チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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映画で火が付いたので、ポケモンに現を抜かしてました(懺悔)


今は九月では!?

「――――は」

 

ホワイトアウトして、一体どれくらい気絶していたんだろう。

重怠さを無視して一気に起き上がると、同じく意識を回復しているらしい切歌ちゃんとサンジェルマンさんが見えた。

・・・・・何が。

何があったんだ?

あれが攻撃だとして、サンジェルマンさんごとっていうのが気にかかる。

仲間割れ?それともここに来て第三勢力?

イグナイトも解除されてしまった状態で、体を立ち上げると。

上空に何か見えて。

 

「お目覚めだね。早いよ、意外と」

 

え、誰?

あっ、いや、思い出した!あれだ!

長野の全裸ーマン!!

服着てるから一瞬分からなかった!

 

「統制局長、何を・・・・!?」

 

隣でサンジェルマンさんも立ち上がる。

そりゃあ、まさか背後から撃たれるとは思わ・・・・いや、割と後ろから撃ちそうな雰囲気だよな全裸ーマン。

 

「好機だからさ、錬成の。地上だけじゃないんだよ、レイラインは・・・・!」

 

そんなアダムの横には、ものすごそうな光に包まれているティキがいた。

っていうか、お空のレイラインとか塞ぎようがないもん使うとか反則じゃないい!?

ズルだよ!ズルズルズル!!

何より!!

 

「まさか、天上のオリオン座を門に見立てて・・・・!?」

 

ゥ オ リ オ ン 座 ァ ッ ッ ッ ッ ッ !!!!!!

お前お前お前!!!!今九月だぞオオォン!!!?

なんでいるの!?なんでさも当然の様に空にいるの!?

アレかい?アダムになんぞ弱味でも握られてるのかい!?

だから残暑の夜空に現れたのかい!?

 

「ッ統制局長!!」

 

テンパってボケとる隣で、意を決して口を開くサンジェルマンさん。

 

「その力で、人類の解放は出来るのですか!?」

 

多分、わたしと同じ。

言いようのない不安を感じたのだろう。

対するアダムは、なんだか意地の悪い笑みを浮かべて。

 

「出来る・・・・んじゃないかなぁ」

 

やっぱり思った通りの意地悪な回答をしたのだった。

サンジェルマンさんは、奥歯をかみしめているみたい。

・・・・数千年単位の悲願が、成就するかしないかというところで裏切られたんだもんな。

そりゃ、ショックか。

 

「せっかくだ、行こうじゃないか。試し撃ちと」

 

げっ、いかん。

しんみりしとる場合じゃない!

レイラインのエネルギーを受け、ギラギラ輝いているティキ。

素人目で見ても、まだ不完全だと言うことや、『ヤババのバ』というのが手に取るように分かる。

・・・・めっちゃまずい。

わたしは右手が使えない。

切歌ちゃんも片足がダメになってて、すぐに逃げられない!

サンジェルマンさんつれてくのもちょっと無理そう。

でも相手は待ってくれない。

ああ、極光が。

わたし達の頭上に顕現して・・・・!

・・・・・否、否、否!!!

泣き言抜かしてる場合じゃない!!

逃げろ、逃げろ、逃げろ!!

 

「立花響!?」

 

自分の怪我も、ダメージも、何もかも考えるな!!

今は!生きてッ!逃げ延びろ!!

――――その、刹那のことだった。

 

「切歌ちゃ――――」

 

足を穿たれて、動けないはずのあの子が。

切歌ちゃんが、入れ替わるように飛び出して行って。

 

「――――Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

その歌を以て、極光に立ち向かった。

 

「Emustolonzen fine el zizzl!!」

 

最初に閃光、次に衝撃。

そして最後に轟音が轟いた。

エネルギーとエネルギーのぶつかり合い。

プラズマが幾筋も走って、バリバリと空気を引き裂き暴れ回る。

 

「――――あたしはッ」

 

音が大きすぎて、いっそ無音にも思える中。

切歌ちゃんの絞り出すような声が聞こえる。

 

「あたしは確かにお気楽で、何にも気負っていないお調子者デスッ!」

 

目の前で、イガリマが砕けていく。

 

「だけど!一人くらい空っぽな奴がいなきゃ!いざというときに、重荷を背負えないじゃないデスか!!」

 

やっと体が動いて、飛び出そうとしたけど。

その時にはもう、全てが終わっていた。

――――これが、一分にも満たない出来事だって。

誰が信じられるだろうか。

 

