チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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別名『最後なのを良いことにやりたい放題する』編。
スタートです!(白目)


最期の神話
ロスアラモスにて


「俺達の魂を、お前に託す」

 

「どうか、頼んだぞ」

 

「八島の野を、山を。守ってくれ」

 

「未来の為に、生きてくれ・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、任せろ」

 

「約束は、必ずや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカは、ロスアラモス研究所。

かつては人類最大の過ちとされた、名実ともに最凶の兵器が研究されていたという話もある研究機関。

現在は、聖遺物を始めとした異端技術を研究している。

どういうわけだかわたしとマリアさん、そして香子の三人は。

そんな施設に足を踏み入れていた。

 

「ふわぁ・・・・」

「なんかめっちゃ『秘密組織』ーって感じがするよね」

「う、うん」

 

香子がいっちゃん緊張しているので、少しでも気がまぎれるようちょくちょく話しかけている。

前の方では、マリアさんがこっちを見守ってくれていた。

と、

 

「Hey!sis!!」

 

溌溂とした声。

みんなでそっちを見ると、廊下の向こうから思った通りの女性が駆け寄ってくる。

 

「Hi!sis!!久しぶりね、シシー」

「マリアこそ久しぶり!活躍は聞いているわよ!」

 

まさにきゃっきゃうふふとばかりに再会を喜ぶ二人。

・・・・元F.I.S.のレセプターチルドレンというだけあって、割と仲がいいのは本当らしい。

あんなにはしゃいでるマリアさんというのも中々新鮮かも。

ひとしきりはしゃいだ彼女達は、こっちに向き合った。

 

「初めまして!私はセシリア・フォルティー、ここの研究員をやってるの!」

「あ、日本語・・・・」

 

お、日本語。

 

「櫻井理論の原本は、日本語で書かれているからねぇ。頑張って覚えたわ、世界でも屈指の難関言語」

 

ほへぇ、と呑気に感心するわたしの隣で、聞きなれた言語にほっとする香子。

すると、セシリアさんが歩み寄ってきて。

 

「あなたがキョウコさんね?今日は来てくれてありがとう」

「ぃ、いいえ!その、大事なことだって聞いたんで!」

「ふふふ、かわいい。ねえマリア、うちにくれない?」

「私が許しても、そこの保護者が許すかしらね」

 

香子の可愛さに気付くとは見る目がある。

でもわたしが許すかな!?

 

「冗談よ、安心して頂戴」

「は、はい!」

 

慣れた母国語にフレンドリーな態度で、香子の緊張はすっかり解けたらしい。

完全に落ち着いた表情をしている。

 

「それじゃあ、そろそろ本題に移らせてもらおうかしら」

 

セシリアさん的にも、今のやり取りは香子をリラックスさせるつもりでやったみたい。

人差し指をぴっと立てて、場を切り替えた。

 

「今回あなたに来てもらったのは、ある子達と・・・・そうね、あわよくば友人になってもらいたいの」

「友達、ですか?」

「ええ」

 

――――今や懐かしくなりつつあるルナアタック以来。

日本と米国の関係は、シンフォギア原作よりもそこそこ良好・・・・だと思う。

そんな彼らから『ちょーっと手伝ってくれない?』と連絡があったのが、だいたいひと月くらい前のこと。

アダム=ヴァイスハウプトを失って暴徒化したパヴァリア光明結社の残党達。

暴れる彼らの鎮圧に、各国は現在もなお尽力しているんだけど。

その中で、米国が制圧した研究施設の一つで、実験体となっていた若い娘さんを三人保護したらしい。

なんでも、半分怪物になってしまうほどに体をいじくられていたとか、何とか。

で、その内の一人がパヴァリアの元研究員だったので、異端技術の知識と引き換えに。

彼女達の『人間に戻りたい』という目的に協力するという取引をした。

ただ、それまではやっぱり半分怪物として過ごさなきゃいけないし、人間社会に出なきゃいけない時もあるだろう。

だけど、元研究員だったり、家族旅行中に誘拐されたという子はともかく。

小さい頃から組織に掴まって、拷問の様な扱いを受けていた子がいるそうな。

そんな『社会初心者』みたいな子を人間社会に出すのはちょっと・・・・ということで、ある程度人間慣れさせたいらしい。

聞くところに寄ると、みんな年頃の女の子だから『普通の生活』というものに憧れているのと。

元研究員から得られる異端技術の知識が有用なのもあって、出来る限り希望は叶えたいということだった。

あと、ほぼほぼ戦えない香子と接触させることで『ほら!こんなに弱い子が接触しても傷一つない!人間のコミュニティに出しても大丈夫でしょ!』と。

政府だったりロスアラモスだったりの偉い人達を、納得させる為でもあるらしい。

まあ、変な思惑がないならそういう下心は大歓迎ですよ?

