『実質大怪獣バトル』
カァン、と。
杖の柄が打ち鳴らされる。
瞬間、空中に所狭しと展開される錬成陣達。
火、水、風、土、色とりどりの光が瞬いて。
それぞれの属性を吐き出す。
雨あられと降り注ぐ『礫』の中を、彼は臆することなく走り出す。
『礫』を迎撃しながら一気に距離を詰めてきた彼は、握りしめた拳を唸らせた。
衝突、轟音。
鋼をも砕く一撃は、一瞬で展開された障壁に阻まれていた。
「――――ッ」
杖がぐるりと回転する。
描いた軌跡が、再び陣を張る。
至近距離の爆発。
あろうことか、彼はそれにすら果敢に拳を向ける。
八極拳の技術『発剄』を叩き込むことで、衝撃を無力化してしまった。
「ふ・・・・」
怯まず杖を振るう。
足元に氷を纏わせ、スケートの様に滑走。
拳の叩きつけが、容赦なくそれを追いかける。
肉薄されたところで、ぐっとかがんで溜めて。
思いっきりサマーソルトを放った。
まさしくスケート靴のように凍てついた足先から、文字通り冷たい斬撃が飛ぶ。
構わず刃面をぶっ叩く彼に引きながら、前面を薙ぐように杖を振れば。
岩が隆起して、二の足を踏ませた。
その隙を逃さず、杖を向ける。
岩壁の一部が鋭利に尖り、更に枝分かれして彼に迫る。
常人なら速攻で貫かれて、千々に裂けるところだが。
「雄ォッ!!」
大声、一喝。
腹から発せられた声は衝撃波を伴って、棘もろとも岩壁を破砕する。
相手のハチャメチャ具合にやっぱり引きながら、彼女は臆せず次の術を行使。
重力で彼の足を鈍らせて、再び柄を鳴らす。
重ねる様に展開したのは、炎と風の陣。
今度は杖の先端、音叉の様な部分を。
見た目の通り鳴らして共鳴させれば。
まさしく追い風を受けた炎が、紅蓮の大蛇となって彼に襲い掛かった。
マーチングの指揮棒の様に杖を振れば、意思を持って動く大蛇。
彼は拳で虚空を打ち、空気弾を発生させて迎え撃つ。
激しくうねり、彼を飲み込まんとする炎と、次々打ち出され迎撃する拳。
やがて大蛇が崩れ、視界が炎でいっぱいになる。
熱気から思わず目を庇う中、業火の中心から飛び出してくる彼が見えた。
「・・・・ッ」
「・・・・」
――――静止、する。
貫かんと指先をそろえられた貫手が、喉元に突き付けられている。
しかし、周囲は数多の陣に包囲されていて。
「――――引き分け、だな」
「ええ、異論はないわ」
弦十郎と了子は、互いに息を吐いたり、かぶりを振ったりして。
試合を終了したのだった。
なお、外野では、
(・・・・『ちょっと運動』ってレベルでやることじゃないよね、アレ)
「了子先生すごい!!杖がぐるーんって!でっかい蛇がぐあーって!!」
「ああ、うん。そうだね」
「わたしもなれるかな!?」
「そーれは香子の努力次第かなぁ・・・・」
キラッキラな目を向ける妹に、複雑な感情を抱く姉の姿があったとかなかったとか。
『母想う』
――――翼が持つ母との記憶は、父とのそれよりも希薄だ。
覚えているのは、笑みを浮かべる口元と、優しく慈しんでくれる手のひら。
『離婚』の概念すらまだ知らない幼い日に、一度姿を消した彼女は。
数年後、再会したときに。
ぞっとするほど冷たい眼差しを向けて、言い放ったのだ。
『鬼を産んだ覚えはありません』
父と、同じ。
突き放す言葉を。
・・・・父は。
八紘のそれは、あの暗く血腥い防人の一族から、逃がすための言葉だった。
確かに傷つきはしたが、今はそれも彼の愛だったことがよく分かる。
だが、母は。
果たして、愛してくれていただろうか?
産んでくれたことは感謝している、赤子の自分を世話してくれたことも感謝している。
――――それでも。
夫でもない下郎に操を奪われ、望まぬ子どもを産まされ。
散々っぱら、無惨で、恐ろしくて、屈辱的な思いをさせられて。
欠片も望んだ覚えのない小娘なぞ、心から愛することが出来たのだろうか。
曲がりなりにも同じ女の身。
母が受けた辱めが、どれほど惨いものであったか。
全く理解出来ないわけではない。
だから、恨まれても仕方がないと思っている。
・・・・ただ。
もしも、許されるのなら。
一度だけで、いいから。
(私の歌に、耳を傾けていただけないだろうか)
褒める必要はない、感想もいらない。
ただ、耳をふさがずにいてくれたのなら。
それだけで、少しは報われる気がするのだ。
己が鬼となっていないことを、確かめられそうなのだ。
『さいしょのしんわ』
むかしむかし、このよがこんとんだったころ。
かみさまたちがあつまって、せかいをつくろうとしていました。
しかし、どだいになる『だいち』がどうしてもうまくできません。
いきなりつまづいたかみさまたちは、こまったこまったとあたまをかかえました。
するとそこへ、ひとりのめがみがすすみでました。
「わたしのいのちをつかって、『だいち』をつくってみましょう」
かみさまたちはさすがにとめましたが、どりょくむなしく。
めがみはからだをよこたえました。
すると、どうでしょう。
どうがんばってもかたまらなかったこんとんが、みるみるかたまって。
りっぱな『だいち』をうみだしました。
ですが、とうといいのちがうしなわれたことにかわりはありません。
「ああ、ねえさま。そんな・・・・!」
とくにかなしんだのは、めがみのいもうとでした。
だいちにおおいかぶさり、わんわんとなきだすいもうとのめがみ。
やがて、だいちをあますことなくほうようせんと、こころとからだをちりばめて。
ほしぞらとなったのでした。
のこされたかみさまたちは、しんでしまっためがみのしまいにもうしわけなくおもいながら。
せめてさみしくならないようにと、できあがったせかいにたくさんのいきものたちをうみだしました。
それからです。
このせかいに、いろんなしゅるいのいきものたちがくらすようになったのは。
次回、ついにXV・・・・!!