チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

182 / 199
先日は日刊ランキングにて、総合48位二次創作32位を頂きました。
日頃よりのご愛顧、誠にありがとうございます。
これからも『チョイワルビッキーと一途な393』を、どうぞよろしくお願いいたします。


閑話:小ネタ17

『ピンポイント』

 

「うーーーーーーーん・・・・」

 

ここは港町の小学校。

語学教育がすっかり定着した昨今では、英語に限らず様々な国の言語に触れる学習が多い。

本日六年生の『言語学』は、まさにそれをテーマにしたグループ学習が行われていた。

『くじ引きで当てた単語の、各国の表現を。最低五つ調べて発表する様に』

そんな課題の下、香子達も机と頭をくっつけ合っていたのだが・・・・。

 

「各国の『ごちそうさま』を調べなさいって、またニッチなお題を引いたね」

「今日ほど己のくじ運を呪う日はないだろうな・・・・うごご・・・・」

 

『こんにちは』や『ありがとう』ならまだしも、想像がつきにくい単語となると。

スマホを封じられている小学生には、少々ハードルが高い。

教師の方も、図書室から本を借りてきてくれたり、私物のノートパソコンを貸し出してくれたりと。

手詰まりにならないよう工夫はしてくれているものの。

本は獲物に集るピラニアの様に他のグループに掻っ攫われ、パソコンも長蛇の列が出来てしまっている。

出遅れてしまった香子のグループは、早々に手持無沙汰となってしまっていた。

 

「香子ちゃん、お姉さんが外国語得意だよね?何か知らない?」

「うーん、お姉ちゃんはともかく、わたしは大して知らないなぁ」

 

席替えで、運よく隣同士となった友人に聞かれたものの。

香子自身、出来るような手助けは特に思いつかなかった。

 

「そっかぁー・・・・」

「ごめんね」

 

『いいんだよ』と言ってくる友人に、香子は困った笑顔を浮かべて。

 

「『愛してる』なら、八種類くらいいけるんだけど」

「逆になんでそれだけ知ってるの!?」

 

――――その後。

話を聞きつけた別のグループに、『手伝うから手伝って!!』と頼み込まれたこともあり。

無事に課題をクリア出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『らーぶラーブLooooove!!』

 

「――――Je t'aime.」

 

それが始まったのは、ある日の昼下がりだった。

ソファに座った響の足の間に、挟まるようにしてもたれかかっていた未来は。

上から降ってきた言葉に、視線を上げる。

 

「――――Je t'aime à la folie.」

 

どこか愛おしそうに見つめてくる響の目に、未来もまた同じ目を向けて。

返事をする。

響はころころ笑ってから、未来の顔に手を添える。

 

「Ti amo.」

「我爱你」

 

未来も深く寄りかかって、頬に添えられた手を握り返した。

 

「Te quiero.」

「사랑해」

 

交わされる、様々な言語。

文字が違う、発音も違う、生まれた背景も違う。

そんな言葉達に共通しているのは、交わし合う彼女達が如実に表している。

 

「ふふふっ、Ich liebe dich.」

「Я люблю тебя」

 

あらん限りの語彙で、抱いただけの感情を。

思い切り相手に伝えあえば。

やがて溢れ出した愛情は、行動として表現される。

 

「んっ」

「は、む」

 

響は思い切りかがんで、未来は顎を上げて。

唇を交わし合う。

一つ、二つ。

ついばむ様に、はむ様に。

時折リップを鳴らしてから。

一度、呼吸を確保するために離れる。

上下だけでは物足りなくなり、体勢を変えようとする未来。

その前に響がソファから降りて、すっかり腕の中に収めてしまった。

再び数回キスを繰り返すと、たまらないとばかりに抱きしめる。

 

「・・・・I love you.」

「うん、愛してる」

 

互いの耳元に、囁き合う。

・・・・どちらともなく、内緒話をするように笑い合って。

再三、唇を近づけようとして。

どん!と。

壁が叩かれる音。

 

「よォーッ!邪魔してるぜーッ!!」

「はわわ・・・・」

 

