いつもご愛顧ありがとうございます。
これからも精進します。
「――――未来」
「響」
シュバルツを何とか追い払った後、保護された未来のところに行く。
ものすごく乱暴に連れ出したので、点滴の針が折れてないかと心配したけど。
そんなこともなかったらしい。
今はまた、新しい点滴が繋がっている。
そっと、土気色に近い顔に手を添えて。
おでこを引っ付ける。
「・・・・どうしたの?」
「・・・・ううん、ただ」
ただ、
「決めただけ」
もう傷つけさせない覚悟を、背負わせない覚悟を。
固く、固く。
誓うだけ。
「――――と、いうことで」
「ヴァネッサさん、ミラアルクちゃん、エルザちゃん!」
「S.O.N.G.技術班へようこそー!!」
騒動から一夜明けた、いつもの技術班。
ようやく三人そろったヴァネッサさん達へ、水瀬さんがクラッカーを鳴らした。
テーブルの上の横断幕には、彼女達が名乗ることにしたユニット名『ノーブル・レッド』が。
『歓迎!』の文字と並んでいた。
「ずいぶん賑やかね、いつもこんな感じなの?」
「いや、今日は輪に懸けてるぜ」
「か、歓迎は大変ありがたいでありますが。いいのでしょうか、こんなお祭り騒ぎ・・・・」
お昼ご飯を兼ねた、三人の歓迎会。
さすがにこの後もお仕事があるから、おつまみ程度のお菓子やジュース程度のささやかなものだけど。
控えめながらもどんちゃんしてる面々に、そこそこドン引きしてる三人娘。
まあ、普通はそうだよね・・・・。
「それはごめーん!でも騒がせて!!」
「ちょっと今回の案件重たすぎて騒がないとメンタル持たないの!!」
紙コップ(ジュース入り)片手にひんひん泣く久野さんに、ぎゅーっとエルザちゃんに抱き着く高垣さん。
「もう、もう・・・・あいつらなんなの、今までの敵とは明らかに毛色が違うんだけど・・・・!!」
「サンジェルマンさんとか、キャロルちゃんとか、比較的正々堂々なお行儀のいい人達だったんだなって・・・・」
「いや、どれも一般人の犠牲は出てるんだけどさ・・・・出てるんだけどさ・・・・!」
「お、お疲れ様であります・・・・」
まるで酔っぱらいの様な悲壮感溢れる有様を見て、エルザちゃんも慰めざるを得なかった。
かわいこちゃんによしよしされる大人・・・・ちょっと通報されてもしょうがない絵面かも。
「まあ、ひとしきり騒いだら気も済むでしょう。まずは食べちゃいなさい」
「・・・・そうさせてもらおうかしら」
了子さんも困った笑顔をしながらも、紙コップを掲げて。
ヴァネッサさんと乾杯してた。
「そうだヴァネッサさん、この後時間ある?HW式についていろいろ聞きたいんだ」
「修理とか調整とか、もちろん真面目にやらせてもらってるんだけど。やっぱり慣れてる人に教わる方がこっちも安心出来るから」
「ああ、そういうことなら喜んで。なんなら今でもいいわよ?」
「助かるー!!」
元々技術畑の人なだけあって、割と早く馴染めそうだ。
「あ"あ"~、終わらないでほしい。このまま楽しい時間が続いてほしい・・・・」
「現実を見ろー、まだまだやることあるんだぞー」
「夢 く ら い み さ せ て く だ さ い よ !!」
「ワァ、ア・・・・!」
「泣いちゃっタァ・・・・」
なんかちいちゃくて可愛いのが通り過ぎた気がするけど、多分気のせいでしょう。
おにぎりうま・・・・落ち着く・・・・。
「にしても、あいつらもヴァネッサさん達みたいな改造を受けたんかね」
「響ちゃんが言うには元人間って話だし、そうじゃないの?パヴァリアかどうかは分からんらしいけど」
と、そんな会話が聞こえてきたので、耳を傾ける。
「チョイスも『フランケンシュタイン』に『吸血鬼』に、『狼男』だしなぁ。案外同じところかもしれないな」
「まあ、その辺は今後の捜査で明らかになるだろうな」
「ちくしょう、何でかぶってるんだよ、可愛げの欠片もねぇ。うちの子達を見習えや・・・・」
