チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

162 / 199
虚淵さん脚本の、台湾の人形劇に誘惑されながらもなんとか仕上げました。
あれほどかっこいい木刀を、どうして今まで知らなかったのか・・・・!


準備できる時はきっちりやっておこう

「は・・・・は・・・・は・・・・!」

 

息を切らして、病院の廊下を走る。

途中看護師に注意されながら、通いなれた病室に駆け込めば。

 

「・・・・ぁ、ひびき」

 

そこにいたのは、やや変わってしまった愛しい人。

時折、ひゅう、と喉を鳴らしながら。

慌てた様子のこちらを、おかしそうに、微笑ましそうに笑っていたのだった。

 

「――――未来!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッ」

 

襟をつかみ上げられ、壁に叩きつけられる。

痛みに思わず目を閉じたイヨの前には、鬼気迫る目つきのカリオストロ。

 

「――――どういうつもりだッ!?」

 

イヨが、強打した後頭部にひるむのもお構いなし。

端正な顔立ちを怒りに染め上げて、声を荒げる。

 

「あの襲撃を提案したのはアンタよ、だったら見えていたんじゃないの?プレラーティの負傷がッ!!」

「・・・・ええ、もちろん。見えていましたとも」

 

刹那。

襟をつかんでいた手が、首を捉えた。

痛みを伴う圧迫感に苛まれ、イヨは掠れるような声を出す。

 

「ぐ・・・・」

「こっちの戦力削るような真似して、どうしようってんのよッ!ええッ!?」

「ぐっは、ごほごほ・・・・!」

 

床に叩きつけられ、咳き込むイヨを見下ろして。

カリオストロは険しい声をやめない。

 

「あんたのこと、ますます信用ならなくなってきた。本当にサンジェルマンの味方なの?黒歴史削除が目的とか言いながら、あーし達も消すつもりなわけ!?」

 

倒れたイヨは、ぜいぜいと呼吸を整えることに集中。

やがて、片目をゆっくりとカリオストロに向ける。

犬や猫の爛々と光る眼玉が、絹の糸束の間から覗いている様に見えて。

一瞬、猛獣と対峙したような心地になった。

 

「・・・・単純な話です」

 

一通り落ち着いたらしいイヨが、ゆらりと立ち上がる。

 

「そも、歴史とは未来とは、いつくもの分岐を経て辿り着くもの。いくら私が未来から来たといえど、結局は数多の軌跡の果てに過ぎません」

「・・・・それで?」

「多少は筋書き通りにしないと、我々が不利になりかねないということですよ」

「というと?」

 

雇った責任からか、静観に徹していたサンジェルマンが続きを促せば。

イヨは、役者さながらに片手を振った。

 

「分かりやすいのは今回のことでしょう。彼らS.O.N.G.は、確かにラピスへの対抗手段を得ました。しかし、それは彼らが強くなったわけではありません」

 

つまりイヨが危惧しているのはタイムパラドックス。

ある種の予定調和により、不確定要素が増えること。

何かのきっかけでS.O.N.G.が想定以上に強化されてしまえば、計画が修正不可能なまでに狂わされかねないのだ。

 

「例えば、プレラーティ様が負傷することなく我々が勝利したとしましょう。ですが、S.O.N.G.はそれをバネにして、さらなる力を得るかもしれません」

 

それこそ、パヴァリア光明結社を凌駕するような力を。

いや、この先に現れるであろうあらゆる脅威を打ち払う力を得るのかもしれない。

示された可能性に、圧していたはずのカリオストロは、固唾を吞んでしまった。

 

「困るんですよ、それでは。ええ、とても」

 

顔の髪を払いのけないまま、にっこり笑うイヨ。

 

「そうでなければ、この先出陣するはずの神獣鏡がずっと退いたままになってしまいます」

「何?あんたが呪いをのっけてまで重傷を負わせた子が出てくるっての?」

「出ますよ」

 

怯んだままではいられないと、前に出たカリオストロへ。

自信たっぷりに即答するイヨ。

 

「忌々しくも己だからこそよく分かるのです・・・・アレは、必ず、出てくる」

 

一語一語を強調しながら断言する姿に、カリオストロは今度こそ沈黙してしまった。

そんな彼女を下がらせながら、今度はサンジェルマンが前に出る。

 

「では、今後彼らが新たなものを得ようとしても、放置するべきだというのね」

「ええ、貴女様からすれば心苦しいでしょうが・・・・このまま、このままでいてもらわねば・・・・彼らには」

 

