誠にありがとうございます。
あんまり話が進んでいませんが、これ以上は長くなりそうだったのであげちゃいます。
「――――お前の言う通り、私は何の不自由をしていない」
「食うに困ることもなく、学びたい時に学べ、金だって自由に扱える」
「それは士族であるが故の特権、だが、そこには同時に義務も発生する」
「浪費はならぬ、有り余る金は御国の為に使わねばならぬ」
「怠惰はならぬ、得た知識は御国の為に振るわねばならぬ」
「傲慢はならぬ、身も、心も、魂も、全て御国に捧げねばならぬ」
「・・・・我が家は、代々国を防人って来た一族。現当主たる父や、兄上方も、大変優れた御方だ」
「戦況奮わず、人も、武器も、食料も乏しくなりつつあるこの日ノ本で」
「大した権限を持たぬ三男坊に出来ることなど、限られてくるのだ」
「だから、私はここに来た」
「特攻出撃に駆り出されることなど、百も承知」
「この身は、この心は、この魂は」
「髪の毛先から、爪の一欠片に至る、あらゆる全て」
「八島を防人る為にある」
「――――理屈は分かったけどよ」
「そんな御大層な志持ってても、罰則くらってちゃ世話ねぇよな」
「ッッ誰の所為だ!誰のッ!!」
「ああ!?俺が悪いってのかッ!?」
「他に誰がいるというのだッ!?」
「――――ゴラァッ!!貴様らッ!!反省が足らんようだなッッ!?」
もう、戻ってくることはない。
遠い、遠い。
ある日の話。
◆ ◆ ◆
「――――?」
「ッドクター、患者の意識が!」
ばたばたと人が動き回るのを聞きながら、ヴァネッサはゆっくり目を開けた。
陽光に何度もまばたきしながら、辺りを見回す。
(ロスアラモスじゃない・・・・?)
始めに感じたのは、そんなことだった。
なんというか、天上や柱のつくりなど。
部屋の雰囲気が違うのだ。
「おはようミス、自分の名前は言えるかい?」
「な、まぇ・・・・・ばねっ・・・・ヴァネッサ・・・・ヴァネッサ・ディオダディ・・・・」
顔を覗き込んできた医師と、ぼんやり会話をしながら。
何があったのだっけと、頭をまさぐる。
――――突然の爆発。
――――次々引き裂かれる研究員達。
――――自分の手を引くセシリア。
――――外の施設に繋がっているという転送装置。
――――そして。
――――自分を庇って、攻撃をもろともに受けたセシリア。
「・・・・~~~~!!!」
「ミス?ミス!動いてはいけないよ!」
ベッドに戻そうとしてくる医師の腕をひっつかんで、ヴァネッサはありったけの声を上げた。
「セシリアは!?セシリア・フォルティー!!一緒に来たはずなんです!!彼女の安否は!?」
「それは・・・・」
「それは私が伝えよう、ドク」
セシリアの名前に、どこか狼狽えた様子の医師に声をかけたのは。
ちょうど入って来たらしい軍服の男性だった。
「ふむ、ミス・ディオダディか・・・・私はアメリカ陸軍グランツ・スミス中尉。ここはアメリカ国防総省こと、『ペンタゴン』だ」
グランツと名乗った軍人は、看護師が差し出したカルテを見て。
ヴァネッサの名前を呼ぶ。
――――『ペンタゴン』、正式名称『アメリカ国防総省』。
その名の通り米国の国防の要を担う軍事施設。
『ペンタゴン』の通称は、建物の五角形から名付けられた。
セシリアが試作機だと言っていた転送装置の行き先だ。
ロスアラモスと直接往来することで、研究所の機密性を高めようと試みていると話してくれていた。
「恨まれるのが軍人の仕事だからな、はっきり言ってしまおう」
ヴァネッサの目を、真正面から真摯に見つめながら。
グランツは口を開く。
「セシリア・フォルティーは、君とここに転移した直後に死亡が確認された」
「――――ッ」
胸、心臓の周囲が。
一気に冷え込む。
「ミラアルク、エルザ。この二つの名前に覚えは?」
「・・・・・か、ぞく・・・・です・・・・・わたしの・・・・家族・・・・」
「そうか・・・・」
呆然と視線を落とすヴァネッサに、さすがのグランツも気づかわし気な声になる。
しかしすぐに切り替えて、力強く言葉を紡いだ。
「彼女はロスアラモスの襲撃と、君達の保護を頼んだ後に息絶えた」
『恨まれるのが仕事』と言うだけあって、粛々と事実を述べていくグランツ。
「最期の瞬間まで、隣人を愛する心を持ち続けた、セシリア・フォルティーに敬意を表すると共に、その冥福を心から願っている・・・・・本当に、惜しい女性を亡くした」
最後に、心からの哀悼の意を述べるものの。
ヴァネッサの慟哭を、止めることは叶わなかった。
◆ ◆ ◆
――――ブラック企業もかくやとばかりに、問題が湧いてくる。
米国のロスアラモス研究所が、襲撃を受けて壊滅したというのだ。
捜査資料として、米国から送られてきた監視カメラの画像には。
まさに『狼男』といったビジュアルの実行犯が写っていた。
生存者は、一人だけ。
「セシリア、そんな・・・・」
「ヴァネッサ・・・・」
S.O.N.G.艦橋。
一緒に報告を聞いていたミラアルクちゃんとエルザちゃんも、重い顔を隠しきれない様子だ。
――――ロスアラモスに、ペンタゴンに直通している転送装置(試作型)があったので。
それを使うことで何とか逃げられたらしい。
だけど、ロックの解除と座標の入力中*1に『狼男』に追いつかれた。
ヴァネッサさんがやむなく交戦したけど、主に体格差が原因で圧倒されて負傷。
