たらなかったので。

素直に頷いた。

あと、人に尊敬の目を向けられるのは、ちょっと嬉しい。

堅物と呼ばれる自分でも、『ふふっ』となる。

 

「おお!いたいた!■■ー!!」

 

物思いにふけっていると、件の人物が見えてきたらしい。

親友が童子のように手を振る先、自分も倣ってそちらを見れば。

 

「――――お兄ちゃん!久しぶり!」

 

■■■■の髪と、■■■の瞳が。

嬉しそうに揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連中の潜伏先は、山中の不法投棄所だった。

赤茶けた車の中に混じって、錆び一つ吹いていないものもある。

未だに捨てに来る奴がいるってことか・・・・後で司令さんにチクっとこ。

――――まあ、今は。

 

「ストーカーかよ、しつけぇ連中だな!」

「お前らが諦めてくれたらすぐ終わるよ?」

「減らず口めが」

 

こいつらを片付けることを優先しよう。

 

「――――」

 

飛び出す刹那、視線だけで仲間たちとコンタクト。

無言の応答が返ってきたのをコンマ数秒で確認して、いの一番に突っ込んで行く。

向こうの一番槍であるシュバルツの腕と、わたしの蹴りが交差。

顔のぴりつきで、衝撃が散ったのが分かる。

続けざまに打撃を応酬して、一度距離を取る。

入れ替わる様に突っ込んだのは、きりしらちゃんコンビ。

丸鋸を立てに振り下ろした後、シュバルツが傾いたところへ大鎌が逃げ道を塞ぐように襲い掛かる。

 

「舐めんな!!」

 

大鎌を引っ掴んで抑え込んだシュバルツ。

そのまま飛び上がって『みだれひっかき』を飛ばしてくる。

それぞれが対処する中、シュバルツをすり抜けたマリアさんがヴィクターに肉薄。

ごん太の拳を軽やかに避けて、腕を駆けあがる。

反応が遅れた鼻っ柱に拳をお返しすると、巨体が大きくのけ反った。

 

「ッ・・・・!」

「させるか!」

 

ヴィクターを援護しようとしたヴラゥムに、翼さんが一閃。

クリスちゃんの大乱射に後を追われて、ヴラゥムは忌々しそうに舌打ちしていた。

・・・・よし、よし、よし。

このまま、さりげなく、しれっと。

連中の注意をそらし続けて・・・・!

 

『みんな、伝言!』

 

友里さんの声が、耳元から聞こえる。

 

『包囲完了!』

「ッ退けぇー!!!」

 

マリアさんの、怒号ともとれる号令で。

思い切り飛びのいて。

 

「な・・・・!」

 

三方から迫る、光の壁。

効果は知らずとも、自分達がはめられたことには気づいたらしい。

・・・・分かったところで、もう遅いんだけどね!

 

「ふっ・・・・!」

「よいせっと!」

「たあッ!」

 

周囲の木立から飛び出してくる、ノーブルレッドのみんな。

血色が思わしくない顔に、紫色の血管を浮かべているけど。

それぞれ掲げた両手を、しっかりヴラゥム達に向けて。

 

「「「――――ダイダロスエンドッッ!!!!」」」

 

光の壁がピラミッドを形作っていく。

化け物三人の逃げ道をあっという間に塞いで、閉じ込めてしまう。

そして石積み模様の間から、光を漏れさせた後、衝撃。

以降、沈黙した。

――――ダイダロスエンド。

ロスアラモス時代に、ノーブルレッドのみんなが考え出した必殺技だ。

クレタ島の迷宮に始まり、フィクションやゲームなどですっかり馴染みとなった、『迷宮の中には怪物がいる』という概念。

それをヴァネッサさん達なりに解釈して、『怪物がいるんだからそこが迷宮たりえるに決まってんだろ!(意訳)』という力業で実現させた。

理想は対象を閉じ込める結界なんだけど、今の三人では十分程度しか維持できないうえ。

消耗も絶唱並みに激しいらしい。

そこで発想を逆転させて、『捕獲して逃げ場を無くして、膨大なエネルギーをぶつける』という必殺技にしたわけだ。

説明を受けて、『アリの巣に熱湯注ぐようなもんか・・・・』と思ったわたし、多分間違っていない。

 

