チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

191 / 199
前回までの評価、閲覧、ご感想、お気に入り登録。
誠にありがとうございます。

あんまり話が進んでいませんが、これ以上は長くなりそうだったのであげちゃいます。


うごめくもの

「――――お前の言う通り、私は何の不自由をしていない」

 

「食うに困ることもなく、学びたい時に学べ、金だって自由に扱える」

 

「それは士族であるが故の特権、だが、そこには同時に義務も発生する」

 

「浪費はならぬ、有り余る金は御国の為に使わねばならぬ」

 

「怠惰はならぬ、得た知識は御国の為に振るわねばならぬ」

 

「傲慢はならぬ、身も、心も、魂も、全て御国に捧げねばならぬ」

 

「・・・・我が家は、代々国を防人って来た一族。現当主たる父や、兄上方も、大変優れた御方だ」

 

「戦況奮わず、人も、武器も、食料も乏しくなりつつあるこの日ノ本で」

 

「大した権限を持たぬ三男坊に出来ることなど、限られてくるのだ」

 

「だから、私はここに来た」

 

「特攻出撃に駆り出されることなど、百も承知」

 

「この身は、この心は、この魂は」

 

「髪の毛先から、爪の一欠片に至る、あらゆる全て」

 

「八島を防人る為にある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――理屈は分かったけどよ」

 

「そんな御大層な志持ってても、罰則くらってちゃ世話ねぇよな」

 

「ッッ誰の所為だ!誰のッ!!」

 

「ああ!?俺が悪いってのかッ!?」

 

「他に誰がいるというのだッ!?」

 

「――――ゴラァッ!!貴様らッ!!反省が足らんようだなッッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、戻ってくることはない。

遠い、遠い。

ある日の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――?」

「ッドクター、患者の意識が!」

 

ばたばたと人が動き回るのを聞きながら、ヴァネッサはゆっくり目を開けた。

陽光に何度もまばたきしながら、辺りを見回す。

 

(ロスアラモスじゃない・・・・?)

 

始めに感じたのは、そんなことだった。

なんというか、天上や柱のつくりなど。

部屋の雰囲気が違うのだ。

 

「おはようミス、自分の名前は言えるかい?」

「な、まぇ・・・・・ばねっ・・・・ヴァネッサ・・・・ヴァネッサ・ディオダディ・・・・」

 

顔を覗き込んできた医師と、ぼんやり会話をしながら。

何があったのだっけと、頭をまさぐる。

 

――――突然の爆発。

 

――――次々引き裂かれる研究員達。

 

――――自分の手を引くセシリア。

 

――――外の施設に繋がっているという転送装置。

 

――――そして。

 

――――自分を庇って、攻撃をもろともに受けたセシリア。

 

「・・・・~~~~!!!」

「ミス?ミス!動いてはいけないよ!」

 

ベッドに戻そうとしてくる医師の腕をひっつかんで、ヴァネッサはありったけの声を上げた。

 

「セシリアは!?セシリア・フォルティー!!一緒に来たはずなんです!!彼女の安否は!?」

「それは・・・・」

「それは私が伝えよう、ドク」

 

セシリアの名前に、どこか狼狽えた様子の医師に声をかけたのは。

ちょうど入って来たらしい軍服の男性だった。

 

「ふむ、ミス・ディオダディか・・・・私はアメリカ陸軍グランツ・スミス中尉。ここはアメリカ国防総省こと、『ペンタゴン』だ」

 

グランツと名乗った軍人は、看護師が差し出したカルテを見て。

ヴァネッサの名前を呼ぶ。

――――『ペンタゴン』、正式名称『アメリカ国防総省』。

その名の通り米国の国防の要を担う軍事施設。

『ペンタゴン』の通称は、建物の五角形から名付けられた。

セシリアが試作機だと言っていた転送装置の行き先だ。

ロスアラモスと直接往来することで、研究所の機密性を高めようと試みていると話してくれていた。

 

「恨まれるのが軍人の仕事だからな、はっきり言ってしまおう」

 

