チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

189 / 199
前回までの評価、閲覧、ご感想。
誠にありがとうございます。


惨劇

ロスアラモス、メイン研究室。

南極より運び込まれた異物を前に、何人もの研究者たちが慌ただしくしている。

 

「緊張してる?」

「・・・・少し」

「私もよ」

 

その中に、ヴァネッサとセシリアもいた。

こそりと話しかけてきた隣の彼女に、同じくこそりと返事をすれば。

くすくすと微笑みが返ってきて。

ヴァネッサは、肩の力が抜けるのを感じた。

――――『いい話と悪い話がある』と持ち掛けられたのが、つい二日ほど前の話。

エルザとミラアルクの負傷に心を乱し、そしてS.O.N.G.に保護されて治療を受けていることに安堵していたところへ。

いい話である、南極で見つかったカストディアンの遺体の調査メンバーに選ばれたこと。

悪い話である、人間に戻るための研究を中断せざるを得ないことを伝えられた。

 

(それでも、少しでも受け入れられているのだろうというのは、存外うれしいものね)

「――――終わらせるぞ神代!!叡智の輝きで人の未来を照らすのは、アメリカの使命なのだ!!」

 

プロジェクトリーダーの演説を聞きながら、改めて気を引き締めなおすヴァネッサだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

煌びやかなスポットライト、軽快な音楽。

ステージの上でその人は、翼さんは踊っていた。

だけど、何だか心ここにあらずと言った感じ。

演奏が終わった後、わたしの引っかかりを裏付ける様にスタッフさんが首を横に振っていた。

でしょうな。

――――わたしは今、翼さんのライブのリハーサルに来ている。

年末の南極の攻防に、米国戦艦の襲撃。

不穏な気配が近付く中で、翼さんみたいな真面目な人が『よっしゃ!ライブだ!』なんてやれるかどうかと言われれば。

まあ、難しいよなぁ・・・・。

エルザちゃんとミラアルクちゃんも、負傷が激しくてうちの預かりになったし・・・・。*1

わたしと同じく、護衛に来ていたマリアさんが話しかければ。

やっぱり想像通りの懸念を口にしていた。

あ、ちなみに今は年も明けて、2045年。

かの終戦から100年だってんで、各メディアその話題でもちきりなのが印象的だった。

なんだかんだ世界規模の大戦が百年も起こってないって言うのは、割とすごいことなのでは?

いや、途上国とかでのいざこざを含めるとちょっとコメントに困るんだけど・・・・。

 

「今更中止というのも難しいでしょう。当日には私だって同じ舞台に立つし、響だって詰める、もう少し肩の力を抜いてみたら?」

 

柔らかく微笑みながら、翼さんの緊張をほぐしにかかるマリアさん。

そんな彼女も、今回サプライズゲストとして登場予定だ。

ついでにわたしも、舞台裏で有事に備えて待機する。

・・・・ツヴァイウィングの時みたいな悲劇を、繰り返させるわけにはいかないからね。

それに、度重なる異端技術の事件を受けて、色んなガイドラインが見直されているから。

観客の意識も変わってきている。

何とかなる、と、いいなぁ・・・・。

 

「響さん、当日の配置について、ちょっと・・・・」

「あ、はーい!」

 

ひとまず目の前の仕事を片付けようと、緒川さんの方に行くことにした。

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

『――――報告書には、目を通した』

 

S.O.N.G.本部。

 

『政治介入があったとはいえ、先史文明時代の貴重なサンプルを米国に掠め取られるなどと・・・・なんたる無様かッッ!!』

「恐れながら」

 

モニターの向こうで怒髪天を衝いているのは、訃堂だ。

南極にて発見された、神代製造の棺桶とアヌンナキの遺骸。

それらを日本が確保できなかったのが、お気に召さなかったらしい。

攻防以来、ちょくちょく『お叱り』の通信を繋げてくるようになった。

 

「昨今の日本は、抜きん出た異端技術研究について、各国より羨望の視線を向けられる立場にあります。その上先史文明時代の研究にまで手を伸ばしてしまえば、それこそ攻撃の口実を作りかねません」

