いつもありがとうございます。
XVの方針をちょっと修正していたら、前回からだいぶ時間が経ってしまいました。
でも多分こっちの方が面白くなるかも・・・・?
暦は十二月。
すっかり冷え込みが厳しい季節となった。
最近のニュースと言えば、『米中共同での月面有人探査』だろうか。
AXZ事変のあれこれで緊張状態になった国際情勢を何とか持ち直そうと、日本が仲介して実現したプロジェクトである。
なんとなく街頭モニターを見上げると。
握手しつつもにらみ合ってる米中首脳の間で、ニコニコ笑いながら手を添えてる日本の首相という。
なんともシュールな光景が流れていた。
笑顔の裏で何を思うのか・・・・お疲れ様です・・・・。
「響、どうしたの?」
「んー?何でもないよ、行こうか」
気を取り直して。
今日は、月末に迫ったクリスちゃんの誕生日プレゼントを買いに来ている。
あと、未来が珍しく体調が良好なのもあるので、デートも兼ねてね。
今のところ微熱もなさそうだ。
うんうん、良いことです。
「クリスちゃんのプレゼントもゲットできたし、どこか行こうか?」
「そうだねぇ・・・・せっかく久しぶりのお出かけだし、もうちょっと・・・・あ」
視線を巡らせた未来にならって、わたしも同じ方を見ると。
夜空に輝いている観覧車が。
「乗る?」
「乗る!」
意見一致、異論はなし!
早速向かおうとした視界に、見えたもの。
・・・・デートでテンション上がっているのも相まって、ちょっといたずら心が湧きあがる。
「未来さん未来さん」
「・・・・どうしたの?」
『そこ』を指さしながら、押さえきれない笑みを見せて。
「ちょーっと悪いことしませんか?」
◆ ◆ ◆
「おおー!綺麗!」
観覧車の中。
響と未来が乗ったゴンドラは、頂点付近まで上昇していた。
窓の外は、まるで宝石箱をひっくり返した様な景色だ。
ショッピングモールはもちろん、街並みの灯りも相まって。
キラキラと光り輝いている。
「うん、こういうのもいいね」
「ねー、ロマンチックだ」
響はそんな一種の贅沢である風景を眺めながら、手にしていたものを。
『白玉ぜんざい味』と銘打たれていたたい焼きを、一口頬張った。
通常に比べて甘めに炊かれたあんこの味もさることながら、もっちもちの白玉がアクセントを加えた一品。
響が舌鼓を打つ隣で、未来も無言で食べていた。
人間、味の良いものを口にすると語彙力が解ける。
これは万国共通の認識であると思う。
とはいえ、現実におけるほとんどの観覧車では飲食禁止なので。
良い子のみんなはマネしちゃだめだよ・・・・いや、ガチで。
「・・・・」
指三本分だけ開けられる窓を開けて、しれっと証拠隠滅を図りつつ。
響はちらりと隣を見やる。
未だゆっくり味わってたい焼きを食べている未来。
今日この日こそ、こうやって出かけられるほど回復しているが。
それでも、昨日はやっぱり微熱と倦怠感で臥せっていた。
健康、とは、言い難い状況である。
別に、看病は負担ではない。
病なんてものは、気を付けていてもどうしようもないものだ。
如何に健康に気を遣って生活していても、がんなどの大病を患うこともある。
ある種の博打とも言えるものであろう。
それに、未来の症状は比較的軽いものだ。
だから、そこまで重く見ていないというところもある。
・・・・しかし、それは響視点での話。
未来の立場から見れば、現状はどうだろうか。
この数か月で、彼女はすっかり謝るのが口癖になってしまった。
原因など言わずもがな、ずっと続いている不健康に参っているのだろう。
響はその度、気にしていない旨を告げているのだが。
最近は口に出さずとも、顔は陰るようになってしまった。
(しんどいんだろうな、きっと)
なかなか好転しない状況に、一番気を揉んでいるのは未来だろう。
それが、避けられたであろうと考えている事態なら、なおさらに。
(でもそれって、わたしにも言えることじゃない?)
