旧年、読者の皆様におかれましては、温かい声援を以て大変お世話になり。
何を語ろうとも陳腐になるほどの感謝を抱いております。
これからもどうぞ、拙作『チョイワルビッキーと一途な393』を。
よろしくお願いいたします。
――――さすがに少し落ち着いてきた。
全身に力を漲らせながら、クリスちゃんのミサイルなう。
エクスドライブとは違うけれど、これもまた限定解除の形なんだろう。
派手さはないけど、明らかに出力が上がっている。
とはいえ、無理をさせてしまっているのは間違いないだろう。
今この瞬間もギアが軋んで悲鳴を上げている。
決着は早いに越したことはない・・・・!!
「ッ貴様らあああああああああああ――――ッッッ!!!!!」
おっと、アダムが動いた。
手元の瓦礫をひっつかむと、豪快にぶん投げてくる。
調ちゃんと切歌ちゃんの方に飛んで行ったけど、なんと二人はミサイルをぶん回して迎え撃った。
すっご・・・・。
自由落下していく二人を援護するべく、翼さんが『蒼ノ一閃』で牽制。
マリアさんも短剣を雨あられと降らせてアダムの邪魔をする。
ちくちくと刺さる刃物に苛立つ背後へ、迫るはクリスちゃん。
気が付いて振り向いた横っ面に、乗っていたミサイルも含めた銃火器をぶっこんでいく。
ひゃー!相変わらずの硝煙パラダイス!!
男の子ってこういうのが好きなんでしょー!?
「よっと!!」
わたしもまずはミサイルをぶつけてやる。
炎と煙に巻かれるアダムだけどさすがボス、負けじと錬金術を放ってくる。
それらを足場にしながら接近して、顔を殴り飛ばす。
離脱ついでに反撃を回避すると、入れ替わるように切歌ちゃんが躍り出た。
「デーッス!!!」
アダムを絡めとる拘束具。
わたしが遮蔽物になったから、反応が遅れたらしい。
『ざまみろ!』と思ったところで、切歌ちゃんの『断殺・邪刃ウォttKKK』が叩き込まれた。
寸でのところで拘束から脱出の上、避けられてしまったけれど。
首元が深く傷ついたのが見える。
「やあああああああッ!!」
すかさず反対側に駆けつけた調ちゃんが、同じく首元を斬りつけようとするけど。
これはさすがに対応されてしまった。
すぐに反応して振り回された腕。
直撃こそしなかったものの、風圧に煽られて飛ばされてしまう。
幸い、切歌ちゃんが駆けつけたので心配はいらなさそうだ。
「消えろオォッ!!」
おっと、こちらの反撃を生意気に感じたらしい。
アダムは両腕にエネルギーを溜めると、こっちに向かってぶっ放してきた。
ドラゴ〇ボールの某野菜王子みたいだなと思っていると、翼さんがビームの真正面に立ちふさがって。
「
上段からの、縦一閃。
ごん太ビームは見事、真っ二つに両断されてしまった。
お見事!
飛び散った流れ弾も、マリアさんが対処している。
「ッシンフォギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
アダムの咆哮に、空気が揺さぶられる。
すごい威圧感・・・・モ〇ハンとかよく見る光景って、実際はこんな感じなんだろうな。
なんにせよ・・・・。
「一筋縄でいくと思うなよッ!!」
衝動のままに、両手を打ち合わせる。
手甲が合体して、ひと振りの槍に変化した。
◆ ◆ ◆
「――――ぁ、れは」
――――『それ』が顕現した瞬間。
全てが支配された。
現場の敵と味方はもちろん、モニターで戦況を見守っていた面々すらも。
逆らい難い存在と、威厳と、恐怖を放っていた。
見た目は『槍』だと判別できる。
奏とはまた違うデザインの、蒼炎が揺れる一振り。
決定的に違うのは、目にした時に抱く感情だ。
視線を奪われるなんてものじゃない。
『簒奪』か、『略奪』か、それとも『強奪』だろうか。
そんな暴力的な注視を強要される。
「あれ、は・・・・何だ・・・・!?」
あの弦十郎ですら、明らかな怯みと狼狽を見せる始末なのである。
S.O.N.G.スタッフ達が、歯の根をがちがちと震わせるのも無理はないことだった。
(ど、うして)
同じく視線を釘付けにされていた了子は、また別の驚愕と動揺を抱いていた。
だって、覚えがあったからだ。
この絶対的な恐怖と、被支配感に。
(どうしてッ・・・・!?)
