チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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熱でダウンしても、ひびみく愛は止められぬッ・・・・!
あ、ちゃんと治ったので、お気になさらず。


自覚

「未来って響が好きなの?」

「へっ?」

 

ある日の昼休み。

一緒に昼食を取っていた弓美にそう言われ、未来は間抜けな声を出す。

 

「いや、だから」

 

呆ける未来へ身を乗り出した弓美は、顔を寄せて声を潜める。

 

「未来って響が好きなの?」

「え、あっ!『Like』のほう!?」

「『Love』に決まってんじゃん」

 

突然の質問にすっかり混乱した未来は、名案だとばかりに指を立てるも。

呆れ顔の弓美にあえなく両断された。

 

「ど、どうして?」

「どうしてって・・・・」

 

おにぎりを頬張った弓美は、唸りながら咀嚼。

キチンと飲み込んでから口を開く。

 

「何か、響について話してるときすっごい生き生きしてるっていうか、こう、『乙女ー』なオーラが出てるっていうか」

 

・・・・確かに響のことを話すときは、自分でもテンションが上がっている自覚はあったものの。

まさかそんなになっているとは思わなかった。

 

「そんなに?」

「そんなに」

 

しっかり首肯されて、未来は頬が熱くなるのを感じた。

 

「・・・・もしかして無自覚だった?」

 

きょとんとした弓美に問いかけられ、今度はこっちがしっかり首肯する。

すると弓美は、なんだか申し訳なさそうに『あー』と呟いた。

 

「まあ、ほら。そう見えるってだけで、あたしの勘違いかもしれないから!本当にそうだったとしても、最近そういうカップルとか夫婦とか増えてるわけだし!」

 

だから大丈夫ッ!

親指を立てて笑う弓美に、未来は恥ずかしさが混じった曖昧な笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――なんで、今。思い出すのかな)

 

響の顔を覗きこみながら、未来はぼんやり考えていた。

二課の休憩スペース(いつもの場所)、ソファの上。

どういうわけだか、響を押し倒す形で横たわっている。

・・・・いや、本当は分かっているのだが。

何気ない会話の中で、響が急にくすぐってくるもんだから。

反撃だといわんばかりに押し倒したら、その琥珀の瞳から、目が離せなくなってしまって。

時に優しく、時に鋭くなる目。

見れば見るほど、綺麗だと思う。

 

――――未来って響が好きなの?

「――――ッ」

 

もう一度。

弓美に言われたことが頭で反芻され、昼以来落ち着いていた頬がまた熱くなった。

好き(Love)なのか、そうじゃないの(Like)か。

 

「未来?」

 

その口元が、戸惑いながらも名前を紡いでくれる。

大好きな声で、呼んでくれて。

 

(――――あ)

 

本当に、本当に唐突だった。

背筋が震えて、脳が痺れた。

――――喜んでいる。

響に名前を呼ばれることを、こんなに幸せに感じている。

自覚すれば、次々実感してくる。

温かい手のひらも、抱きしめてくれる腕も、ちょっと危なげな優しさも。

全部響の一部で、いいところで、愛しくてたまらない。

もちろんそれは未来だけじゃなくて、家族に対してもそうなのだけど。

でも、もし。

もし、許されるのなら。

その優しさ、ほんの一部だけでも独占させてくれたらなぁ。

なんて。

 

「未来ー?」

 

また名前を呼ばれて、我に返る。

――――今わたし、何を考えてた?

いや、誰かを好きになること自体は別に悪いことじゃないんだけれど。

何だかこう、大胆なことをたくらんでいた気がしてならない。

 

「どしたの?顔赤いよ?」

「あ、えと・・・・だ、大丈夫!」

 

瞳に全てを見透かされそうな気がして、そっぽを向く。

真面目に心配してくれる響には申し訳ないが、こんな胸中知られたら恥ずかしさで死ぬ自信がある。

 

(ごめん、響・・・・)

 

それでもこの罪悪感はどうしようもなくて。

せめてこっそり謝ることで発散させようとした時。

ふと我に返ると、響の顔が近づいていて。

 

「・・・・やっぱり、分からないや」

「――――ッ!?」

 

すぐ目の前。

困ったような苦笑が浮かんでいた。

 

「ごめん未来。わたしがもうちょっとまともだったら、何か気付けるかもしれないけど」

 

額を指で撫でながら、言葉通り申し訳なさそうに笑う響。

・・・・違う、違う。

お願い、そんな寂しい顔しないで。

あなたはこれから先、ずっと笑っていていいんだから。

幸せになって、いいんだから。

・・・・それとも、足りないの?

辛い思いをした分、何もかも諦めてきた分。

持ち合わせが少ないの?

――――だったら、

 

「み、未来?」

 

だったら、わたしのをあげる。

あなたが身を削って守ってくれた分があるから、あなたに分けるくらい何ともないから。

だから、ねぇ。

もっと笑ってよ、響。

 

「あの、未来さん?」

 

困惑した声が聞こえるが、あえて無視を決め込む。

心なしか強くなった握る力も気にしない振り。

今更怖くなって目を閉じたけれど、動き出した体は止まらない。

見えなくなったから、色んな音が聞こえる。

特に自分の心臓はうるさいくらいにフル稼働していて、耳元に移動してきたんじゃないかって錯覚するくらい。

そんな中でもかすかに分かる、響の困惑した様子。

・・・・困らせてごめんなさい。

だけど、もう止まらないの。

止められないの。

気付けば、響の温もりはもう目の前。

自分でもびっくりするくらい躊躇わず、最後の距離は少し早めに近づけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

唇同士が、触れ合った。

 

 

 

 

 

 

直に感じる温かさに、何ともいえない幸福と満足感を覚える。

ああ、いっそこのまま一つになれたらいいのになんて考えながら。

もう少し強く、唇を重ねようとしたときだった。

 

「・・・・~~ッ!!」

 

鳴り響く警報。

ノイズが出現したのだろう。

けたたましい音で我に返った響に、突き飛ばされた。

抵抗はままならず、やや乱暴に背もたれにぶつかる。

 

「ぁ、ぇと、その・・・・!ご、ごめん!そういうわけだから、ホントにごめんッ!」

 

なおわたわたとした響は、次の瞬間勢い良く立ち上がり。

 

「帰り道!気をつけて!」

 

そう言い残しながら、脱兎の如く走り去っていった。

その背中を見送った未来は、束の間呆然と虚空を見つめて、

 

「――――ッ!!!」

 

やがて一気に赤面し、ソファを思いっきり叩いたのだった。


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