チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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閑話:393のバースデー

『暗雲』

 

「お邪魔しまーす」

「いらっしゃい、みんな」

 

今日は11月7日、未来の誕生日である。

というわけで、例の如くパーティをやることになった。

 

「一足先に。誕生日おめでとう、ヒナ」

「おめでとうございます、小日向さん」

「ありがとう」

 

弓美達いつもの三人が響達の自宅を訪れると、出迎えたのは未来一人。

 

「響は?」

「何か用事があるみたいで、出かけてるの」

「まあ」

 

てっきり響が奥にいるものと思っていたのだが、どこかに出かけているらしい。

 

「代わりに、準備はだいたい終わらせていったけど」

「ぅわほんとだ」

 

リビングを見渡せば、よく見る紙製の鎖や花で綺麗に飾られている。

未来も手伝おうとしたものの、『今日の主役だから』とやんわり止められてしまったそうな。

 

「料理もほぼほぼ終わってる感じ?」

「うん、下ごしらえも終わらせちゃって。あとは本調理だけって」

「ビッキー、気合入れてるねぇー」

 

この頃の未来が、病気がちであることを加味しても。

だいぶ過保護だ。

 

「じゃあ、残りはあたしらで終わらせちゃおうか」

「うん、ありがとう」

 

元々、響もそれを想定してあれこれ済ませて行ったらしかった。

 

「立花さんが何しに行ったか分かりますか?」

 

四人でキッチンに立ち、調味料に漬け込んであった食材や、鍋料理の具材などに手を付ける傍らで。

詩織がふと、至極当然の疑問を口にした。

 

「何も聞いてないけど、多分プレゼントじゃないかなぁ。ここのところ忙しそうにしてて、時間取れないって言ってたから」

「おぉー、いいね。何をくれるのかな」

「うん、楽しみ」

 

ひとしきり笑い合った、その時だった。

テーブルの上で、未来のスマホが着信を知らせる。

 

「なんだろう?出てくるね」

「んー」

「――――はい、もしもし」

 

一度調理の手を止め、通話ボタンを押す。

話し始めた未来の様子を見ながら、響からだろうかと考えていると。

 

「え、警察?」

「ん?」

「えっ?」

 

一気に不穏になってきた会話に、各々も思わず手を止める。

 

「嘘、響が交通事故!?」

「「「・・・・えええええええ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒュヒュッ♪ヒュヒュッ♪ヒュヒュッヒュッ♪』

 

――――始まりは、坂道を降りていた主婦が。

我が子が乗ったベビーカーを、うっかり手放してしまったことから始まった。

連日の夜泣きでふらふらの状態で、重たい買い物袋を持っていたがために。

計らずともバランスを崩してしまったのが原因らしい。

幸い、ベビーカーが長距離進まなかったことと、赤ん坊はしっかり固定されていたこと。

ぶつかったのが、積まれていた空段ボールがクッションになったことが重なって。

赤ん坊は軽傷で済んだらしい。

が、ベビーカーがぶつかったことで倒れた段ボールが、道路に散乱して。

ちょうど通りがかった車が、急に飛び出してきたそれに驚いて急ハンドルを切った。

コントロールを失って軽い暴走状態になった車は、未来の誕生日プレゼントを持って歩いていた響に一直線。

気付いた響は、車がガードレールにぶつかって止まるのを見越して、ボンネットに飛び乗るつもりで跳躍。

激突は見事回避したのだが、肝心の着地を失敗。

それでもプレゼントだけは死守しようと思いっきり投擲した響は、背後の川に落ちてしまったということだった。

 

「教育番組の絡繰の様だな・・・・」

「ご心配をおかけしまして・・・・」

 

ちょうど仕事で日本に来ていた翼。

顔を出す時間くらいは確保出来そうだったので、響達の家にお邪魔したところ。

『警察から電話が来た』と動転している未来達と鉢合わせた。

響の両親も未来の両親も遠方にいる。

そこで保護者代理が出来る成人として、(ちゃんと変装して)響を引き取りに来た翼なのだった。

連絡の来た警察署に来てみれば、発端となった主婦とその夫が。

響と、車の持ち主である中年男性に、平謝りしている姿を見つけて。

今に至る。

 