ヴァネッサの目を、真正面から真摯に見つめながら。

グランツは口を開く。

 

「セシリア・フォルティーは、君とここに転移した直後に死亡が確認された」

「――――ッ」

 

胸、心臓の周囲が。

一気に冷え込む。

 

「ミラアルク、エルザ。この二つの名前に覚えは?」

「・・・・・か、ぞく・・・・です・・・・・わたしの・・・・家族・・・・」

「そうか・・・・」

 

呆然と視線を落とすヴァネッサに、さすがのグランツも気づかわし気な声になる。

しかしすぐに切り替えて、力強く言葉を紡いだ。

 

「彼女はロスアラモスの襲撃と、君達の保護を頼んだ後に息絶えた」

 

『恨まれるのが仕事』と言うだけあって、粛々と事実を述べていくグランツ。

 

「最期の瞬間まで、隣人を愛する心を持ち続けた、セシリア・フォルティーに敬意を表すると共に、その冥福を心から願っている・・・・・本当に、惜しい女性を亡くした」

 

最後に、心からの哀悼の意を述べるものの。

ヴァネッサの慟哭を、止めることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

――――ブラック企業もかくやとばかりに、問題が湧いてくる。

米国のロスアラモス研究所が、襲撃を受けて壊滅したというのだ。

捜査資料として、米国から送られてきた監視カメラの画像には。

まさに『狼男』といったビジュアルの実行犯が写っていた。

生存者は、一人だけ。

 

「セシリア、そんな・・・・」

「ヴァネッサ・・・・」

 

S.O.N.G.艦橋。

一緒に報告を聞いていたミラアルクちゃんとエルザちゃんも、重い顔を隠しきれない様子だ。

――――ロスアラモスに、ペンタゴンに直通している転送装置(試作型)があったので。

それを使うことで何とか逃げられたらしい。

だけど、ロックの解除と座標の入力中*1に『狼男』に追いつかれた。

ヴァネッサさんがやむなく交戦したけど、主に体格差が原因で圧倒されて負傷。

でも戦った甲斐あって、解除と登録が間に合った。

コンマ数秒の攻防を切り抜けて、脱出事態には成功したんだけども。

セシリアさんは、ヴァネッサさんを。

届いてしまっていた相手の攻撃から、身を盾にして庇って。

 

「シシー・・・・!」

「セシリア・・・・」

 

マリアさんは、出血せんばかりに口元を噛み締めていた。

調ちゃんや切歌ちゃんも、セシリアさんとは仲良かったみたいで。

悲しそうな顔をしている。

 

「それで、アヌンナキの遺体と遺品は?」

『遺体は完全に焼失、遺品である腕輪は盗み出されたらしい。これを狙って襲撃したと見て、まず間違いないだろう』

 

問いを重ねる司令さんに、答える八紘さん。

米国政府も同じ見解なんだそうで。

今後も捜査を続けていくそうな。

ちなみにヴァネッサさん達の身元は、本格的にS.O.N.G.の預かりになるってさ。

まあ、数少ない異端技術の専門機関だもんね。

当然の帰結だね・・・・。

 

「腕輪について、他に分かっていることは?」

『襲撃直前まで送られていたデータによると、腕輪には《シェムハ》と解読できる部分があったらしい』

「・・・・ッ」

 

あ、了子さんが反応した。

 

『・・・・こちらから提示できる情報は以上だ、健闘を祈る』

「ああ、ありがとう。八紘兄貴」

 

公式な記録では、了子さんとフィーネさんがイコールであることは内緒なので。

その辺察してくれた八紘さんは、キリのいいところで通信を終わらせてくれた。

 

「で、なんか心当たりあんのか?」

 

変化を目ざとく察したクリスちゃんが問いかけると、了子さんは何か少し考え込んでから。

 

「・・・・アヌンナキのメンバーの中に、『シェム・ハ』と呼ばれる方がいたはずよ」

「そうなのか!?」

「・・・・ええ」

 