確信を持った瞬間、足元の気配が強くなったのは。
今この瞬間に強く意識したからか。
――――あるいは、こちらが感づいたことを察知されたのか。
『ッうおおおおおおおおおおお!!!』
「ひいぃッ・・・・!」
轟く雄叫びに、とうとう誰かの悲鳴が上がる。
響は、味方であるはずの戦姫や銃後をも威圧してしまいながら。
同じく恐怖に立ち竦んで動けないアダムへ、突撃。
肉薄しようとして。
『ぐ、あ・・・・!?』
その進撃を、突如止めてしまう。
濁ったオーラに包まれながら体制を崩し、自由落下を始める響。
全てを支配していた威圧も消えて失せ、各々がどっと息を吐いたり、呼吸を取り戻したりしていた。
「ッぁ、そ、そうか!響さんはまだ、反動汚染の除去が・・・・!!」
「・・・・・なるほど、それで」
喉まで出かけた『助かった』を飲み込みながら、了子は苦い顔をする。
◆ ◆ ◆
「ぐあぁッ!!!」
いっっっっっっっっでぇ・・・・!!!
『わたしもぶちかますぞー!』と意気込んだのがいけなかったのか、ギアが突然不調を起こして。
地面に激突してしまった。
めちゃくちゃ痛ぇ・・・・絶対どっか折れただろこれ。
ここはどこかのアリーナか、あるいはコンサート会場だったりするのかな・・・・。
すまんな、大穴開けて・・・・。
「――――フ」
屋内の反対側。
わたしと向き合う形でアダムが降り立つ。
くそ、攻撃が来る。
立て、立て!
立って、あいつの野望を断て!
ここで寝転んでいる時間なんてないぞ!
なんて焦っているこっちなんてお構いなしに、アダムはぶるぶる震えたかと思うと。
「フアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッ!!!!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!ハハハハハッ!!!!」
こっちまでびりつくような大爆笑。
え、めっちゃ笑うやん。
「嗚呼ッ!!嗚呼ッ!!嗚呼ッ!!」
ハイテンションのまま、顔面をバリバリ掻き毟りもしてしまう。
いや、こわ。
何?
何してんのあなた?????
「言うのかッ!!無駄だとッ!!言うのかッ!!無意味だとッ!!」
多分血液まみれの顔面が、両手で隠される。
だけど、指の間からは爛々と光る眼が覗いていて。
何が何だかよく分からないけど、とにかくブチ切れているというのだけは伝わってきた。
「どこまでもッ!!どこまでもッ!!どこまでもッ!!・・・・・どこまでえェッ!!」
そのまま地団太まで踏み始めるもんだから、こっちは立ち上がるどころの話じゃない。
とにかく地面にしがみついてやりすごしつつ、相手からは視線を外さないようにする。
「アヌンナキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!」
・・・・・なんだか。
ただの地団太っていうより、足元にあるものというか。
この星か、あるいは世界のそのものに当たっている様にも見えた。
思えば、あいつもなかなか可哀そうなやつだよな・・・・。
産まれてすぐに『いらない』って捨てられて、見返すために死に物狂いで頑張ってきたんだろう。
それが今、全部ぶち壊されそうになっているんだ。
そりゃやけにもなるか・・・・。
――――んでも。
それはそれ、これはこれ。
同情はしても、容赦はしない。
負けられない理由なら、勝たなきゃいけない理由なら。
こっちにだってある。
事実、あいつの所為で犠牲が山と出てるんだ。
止めるんだ、ここで。
確実に・・・・!
「・・・・ここまでだよ、神殺し」
癇癪を終えたアダムが、とうとうこちらを捉えた。
あの嘴どころか全身を開いて、チャージを始める。
やべぇ、言われずとも分かる。
とんでもねぇビームが来る!
だけど、くそ。
立ち上がれたはいいけど、今になって気が付いた。
ギアがうんともすんとも反応しねぇ・・・・!!
心なしか、色落ちしてモノトーンになってるし。
くぅッ、ごめんガングニール。
君、もう限界やったんやな・・・・!
「立花ァッ!!!」
万事休すかと思ったところへ、翼さんの声。
とうとう放たれたビームから、思わず視線を逸らして見れば。
みんながギアのエネルギーを飛ばしてくれている。
・・・・ガングニール。
あと一歩だけでいい。
頑張ろう!!