「「「フルスロットルウゥーーッ!!」」」

 

思い出している間に、追撃も決まったらしい。

目の前で派手な土煙が上がっていて、クレーターも出来ている。

・・・・・少なくとも、無傷じゃないだろうな。

なんて、フラグを立てたのがいけなかった。

 

「ッ構えて!」

 

マリアさんの鋭い声に、弾かれたように振り向けば。

 

「――――怪物にもなれず、人にもなれぬ」

 

わたしの、胴体を貫く。

腕。

 

「そんな半端者の技で狩れるなどと、随分低く見積もられたものだな」

「ッ響さん!!」

 

ヴラゥムの、次の行動を注視しようと。

顔を上げると、視界の隅にシュバルツが見えて。

 

「そらっ、追撃ィッ!!!」

「が・・・・!」

 

衝撃。

多分横薙ぎに殴られた。

視界のあちこちが真っ赤に染まって、呼吸がおぼつかなくなる。

 

「クソッ、喰らいやがれ!!」

「テメーがな!!」

「おのれ、よくも立花を!」

 

仲間達の声が聞こえる。

動かなきゃいけないのに、動けない。

指先にすら力が入らない。

 

「ハハハハハハハハハハッ!!ザマァねぇなあ!!!」

「がばばばばばばっ!!ぞぼばば(そのまま)びね(しね)!!」

 

くそ、好き勝手言いやがって・・・・。

連中の言う通りなのがまた腹立つ。

簡単にくたばるわけないって、わたしが一番わかっていたはずなのに。

なんて、情けない・・・・!

 

――――寒い、冷たい、痛い

 

立て、立て、立て。

 

――――苦しい、怖い、嫌だ

 

寝ているなんて、許されない。

 

――――なんで、わたしばっかり

 

わたしだからこそ、戦わなきゃいけない!!

重たくても、しんどくても、苦しくても!!

命ある限り、死ぬ一瞬まで。

ずっと、ずっと、ずっと!!!!

罪を背負って、過去と向き合わなきゃいけないんだ!!

だから、立て。

動け!

起きて、戦え!!

そうでなきゃ、わたしは何のために。

何の、ために・・・・!!

 

(何のために、生かされてるんだよ・・・・!!)

 

心とは裏腹に、意識が闇へ遠のいていく。

眠る直前の、断続的に回線が切れるような感覚がする。

まずい、眠る。

寝てしまう・・・・!

くそ、クソ、クソッ!!

こんな。

 

(こんな、ところで・・・・!!)

 

――――どれだけ、悪態をついても。

掴みかかってくる、死神の手に抗えないまま。

沈みかけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その不屈、相変わらずだな。立花響』

 

 

 

 

 

 

『――――安心した』

 

 

 

 

 

 

『一度は戦場に肩を並べたよしみだ』

 

 

 

 

 

 

 

『私が手を貸す』

 

 

 

 

 

 

『望み通り、もう一度立ち上がると良い』

 




うっかり忘れていたキャラ紹介

シュバルツ・ホンド
元は北欧系マフィア所属のシリアルキラー。
暴力こそが快感であり、殺戮こそが生き甲斐。
一方で、『おまんま貰ってるから言うことを聞く』というある種義理堅い部分もある。
『ファフニール』時代のピリピリしていた響を気に入っていたが、案の定組織の幹部が未来に手を出したことを切欠に壊滅。
シュバルツ本人も生死をさ迷う重傷を負わされた。
メタ的に言うと、一番名づけに苦労したキャラでもある。
あと、とても動かしやすい。


ヴィクター・カーロフ
フランス系マフィアに所属していた、所謂『鉄砲玉』の一人。
巨人症であると同時に、著しい発達障害も持ち合わせていた。
とても純粋だったので、組織の命令に欠片の疑問を持つことなく従う優秀な駒だった。
なので、ある日突然居場所を奪った響は仇敵である。
名づけは、フランケンシュタインの開発者と、演じた俳優さんから。




なお、作者は現実の巨人症や発達障害の皆様に対して差別意識を持っているわけではありません。
繰り返します、現実の巨人症や発達障害の皆様に差別意識を持っているわけではありません!!!!!

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