極寒の攻防の翌日。
政治的なあれこれで、棺桶とその中身は米国に引き取られることになった。
日本が持ってくことも出来たろうけど、『お前らばっかりずるいぞー!』って他の国から突っつかれたら困るしねぇ・・・・。
「とはいえ、護衛がいらないって言うのはちょっと心配かも」
「まあな、アルカノイズは前のに比べて銃火器が効くと言えど、気になるよなぁ」
「ねー」
本部で休んで、すっかりぬくぬくになったシンフォギア装者達。
わたしは現在、クリスちゃんと一緒に甲板に出て、やってきた米国の砕氷船を眺めていた。
そんな時。
「――――おはざーっす♪」
「ん!?あれッ!?」
にゅっと後ろから腕が伸びてきて、立てられた人差し指が振られる。
びっくりして振り向くと、ロスアラモスで出会った顔がニコニコ笑っていて。
「ミラアルクちゃん!エルザちゃん!」
「ガンス!お久しぶりであります!」
場所が場所なので、二人ともあったかい格好をしている。
「知り合いか?」
「そうそう。ほら、この前香子連れてったとこの」
「あー」
ロスアラモスに行った話はみんなにもしていたので、クリスちゃんもすぐに理解してくれた。
「もしかして、向こうさんが護衛いらないっつったのは・・・・」
「ああ、あたしらが付くことになったからだぜ」
「人間に戻ることを目標としていますが、わたくしめら三人共、未だ怪物と呼ばれる身であります」
「ヴァネッサ達の研究を進めさせるためには、えらーい人達を納得させる必要があるからなぁ。うちらだって働かないと」
なるほど、世知辛い・・・・。
「それに。セシリアがくれた、日本の漫画で読んだのであります」
エルザちゃんは自分の指をちょんちょんしながら、もじもじして。
でも、明るい顔をして。
「わたくしめらと同じように、怪物って呼ばれたキャラクターが、『仲間の役に立つ怪物になりたい』って頑張ってる姿が。とってもかっこよかったのであります!」
あー、あれか。
麦わら帽子の、世界一有名な海賊。
『ゴムゴムの』って真似したやつ、一人はいるじゃろ?
「とまあ、こんな感じでエルザも前向きになってるし、うちも腐ってるわけにはいかないなと」
「そっかそっか」
むふー!とやる気を見せるエルザちゃんが可愛いので、うりうり撫でまわす。
・・・・香子と会いに行った頃は。
ヴァネッサさんはともかく、二人ともまだ周囲を警戒しきりだったのに。
こんなにも他人を思いやれるようになって。
あの日出会ったセシリアさんだけじゃなくて、他の研究員さんにも優しい人がいたんだろうというのが。
よく分かる光景だ。
そりゃぁ、『貴重なサンプルだから』とか『へそ曲げられて反抗されたら困る』とかの下心もあるんだろうけど。
でも、やけになって無差別に傷つける様になるよりはずっといい。
「まあ、そこまでいうなら、変に心配しすぎるのも悪いか」
「そうだねぇ。頑張って!今日の任務も、人間に戻れるのも、応援してるよ!」
「にひひ、あざまぁーす!」
聞けば、今回に合わせて米国が独自に開発した哲学兵装も装備しているとのこと。
そこまで準備しているなら、クリスちゃん共々見守りに徹するとしましょうかね。
――――まさか、そんな。
こんな分かり易いタイミングで、『何か企んでますよ』みたいな襲撃をするやつがいるわけが・・・・・。
「――――米国戦艦より、救援要請!」
「多数のアルカノイズが取り付いています!」
「切歌ちゃんと調ちゃんを先行させます!ほかの装者も、各自人命救助を!」
いたーーーーッ!?
