チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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年内初の本編更新が、もう四月が見えてくる頃になってる作者がいるってよ(白目)


自信がない時はとことん落ち込む

「マリア!?」

「あーら、よそ見してていいのかしらん?」

 

弾かれるように振り向いた調の目の前で。

同じくノイズの召喚石を当てられた翼と切歌が、まさに飲み込まれてしまうところだった。

 

「ふふふっ、ユニゾン相手がいないザババなんて、赤ん坊みたいなものよね」

 

孤立したところを見て、舌なめずりをするカリオストロ。

窮地に立たされてしまった調は、苦い顔で向き合う。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「――――ぐべぇッ」

 

思いっきり地面に顔をぶつけてしまった。

いてて、鼻擦りむいたかも・・・・。

痛む鼻っ柱をさすりながら立ち上がってみると、目の前にはだいぶ非現実的な光景が。

・・・・・銀河の渦巻きが、はっきり分かるような星空が見える場所なんて。

少なくとも日本には存在しない。

 

「響!」

「ステファン君!ソーニャさんまで・・・・二人とも怪我は!?」

「い、いえ、私達は大丈夫。ごめんなさい、あなた達まで・・・・」

 

そう言って、目に見えて肩を落としたソーニャさん。

いやいや、あなた達のせいってわけじゃないでしょうに。

むしろ抜かりの大きさでいえば、車椅子での移動を考慮しなかったわたし達の方がでかいって。

 

「ソーニャッ、ステファンッ!!」

「全員無事!?」

 

マリアさんクリスちゃんも駆けつけてくる。

仲間たちが、そんなに離されてなかったのが幸いか・・・・。

 

『響さん、クリスさん、マリアさん!!』

 

あ、通信が通じた。

エルフナインちゃんの声が、ヘッドホンと一体化した通信機から聞こえる。

 

「エルフナインちゃん!わたし達、どっかに飛ばされたっぽい!日本じゃありえない空、外国にいっちゃったかも!」

『いえ、それはありません』

 

ちょっと慌てていた心が、意外と落ち着いてるエルフナインちゃんの声で鎮火した。

 

『皆さんの位置情報は、直前までのものと変わっていません。なので、外国に飛ばされたというよりは、閉じ込められたとするのが正しいでしょう』

「な、なるほど?」

 

変わってないって、じゃあここは結局どこになるんだ?

首を傾げていると、『何より』とエルフナインちゃんが続ける声が聞こえて。

 

『皆さんに投げつけられたのは、テレポートではなくノイズ召喚用のジェムでした。つまりそこは――――』

「ノイズによって作られた異空間、ということね。来たわよ!!」

 

言われるまでもなく、気付いた。

地平線の向こうから迫ってくる、アルカノイズの群れ。

ステファン君達がいる以上、のんびりしてる場合じゃないね。

 

「エルフナインちゃん!!脱出方法の見当はつきそう!?こっちはいつまでも戦ってられないよ!?」

『全力で模索します!それまでどうにか耐えてください!!』

「ッおーけい!!」

 

真っ先に突っ込んで、ノイズの群れに肉薄する。

・・・・敵の威勢を圧し折って、戦意をそぎ落とす。

一番槍こそわたしの務め。

ほら!島津豊久も言ってるよ!

『助かるためには敵を倒せばいい』ってね!

 

「長期戦は必至よ響!!あまり飛ばし過ぎないで!!」

 

マリアさんの忠告を背中に受けながら、ノイズの中へ突っ込む。

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「ステファン、ソーニャ!こっちに!二人とも絶対に離れるなッ!!」

「え、ええ!!」

 

二人を背後にやりながら、引き金を強く握り締める。

クリスの指示に従ったソーニャは、ステファンを車椅子から降ろし。

さらに覆いかぶさることで弟を庇わんとした。

ちょうどよい位置にある車椅子が、あるだけマシな衝立程度になっていることを横目で確かめたクリス。

大きく跳躍して、まずは姉弟の周りを撃ち抜いた。

接触すれば反応して拡散する、設置型のレーザー。

これである程度の憂いを補ったクリスは、周囲のノイズへ視線を巡らせる。

そして、倒す順番とその手段を瞬時に弾き出して。

再び引き金を握りしめた。

 

「ぅ()おおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

最前列で響が、中間地点でマリアが粘ってくれているものの。

いかんせん相手の数が多すぎる。

何十、何百と撃ち抜く一分一秒が。

まるで千秋の様に感じられた。

だからと言って、クリスが膝を折る理由にはならない。

なり得ない。

 

(二度と、二度と・・・・傷つけさせるかよッ・・・・!!!!)