 

「――――今日は、来てくれてありがとう」

 

と、これまでの経緯を思い出していると、話しかけられた。

ここはセシリアさんに案内された部屋。

わたしの隣には、褐色のお肌が艶めいてる美人さんこと『ヴァネッサ・ディオダディ』さんがいる。

うーん、エキゾチック。

 

「いえいえ、こちらこそ楽しい時間過ごさせて頂いてます」

「ふふふっ、どういたしまして」

 

ちなみに香子と楽しそうに話しているのは、目が綺麗な『ミラアルク・クランシュトウン』ちゃんと、犬耳が可愛い『エルザ・ベート』ちゃん。

二人とも、香子の手の中にある折り紙に目を輝かせている。

かわいい(確信)

 

「・・・・一時は、本当に何もかも諦めていたの。もう、人間には戻れないって」

 

気を取り直して。

そんな可愛い、『妹分だ』と言って憚らない二人を見守りながら。

ヴァネッサさんは目を細める。

 

「だけど、少しだけ安心したわ」

 

香子達の会話は、セシリアさんやマリアさんと言った通訳を通してのもの。

だけど、三人の笑い声は絶える様子がなさそうだ。

 

「あんな風に受け入れてもらえるのなら・・・・きっと、怪物のままでも大丈夫・・・・」

 

・・・・・人間に戻れないことに、コンプレックスを感じなくても済む、かぁ。

彼女達の望みである、人間に戻る研究は。

セシリアさん監修の元、主にヴァネッサさんが精力的に行っているという話だし。

何より人類でも初めての試みだ。

少なくとも現段階では、芳しいデータも取れていないだろうしねぇ。

プレッシャーもひとしおだろうなぁ。

 

「人間に戻れたら、何やりたいです?」

「そぉねぇ」

 

ありきたりな問いかけをしてみると、ヴァネッサさんは頬に手を当ててしばし考えてから。

 

「・・・・・まずは、両親を摘発したいかしら」

「おぅ、物騒」

「こちとら事故でこの体になったのに、一命とりとめた娘への第一声が『命惜しさに不完全に成り下がるとは、なんたる恥知らずだ』よ!?お姉さん怒ってもいいでしょ!?」

「そーれは怒っていいやつ、その時は手伝いますよ」

「うふふ、ありがとう。頼らせてもらおうかしら」

 

聞けば、実験事故で体の大半を損傷したヴァネッサさんは。

ファウストローブの技術を応用して、全身をサイボーグの様に改造することで生き延びたらしい。

ちょっと好奇心に負けて聞いてみたところ、ロケットパンチ出来るらしい*1

『素晴らしい』って口に出たし、内心スタンディングオベーションだったよね*2

 

「ガンス!こうでありますか!?」

「そうそう、それでここはね・・・・」

 

エルザちゃんに折り紙を教えている香子を見守りながら、改めて考える。

・・・・・これから世界は、もっと異端技術に触れていくだろう。

その過程で、それまで注目されなかったものが表に出てくることもあるかもしれない。

それが吉と出るのならまだいい。

でも、凶と出たら?それが火種となって、戦火になったら?

最近は、割とそんなことを考える。

けれど、ぐるぐるぐちゃぐちゃ思考を巡らせても。

結局は同じ結論に辿り着くんだ。

 

(少しでも、明るい未来にしなきゃな)

 

(少なくともわたしは、それを形成するファクターの一つなんだから)

 

願わくば。

せめて、目の前に溢れる笑顔が。

曇って、陰って、消えることがありませんように。

*1
マリアさんに思いっきりはたかれた、正直すまんかったと思ってる

*2
でもそれはそれとして、ビバ!ロマン!




セシリア・フォルティー
元レセプターチルドレン。
聖遺物には適合できなかったものの、地頭がよかったので研究者としてナスターシャに教育されていた。
F.I.S.解体後はその知識を活用し、ナスターシャの後継としてロスアラモスに勤務している。
現在、ヴァネッサ達三人の後見人として、『別存在を人間にする研究』に取り組む。
性格は明るく溌溂、よくニコニコ笑っている。

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