パソコンを新調したので、普段と違う書式になってたり、誤字脱字が多かったりするかもしれません。
言うだけあって、神主さんのキッシュはめっちゃおいしかった。
いやぁ、ごちそうさまでした。
「・・・・お前、あんまり食ってなかったのか」
息抜きも兼ねているからか、そのままお泊りすることになった夜。
お布団を敷いていると、クリスちゃんが話しかけてきた。
「なんで?」
「いやなんでって、お前・・・・めちゃくちゃがっついてたじゃねぇか」
「確かに、いっぱい食べるにしても今日は段違いだったデス」
ああー・・・・。
久しぶりの独りじゃないごはんだったとはいえ、人様の家で無遠慮だったなぁ。
「・・・・ったく、しっかりしろよな」
「いやぁ、あはは。お恥ずかしい・・・・」
こっちの事情を察してくれたのか、それ以上は言ってこなかった。
・・・・おなかも満たされたから、今夜はぐっすり眠れそうだ。
お布団をかぶって、目をつむる。
◆ ◆ ◆
しばらく見ない間に。
ずいぶん大きくなっていたのだなと。
見当違いなことを考える。
熱気に炙られ急激に乾いていく目を、細めることで庇いながら。
「ぐ・・・・う・・・・!」
目の前で倒れ伏す彼女を見下ろした。
「・・・・・な、んで」
精も根も尽き果てて、もはや気力だけで動いた彼女は。
片手でこと切れた相棒を、もう片手で愛用の杖を搔き抱きながら。
対照的にこちらを見上げる。
「・・・・どおして・・・・未来ちゃんッ・・・・!!」
問いかける声と顔は、悲痛を隠しきれていない。
「どうしてッ、全部焼却しようだなんてッ!?」
慟哭が、灼熱の中を響き渡る。
茹だる様な中、一呼吸分質問の意味を考えて。
出てきた答えは、『なんだ、そんなことか』という拍子抜けだった。
いや、この子の疑問ももっともではある。
ずっと
どうしてこんな、鏖殺を超えた鏖殺をやらかすのかだなんて。
信じられないのだろう。
「――――だって」
だから、伝えた。
ありのままの感情を。
「この世界には、響がいないもの」
目が、見開かれていくのが見える。
構わず続ける。
「何度世界が救われたって、何度巨悪が打ち倒されたって。そのあとの平和な時間には、全部響がいないから」
そうだ。
あの人を追い込んで、あの人を散々汚して、終いには死なせまでして。
そうしてあさましく生き続けている下女が自分だ。
『あなたを許す』と嘯きながら、呑気に全てを背負わせて。
そして自分の罪に気付くのは、何もかも間に合わなくなった後なのだ。
だから、取り戻そうとした。
S.O.N.G.には資料が揃っており、信用の積み重ねが幸いして閲覧も容易だった。
錬金術を始めとした、土台となる知識は。
あっという間に備えられた。
まずは死霊術に手を出した、響の魂は応えてくれなかった。
次にホムンクルスを使った蘇生を試みた、出来たのは生物ですらない『肉』だった。
死後の世界に渡って、直接連れ戻そうとした。
実行する直前に、
――――もはや。
残された方法は、一つだけだった。
「だから全部薪にするの、全部やりなおすの」
過去に戻る。
あの子に起こった辛いことを、全てなかったことにするために。
「・・・・そ、んな」
よろよろと、首が横に振られる。
「それ、は・・・・『それ』、が・・・・何を意味するのか、分かっているの?どういうことか、分かってやっているの・・・・!?」
「分かっているよ」
そうだ、分かっている。
これがどれほど道を外れたことで、これがどれほど最低な選択肢なのか。
分かっている。
分かったうえで、やっている。
それは、ひとえに。
「全部、響のためだから。だから、躊躇わない」
「――――違う!!!!!」
死に体のどこから、そんな大声が出たのか。
業火を振り払うような一喝が、轟く。
「違う、違う、違う!!お姉ちゃんはッ、そんなことの為に死んだんじゃない!そんなことの為に、命を懸けたんじゃない!」