◆ ◆ ◆
「み、ミラアルク・・・・!」
「しゃべんなエルザ、やばい怪我してんだろ」
壁に穴が開く程大破した、米国戦艦の中。
横腹から多量に出血するエルザを庇い、ミラアルクが睨みつける先。
通路の天上まで届く巨体が、こちらを見下ろしてきていた。
「・・・・ぐぶぶ」
縫合跡でぐずぐずの顔面を歪ませて嗤うそいつは、明らかに彼女達を嘲っている。
「
「言ってること分かるのが腹立つぜ、滑舌悪い癖に・・・・!」
「
目の前で両手が組まれて、高く掲げられる。
「
剛腕による、容赦ないアームハンマーが叩き込まれようとして。
「――――させないデスよ!!」
間一髪。
駆けつけた切歌と調によって、二人は回収された。
「あ、あんたら・・・・!」
「お助けに参上デース!」
「あとは任せて、下がってて!」
巨漢から大きく距離を取り、負傷したエルザとミラアルクを横たえさせてから。
二人に近づけさせまいと、前に躍り出る。
「
「何言ってるのか分からんデス!」
全身から迸った雷が、通路いっぱいに溢れかえってもなんのその。
襲い掛かってくるプラズマを切り払いながら、切歌が猛進する。
翡翠の刃が剛腕とぶつかり、発生した衝撃が通路に何度も反射してこだまする。
束の間競り合っていた両者だったが、巨漢はにやりと笑うと腕をずらす。
すると刃が剛腕を滑り、切っ先が狭い通路の壁に食い込んでしまう。
「んなぁ!?」
「
岩塊の如き拳が、しなやかな乙女の躯体に容赦なく襲い掛かった。
「切ちゃんッ!!」
床が砕けた塵が煙の様に立ち上って、視界が塞がれる。
煙で見えない中、調が相方を案じて声を上げれば。
彼女の心配を裏切るように合わられる、巨漢。
「・・・・ッ!」
「
切歌にも襲い掛かった拳が、調にも襲い掛かって。
「――――む」
「・・・・ッ」
しかして、技術もへったくれもないパンチは、破壊をもたらすことはなかった。
調はヨーヨーを縦横無尽に張り巡らし、器用に拳を受け止めている。
「ッ
力任せにワイヤーを引き抜き、後ろのミラアルク達ごと叩き物層とするも。
「――――背中ががら空きデスよ」
「アガァッ!?」
斬撃、二閃。
巨漢の背中が、交差する様に掻っ捌かれる。
――――拳を受けたその時。
咄嗟にアームドギアをダウンサイズすることで、うまく攻撃を回避していた切歌だった。
「ほっ、よっと!!」
痛みに藻掻く股下を、ごろんと転がって潜り抜けて。
その先で、アイコンタクト。
すぐさまヨーヨーが巨漢を拘束し、ワイヤーのたわみで吹き飛ばす。
「ウガアアアッ!!!」
人らしからぬ、ヘドロの様な緑の肌に青筋を浮かべて。
飛び出そうとした肩口に、ハンディサイズにまで小さくなった鎌が突き刺さって。
「んーっ!まっ!!」
先輩の一人を見習った、茶目っ気交じりのキスが両手で投げられた。
刹那。
閃光と、爆発音。
通路は再び煙で満たされた。
「やっ、たのか・・・・!?」
攻防を見守っていたミラアルクが、茫然と呟いたその時。
「ガアアアアアアアアッッッ!!!!」
怒りに満ち満ちた咆哮が、煙を吹き飛ばす。
手傷は負っているものの、まだまだ戦えそうな様を目の当たりにして。
『口に出すんじゃなかった』と、後悔した時だった。
《――――まあまあ、待ちたまえ》
ぴたりと、巨漢の動きが止まる。
「
《ああ、気持ちはよく分かるとも。だが、ここで退場するのはつまらなくないか?》
「うううううう・・・・うううううううううううう!!!」
何をするつもりだと、調と切歌は神経をとがらせて警戒する。
《我々にとって、今はまだ序章ですらない。今後とも君の腕っぷしをおおいに頼りたいところだし。ここは一度退いて、万全の態勢で本番に挑もうじゃないか》
「ぐううううう・・・・」
ほぼほぼ蹲るように俯いた巨漢は、やがてゆっくり顔を上げた。
憤怒に満ちた視線に見据えられて、得物を握る指に力が籠る。
「・・・・・
「あっ」
目の前で、これ見よがしに摘ままれるのはテレポートジェム。
「ま、待て!!」
声を張り上げたところで、止められるわけもなく。
「――――ずごくにおぢぉ、ふぁふにーう」
それだけを言い捨てて、巨漢は去っていったのだった。
『調ちゃん!切歌ちゃん!』
『二人とも、怪我は!?』
「な、ないデス!でも・・・・!」
『二人ともまずはご苦労、襲撃者を追い払っただけでもお手柄だ』
「は、はい!」
まんまと逃げられ、ふがいなさを感じていた調と切歌だったが。
弦十郎が労った通り、まずは撃退を素直に喜ぶことにしておく。
「・・・・切ちゃん、あいつ」
だが、それはそれとして引っかかることはあるのだ。
後始末である人命救助に乗り出そうとして、浮かない顔をする調に。
切歌も同じ表情で頷く。
「響さん、また大変なことになりそうデスよ・・・・」
他の装者と共に、同じく人命救助と応急手当をしている響を臨みながら。
そっとため息をついたのだった。
本編に入れ損ねたやつ。
軍人A「いた、無事か!?」
ミラアルク「軍人のおっちゃん!」
エルザ「面目次第もないであります・・・・」
軍人B「いいや、二人ともよくやってくれたよ。お陰で想定よりも被害が小さい」
軍人A「最初はどうなることかと思ったが、クールだったぜ!」
ミラアルク「へへへ、そこまで言われちゃ悪い気はしねぇな。あざまーす!」
エルザ「ガンス!恐縮であります!」