ふふふ、と再び笑ったイヨをしばらく眺めた後で。

サンジェルマンは深々とため息をついて。

 

「・・・・・いいでしょう、ただし次はないわよ」

「サンジェルマン!?」

「カリオストロ、いいの。責任は私が負う・・・・元々、イヨとは『目的を邪魔しない』という条件で契約したのだから」

「・・・・寛大な処置、感謝いたします」

 

それでも納得がいかないカリオストロは、せめてもの抵抗にイヨを睨みつけて。

苛立たし気にその場を去っていく。

 

(局長といい、イヨといい、サンジェルマンってば不安要素に囲まれすぎ!!)

 

足並みこそ踏み鳴らしていても、その胸中はいたって冷静だ。

プレラーティの治療に当てている部屋へ向かう傍ら、思い出すのは盗んで聞いた会話。

 

(・・・・あーしも、そろそろ腹を決めるべきかしらね)

 

口元が、強く結ばれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――とどかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とどかないんだ

 

 

 

 

 

 

どんなに謝っても

 

どんなに呼んでも

 

どんなに泣き叫んでも

 

 

 

 

 

 

 

もう、君には届かない

 

 

 

 

 

 

わたしのこえは、とどかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

目が覚める。

植込みのごわごわとした感触で、訓練中なのを思い出した。

どんなことがあったんだっけと、目線を上に上げたところで。

 

「・・・・Morning, Hibiki」

「・・・・もーにん、マリアさん」

 

木に引っかかったまま、現実逃避気味にネイティブな挨拶をしてくるマリアさんと。

視線がかち合ったのだった。

――――何とか『耳垢』を回収したわたし達。

『賢者の石』に対抗する手段だからと、『愚者の石』だなんてかっこいい名前を付けてもらえたそれを使って。

めでたく復帰した了子さん率いる技術班のみんなが、シンフォギアに新たなバリアフィールドを設定。

これでイグナイトを起動させても、浄化の光でひっぺがされることはなくなった。

で、今何をやっているのかといえば。

バリアフィールドが着いたこともあって、改めて装者みんなで訓練というところに。

何故か司令さんが乱入。

ジャ〇キーの主題歌を流しながら、素手で装者を圧倒していったのであった。

いやぁ、実しやかに囁かれてる三すくみに入ってるだけのことはあるよね。

ほんと相手にならなかったや!

・・・・そうじゃなくて。

司令さんに曰く。

あの海上の攻防で、プレラーティに一撃を加えられたのは。

調ちゃんと切歌ちゃんのユニゾンによるところが大きい。

となれば、次攻め込んできたとき、真っ先に分断を狙ってくるはず。

だから、愚者の石という共通の媒体を搭載した、今の状況を利用して。

イガリマとシュルシャガナのような、神話の繋がりに頼らない。

絆の繋がりによるユニゾンを会得しようということだった。

 

「よろしくね、調ちゃん」

「よろしくお願いします」

 

正直、柄にもなくわくわく。

そもそもコミック版の方で、翼さんと奏さんが『双星の鉄槌』だなんてかっこいい技を披露してるもんね。

それが現実になると分かったら、胸が躍るってもんよ。

 

「その、未来さんほど出来るか分からないけど・・・・」

「危なげなく戦えたなら、それでいいと思うよ」

 

・・・・ただ、心配事もあるにはある。

未来がイヨさんから受けた呪いは、未だ健在。

いくらか症状は治まったとはいえ、酸素吸引器が手放せない状態にある。

体力も戻り切っていないので、もちろん入院は続行。

傷が治りきらないのは承知の上で、もう少し様子見をしようという診断が下ったのだった。

少なくとも、今後の戦いには参加出来ないだろう。

賢者の石に唯一対抗できた神獣鏡が動けない今、パヴァリア光明結社が何もしないわけがない。

・・・・イヨさんが、未来の寝首を掻かないとも限らないんだし。

頑張らないと。

 

「身構えるのもいいけど、緊張しすぎちゃダメ。リラックスリラックス!」

「・・・・はい」

 

まずは、調ちゃんとのユニゾンチャレンジだ!




なお、失敗した模様。

チョイワル「いやぁ、わたしじゃ調ちゃんをリード出来なかったかー!ごめんねー!」
調「いえ、こっちこそごめんなさい・・・・」
チョイワル「でもほら、今ならまだより取り見取りだよ!お互い、次も頑張ろうね!」
調「はい」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。