チョイワル「たっだいまー!これ皆さんにお土産でーす!!」
技術班A「おかえりー!ありがとー響ちゃーん!」
技術班B「コトブキマフィン?美味そうだなぁ」
技術班C「知ってる!最近話題のお菓子だよね?」
技術班D「どっちかというと、有名なのはイモモチでは?」
技術班E「何でもいいや、お茶にしよーぜ」
技術班一同「「「「さんせー!」」」」
――――心が折れそうになる度、
「逃げるんだ?」
声が聞こえる。
「わたしは逃げさせてくれなかった癖に」
壁に挫けそうになる度、
「諦めるの?」
声が聞こえる。
「わたしは諦めさせてもらえなかったのに」
張り詰めた心が綻ぶ度、
「楽しそうだね」
声が聞こえる。
「わたしを差し置いてさ」
・・・・年月が重なる度。
「未来ばかりずるいなぁ」
あの人の誕生日がくる度。
「わたしも生きていたかったなぁ」
声が、聞こえる。
(わかっている、だいじょうぶ)
必死に繋ぎ留める度、忘れないようにする度。
(あなたを忘れたことは、一度もないもの)
強く、強く、愛を募らせる度。
「――――嘘つき」
あなたの。
「真っ先に忘れたわたしの声を、自分の妄想で補ってる癖に」
こえが。
――――嘘じゃないよ。
本当に好きなんだよ。
ずっとずっとずっと、この愛が途切れたことはないの。
だけど。
ねえ、ひびき。
かなうならば。
もういちどだけ。
◆ ◆ ◆
「みーくちゃん!」
「ああ、キョウちゃん」
都内の病院、未来の病室
ひょっこり顔を出した香子を、未来は相変わらず弱弱しい笑みで迎え入れた。
「いらっしゃい」
「えへへ、また来ちゃった」
その笑顔に、どうにも出来ないやるせなさを覚えるが。
今日は一味違うのよという意気込みで、香子はベッド脇の椅子に座る。
「今日もS.O.N.G.に?」
「うん。でね、さっそく渡すものがあるんだけど・・・・」
「うん?」
言うなり、おもむろにバッグを弄る香子。
未来の見守る視線が少しこそばゆかったが、何とか平静を保って取り出した。
「これは、響?」
「見た目はね、これお守りなんだ」
「お守り」
差し出された、マスコットサイズのぬいぐるみを見て。
オウム返しした未来は、首をかしげる。
「あのね。未来ちゃんの怪我、呪いのせいで中々治らないって聞いて」
そんな未来の様子に、香子は待ってましたとばかりに話し始めた。
「それで、お雛様みたいな人形って、呪いの身代わりもすることになるって教えてもらったから。今の未来ちゃんにぴったりじゃないかって思って、了子先生に習いながら作ったの」
「じゃあ、本当にご利益があるんだ」
「うん!」
香子が錬金術を習っているらしいというのは、響から聞いていたが。
まさか、その成果を直接見ることになるとは思っていなかった未来は。
ただただ感心するばかりだ。
「本当は本人に似せる方がいいらしんだけど。未来ちゃんなら、お姉ちゃんの方が守ってくれそうだなって」
「ふふ、そうね」
二頭身にデフォルメされ、ニコニコと笑うぬいぐるみの響を。
そっと胸に寄せてみる。
・・・・いつまでも完治しない不安が、確かに和らぐようだった。
「ありがとう、すごくうれしいよ」
「どーいたしまして!」
お礼を伝えれば、香子もまた、ぬいぐるみにも姉にも似た顔で笑ってくれて。
そうやって、響を思わせるものを何度も目にした所為か。
今はどうしているのだろうと思いを馳せた。
◆ ◆ ◆
――――鳥居をくぐると、ウサギ天国だった。
いや、冗談抜きでそうなんだって。
今わたし達がいるのは、埼玉は調神社。
『調』って書いて『つき』って読むんだって、変わってるよね。
で、『つき』の名前の通り、境内はウサギまみれだ。
狛犬のポジションだけでなく、御手水舎や池の装飾までとなると。
なんだか、こう。
拘りを通り越した執念じみたものを感じる・・・・。
向かってる車の中でちょろっと調べたところによると。
御祭神はアマテラス様に、その食事係とされているトヨウケ姫。
そして我らが翼さんともほんのり縁がある、スサノオノミコト・・・・。
いや、ツクヨミ様おらんのかーい!!