「もう君達が癒しだよ・・・・oh・・・・YOSHIYOSHI・・・・」
「わわわッ!?」
ライブ会場とか、昨日の病院とか。
司令室に行かない人達にも、惨状は伝わっていたらしい。
心を痛めているスタッフさんの一人が、エルザちゃんを撫でくりまわす。
気持ちは分かる(深く頷く)
撫でたくなる頭だよね・・・・もふもふ・・・・。
「あ、響ちゃん。この後装備の試運転に付き合ってもらえる?ミラアルクちゃん達の調整具合も見ておきたいし」
「もちろんですよ、ヴァネッサさん。シミュレーターでいいです?」
「ええ」
さて、何にせよこれから忙しくなるだろう。
・・・・落ち込んで不調になる暇が無くなりそうなのは、よかった。
◆ ◆ ◆
S.O.N.G.、車両格納庫。
道具を持ち込んだ翼は、愛車のバイクのメンテナンスを始めた。
外せる部品を外し、丁寧に汚れを落とし。
軍手をオイルで黒くさせながら、考える。
(また、襲撃が発生した)
今度は、未来が入院していた病院を狙われたという。
幸い、居合わせた響が即座に応戦したことで、被害は最小限に食い止められたものの。
以前ライブ会場に現れた『吸血鬼』のように、戦う術のない一般人を重点的に狙っていたらしい。
ヴァネッサ達が応援に来たにもかかわらず取り逃がしたのも、それが理由だとか。
(あの時、私が十全に応戦できていれば)
翼を始めとしたシンフォギア装者を、侮れない存在として刻み付けれていたのなら。
こんな、舐め腐られるような事態にはならなかったのではないか。
無辜の人々が、率先して狙われることが、なかったのではないか。
流れ出ていく古いオイルを、ぼうと眺めながら。
そんな後悔を巡らせていた時だった。
「・・・・ッ」
翼の通信機が鳴り響く。
司令室からの連絡かと思ったが、表示されていた家紋に息を呑んだ。
(御爺様?)
『鎌倉』が?何故?私個人にか?何の用で?
不意を突かれ、まんまとパニックになってしまった翼。
それでも応答するだけの理性を取り戻した彼女は、通信に応じた。
――――応じて、しまった。
『――――刻印、掌握!!!』
視界が、赤に染まる。
◆ ◆ ◆
「俺には妹がいるんだけどよ」
――――あれから少しずつつるむ様になった男。
学もなく、粗暴で、お世辞にも行儀がいいとは言えない。
だが、なんとなくうまが合うので、自然と行動を共にするようになっていた。
「兄貴の贔屓目なのは否定出来ないんだが、これまた器量よしの別嬪でな!本家のご嫡男に是非嫁にって、この前目出度く嫁入りしたんだ!」
そんなある日の昼下がり。
『お前の動機を聞いたから』と、彼は口火を切っていた。
「・・・・俺には、子どもがいなくてな。どうも原因は嫁よりも俺にあるらしいんだが、まあ、とにかく」
磨いていた軍銃を一度おくと、視線が前を見る。
「無いものねだりしても苦しいだけだ、だったら俺は、妹家族の未来を守る。あの子の子々孫々が笑って野山を駆けまわれる国を遺すために、俺は命を懸ける」
「・・・・未来の為に、か」
風鳴として、防人として。
守るために命を賭すのは当たり前だと思った。
しかし、今改めて考えてみれば。
一族の使命だから、従うのが当たり前だからと、己だけの明確な理由を抱いていないことに気付いた。
この男が、まぶしく見えた。
「まあ、お前さんに比べりゃ、大したもんじゃないだろうけどな」
「・・・・・いや」
ゆるり、と首を横に振っていた。
「命を賭す所以に、貴賤は無い・・・・故に、お前の道理を、私は敬う」
「お、おう、そっか・・・・」
照れくさそうに作業を再開する友人を見て。
己もまた、手を動かし始める。
「――――御前様、『きさらぎ』より連絡が届きました。『例のもの』、起こす手筈が整ったそうです」
「・・・・分かった」
静かに立ち上がって、歩き出す。
「『きさらぎ』に向かう、支度せよ」
「はっ」
風鳴訃堂は、止まらない。
止まれない。
おじじの末路は二パターンで迷っています。