『国力が劣ると判断されて攻め入られることも有り得る!!果敢無き様がいつまでも見逃されるとでも思うなッ!!』

 

訃堂の様々な部分に思うところがあるとはいえ、その政治的手腕は本物と言わざるを得ないと、弦十郎は考えている。

敵にも味方にも痛みを与える、荒神の如き方針。

もはや妄執とも言うべき信念。

納得できないが、理解は出来るのだ。

 

『さらには新たな夷狄をのさばらせおって!防人の血をこれ以上辱めるなッッ!!』

「・・・・っは」

 

訃堂が向ける目は、決して身内に対するものではなかった。

それどころか、人間と認識しているかどうかも怪しい。

そんな瞳を崩さないまま、怒鳴るだけ怒鳴り散らしたご老公は。

一方的に通信を切ってしまった。

 

「あったかいもの、どうぞ」

「・・・・ああ、すまない」

 

力尽きる様に座った弦十郎へ、友里がコーヒーを差し出す。

口に含んだ苦い味が、よどんだ頭をすっきりさせてくれた。

 

「最近増えましたね、鎌倉からのお叱り。今までほとんど無かったのに」

「そうだな・・・・」

 

藤尭もおやつのチョコレート菓子をそっと差し出しつつ、慰めの声をかける。

弦十郎はそれも早速口に放り込んで、咀嚼しつつ思考にふけった。

 

(・・・・・何か、胸騒ぎがする)

 

活発になったように思う鎌倉の干渉に、弦十郎が眉を潜める脇で。

友里と藤尭以外のオペレーター達は、やや行儀悪く『うっせぇわ!!』と古の楽曲を熱唱していた。*2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

さてさて。

泣いても笑っても、ライブ本番の日ですよー!

わたしは今、奈落の一つを待機場所にさせてもらっている。

まさに頭上では、ステージを跳ね舞い踊っている翼さんがいるのだ。

いや、分かっていたことだけど、音がやべぇ。

耳栓を兼ねた通信機をつけてなかったら、『キーン!』って音に悩まされたんじゃかなろうか。

まあ、今をときめく『英雄サマ』の舞台だし、襲撃がないとも言い切れない。

少なくともこっちの世界では、『翼さんのライブでは何かしらトラブルが発生する』なんてジンクスが囁かれてるんやで・・・・。

さすがに本人も気にして、マリアさん共々御祓いに行ってたし・・・・。

何より、クリスちゃんや調ちゃん切歌ちゃんと、他にも優秀な子達が揃っている中から。

わたしを指名してくれたんだ。

頑張る他ないってもんでしょ。

 

「・・・・ん」

 

通信機(みみせん)越しに、翼さんとマリアさんの歌声が聞こえてくる。

シメのサプライズ演出が始まったな?

始めこそ困惑していた観客達が、何が起こっているのか理解したらしい瞬間が。

大歓声を以て、手に取るように分かる。

んふふ、わたしがステージに立ってるわけじゃないんだけど、なんかうれしいね。

やっぱり、歌には力があるんだよ。

そりゃあ、時には暴力の方が手っ取り早かったりするんだけどさ。

だとしても、やっぱりわたしは歌の方がいい。

敵を討ち取るだけじゃない、傷ついた人を癒すことが出来る歌の方が。

ずっと、ずっと、いい。

 

「・・・・そろそろかな」

 

曲も終盤にかかり、翼さんとマリアさんがより一層魂を込めて歌い上げているのが聞こえる。

そして、後奏も終わった。

会場は万雷の拍手と歓声に包まれて、興奮冷めやらぬといった状況。

通信機は未だうんともすんとも言わない。

うん、今回はなんとか無事に終わりそう。

・・・・なんて思ったのが、間違いだったらしい。

 

「――――ごきげんよう、紳士淑女の皆々様!!」

 

警備するにあたって、直前まで叩き込んだセトリならびにスケジュール。

そのどれにも入っていない事態が起こったと、すぐ分かった。

 

「Balwisyall Nescell Gungnir tron...!」

 

すぐにギアを纏って、飛び出せば。

空を覆いつくすアルカノイズの群れ、群れ、群れ!!