 

歌が絶えない程度に歯を食いしばり、一歩を踏み込んだ。

――――パヴァリア光明結社を中心とした事件が始まってから。

クリスの脳裏には、傷ついた了子の背中と、足を撃ち抜いたステファンの姿が。

未だ鮮明に焼き付いている。

どちらも十分に助ける余地はあった、どちらも負わなくていい怪我を負わせてしまった。

どちらの現場にも、クリスは居合わせて。

そして、何も出来なかった。

 

(あの日のあたしを、引っ叩きたい・・・・!!)

 

記憶はどんどん遡る。

両親が死んだ、あの頃に戻る。

 

(弱かったお前(あたし)にッ・・・・何も出来なかったお前(あたし)にッ・・・・!!)

 

攻防の最中、必死にうずくまる姉弟が目に入って。

 

(ソーニャを責める資格なんて、これっぽっちもないんだよォッ!!!!!!!)

 

雄たけびを上げながら足元を踏みしめ、周囲を一掃。

開けた空間を作り上げたが、それでも終わりが見えそうになかった。

・・・・二課時代から付き合いのあるオペレーター達が、無能ではないことは考えるまでもない。

だが、中々出て来ない解決策に焦りを感じ始めているのも事実。

それでも。

胸に灯った決意が、消えることなど有り得なかった。

しかし、

 

「クリスちゃん!!!!」

 

気合や決意だけで好転できるのなら、世の中はもう少しだけマシになっているはずなのだ。

響の声に、我に返って振り向けば。

クリスの目の前で、大型が腕を振り上げていて。

いや、既に降ろされ始めたところか。

回避、不能。

防御、間に合わない。

受けたところで、中傷以上のダメージは確実。

 

(ああ、クソッ!また大事なところでッ・・・・・!!!!)

 

ギリっと奥歯を噛みしめながら、来るであろう痛みに身構える。

せめて少しでも負傷を減らそうと目玉をかっぴらき、全神経を前方に集中させるクリス。

だからこそ、背後の動きと静止の声に気付かず。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

彼女がやっと認識したのは、マリアでも響でもない雄たけびを耳にしてからだった。

弾かれた様に振り向けば、人間の頭より一回り小さいサイズの石が蹴り飛ばされるのが見える。

いっそ芸術的な軌跡を描いて飛んで行った石は、見事。

ノイズの腕を撃ち抜き、断ち切ったのだった。

 

「ステファン!!!!」

「ステファン!!ああ、なんて無茶を!!」

 

いくら従来のノイズよりも位相差障壁が弱いと言えども、若輩の身でとんでもない所業を成したステファンへ。

ソーニャとクリスがそれぞれ駆けつける。

肝心の彼は、無謀の代償にへこんだ義足を、まるで痛覚があるように抑えていた。

 

「お、まえ、何で・・・・!」

「・・・・ぉ、れは」

 

半ば呆然としながら歩み寄れば、幻肢痛に呻く彼は、そのままにクリスを見上げて。

 

「俺はッ!あの時、クリスに撃たれなかったら!!この場にいなかった!!」

 

吼えるような宣言に、クリスも、隣にいたソーニャも虚を突かれる。

 

「痛かったさ!ああ、膝から下が丸々無くなったんだ、痛かったに決まってるだろ!!だけど!!それでも俺は生きている!!だからッ!!」

 

射貫く、視線が。

クリスの迷いを見透かして、撃ち抜く。

 

「俺を理由に、落ち込んだりしないでくれよ!!クリスは何も間違ってないんだからさ!!!!」

 

獲物の無防備な大声に反応して、ノイズ達が群がってくる。

ちっぽけな三匹をあっという間に取り囲む。

体に刻まれた(プログラム)に従い、塵と散らしてしまおうとして。

――――乗り出した身が、弾丸に撃ち抜かれる。

現場にいた者達が、銃声がしたと認識したときには。

もうすでに次が撃たれたところだった。

きれいに貫通した銃創が、芸術的だなと呑気している横で。

五、十、二十五、四十と撃ち抜かれて。

最後の二体が弾け飛べば、辺りは一気に開けて。

残心で構えられた二丁のハンドガンは、十字架を描いているように見える。

今しがた、弾丸のハリケーンを形成したクリスの表情は。

まるで祈りを捧げているようだった。

 