「はあぁッ!!」
受け取ると同時に、ビームが着弾。
・・・・一瞬だけ、意識が飛んでしまったけれど。
「フフフフフ・・・・アッハハハハハハハ・・・・!!」
笑ってるとこ悪いね、アダム。
こっちが一手早かったぞ!!
「何・・・・!?」
アガートラームのバリアに驚いているらしい。
ふふふ、これだけだと思うなよ!!
「借りますッ!」
アメノハバキリの蒼ノ一閃に、切歌ちゃんの呪りeッTぉ。
指を落として生まれた分身は、シュルシャガナの禁月輪で次々切り捨てていく!
なんでみんなの技を使えてるかって!?
いや・・・・知らん・・・・こわ・・・・。
あ、あの、ほら!
あれだよ!
ガングニールが頑張ってくれてるんだよ!
みんなにエネルギーもらったし、なんかこう、うまいことやってくれてるんだよ!
「いいてもんじゃないぞ!ハチャメチャするも!」
「うわッ!?」
なんてアホなこと考えていたからか、アダムにまんまと掴まってしまった。
そのまま握りつぶそうと力を込めてくる。
ぐえーッ!苦しーッ!
「吹っ飛ばせ!アーマーパージだ!!」
「ッはあああ!」
クリスちゃんの声が、打開策へ導いてくれた。
ギアを解き放ってアダムの指を吹き飛ばす。
そのまま腕に飛び乗って、駆け抜ける。
「無理させてごめん、あとちょっとだけお願い・・・・!」
アダムが、また捕えようと手を伸ばしてくる。
こちらは丸腰、ガングニールが答えてくれるとも限らない。
だとしてもッ!!
こちらの戦意が揺らぐことなど、有り得ないッッ!!
例えギアを纏えずともッ!みんながくれた手助けをッ!
この拳に、この一撃に!!!
わたしのッッ!全てと共にッッ!!
――――ようやく借りを返せるワケだッ!
――――利子付けてッ!熨斗付けてッ!
声が、聞こえる。
――――支配に反逆する革命の咆哮をッ!ここにッ!
「balwiシャル・・・・!ネスケェル、ガングニールッ・・・・!」
歩く道は違っても、同じ方向を向いている人達が。
背中を押してくれているッ!!
「トロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!」
燃える魂のままに、ギアを掲げれば。
――――ひびき
そっと、手が添えられたのが見えた。
「うあああああッ!!!」
掴んできた手を、弾き飛ばせば。
全身に、黄金の輝きが寄り添ってくれていた。
「黄金錬成だと!?錬金術師でもない者がァーッ!!」
指が縄の様に伸びてくる。
体を翻し、時には足場にしながら。
アダムの懐へ飛び込んで。
「うぉあ"あ"あ"ッ!!!」
まずは、一発。
続けて、二発。
反撃の隙を与えず三発。
四、十、千、万、億ッッッッ!!!
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」
喉がつぶれるくらいに雄叫んで。
叩き込む、叩き込む、叩き込む。
叩き込むッッ!!!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッッ」
『やれやれだぜ』な御大にッッ!!捧げつつッッ!!!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッッッ!!!!!!!」
胴体がべっこべこになろうとッッッ!!勢いのあまり宙に浮かぼうともッッッ!!
例えッッッ!!!泣いて謝ってもッッッ!!!!
この拳を止めることだけはッッッッ!!!!有り得ないと心得ろオオオォッ!!!!!
「オオオオオオオオオラアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!」
天井をぶち抜く!
天高く放り上げる!
無防備になったど真ん中に、最後の一撃を抉りこむウッ!!!!
「はああああああああああああッッ!!!」
始めは拳を当てた時、次は腕のバンカーで。
二重のインパクトでッ!!ありったけをッッ!!ぶち込むッッッッ!!!!
「――――砕かれたのさ、希望は今日に」
勢いあまって貫き通り過ぎた後ろで、アダムの体が罅割れていく。
「絶望しろ、明日に・・・・未来にッッ!!!」
嗤う目が、こちらを捉えて。
「精々足掻け、『尖兵』ッ!ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
――――そんな言葉を最後に。
爆発四散した。
「――――全ては、想定」
「全て、そうでなければならん」