『月の使者』だからって理由でウサちゃんまみれなのに、肝心のツクヨミ様ハブってるんかーい!!
あの人が何を・・・・そういえば刃傷沙汰起こしてたわ。
って、それはスサノオも同じやんけ!!やっぱり不憫だツクヨミ様ー!!
――――『カリオストロさん撃破』という戦果を挙げたS.O.N.G.。
だけどパヴァリア光明結社は未だ健在だし、絆のデュエットという手札を見せたし。
何より、やっぱり無理くり理論でユニゾンした所為か、シンフォギアが『反動汚染』って状態になっちゃって。
エルフナインちゃんが言うには、そこまで重篤な状態じゃないらしいけど。
そもそも
不具合が起こるのは当然と言えば当然だろう。
また使えるようにするためには、いちいちオーバーホールしなきゃいけないそうで。
自動的に、シンフォギア装者が二人、休養という名の後方待機を余儀なくされていて。
何はともあれ、気が緩もうにも緩まない状況が続いている。
でも、それはそうと張り詰めすぎるのもよくないよねと判断した司令さん達は。
わたし達装者にとあるおつかいを頼んで来た。
曰く、『
神社本庁から、『ちょっと無視出来ない気がかりがあるの(意訳)』と連絡があったそうで。
その資料を確認に、現地へ足を運ぶことになった。
・・・・資料の内容が内容だから、外部に送るとかは無理なんだってさ。
神社にそう言われると、なんか神秘性感じるよね。
「みなさん、ようこそおいでくださいました」
今までのことをざざっと思い出していると、話しかける声。
振り返ると、メガネをかけた高齢の男の人がいる。
・・・・白髪でそこそこしわがあると、自動的にご老人だと思っちゃうよね。
ちなみに神主さんは普通にお年寄り召してるけど、背筋がしゃんとしてるし、言葉もはきはきしてるしで。
『元気なお年寄り』って感じ。
「いやぁ、これだけお若いお嬢さん達がいらっしゃると、十年前に交通事故で亡くなった娘夫婦と孫娘を思い出します。生きていれば、ちょうどみなさんくらいでした」
少し寂しそうに笑う神主さんに、ちょっとしんみりしてしまうけど。
すぐに、うん?と疑問符。
「いや、あたしら上から下まで割と年齢バラけてるぞ?」
「はっはっは!ジョークですよ、神社ジョーク」
わ、割と洒落にならんジョークですよ。
神主さん・・・・。
き、気を取り直して。
早速応接室?的な和室に通されて、そこでお手本みたいな古文書を見せてもらった。
少し古めの地図に描かれていたのは。
「オリオン座?」
「ええ、一見鼓にも見えることから、『
埼玉県に点在する、氷川神社群。
それらを線で結ぶと、ちょうどこの形になるんだとか。
古来の日本では、オリオン座は『
それで、『門』というだけあって。
神に通じる、あるいは神いづるといわれているとか。
何とか・・・・。
「――――神の力を欲するパヴァリア光明結社が、狙う可能性が高いな」
神主さんの解説と文献を照らし合わせた翼さんの、ぽろっとこぼした呟きが聞こえた。
・・・・バラルの呪詛なんかに手を出そうってんだ。
そりゃ、神様の力を狙って当然だよな。
数千年単位で生きてる錬金術士なんだから、レイラインの知識も、日本含めた各地の伝承も知っているだろうことは。
容易に想像できるから、なおさらだ。
「神主さん、こちら写真を撮っても?」
「もちろん、神社本庁より許可も下りています」
マリアさんがS.O.N.G.のロゴが入ったカメラを見せて聞くと、こっくりうなづく神主さん。
持ち出せない分、撮影はオッケーみたいだね。
よかった。
これでダメだった言われたら、もう手書きで写すしか・・・・。
いや、それはそれで面白そうだからいいけど。
なんて、考えていると。
――――ぎゅるるるるるる
・・・・お手本みたいな音が、響き渡った。
出所は・・・・なんてかっこつけません、はい。
犯人はわたしです。
「
「お前なあ・・・・」
「め、面目ない」
ううぅ、最近あまり食べてないからなぁ。
・・・・独りの食卓って、結構堪えるのよ。
「ふふふ、まあ、実際いい時間ですし。ここは私が腕を振るうとしましょう」
「おおー!」
目を輝かせる切歌ちゃんに、神主さんはにっこり笑って。
「私の得意料理は、キッシュなんです」