――――今日、遊ぶ約束をしていたクリスと。

いつもの如く泊りに来ていた香子が。

顔を真っ赤にして突っ立っていた。

 

「ぉ、おつかい終わったよ!」

「人を使い走りにしといて、いい御身分だなぁ?ええ?」

「いや、ごめんて」

「二人ともありがとう、おかえりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『切望』

 

――――その日、響が自宅に帰れたのは。

時計の針が、どちらも頂点を過ぎてからだった。

パヴァリア光明結社の残党処理。

アダムという抑止力を失った分、凶暴になった類の連中が。

夜中になってもなお元気に暴れ回ったために、夜分遅くになってしまった。

クリスや調に切歌といった学生組のフォローもあって、連日激務に追われていた響は。

とてつもなく疲労困憊だった。

そんな一瞬も気を抜けない任務の中でも、ずっと気がかりだったのは。

やっぱり未来のこと。

弓美達が世話を焼いてくれていたらしいので、一人ではないにせよ。

限られた時間だけ許された、メッセージアプリでのやり取りからは。

だいぶ寂しがっているのが見て取れた。

 

(明日は休みにしてもらえたし、未来に寂しい思いさせなくて済みそう)

 

なんて考えながら、リビングに入ると。

ソファの上で、何か動くもの。

暗闇の中、目を凝らしながらそっと覗き込むと。

未来が、何も羽織らないまま蹲って眠っている。

 

(なんでここに!?)

 

いつからそうしていたのか、どうしてベッドで寝ていないのか、風邪をひいてしまう。

一瞬で駆け巡った、いろんな心配事は。

手元のスマホが見えたことで、なんとなく心当たりを生んだ。

帰る直前(といっても十時間も前だが)に、『もうすぐ帰れそうだ』とメッセージを送った。

その直後に新たな残党が現れて、こんなにも遅い時間になってしまったのだが。

 

「・・・・自業自得じゃん」

 

ぽつりと、零れる。

己への落胆が。

深く息を吐き出してから、荷物を置いて。

未来を、そっと抱き上げた。

額同士をくっつけてみれば、最近いつも通りになってきた微熱。

先に寝ていてもよかったのに、体調不良を承知で待ってくれていた恋人を。

響は静かにベッドへ運ぶ。

繊細な品物を扱うように横たえさせて、そっと毛布を掛けると。

規則正しい寝息が一瞬乱れて、目蓋が揺れる。

 

「・・・・ん」

 

まどろんだ瞳が、こちらを見た。

まさに寝ぼけ眼とも言うべき、焦点の定まっていない目が。

ふにゃ、と、綻んで。

 

「ぉかぇいぃ・・・・」

「・・・・うん、ただいま」

 

舌足らずの『おかえり』に、不意打ちとも言うべきかわいさを叩きつけてきて。

思わず、胸を押さえた。

伸ばされた手を握れば、再び夢の中に旅立ってしまう未来。

心なしか、先ほどよりも幸せそうな寝顔をしている。

 

(・・・・・かわいいな、愛しいな、尊いな)

 

破顔を押さえられず、握った手に頬を擦り付ける。

この寝顔を守るために戦っていると言っても過言ではない。

叶うなら、ずっと隣にいられるのが一番だ。

だって、こんなに可愛い人を他の誰かに寄こすだなんて。

どうして出来ようか。

・・・・だけど。

 

――――生きて

 

過ぎるのは、あの姿。

戦いに身を置き続けたがために起きる、もしもの未来(みらい)

未来(みく)のためなら死んだって構わない。

それは紛れもない本心で、今でも変わらない決意だ。

だけど、そのままを貫きすぎてしまえば。

 

(・・・・・君を、無責任に・・・・あんな悲しい未来に、追い込むのだとしたら・・・・)

 

未来が穏やかに寝息を立てる横で、響は沈痛な顔で沈んで。

 

「・・・・・しにたくない」

 

吐き出した願いは、叶わないような気がして。

夜に乗じて静かに現れた恐怖が、心臓を冷やした。




あと1、2話小話を上げるかもしれません。
XVまで意外と遠いぞ・・・・。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。