感情昂るあの子の、杖を握る手元が震える。
「未来ちゃんに、こんなことやらせる為に救ったんじゃないッッ!!!」
ぎらつく目元が、まっすぐ射貫いてくる。
「なのにッ!その未来ちゃんがこんなことしてちゃッ・・・・お姉ちゃんは・・・・何のために死んだのさァッ!!?」
その根底にあるものは、願いだ。
やめてくれ、止まってくれ。
そんな、眩いまでの、星のような輝きが。
確かに存在を主張していて。
――――だけど。
「それでも」
もう、引き返さない。
こっちにだって、譲れないものがある。
「響がいない世界なんて、なんの価値もないもの」
叫びを見て、『声』を聴き続けて。
救われるべきだった響が、報われるべきだった響が。
あの子が望んだ陽だまりの中で、ただただ穏やかに笑っていられる世界。
これは、そのための一歩。
ずっとずっとずっと、苦しんだまま死んでしまったあの子への。
私が出来る、たった一つの贖罪。
強く、強く。
信じたところで。
「贖罪?」
――――声がする。
「自己満足の間違いでしょ?」
頭が、真っ白になった中で。
あの子が、杖を支えに立ち上がったのが分かる。
多分、初めて見る。
激情に満ちた面立ちで。
音叉の様な切っ先を向けて。
声が、重なる。
「はッ・・・・はッ・・・・はッ・・・・はッ・・・・!」
――――あまりにも。
あまりにも、質が悪すぎる。
夢の様で、その実夢ではないと、根拠のない確信を持ち始めた光景を見始めてから。
一番最悪な目覚めだった。
何とも言えぬ不安に駆り立てられるがまま、周囲をきょろきょろしていると。
日中受け取ったマスコットが目に入った。
「――――ッ!」
半ばひっつかむように手にして、抱きしめれば。
徐々に呼吸が落ち着いてくる。
「はあ・・・・はあ・・・・はあッ・・・・!」
それでも振り払えない恐怖は、胸を侵し続けて。
「・・・・・響・・・・キョウちゃん・・・・」
あの光景に、関わりのある二人の名前が。
弱々しく零れ落ちた。
◆ ◆ ◆
「――――」
夜更け、調神社。
中々眠れずにいた調は、布団から起き上がると。
眠っている他の面々を背に、部屋を出る。
廊下に立つと、まだまだ夏の気配が残る空気が漂っていた。
月明かりの下、出てみた境内で星空を見上げる。
考えるのは、やはり『絆のユニゾン』について。
先日の出撃では、ついにマリアとクリスが見事成功し。
カリオストロを撃退するという戦果を挙げた。
代償として、反動汚染により後方待機を余儀なくされたものの。
確かな結果を残したのは大きい。
それにくらべて、自分はどうだろうか。
マリアどころか、切歌も順調にユニゾンを成功させていっているのに。
自分だけが思うような成果を出せない。
・・・・理由は分かっている。
二人にあって、自分にないもの。
それは、人と打ち解けようとする意志。
他人に歩み寄り、分かりあおうとする心。
(マリアは社交的だし、切ちゃんは人懐っこい・・・・だけどわたしは、誰かと分かり合うのが怖い)
このままではダメだと、頭では分かっている。
自分は立ち止まっている状態だと、頭では分かっている。
しかし、足掻けば足搔くほど、もがけばもがくほど。
前進するどころか、むしろ悪くなる一方だ。
特に先日なんか、緒川が忍者でなければ大変な事故になっているところだった。
「どうして、上手くいかないんだろう・・・・」
こぼした言葉が、暗闇に溶け込み消えていく。
調の顔が、夜に負けないくらい陰った時だった。
「眠れませんか?」
話しかけてきたのは、神主だ。
昼間と変わらぬ、穏やかな笑みをたたえて。
彼はゆっくりと歩み寄ってきた。
「私の娘も、眠れないがあるときはそうしていたものです。今のあなたのように」
「・・・・神社ジョークですか?」
「お、よく分かりましたね。そうです、神社ジョークです」
茶目っ気たっぷりに笑う神主につられて、調も思わず笑みがこぼれる。
「何かお悩みですか?」
「・・・・はい」