「――――ああ、そうだな」

 

まぶたを重々しく開けて、双眸がソーニャを見据える。

 

「あの日、パパとママが死んで、悲しかった」

 

吐き出した独白が、相手の胸を穿つ。

 

「ソーニャがポカやらなきゃって、ちゃんと見てくれればって・・・・でも」

 

クリスは、泣き止んだ子供のような笑みを浮かべて。

 

「あの日、ソーニャが引き留めてくれなかったら。とっくに黒焦げてたのはあたしだった、それも本当のことで、間違ってなかったんだ」

 

クリスと、ソーニャ。

二人の肩に背負っていたものが、降りていく。

体が重圧が解放される。

クリスは羽根や風もかくやとばかりに軽くなった腕を振るい。

なおも迫ってくるノイズを、再び撃つ。

 

「ソーニャ」

 

すぐ背後で倒れるノイズに気を取られていたソーニャの肩が、不意にかけられた声で一瞬跳ねる。

 

「後で、もう少し話したい・・・・あんたが何を思って、パパやママと同じ理想を目指しているのか。それを聞きたい」

 

だから、と。

両手のハンドガンがぎらついて。

 

「もう少しだけ、耐えてくれ。今度は絶対守るから」

 

次々ノイズが倒れていく光景は、まるで。

研ぎ澄まされた視線が、そのまま弾丸になったかの様だった。

 

『――――みなさん、お待たせしました!!』

「待ってましたー!何か分かったのー!?」

『はいッ!』

 

好転は続く。

通信機から、エルフナインの声。

千秋の思いで待っていたラブコールに、響やマリアの顔が目に見えて明るくなる。

 

『空間が展開した時、観測できた形状は半球。かぶせたお椀や、ドーム状といえば分かりやすいでしょうか』

「よっと、それで!?」

 

当然のことだが、戦っているのは何も現場だけではない。

エルフナイン達銃後だって、響達が閉じ込められてから。

いや、カリオストロの出現が報告されてから。

シンフォギア装者達が気兼ねなく戦えるように、何より被害を最小限以上に抑えるべく。

知識という武器で、ある意味響達が対峙しているより強大な『(なぞ)』と戦っているのである。

 

『再度断言しますが、皆さんにぶつけられたのはノイズの召喚ジェム。つまり、中心部分に要となるノイズがいるはずです!!』

「なるほど!ど真ん中探ってぶち抜けばいいのね!」

『その通りです!!』

 

その『戦果』によって届けられた手がかりが、窮状を打ち倒す一手として顕現する。

 

「――――なら、それこそあたしの出番じゃねェか」

 

笑うマリアの横で、クリスが前に出た。

 

「中心を探れりゃいい、そうだな?」

『その通りです!』

「だったら、話は速ぇ」

 

瞬間、何度目かわからぬ発砲音。

放たれたそれらは、ノイズを撃ち抜くついでに岩壁に突き刺さり。

スピーカーとして展開する。

 

「・・・・なるほど、そういうこと」

 

それを目の当たりにして、クリスの意図を理解したマリアは。

不敵な笑みを浮かべて、ダガーを構えた。

 

「ここは私とクリスで引き受ける、響はそろそろ下がりなさい」

「はいなー」

 

指示にうなづいた響が、姉弟の下へ向かったのを確認してから。

 

「いくわよクリス、最高のライブの幕を開けましょう」

「上等だ、置いてかれんじゃねーぞ」

「それこそ上等」

 

胸元のイグナイトモジュールへ、手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ・・・・はぁっ・・・・!!!」

 

現実世界。

イグナイトを纏ってもなおボロボロになった調は、膝をついて肩で息をしていた。

そんな彼女を庇うように立つレイアもまた、左の腕とわき腹を失っている。

 

「木偶とぼっちにしては、よくやった方じゃない?」

 

二人を見下ろしたカリオストロは、優雅に足を組んで口を開く。

 

「ラピスに対策してきてることといい、この前のガングニールといい。アンタ達って意外性にあふれてるわよねー」

 

レイアが苦し紛れにコインを放つが、あっさり弾かれた。

 

「まあ、その辺はあーしも負けてないと思うんだけども。どう思う?」

 