でも戦った甲斐あって、解除と登録が間に合った。
コンマ数秒の攻防を切り抜けて、脱出事態には成功したんだけども。
セシリアさんは、ヴァネッサさんを。
届いてしまっていた相手の攻撃から、身を盾にして庇って。
「シシー・・・・!」
「セシリア・・・・」
マリアさんは、出血せんばかりに口元を噛み締めていた。
調ちゃんや切歌ちゃんも、セシリアさんとは仲良かったみたいで。
悲しそうな顔をしている。
「それで、アヌンナキの遺体と遺品は?」
『遺体は完全に焼失、遺品である腕輪は盗み出されたらしい。これを狙って襲撃したと見て、まず間違いないだろう』
問いを重ねる司令さんに、答える八紘さん。
米国政府も同じ見解なんだそうで。
今後も捜査を続けていくそうな。
ちなみにヴァネッサさん達の身元は、本格的にS.O.N.G.の預かりになるってさ。
まあ、数少ない異端技術の専門機関だもんね。
当然の帰結だね・・・・。
「腕輪について、他に分かっていることは?」
『襲撃直前まで送られていたデータによると、腕輪には《シェムハ》と解読できる部分があったらしい』
「・・・・ッ」
あ、了子さんが反応した。
『・・・・こちらから提示できる情報は以上だ、健闘を祈る』
「ああ、ありがとう。八紘兄貴」
公式な記録では、了子さんとフィーネさんがイコールであることは内緒なので。
その辺察してくれた八紘さんは、キリのいいところで通信を終わらせてくれた。
「で、なんか心当たりあんのか?」
変化を目ざとく察したクリスちゃんが問いかけると、了子さんは何か少し考え込んでから。
「・・・・アヌンナキのメンバーの中に、『シェム・ハ』と呼ばれる方がいたはずよ」
「そうなのか!?」
「・・・・ええ」
了子さんが言うに曰く。
そもそもアヌンナキ達は『生命の神秘』を研究する為、その実験場として地球を創造したらしい。
シェム・ハはその中の一人、生み出す生命の設計を担当していたという。
つまり、恐竜を始めとした古生物はもちろん、人間も生み出した存在なのだと。
むかーし昔の
要するに『ママ』ってことですね、把握。
「・・・・・ただ、だとすると尚のこと不可解なのよ。どうして南極に埋葬されていたのか」
「何故、厳重な警備に守られていたのか、か」
「っていうか、そもそもなんで埋葬されるような事態になってんだ?アヌンナキにも『死』があんのか?」
クリスちゃんが何気なくこぼした疑問に、みんながはっとなった。
確かに、少し変だ。
造物主ことアヌンナキは、昔、その・・・・フィーネさんが、エンキに『身の程知らずの恋』を抱くだけでなく。
その想いを告げようと、人間の分際で同じ高みに上ろうとしたことに怒って。
統一言語の破壊という世界規模の
そんな超常的な存在が、
いや、『そういうもんですよ』って言われたら『そっすか』という他ないんだけども。
・・・・・謎が深まるどころじゃなくなってきたように思う。
なんというか、こう。
覗いてはいけないようなものを覗いてしまいそうな、漠然とした不安が渦巻いている。
何だろう。
故人(というか、故神?)のことを考えたからか、足元におっきいナニかがいる感覚ががが・・・・。
「とはいえ、さすがに手掛かりが少ないわね」
考え込んでいたけれど、了子さんの声で現実に戻される。
そうだった、まだミーティングの最中だった。
「・・・・また、後手に回らざるを得ない、か」
「同じ後手でも、予め身構えているのとそうでないのとでは段違いのはずよ。落ち込まないの」
これまでがこれまでなだけに、先手を取れなさそうことに肩を落とす司令さんを。
了子さんが慰めたことで。
ひとまずお開きとなったのだった。
◆ ◆ ◆
「――――戻ったぜ」
「やあ、お疲れ様」
「
どことも知れぬ場所。
戻って来た『狼男』に、『吸血鬼』と『フランケン』が声をかける。
「収穫はどうだね?」
「へへへっ、ばっちりだぜ」
ごとん、と置いたアタッシュケースを開くと。
中には威圧感を放つ腕輪が。
「おぉー」
「ふむ、美術品としても謙遜ない作りだな」
歓声を上げる『フランケン』の横で、『吸血鬼』はまじまじと観察する。
「そもそもとして、五千年も前の品物がこれほどの輝きを残して現存しているとは。神の異物であることを加味しても、素晴らしい保存状態。売れたら相当な額になったろうに」
「ふぅん?俺にゃ分かんねぇや」
さすがに手に取ることはしなかったが、楽しそうに評価する『吸血鬼』。
欠片の興味もないものの、その饒舌っぷりを見た『狼男』は『そういうもんか』と思いながらアタッシュケースを閉じる。
「そういえば、お前さんはもうやりあったんだよな?『ファフニール』と」
「ああ、そうだよ」
何気ない問いかけに、口元を押さえる『吸血鬼』。
先ほどとは打って変わって、面白くて面白くて仕方がないと言わんばかりの笑みを浮かべる。
思い出すのは、ライブ会場でのこと。
事実を突きつけてやった時の、あの表情。
「――――実に、実に。良い気分だった」
「ヘーェ?」
くつくつ鳴りだす喉に、『狼男』の顔もつられて凶悪になる。
「いいなぁ、俺も早いとこやり合いてぇなぁ」
「何、焦るんじゃない。どのみち依頼主殿は彼らと戦ってほしそうだったからな」
「分かってらぁ」
けたけた、げらげら。
嗤い声を上げる様は、まさしく怪物であった。
いい加減に次回から話が動く、はず。