「――――切歌ちゃん!!!!!」

 

木の葉の様に、ふわっと落ちてくる切歌ちゃんを。

何とか受け止める。

ぼろぼろの右腕が更に砕けたけど、些末なことだ。

呼吸はある、鼓動もある。

だけど、どうみても死に体だ。

 

「切歌ちゃん、しっかり!聞こえてる!?」

「・・・・響さん」

 

大声で話しかけると、呻きながら名前を呼ばれた。

 

「あたし、自分の、ホントの誕生日知らなくて」

「・・・・うん」

「だから、誰かの誕生日は、ちゃんとお祝いしたくて」

「・・・・うん」

 

本当は、こんなことしてる場合じゃないんだと分かっている。

でも、今はこうしなきゃ。

何か、大切なものを取りこぼす気がした。

 

「明日は、響さんの誕生日だから・・・・だから、心置きなく、いっぱい祝福したいデス・・・・した、かったデス・・・・」

「・・・・うん」

 

そっと、切歌ちゃんの頭に手を当てる。

 

「ありがとう、お疲れ様・・・・・後は、任せて」

「・・・・はい」

 

抱えて、一度離脱。

戦闘に巻きこまないとか無理だから、味方が回収しやすい位置にそっと横たえさせる。

それから、もう一度サンジェルマンさんの隣に戻った。

っていうか。

 

「帰らないんですね」

「そういうお前も、逃げていいのだぞ」

「じょーだん」

 

肩をすくめて、夜空を見上げる。

・・・・そうだ、逃げるわけにはいかない。

例え一人になったって、例え片腕がダメになってたって。

この後ろに、守るものがある限り。

一歩も通すわけにはいかない・・・・!!

 

「・・・・私の願いは、人類を支配から解放すること。他者を虐げ、踏みにじる理不尽を終わらせること」

 

だから、と。

見上げた瞳は、きっと同じ輝きを放っていて。

 

「例え、理想が遠のくのだとしても、私は支配を許容するわけにはいかない!」

「いいですね、さしずめ『支配者殺し』といったところですか」

 

反骨精神、ジャイアントキリング、窮鼠猫を噛む。

どれも、これも。

大歓迎だ!

 

「・・・・極まりないね、無謀が。言うのか、挑もうと、『(かみ)』へ!!」

「『(かみ)』ならくちゃくちゃに千切って吹雪になるか、折り込んでお花にでもなるのがお似合いだよ」

「統制局長・・・・いや、アダム!貴様の願望、打ち砕かせてもらうッ!!」

 

と、ここで。

サンジェルマンさんが、錬金術を発動。

使えなくなった右腕が、あっという間に回復した。

あざーっす!

 

「――――お手並み拝見だ、シンフォギア」

「――――上等だよ、ファウストローブ」

 

右腕をグーパーして見せて、一緒の方向を向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

――――ついに顕現しつつある『神の力』。

まさに『神々しい』とも言うべきその輝きは、美しくもあり、同時に畏ろしくもある。

運よくサンジェルマンがこちら側についてくれたが、いまだ絶望的な状況に変わりはない。

未来、切歌と、立て続いた味方の戦線離脱(リタイア)

ダインスレイフのユニゾンによる反動汚染は遅々として進まず、切り札に成り得る『神殺し』の手掛かりも依然掴めていない。

S.O.N.G.に集められたスタッフ達は、ありとあらゆる分野のエキスパート。

泣き言を言う銃後ではない、嘆き塞ぐ銃後ではない。

ましてや、役立たずであるなどと、到底見当違いだ。

しかし、これだけは、こればっかりは。

己の無力を、至らなさを。

呪わずにはいられない・・・・!

 

「ッ挫けるな!」

 

飲み込みそうになった絶望を払ったのは、弦十郎の檄。

 

「指令室はこのまま戦闘管制を続行!調査部も、随時結果を報告しろ!どんな些細な手掛かりでも構わん!何が何でも突破口を見つけ出せ!!」

 

防人の一族だからではない、人類最後の砦を任されているからではない。

彼を突き動かす信念は、常に一つ。

 

「最前線で戦っているのは俺達じゃない!響君だ!日本はおろか、外国の成人年齢にすら到達していない!本来なら守らなければならない少女だッ!!」

 

スタッフ達の折れかけていた心が、我に返る。

絶望に濁った視界が、晴れ渡る。

 

「故にッ!!大人の我々が先に折れるようなことは!絶望に屈することは!あってはならん!!!鉄火場でなくとも、死力を尽くせェッ!!!!!」

 

轟、と発せられた一喝を受けて。

もう、臆している者などいなかった。

 

(――――信じている、見届ける)

 

モニターを睨み、見据える弦十郎。

その噛み締めた口元には、血が滲んでいる。

 

(だから、もう少しだけ耐えてくれ・・・・!)

