チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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これからも精進します。


微かな凪

「――――未来」

「響」

 

シュバルツを何とか追い払った後、保護された未来のところに行く。

ものすごく乱暴に連れ出したので、点滴の針が折れてないかと心配したけど。

そんなこともなかったらしい。

今はまた、新しい点滴が繋がっている。

そっと、土気色に近い顔に手を添えて。

おでこを引っ付ける。

 

「・・・・どうしたの?」

「・・・・ううん、ただ」

 

ただ、

 

「決めただけ」

 

もう傷つけさせない覚悟を、背負わせない覚悟を。

固く、固く。

誓うだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――と、いうことで」

「ヴァネッサさん、ミラアルクちゃん、エルザちゃん!」

「S.O.N.G.技術班へようこそー!!」

 

騒動から一夜明けた、いつもの技術班。

ようやく三人そろったヴァネッサさん達へ、水瀬さんがクラッカーを鳴らした。

テーブルの上の横断幕には、彼女達が名乗ることにしたユニット名『ノーブル・レッド』が。

『歓迎!』の文字と並んでいた。

 

「ずいぶん賑やかね、いつもこんな感じなの?」

「いや、今日は輪に懸けてるぜ」

「か、歓迎は大変ありがたいでありますが。いいのでしょうか、こんなお祭り騒ぎ・・・・」

 

お昼ご飯を兼ねた、三人の歓迎会。

さすがにこの後もお仕事があるから、おつまみ程度のお菓子やジュース程度のささやかなものだけど。

控えめながらもどんちゃんしてる面々に、そこそこドン引きしてる三人娘。

まあ、普通はそうだよね・・・・。

 

「それはごめーん!でも騒がせて!!」

「ちょっと今回の案件重たすぎて騒がないとメンタル持たないの!!」

 

紙コップ(ジュース入り)片手にひんひん泣く久野さんに、ぎゅーっとエルザちゃんに抱き着く高垣さん。

 

「もう、もう・・・・あいつらなんなの、今までの敵とは明らかに毛色が違うんだけど・・・・!!」

「サンジェルマンさんとか、キャロルちゃんとか、比較的正々堂々なお行儀のいい人達だったんだなって・・・・」

「いや、どれも一般人の犠牲は出てるんだけどさ・・・・出てるんだけどさ・・・・!」

「お、お疲れ様であります・・・・」

 

まるで酔っぱらいの様な悲壮感溢れる有様を見て、エルザちゃんも慰めざるを得なかった。

かわいこちゃんによしよしされる大人・・・・ちょっと通報されてもしょうがない絵面かも。

 

「まあ、ひとしきり騒いだら気も済むでしょう。まずは食べちゃいなさい」

「・・・・そうさせてもらおうかしら」

 

了子さんも困った笑顔をしながらも、紙コップを掲げて。

ヴァネッサさんと乾杯してた。

 

「そうだヴァネッサさん、この後時間ある?HW式についていろいろ聞きたいんだ」

「修理とか調整とか、もちろん真面目にやらせてもらってるんだけど。やっぱり慣れてる人に教わる方がこっちも安心出来るから」

「ああ、そういうことなら喜んで。なんなら今でもいいわよ?」

「助かるー!!」

 

元々技術畑の人なだけあって、割と早く馴染めそうだ。

 

「あ"あ"~、終わらないでほしい。このまま楽しい時間が続いてほしい・・・・」

「現実を見ろー、まだまだやることあるんだぞー」

「夢 く ら い み さ せ て く だ さ い よ !!」

「ワァ、ア・・・・!」

「泣いちゃっタァ・・・・」

 

なんかちいちゃくて可愛いのが通り過ぎた気がするけど、多分気のせいでしょう。

おにぎりうま・・・・落ち着く・・・・。

 

「にしても、あいつらもヴァネッサさん達みたいな改造を受けたんかね」

「響ちゃんが言うには元人間って話だし、そうじゃないの?パヴァリアかどうかは分からんらしいけど」

 

と、そんな会話が聞こえてきたので、耳を傾ける。

 

「チョイスも『フランケンシュタイン』に『吸血鬼』に、『狼男』だしなぁ。案外同じところかもしれないな」

「まあ、その辺は今後の捜査で明らかになるだろうな」

「ちくしょう、何でかぶってるんだよ、可愛げの欠片もねぇ。うちの子達を見習えや・・・・」

「もう君達が癒しだよ・・・・oh・・・・YOSHIYOSHI・・・・」

「わわわッ!?」

 