い、意外とハイカラな得意料理ですね・・・・。
◆ ◆ ◆
「――――ッ」
都内、パヴァリア光明結社が根城としているホテル。
おぼつかない足取りで現れたのは、サンジェルマンだった。
一歩一歩が命がけであるかのように疲弊しきった彼女は、やがて自室となる扉を開けると。
なだれ込むように倒れ伏す。
「・・・・失礼します」
そこへ、まるで見計らっていたかのように現れたイヨ。
サンジェルマンが、一枚だけ羽織っていた上着をはだけさせる。
そして血が滲んだ背中へ手をかざし、応急手当を始めた。
「・・・・降臨の準備は、順調の様ですね」
「ぐ・・・・ええ、そうね」
話しかけたことで、意識が戻ったらしいサンジェルマン。
起き上がる気力のないまま、視線だけをイヨに向けると。
徐に口を開いた。
「カリオストロが死んだわ」
「ええ、存じております」
「あなたの読み通り?」
「・・・・ええ」
「そう・・・・」
沈黙。
イヨが展開した治療術の、澄んだ稼働音だけが響いて。
また、サンジェルマンが静寂を破る。
「我々がどうなるかも、見えているの?」
「・・・・そうですね」
「・・・・我々は、正しいことをしているのよね」
「・・・・私は、貴女を否定しません」
「・・・・そう」
イヨから見て、珍しく弱気な様子のサンジェルマンは。
また黙りこくったまま、ゆっくり眠りに落ちていった。
「・・・・」
サンジェルマンを抱き上げると、彼女の寝台へ運ぶイヨ。
そのまま手際よくバスローブに着替えさせて、毛布を掛ける。
去る前に、苦悶を交えながら寝息を立てる様子を少しばかり見守ってから。
静かに部屋を後にした。
と、いうことが。
先ほどあったばかりなのに。
廊下をイヨが歩いていると、不意に目の前で扉が開いた。
「サンジェルマン様、もうお出かけになるのですか?」
「ええ」
現れた彼女に慣れた様子で一礼したイヨは、驚きを隠せないままに首をかしげる。
「カリオストロがやられた今、余裕を持ったS.O.N.G.が『神出門』を知るのは時間の問題よ。それまでに終わらせる」
ロングコート以外、何も纏っていないサンジェルマン。
自らの肩に触れる仕草が、背中に描かれつつある『オリオン座』を意識しているであろうことは。
十分に理解出来た。
だというのに、
「・・・・もうしばし、お休みになられてもよいのでは」
イヨの口をついて出たのは、そんな言葉だった。
今度はサンジェルマンが目を見開く前で、ばつが悪そうに口元を抑えてしまう。
「・・・・失言でした、ご容赦を」
「・・・・いいえ、構わない」
頭を下げる他ないイヨだったが、意図したところではないと理解したサンジェルマンは、幸いにも首を横に振ってくれた。
「『否定しない』、さっきそう言ってくれたあなたが口にする程なのだから、よっぽど情けない様だったのでしょうね」
続けて、自嘲気味に笑いながら言う上司に。
イヨは何かを伝えようとして、しかし何も言えず。
中途半端に開いた口を、結局静かに閉じてしまった。
「けれども、立ち止まるつもりは毛頭ない。これだけは、嘘偽るつもりもない事実だ」
そんなイヨを慰めるように、まっすぐ見据えて宣言するサンジェルマン。
「・・・・どうか、あなたにも見ていてほしい。本懐を遂げるついでで、構わないから」
最後に薄く微笑んでから、今度こそ出立したのだった。
離れていく背中を、黙って見送ったイヨは。
静かに、静かに。
顔を覆い、恥じる。
(『お休みになられてもよい』?どの口が抜かす・・・・!)
ぐしゃりと握れば、髪が幾ばくか乱れたが。
構っている余裕はなかった。
(そうだ、否定するつもりなんてない。そんな権利、ない)
閉じた扉に額をあてて、己に言い聞かせる。
―――――この、裏切者ッッ!!!
想起するのは、あの日のこと。
全てをくべて、業火と共に旅立った日のこと。
(私は、立ち止まらない)
もう一人きりになった廊下で、前を見据えて。
唇を、噛みしめた。
「――――恥ずかしい女」
「『揺れた』分際で、何言うんだか」
声が、聞こえる。
日本神話の食べ物の神様って、体内で生成した食べ物を口やお尻から出すんですって。
知っていても、あまり見たくない絵面ですよね。
そりゃあ、ツクヨミもスサノオも刃傷沙汰起こす・・・・。