 

「――――貴殿らに恨みはないが」

 

舞台セットの、塔部分の頂点。

まさに『吸血鬼』な風貌のそいつは、言葉とは裏腹のぎらついた目でわたしを射貫いてきて。

 

「我らの都合により、死んでくれ」

 

まるで、指揮棒の様に降ろされた指を合図に。

理不尽な死が、雨あられと降り注いだ。

 

「させるかあッッ!!!!!!」

 

轟、と咆えた翼さんが。

マリアさん共々ギアを纏って、攻撃をスターマインよろしく打ち上げる。

やっぱり、装者として公表されていることが功を奏しているらしい。

一度恐慌状態に陥りかけた観客達だけど、わたし達が対応していると分かるや否や。

各々で声を掛け合って、努めて冷静に避難移動を始めた。

総勢十万ちょいにしては、割かしスムーズに動いているんじゃなかろうか。

 

「・・・・ッ!」

 

そうやって観客に意識を向けているところに、『吸血鬼』が突っ込んで来る。

血を固めたんだろうと分かる色と臭いの、鋭い爪が。

わたしの喉元を狙って突き出されていた。

めっちゃ硬いなこれ!?押さえている手甲が火花散らしてるべよ!?

そのまま二撃、三撃と激突して。

一度距離を取る。

観客はまだ避難しきれていない。

早期収束を狙って、突貫する。

 

「ははっ!」

 

爪と拳がぶつかり合う。

顎を狙って蹴り上げる。

避けられてカウンターが飛んでくるけど、こちらも負けじとカポエイラを叩き込む。

 

「がぶッ!?」

 

振り回した足が、横っ面を蹴り飛ばした。

よし、クリーンヒット。

手ごたえを感じて、体勢を立て直しつつ相手を見据える。

と、

 

「・・・・ふ、ふふふッ」

 

口元の血をぬぐった相手が、急に笑い出す。

な、なんだ?

 

「・・・・何?」

「相変わらず・・・・いや、『相変われず』の方が正しいか・・・・いい打撃を繰り出すな、ファフニール」

 

やつは崩れた髪をかき上げなおして、狂気じみた笑みを見せてくる。

・・・・こいつ、昔を知っているやつか!

 

「ああ、今でも思い出せるとも・・・・・ファミリーを鏖殺された、あの日のことをッッ!!」

 

絶叫が確かな圧を放つ。

思わず圧されて、下がってしまう。

 

「お前にとっては障害物でも、私にとっては『家族』だった!!」

 

『だから』と、『吸血鬼』は指を向ける。

 

「お前にも、教えてやるよ」

 

わたしではなく。

依然避難移動をしている観客へと。

 

「ただただ一方的に奪われる、絶望というものを!!!」

 

目の前で、ぱきんと指が鳴らされた。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

「ノイズだあああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

その時、響の耳を悲鳴がつんざいた。

 

「避難路にもノイズが!!」

「ここはダメだ!別の道を!!」

 

異常事態に慌てた観客は、道を引き返そうとするものの。

 

「何してんだ!!?」

 

何故かその場で棒立ちになるものが多数現れる。

 

「お、おい!立ち止まるな!」

「ち、違う!動かない!!体が動かない!!」

 

逃げたいという気持ちに反して、体が動かない。

当然、逃げる誰もが『そんなことあるのか』と思うのだが。

銅像のようになっている彼らの顔を見て、本当らしいと感づく。

他にも、

 

「なんで!?やめろ!!そっちはノイズが、ぎゃあッ!!!!」

「離せ!!離せ!!離してくれ!!!人殺し!!!!」

「離れないんだ!!手が!!言うことを聞かないんだ!!」

 

逆にノイズに向かって突っ込んでしまったり。

最悪の場合、他の人をホールドしたままもろともに死んでしまったり。

混乱は大波の様に伝搬していき、順調だった避難移動はあっという間に足並みを乱してしまう。

その末に起こるのは、やはり。

 

「ど、どいてくれ!!早く先に行かせてくれ!!」

「死にたくない!!死にたくない!!死にたくない!!」

 

四年前の様な、群衆の暴走だった。

――――こうして、緊急時なりの秩序を保っていた避難通路は。

一気に地獄絵図と化してしまったのだ。

 