了子さんが言うに曰く。

そもそもアヌンナキ達は『生命の神秘』を研究する為、その実験場として地球を創造したらしい。

シェム・ハはその中の一人、生み出す生命の設計を担当していたという。

つまり、恐竜を始めとした古生物はもちろん、人間も生み出した存在なのだと。

むかーし昔の巫女(げんえき)時代に、あのお方こと『エンキ』に教えてもらったんだそうな。

要するに『ママ』ってことですね、把握。

 

「・・・・・ただ、だとすると尚のこと不可解なのよ。どうして南極に埋葬されていたのか」

「何故、厳重な警備に守られていたのか、か」

「っていうか、そもそもなんで埋葬されるような事態になってんだ?アヌンナキにも『死』があんのか?」

 

クリスちゃんが何気なくこぼした疑問に、みんながはっとなった。

確かに、少し変だ。

造物主ことアヌンナキは、昔、その・・・・フィーネさんが、エンキに『身の程知らずの恋』を抱くだけでなく。

その想いを告げようと、人間の分際で同じ高みに上ろうとしたことに怒って。

統一言語の破壊という世界規模の呪い(ばつ)を与えたはず。

そんな超常的な存在が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

いや、『そういうもんですよ』って言われたら『そっすか』という他ないんだけども。

・・・・・謎が深まるどころじゃなくなってきたように思う。

なんというか、こう。

覗いてはいけないようなものを覗いてしまいそうな、漠然とした不安が渦巻いている。

何だろう。

故人(というか、故神?)のことを考えたからか、足元におっきいナニかがいる感覚ががが・・・・。

 

「とはいえ、さすがに手掛かりが少ないわね」

 

考え込んでいたけれど、了子さんの声で現実に戻される。

そうだった、まだミーティングの最中だった。

 

「・・・・また、後手に回らざるを得ない、か」

「同じ後手でも、予め身構えているのとそうでないのとでは段違いのはずよ。落ち込まないの」

 

これまでがこれまでなだけに、先手を取れなさそうことに肩を落とす司令さんを。

了子さんが慰めたことで。

ひとまずお開きとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――戻ったぜ」

「やあ、お疲れ様」

おばえい(おかえり)

 

どことも知れぬ場所。

戻って来た『狼男』に、『吸血鬼』と『フランケン』が声をかける。

 

「収穫はどうだね?」

「へへへっ、ばっちりだぜ」

 

ごとん、と置いたアタッシュケースを開くと。

中には威圧感を放つ腕輪が。

 

「おぉー」

「ふむ、美術品としても謙遜ない作りだな」

 

歓声を上げる『フランケン』の横で、『吸血鬼』はまじまじと観察する。

 

「そもそもとして、五千年も前の品物がこれほどの輝きを残して現存しているとは。神の異物であることを加味しても、素晴らしい保存状態。売れたら相当な額になったろうに」

「ふぅん?俺にゃ分かんねぇや」

 

さすがに手に取ることはしなかったが、楽しそうに評価する『吸血鬼』。

欠片の興味もないものの、その饒舌っぷりを見た『狼男』は『そういうもんか』と思いながらアタッシュケースを閉じる。

 

「そういえば、お前さんはもうやりあったんだよな?『ファフニール』と」

「ああ、そうだよ」

 

何気ない問いかけに、口元を押さえる『吸血鬼』。

先ほどとは打って変わって、面白くて面白くて仕方がないと言わんばかりの笑みを浮かべる。

思い出すのは、ライブ会場でのこと。

事実を突きつけてやった時の、あの表情。

 

「――――実に、実に。良い気分だった」

「ヘーェ?」

 

くつくつ鳴りだす喉に、『狼男』の顔もつられて凶悪になる。

 

「いいなぁ、俺も早いとこやり合いてぇなぁ」

「何、焦るんじゃない。どのみち依頼主殿は彼らと戦ってほしそうだったからな」

「分かってらぁ」

 

けたけた、げらげら。

嗤い声を上げる様は、まさしく怪物であった。

*1
あくまで試作型だから、実験の度にリセットしていたんだそう。




いい加減に次回から話が動く、はず。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。