チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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今回で小ネタは終了です。


閑話:小ネタ18

『実質大怪獣バトル』

 

カァン、と。

杖の柄が打ち鳴らされる。

瞬間、空中に所狭しと展開される錬成陣達。

火、水、風、土、色とりどりの光が瞬いて。

それぞれの属性を吐き出す。

雨あられと降り注ぐ『礫』の中を、彼は臆することなく走り出す。

『礫』を迎撃しながら一気に距離を詰めてきた彼は、握りしめた拳を唸らせた。

衝突、轟音。

鋼をも砕く一撃は、一瞬で展開された障壁に阻まれていた。

 

「――――ッ」

 

杖がぐるりと回転する。

描いた軌跡が、再び陣を張る。

至近距離の爆発。

あろうことか、彼はそれにすら果敢に拳を向ける。

八極拳の技術『発剄』を叩き込むことで、衝撃を無力化してしまった。

 

「ふ・・・・」

 

怯まず杖を振るう。

足元に氷を纏わせ、スケートの様に滑走。

拳の叩きつけが、容赦なくそれを追いかける。

肉薄されたところで、ぐっとかがんで溜めて。

思いっきりサマーソルトを放った。

まさしくスケート靴のように凍てついた足先から、文字通り冷たい斬撃が飛ぶ。

構わず刃面をぶっ叩く彼に引きながら、前面を薙ぐように杖を振れば。

岩が隆起して、二の足を踏ませた。

その隙を逃さず、杖を向ける。

岩壁の一部が鋭利に尖り、更に枝分かれして彼に迫る。

常人なら速攻で貫かれて、千々に裂けるところだが。

 

「雄ォッ!!」

 

大声、一喝。

腹から発せられた声は衝撃波を伴って、棘もろとも岩壁を破砕する。

相手のハチャメチャ具合にやっぱり引きながら、彼女は臆せず次の術を行使。

重力で彼の足を鈍らせて、再び柄を鳴らす。

重ねる様に展開したのは、炎と風の陣。

今度は杖の先端、音叉の様な部分を。

見た目の通り鳴らして共鳴させれば。

まさしく追い風を受けた炎が、紅蓮の大蛇となって彼に襲い掛かった。

マーチングの指揮棒の様に杖を振れば、意思を持って動く大蛇。

彼は拳で虚空を打ち、空気弾を発生させて迎え撃つ。

激しくうねり、彼を飲み込まんとする炎と、次々打ち出され迎撃する拳。

やがて大蛇が崩れ、視界が炎でいっぱいになる。

熱気から思わず目を庇う中、業火の中心から飛び出してくる彼が見えた。

 

「・・・・ッ」

「・・・・」

 

――――静止、する。

貫かんと指先をそろえられた貫手が、喉元に突き付けられている。

しかし、周囲は数多の陣に包囲されていて。

 

「――――引き分け、だな」

「ええ、異論はないわ」

 

弦十郎と了子は、互いに息を吐いたり、かぶりを振ったりして。

試合を終了したのだった。

なお、外野では、

 

(・・・・『ちょっと運動』ってレベルでやることじゃないよね、アレ)

「了子先生すごい!!杖がぐるーんって!でっかい蛇がぐあーって!!」

「ああ、うん。そうだね」

「わたしもなれるかな!?」

「そーれは香子の努力次第かなぁ・・・・」

 

キラッキラな目を向ける妹に、複雑な感情を抱く姉の姿があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『母想う』

 

――――翼が持つ母との記憶は、父とのそれよりも希薄だ。

覚えているのは、笑みを浮かべる口元と、優しく慈しんでくれる手のひら。

『離婚』の概念すらまだ知らない幼い日に、一度姿を消した彼女は。

数年後、再会したときに。

ぞっとするほど冷たい眼差しを向けて、言い放ったのだ。

 

『鬼を産んだ覚えはありません』

 

父と、同じ。

突き放す言葉を。

・・・・父は。

八紘のそれは、あの暗く血腥い防人の一族から、逃がすための言葉だった。

確かに傷つきはしたが、今はそれも彼の愛だったことがよく分かる。

だが、母は。

果たして、愛してくれていただろうか?

産んでくれたことは感謝している、赤子の自分を世話してくれたことも感謝している。

――――それでも。

夫でもない下郎に操を奪われ、望まぬ子どもを産まされ。

散々っぱら、無惨で、恐ろしくて、屈辱的な思いをさせられて。

欠片も望んだ覚えのない小娘なぞ、心から愛することが出来たのだろうか。

曲がりなりにも同じ女の身。

母が受けた辱めが、どれほど惨いものであったか。

全く理解出来ないわけではない。

だから、恨まれても仕方がないと思っている。

・・・・ただ。

もしも、許されるのなら。

一度だけで、いいから。

 

(私の歌に、耳を傾けていただけないだろうか)

 

褒める必要はない、感想もいらない。

ただ、耳をふさがずにいてくれたのなら。

それだけで、少しは報われる気がするのだ。

己が鬼となっていないことを、確かめられそうなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さいしょのしんわ』

 

むかしむかし、このよがこんとんだったころ。

かみさまたちがあつまって、せかいをつくろうとしていました。

しかし、どだいになる『だいち』がどうしてもうまくできません。

いきなりつまづいたかみさまたちは、こまったこまったとあたまをかかえました。

するとそこへ、ひとりのめがみがすすみでました。

 

「わたしのいのちをつかって、『だいち』をつくってみましょう」

 

かみさまたちはさすがにとめましたが、どりょくむなしく。

めがみはからだをよこたえました。

すると、どうでしょう。

どうがんばってもかたまらなかったこんとんが、みるみるかたまって。

りっぱな『だいち』をうみだしました。

ですが、とうといいのちがうしなわれたことにかわりはありません。

 

「ああ、ねえさま。そんな・・・・!」

 

とくにかなしんだのは、めがみのいもうとでした。

だいちにおおいかぶさり、わんわんとなきだすいもうとのめがみ。

やがて、だいちをあますことなくほうようせんと、こころとからだをちりばめて。

ほしぞらとなったのでした。

のこされたかみさまたちは、しんでしまっためがみのしまいにもうしわけなくおもいながら。

せめてさみしくならないようにと、できあがったせかいにたくさんのいきものたちをうみだしました。

それからです。

このせかいに、いろんなしゅるいのいきものたちがくらすようになったのは。




次回、ついにXV・・・・!!

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