「――――何も驚くことはないだろう?」

 

驚愕している響をあざ笑って、『吸血鬼』は自慢げに口を開く。

 

「私は『吸血鬼』だぞ?血を介して出来ることは、星の様にある」

 

例えば、そう。

 

「販売されるドリンクに血を混ぜて、それを飲んだものを操ったり。なんてな!!」

 

ライブでは、事前に持ち込む飲み物ももちろんあるが。

中には現地での飲食を楽しむ人だっている。

彼は、そこを突いたのだという。

販売用のタンクに、ほんの数滴。

たったそれだけで、この阿鼻叫喚を生み出したのだと。

自慢げに両手を広げていた。

 

「・・・・・そ、んな」

 

いつ仕込んだとか、警備をどうやって掻い潜ったとか。

色々問い詰めいたことが渋滞して。

 

「そんなッ、無茶苦茶な!!反則にも程がある!!」

 

響の震える唇は、怒鳴り声を発するしか出来ない。

 

「ワーハッハァ!!その顔が見たかったぞ!!いい気味だ!!」

 

恨みを持つだけあって、そんな相手の様を見た『吸血鬼』は。

さも愉快そうに大口を開ける。

奥歯を噛み締めた響は、激情のままに突っ込もうとして。

 

「立花ッッ!!」

「ッ翼さん!?」

 

砲撃で一掃するマリアを背後に、翼が『吸血鬼』に斬りかかった。

 

「訳は聞こえていたッ!!お前の胸中、察するに余りあるところだが、今は人命を優先してくれ!!」

 

数撃切り結んで隣に立った翼は、強い瞳を向けて響を落ち着かせにかかる。

 

「操られている者は意識を落としても構わん!!四年前の焼き増しを、止めてくれッッ!!!」

「・・・・はい!!」

 

響は依然『吸血鬼』を睨んでいたが、翼がやってきたことで冷静さを取り戻したらしい。

すぐに踵を返して、観客をダイレクトに狙うノイズを対処し始める。

 

「ふん、なかなかのカリスマだな。あの野蛮な化け物の手綱を、こうも手繰って見せるとは」

「訂正しろ、立花は化け物ではない」

 

鼻を鳴らす『吸血鬼』に、翼は鋭く切っ先を突き付ける。

 

「人命の危難を機敏に悟り、真っ先に駆け付ける。我ら自慢の一番槍だ!!」

「ッハ!!随分な高評価じゃないか!!俺達の時と同じだな!!」

「何?」

 

翼の啖呵を嗤い飛ばし、己の血液をオーラの様に纏う『吸血鬼』。

会場の照明は未だ生きていると言うのに陰りがさす様に見える顔は、瞳が爛々とぎらついている。

 

「俺達も、奴の残虐さを評価して取り立てた。そして、裏切られた」

 

周囲を舞う血液が沸騰する様に荒ぶり、マゼンダ色に輝きだす。

 

「貴様らS.O.N.G.も、今にそうなる。奴の、身勝手で、自己中心的な事情で、滅ぼされるぞ・・・・!」

「ッ戯言を!!!」

 

確かに響は人を殺めている。

それは翼でも庇いきれぬ事実だ。

しかし、だからといって無下に扱っていいわけではないと考えてもいる。

翼が、咎人である響を同胞と呼んでいるのは。

響自身が罪から逃げずに背負い続け、贖罪し続けているからに他ならない。

もはや言葉は不要と、剣を霞に構えて飛び掛かる。

刃を翻して、下から切り上げ。

対する『吸血鬼』は血液を鎖の様に変化させて受け止める。

そのまま鞭さながらに振るわれる鎖に対応する目の前で、二本、五本と増えていく。

 

「・・・・ッ」

 

剣がぶつかる度に、血液らしからぬ音を立てる相手の武器。

翼は警戒を高めると、己も二刀流に変えて手数を増やす。

鎖達は不規則な軌道を描いて襲い掛かってくるが、努めて冷静に対処する翼。

一つ一つの軌道を予測し、剣の振り具合や、体の傾き具合や、足捌き。

持てる技術の全てを注いで、眼前の敵を討ち果たさんとする。

 