そもそもとして、未来が体調不良の原因となる傷を負った現場には響もいて。
すでに負傷して動けない未来と、まだ動けた響とでは。
どちらが迅速に動くべきであったかは、明白で。
(けど、未来は真面目だから)
きっと、誰でもない自分の責任だと思っているのだろう。
だから、こんなに苦しんでいる。
(・・・・背負わせてくれても、いいのになぁ)
だって、響の体は。
幸運なことに健康体で、当然病人よりはずっと頑丈なわけで。
未来の体が冷えないように、そっと窓を閉めて。
たい焼きを食べ終えた未来を見つめながら、黄昏る。
(でも、きっと。背負わせてくれないんだろうな)
言ったところで、『響の方がたくさん背負っているから』と。
やんわり断られるビジョンが見えた。
やるせない気持ちを覚えながら、こちらを見てくる未来に微笑みかける響。
(・・・・・守らなきゃ、なぁ)
――――もう四年前になろうとしている、あの旅路で。
苦しんでいる姿を散々見せてしまったから。
だから、未来も意外と下手なのだ。
誰かに頼る、ということが。
他でもない立花響が、へたくそにしてしまったのだ。
故にこそ、覚悟を固める。
(幸せにしなきゃなぁ)
今度こそ、彼女が笑っていられるように。
二度と、笑顔が陰ることが無いように。
「響?どうしたの?」
「んー・・・・未来はすごいなって、しみじみしてた」
「なぁに、それ」
くすくすと笑う未来を、響は『真面目なんだけどなぁ』と言いながら抱き寄せる。
「・・・・すごいっていうなら、それは響の方だよ」
胸の中、一度俯いた未来は。
夜景に目を向けた。
「あの光の中には・・・・響が、今まで殺してしまった以上の命が煌めいている。一緒に戦ったから分かるの、『守る』っていうことがどれだけ難しいか」
向き直り、目線を合わせる。
見つめ返してくる琥珀を、『綺麗だな』と思いながら。
「どれほど取りこぼしても、どれほど辛くても、響は助けることをやめないし、諦めない・・・・本当に、すごいと思っている」
もう一つの癖になりつつある、困った笑みを浮かべる。
「うっかり怪我して、ずるずる風邪ひいてるわたしなんかとは――――」
唇が、塞がれた。
至近距離に迫った琥珀が、力強く輝いている。
「――――未来は」
言いかけて、一度つぐんで。
言い直す。
「――――未来だって、すごいよ」
抱き締められた未来の耳元に、響の声が寄せられる。
「わたしのは、結局のところ暴力でしかないんだ。使い方が大衆向けに変わっただけ」
反論も許さぬと、己の胸に未来の顔を埋めながら。
「叩いたり蹴ったりして敵を倒す以外にも、誰かを救う手段を持っている。それが人間の強みだと思っている」
「・・・・響」
落ち込みがちな恋人へ、贈り物を手渡すように。
「わたしは、戦えもしない未来に、何度も何度も助けられてきた」
落ち着いた声で、優しく言うのだ。
「未来は、未来が思っている以上に、すごいんだよ」
言いたいことを締めくくると。
それっきり、未来を腕に収めたまま黙りこくってしまった。
「・・・・・ぅ・・・・あ・・・・!?」
突然のべた褒めに、うれしいやら恥ずかしいやら。
顔を耳まで赤くしながら、それでも何か返事をしなければと。
響から微笑ましそうに見守られつつ、あうあうと呻いていた時だった。
どぉん、と。
背後で轟音。
続けてやってきた衝撃に、ゴンドラがゆらゆら揺れる。
「何!?」
揃ってそちらを見てみれば、まさに黒煙をもくもくと吐き出す豪華客船が見えた。
『響君!聞こえるか!?』
「聞こえるどころか現場からお送りしています!」
『ちょうどいい、各種関係部署から救助要請が届いている!未来君にも迎えを寄こすから、急行してくれ!!』
「はいッ!!」
力強く返事をすると同時に、やや回転が速くなる観覧車。
今乗っているお客を、手っ取り早く降ろしてしまおうという算段らしい。
急いでいる現在はとてもありがたいので、遠慮なく従う響と未来。
「――――お願いします!」
「ああ、そちらも気をつけてな」
降りてすぐに、出迎えのエージェントと合流。
一人に未来を預け、一人に追従して駆け出す響。
「響!気を付けてね!」
未来の声に、満面の笑みで振り返って投げキッスを送った響は。
勇み足を再開させる。
「こちらに、ギアを纏うにうってつけの、人目が少ない場所があるんです」
「はい!いつもありがとうございます!」
職員に労いの感謝を言いながら、表情を引き締める。
――――そんな、彼女に。
「――――」
誰とすれ違ったかなんて、気に掛ける余裕などなかったのだ。
「――――ああ、いよいよだな」
「どれほど待ち望んだことか・・・・!!」
いつぞや頂いたマシュマロの、『看病する側、される側の心情』ネタを拝借しております。
この場を借りて、贈り主様にお礼を述べさせていただきます。