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

す、スピー〇ワゴン!

いや!今そんな場合じゃないんだけど!あの!

アダムが帽子を飛ばしてきて、それがめちゃくちゃ切れ味良くて・・・・!

もう『我々はあの武器を知っているッッ!その担い手の男を知っているッッ!!』みたいな状態だ。

でも、あっちだって万全かといえばそうじゃない。

そもそもわたし達二人程度、松代で見せた理不尽火力であっという間に消し炭に出来るのに。

今回中々してこない。

それに対して、サンジェルマンさんがこう煽ったのだ。

『お得意の黄金錬成はどうなさったんです?』と。

要するに、相手は今、魔力を大きく消費した状態らしい。

いや、それでも一般人をペットボトルにするなら、アダムはダムクラスの容量があるんだろうけどな。

・・・・・アダムはダム。

いや、何でもないです。

 

「うぉっと」

 

サマーソルトして、凶悪帽子を回避。

ついでに刃も投げて牽制しつつ、アダムの懐に潜り込む。

拳、一閃。

体の内側で爆発するように打ち込めば、面白いくらいに吹っ飛んでいくアダム。

・・・・・・うーん、やっぱり気のせいじゃないよなぁ。

アダムを殴った時の手ごたえが、明らかに人間じゃない。

むしろこれ・・・・。

 

「・・・・ッ」

「ッ、何を・・・・!?」

 

ちょっと思い立って、アダムに飛びつく。

そのまま腕を手に取って後ろに持っていき、レバーを押すように下げてやれば。

ゴギっと、鈍い音。

普通なら、折れた骨が飛び出たり、千切れた血管から派手に出血したりするだろう。

だけど、アダムの腕からは。

生き物の骨の代わりに鉄骨が、飛び散るのは血液ではなく火花。

垂れ下がるは肉の筋ではなく、色とりどりのコード。

 

「そ、れは・・・・!?」

 

・・・・驚いた。

了子さんとかみたいな、長生きタイプだとは思っていたけど。

まさかそのパターンだったとは。

へぇ、数千年前にサイボーグがいたんやねぇ。

 

「・・・・まさか、オートスコアラー?」

 

呆然と、サンジェルマンさんが呟いた途端。

アダムの雰囲気が一気に変わった。

その場が、とんでもない威圧感に押しつぶされた。

 

「――――人形だと?この僕が?」

 

奴の怒りという怒りが凝縮されているような声が絞り出される。

黒々とした輝きの瞳で、爛々とこっちを見つめてくる顔を見て。

『ああ、やべぇ』と、嫌な汗が流れた時だった。

 

「人形だとおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?」

 

どう、と。

アダムの全身から魔力があふれ出して、嵐の様に吹き荒れる。

吹き飛ばされそうになる中、暴風から目をかばいながら前を見る。

一度地面から足が離れてしまったけど、何とか着地。

どうしたもんかと、アダムにばかり気を取られていたから。

 

「・・・・よくも」

 

すぐ傍らで進んでいた儀式に、気付かなかった。

 

「よくもッ!アダムを痛くしたなあああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」

 

まったく別の方向からの、怒気。

見上げると、ティキとやらがめちゃめちゃ輝いていて・・・・。

・・・・・嘘やん。

神様降臨って、こんなに早く終わるものなの!?

 

「消えちゃええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

おそらく顔っぽい部分で、さっきの何倍もの光が収束していく。

出来あがあった『玉』は小さいものだけど、凝縮した分威力が倍増しているのは分かっていて。

逃げるか、防ぐか。

決めあぐねたコンマ一秒、足を止めている間に。

サンジェルマンさんが間に入ってきた。




調べてみたところ、九月でもオリオン座は出なくもないらしいですね。
ただ、明け方の東の空に出るそうなので、AXZ本編で見られた様な夜空のど真ん中には出てこれないはずなんですが・・・・。
ふしぎ(あたまのわるいかお)

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