調達の負傷は、その半数以上が打撲によるもの。

今まで錬金術然として優雅に戦っていたカリオストロが、ボクシングを主軸とした格闘技を解放した証であった。

 

「まさかの武闘派で、びっくりしたでしょ?」

「おのれ・・・・!」

 

レイアが奥歯を噛みしめる後ろで、調の意識は朦朧とし始めていた。

 

(また、迷惑かけちゃう・・・・)

 

彼女の心に引っかかる、絆のユニゾンの難航。

その悩みは確かな重さを伴って、意識を沈めにかかっている。

 

(マリアも、切ちゃんも出来ているのに・・・・わたしだけが、弱いまま)

 

倒れないよう踏ん張るだけでも、やっとの状態すら。

崩れてしまいそうになった、その時だった。

 

「ッ何?」

 

一瞬何のことか分からなかった。

カリオストロが何かに反応しているらしいことだけは理解出来た。

では、何に?

未だぼんやりする耳に聞こえてきたのは、薄く硬いものがバリバリと割れる音がする。

――――何が砕けているのだろう。

両目の焦点を、何とか合わせながら顔を上げた。

その時だ。

 

「――――よォ、ずいぶん楽しそうじゃねェか」

 

降り注ぐ、弾丸、刃、光。

ガラスが割れた音に交じり、カリオストロへ肉薄する。

 

「行くぜマリア、ぜーんぶまとめて片付けるぞ」

「オーケイ、クリス。徹底的に退けましょう」

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

マリアさんを名前呼びだなんて。

クリスちゃん、さては相当ハイになってるな?

まあ、長年のわだかまりが解消したばかりなんだし、そりゃテンションの一つや二つ上がろうものってやつか。

なんてことを考えながら、動けなくなったレイアさんと調ちゃんを抱えて。

現場から迅速にスラコラサッサする。

クリスちゃん復活はめでたいけど、それはそうと負傷者も逃げきれてない民間人もいるからね。

避難ならびに撤退は引き受けましょうね。

・・・・それにしても。

 

「調ちゃん、よく頑張ったね」

「えっ?」

 

明らかに落ち込んでいた調ちゃんが、さすがに心配になったので。

声をかけてやる。

 

「レイアさんも来たとはいえ、それまで一人だったでしょ?」

「そ、そんな。マリア達が間に合わなかったら、やられていたし・・・・」

「それまで耐えたのがすごいのー。切歌ちゃんとのユニゾンが警戒されてるのはわたし達だって把握してたのに、こっちの不手際押し付けて悪かったね」

「まったくだ、派手に相手の思い通りになりおって」

 

俵担ぎしてるレイアさんが、呆れた声。

 

「また破損してしまったではないか、どうしてくれる立花響」

「ぐうぅっ・・・・お手数おかけしました」

「シャトーではパーツ程度、マスターがいくらでも錬成できたが。S.O.N.G.ではそうでもないのだ。私が破損するたびにマイスター(エルフナイン)同士(技術班スタッフ)が頭を抱えていれば、さすがの人形の身でも諸々察するわ!」

 

な、生々しく世知辛いお話・・・・。

一応了子さんや香子が錬金術を使えるけど。

初心者の香子はいわずもがな、了子さんも義手の装着を渋られる時点でお察しというか。

何というか・・・・。

 

「い、いつもお世話になっております・・・・!」

「そうだそうだ、派手に敬え!ついでに月読もだ!」

「あたた、敬うんで叩くのやめてもらっていいですか・・・・?」

 

ぽこぽこ頭を叩かれつつ、調ちゃんに目をやると。

もやもやはひとまず抜けているようだった。

でも一時的なのは目に見えているし、今後も気にしてあげないとだなぁ。

考えながら移動して、S.O.N.G.のスタッフが見えてきたところで。

クリスちゃん達が無事、カリオストロさんを撃破したという報せが入ってきた。

・・・・飛び交う報告を聞く限り、跡形もなく消し飛んでいるらしい。

いや、長い期間生きてるって話だし、悪い組織にいるし、だからとんでもない数の犠牲者が出てるっていうのも想像に難くないんだけどね。

だけど、なんというか。

・・・・今回もまた、相手を倒すことになるのかな。

伸ばした手が、無意味に終わるのかな。




難産ゾーンは超えたので、次からはサクサク行きたいな・・・・(願望)

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