こっくり頷いた調を見つめる彼は、なお息女のことを思い出しているのだろうか。
まなざしは、心地よい温もりを含んでいる。
「お仲間のみなさんにも、話せないことなのでしょうか」
「・・・・多分、自分で答えを見つけなきゃいけないと思います。でも」
でも、中々見えてこない。
平時ならいざ知らず、今は有事。
こんなことで時間を潰している場合ではないのに。
なのに。
口をつぐんで、考え込む調。
「でしたら」
そんな彼女の横顔へ、神主は指を立てて提案する。
「神様に打ち明けてみるのはいかがでしょう?」
「・・・・かみ、さま?」
思いがけない提案に、きょとんとオウム返しする。
調の表情が面白かったのか、神主はくすりと笑みをこぼして。
手のひらで、ちょうど見えていた拝殿を指し示す。
「神社とは、必ずしも頼み事をする場所ではないんです」
「そうなんですか?」
目を見開く調を静かに導きながら、神主は解説を始める。
――――そも、神社とは。
願望を託すだけの場所にあらず。
常日ごろから見守ってくださることへ、感謝を捧げるのはもちろん。
悩み事を打ち明け、『精進します』と宣言する場でもあるという。
遥か高位の存在に見られているのだという意識を持つことで。
己の行動を戒め、少しでもよりよい方へ向かおうと努力するための。
『心の足掛かり』にする為の場所なのだ。
「簡単に答えを求めるのではなく、己の力で光を見つけようとする。素晴らしいことです」
まずは調の心構えをそう肯定して、神主が続ける。
「ですが、時には誰かに打ち明けることで糸口が見えてくることも、往々にしてあるのですよ」
目の前には賽銭箱と、大きな鈴がついた縄。
海外暮らしが長い調もよく知っている、スタンダードな神社の拝殿だ。
「どうでしょう?今宵はこの爺の甘言に乗せられて、一つお参りしてみませんか?」
ここまで誘導されて微笑まれてしまえば、しないわけにはいかないだろう。
作法を口頭と実践で教えてもらって、調もやってみる。
まずは二度頭を下げ、続けて二拍手。
束の間、相談事を胸中で告げてから、もう一度二礼した。
「・・・・お参りの、ご感想は?」
「・・・・少し、面倒くさい。本当にこれで解決できるかどうかも怪しい」
「ふふふ、素直な反応。結構です」
正直すぎる感想だったが、それすらも大らかに受け止める神主。
余裕ある有様は、さすが老年というところか。
「でも、ただ鈴を鳴らすだけじゃないんですね」
「もちろんです。人間同士だって、始めは『初めまして』という挨拶からでしょう?前置きが長すぎるのも考え物ですが、だからと言って省くのも問題です。初対面同士であるのなら、特に」
なるほど、確かに。
調だって、初対面の人に『じゃあこれやっといてね』なんて雑に依頼された日には、むっとなる自信がある。
せめて『初めまして』から、何かしらの概要くらいは説明してほしいものである。
つまりこの面倒くさい所作は、神様への『初めまして』を表しているのだ。
納得した調の隣で、神主は拝殿を見つめている。
(・・・・願いをかなえるんじゃなくて、見守ってくれる場所)
倣って拝殿を見上げた調は、小さく息を吐く。
(ちゃんと見守ってもらえるのかな・・・・そんな価値、わたしにあるのかな)
お参りする前の心持に、戻りかけたときだった。
「――――月読、ここにいたか!」
「おや、どうかなさいましたか?」
駆け寄ってきたのは、慌てた様子の翼。
元からよく似合っていた和装も、心なしかくたびれているように見える。
「パヴァリア光明結社が動いた」
「・・・・ッ!」
ぎゅ、と。
思考が引き締まるのを感じる。
「まずは私とお前で行くぞ。相手は高速で移動している、機動力に長けた我々が適任だ」
「は、はいッ!」
神主と、それから拝殿にもなんとなく一礼して。
調は翼と飛び出していく。
その二人の背中を、神主はのんびり手を振って見送った。
ネカフェばんじゃい!(独り言)