ライブ会場とか、昨日の病院とか。

司令室に行かない人達にも、惨状は伝わっていたらしい。

心を痛めているスタッフさんの一人が、エルザちゃんを撫でくりまわす。

気持ちは分かる(深く頷く)

撫でたくなる頭だよね・・・・もふもふ・・・・。

 

「あ、響ちゃん。この後装備の試運転に付き合ってもらえる?ミラアルクちゃん達の調整具合も見ておきたいし」

「もちろんですよ、ヴァネッサさん。シミュレーターでいいです?」

「ええ」

 

さて、何にせよこれから忙しくなるだろう。

・・・・落ち込んで不調になる暇が無くなりそうなのは、よかった。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

S.O.N.G.、車両格納庫。

道具を持ち込んだ翼は、愛車のバイクのメンテナンスを始めた。

外せる部品を外し、丁寧に汚れを落とし。

軍手をオイルで黒くさせながら、考える。

 

(また、襲撃が発生した)

 

今度は、未来が入院していた病院を狙われたという。

幸い、居合わせた響が即座に応戦したことで、被害は最小限に食い止められたものの。

以前ライブ会場に現れた『吸血鬼』のように、戦う術のない一般人を重点的に狙っていたらしい。

ヴァネッサ達が応援に来たにもかかわらず取り逃がしたのも、それが理由だとか。

 

(あの時、私が十全に応戦できていれば)

 

翼を始めとしたシンフォギア装者を、侮れない存在として刻み付けれていたのなら。

こんな、舐め腐られるような事態にはならなかったのではないか。

無辜の人々が、率先して狙われることが、なかったのではないか。

流れ出ていく古いオイルを、ぼうと眺めながら。

そんな後悔を巡らせていた時だった。

 

「・・・・ッ」

 

翼の通信機が鳴り響く。

司令室からの連絡かと思ったが、表示されていた家紋に息を呑んだ。

 

(御爺様?)

 

『鎌倉』が?何故?私個人にか?何の用で?

不意を突かれ、まんまとパニックになってしまった翼。

それでも応答するだけの理性を取り戻した彼女は、通信に応じた。

――――応じて、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――刻印、掌握!!!』

 

 

 

 

 

 

 

視界が、赤に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「俺には妹がいるんだけどよ」

 

――――あれから少しずつつるむ様になった男。

学もなく、粗暴で、お世辞にも行儀がいいとは言えない。

だが、なんとなくうまが合うので、自然と行動を共にするようになっていた。

 

「兄貴の贔屓目なのは否定出来ないんだが、これまた器量よしの別嬪でな!本家のご嫡男に是非嫁にって、この前目出度く嫁入りしたんだ!」

 

そんなある日の昼下がり。

『お前の動機を聞いたから』と、彼は口火を切っていた。

 

「・・・・俺には、子どもがいなくてな。どうも原因は嫁よりも俺にあるらしいんだが、まあ、とにかく」

 

磨いていた軍銃を一度おくと、視線が前を見る。

 

「無いものねだりしても苦しいだけだ、だったら俺は、妹家族の未来を守る。あの子の子々孫々が笑って野山を駆けまわれる国を遺すために、俺は命を懸ける」

「・・・・未来の為に、か」

 

風鳴として、防人として。

守るために命を賭すのは当たり前だと思った。

しかし、今改めて考えてみれば。

一族の使命だから、従うのが当たり前だからと、己だけの明確な理由を抱いていないことに気付いた。

この男が、まぶしく見えた。

 

「まあ、お前さんに比べりゃ、大したもんじゃないだろうけどな」

「・・・・・いや」

 

ゆるり、と首を横に振っていた。

 

「命を賭す所以に、貴賤は無い・・・・故に、お前の道理を、私は敬う」

「お、おう、そっか・・・・」

 

照れくさそうに作業を再開する友人を見て。

己もまた、手を動かし始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――御前様、『きさらぎ』より連絡が届きました。『例のもの』、起こす手筈が整ったそうです」

「・・・・分かった」

 

静かに立ち上がって、歩き出す。

 

「『きさらぎ』に向かう、支度せよ」

「はっ」

 

風鳴訃堂は、止まらない。

止まれない。




おじじの末路は二パターンで迷っています。

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