「大事はないんだな?」

「はい、着水したときもいい姿勢取れてたみたいで。濡れた以外は特に何も」

「ならばいいのだが・・・・」

 

警察署でシャワーや着替えを貸してもらえたらしく。

困ったように笑う響は、ラッピングされたプレゼントの他に。

濡れた服が入った袋を持っていた。

 

「無事で何よりだが、小日向には謝っておけ。駆けつけた時の狼狽ぶりときたら、痛々しいにも程があったぞ」

「はい、そうします」

 

――――ちなみに。

実はブラック企業に悩まされていた、主婦の旦那さん。

同じく実は中小企業の社長だった中年男性にヘッドハンディングされ、無事に『脱ブラック』出来たそうな。

 

「有休があって、フレックスも使えて、男でも育休を取れるなんて!夢みたいだ!!」

「俺はパソコンがダメだからなぁ、『しすてむえんじにあ』が居てくれると助かるよ」

「一生ついていきますうぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッピバースデートゥーユー♪』

 

「ったく!どーなることかと思ったよ!」

「ごーめんって!」

 

帰るなり、駆けつけていたクリスにアイアンクローをくらう響。

クリスも響の本意ではないのは分かっていたので、すぐに解放されたが。

 

「響」

「未来!ごめんね、心配させて」

「ううん、いいの。よかった・・・・何もなくてよかった・・・・!」

 

今度は胸に飛び込んできた未来を、よしよしと頭を撫でてあやす。

 

「まったく、アニメみたいなことに巻きこまれちゃってさ」

「弓美ちゃんもごめーん、未来のことありがとうね」

「いーってことよ」

 

謝罪もそこそこに、ひとしきり無事を喜び合ったあと。

場を切り替えるべく、『それで』と切り出したのは創世。

 

「ビッキー、ヒナになにあげるの?」

「おっと、そうだった」

 

腕に収めていた未来を一度解放して、プレゼントを開ける響。

騒動の所為で少しぼろぼろになったものの、おしゃれ感を失わないラッピングから取り出されたのは。

まっさらなリボン。

 

「未来、髪がそこそこ伸びてきたでしょ?またリボンつけてるの見たいなって思って」

 

確かに。

9月の激闘の最中でばっさりと切られてしまった未来の髪は、現在結べるくらいには長さが戻っている。

 

「正直、自己満足なのは否めないんだけども」

「・・・・ううん、そんなことないよ」

 

元々あったリボンは、髪共々焼けてしまっている。

アイデンティティの様に思っていたアイテムが無くなって、どこか寂しそうに見えることもあった。

実際、今まで結えていた髪が結えないという状況は。

未来にとって、なかなか落ち着かないところがあったのだ。

『自己満足』と響は苦笑いするが。

欠けていたものが戻ってきたような感覚は、本心から嬉しく思う。

 

「ね、結んでもらったら?」

「そう、だね。お願いしてもいい?」

「いいよ、どんな髪型がいいですかー?」

 

弓美の言葉にそれぞれ頷けば。

するりと、未来の髪に響の指が差し入れられる。

今まで通りの、一つ結びを言いかけて、ふと。

いつか遭遇した、並行世界を思い出して。

 

「・・・・ハーフアップって、出来る?」

「お、いいね!似合うやつ!」

 

返事するなり、鼻歌交じりに未来の髪をいじりだす響。

昔から香子の髪を結んでいるだけあって、とても手慣れている。

 

「出来たよ」

 

あっと言う間に出来上がった髪型。

気を利かせた詩織が、鏡を持ってきてくれる。

 

「誕生日おめでとう、未来。すっごくかわいいよ」

 

鏡越しに、響が笑いかけてきて。

未来も同じように、笑顔を浮かべた。




もう一話小話を書いたら、XV行きます。

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