「ふっ!」

 

血液が追加される。

鎖の中で、主に翼に向けられているものが、まるで有刺鉄線の様に変化。

刀身をちょくちょく引っかけて、攻め手のリズムを崩しにかかる。

翼は最初こそ眉をしかめたが、すぐに調子を整えて適応した。

 

「なるほど、化け物を庇うだけのことはあるということか!!!」

 

また嗤って翼を揺さぶりにかかる『吸血鬼』。

『同じことしか言えないのか』と、短い吐息を以て一蹴した。

その時だった。

 

「ならば、これはどうかな!?」

 

ここで、翼は己の失態に気付いた。

鎖の一部が、攻め手に参加していないことに。

それが、何かを引き寄せていることに・・・・!!

 

「――――きゃあああああああああああああッッ!!!」

 

魚の様に引きずられてきたのは、観客の少女だった。

翼のことをよほど慕っているのか、髪型も寄せている。

あちこちを擦りむき、傷だらけの痛々しい彼女。

そのか細い首が、乱暴に引っ掴まれる。

 

「貴様ァッ!!」

 

頭が真っ白になって、憤りのままに絶叫する翼。

しかしてその技術を乱さず、少女の四肢の合間を縫って突きを放つという。

針に糸を通すが如き離れ業を放って、人質を速攻で救出。

 

「後ろにいてくれ!離れるな!!」

 

すぐ様背後に庇い、『吸血鬼』へ切っ先を突き付けるも。

 

「――――言ったはずだぞ」

 

束の間の安堵すら、潰される。

 

「血を介して出来ることは、星の様にあると・・・・!!」

 

瞬間。

 

「ぃぎあ・・・・!?」

 

ぐしゃりと、水分を含んだ何かが潰れる音。

背中に無数の痛みを覚えた翼が、茫然と振り向けば。

体の内側から、己の血に満遍なく貫かれた少女が。

赤く混ざった涙を流しながら、こちらに手を伸ばしている様。

 

「ぁ、あ・・・・!」

 

痛みも構わず、手を差し出し返す翼の目の前で。

瞳から光を失った少女は、べしゃりと倒れ伏したのだった。

 

「ッあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

喉が潰れんばかりに咆哮する。

視界は針の穴もかくやと狭まり、『吸血鬼』ただ一点を収める。

 

「翼!落ち着きなさい!翼!!」

「おのれおのれおのれェッ!!その外道掻っ捌かずにいられるかアアアァッ!!!」

 

マリアが駆けつけ羽交い絞めにしてもなお、怒りのままに暴れる翼。

駄々っ子の様に乱発した蒼ノ一閃は、ひらひらと撤退を始める『吸血鬼』に掠りもしない。

 

「・・・・潮時だな」

「おおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

自ら発生させた暴風に乗り、突貫してきた響を。

『吸血鬼』は血のネットで受け止める。

 

「――――可哀そうに」

 

同じく修羅の如く怒りを募らせる響を、鼻で嗤い飛ばした彼は。

わざと顔を寄せて挑発したのち、言い放つ。

 

「お前さえいなければ、この会場は狙われなかったというに」

 

次の瞬間、憤怒の形相はどこへやら。

反論出来ぬまま、口をぱくぱくさせる響を容赦なく叩き落とした『吸血鬼』は。

再び手を上げて、上空の残ったノイズに号令。

まだ逃げまどう人々を、丁寧にすりつぶす様に鏖殺していくと。

戦意を挫かれた戦姫達の目の前で、悠々と立ち去って行ったのだった。

*1
なお、治療には異端技術の専門知識が必要なためというのが主な理由。厄介払いでは決してない・・・・と、信じたい

*2
XVの時代設定は2045、あの曲と彼女のデビューは2020。立派な懐メロ入りしているのでは




本編後CM的なおまけ。
オペレーターA「はあーん!」
オペレーターB「うっせぇ!」
オペレーターC「うっせぇ!」
オペレーターD「うっせ――――」
藤尭「それ以上はいけない!!」
友里「気持ちは分かるけど!気持ちは分かるけど!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。