チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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書きたかったシーンパートn!!


獣殺し

――――あなたが好き。

ためらいなく手を差し出せる強さが好き。

傷にそっと寄り添ってくれる優しさが好き。

どれほど折れそうになっても、どれほど追い詰められても。

地を踏みしめて、立ち上がる背中が好き。

だから。

 

 

だから。

 

 

だから。

 

 

 

 

 

 

 

そんなあなたがいなくなることは、どうしても耐えられなかったの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

派手な爆発に吹っ飛ばされちゃったので、フリーフォールの中で体制を立て直して着地する。

ちらちらっと周りを確認すると、懐かしいシルエット。

どうやら、『チフォージュ・シャトーwith都庁』の跡地に来たみたい。

間髪入れずにやってくる、サンジェルマンさんの弾幕。

着弾したそばから爆発やら鉱物やら生えまくるので、余分に飛びのかないと避けられない。

あの問答の後から、完全にギアを上げてきたサンジェルマンさん。

なかなか距離を詰められないで、さすがにちょっと困ってきた。

攻撃が油断ならなくなってきたから、詳細は把握しきれていないけれど。

どうも未来達の方で大きな動きがあったみたい。

まだ耳を傾けられてたさっきの情報によると、未来は相当な怪我を負っているらしい。

翼さんもクリスちゃんも手一杯だし、早く救援に行きたいのに・・・・!

 

「よそ見とはつれないわね」

 

とかなんとか考え事してたら、隙をついての激しい錬金術ラッシュ。

むあー!!油断ならねーッ!!

銃に生成されたブレードを避けて、キック。

ぐりんと前転して後ろに回って、頭を狙ってまたキック。

腕で防いだサンジェルマンさんが、銃口を向けた直後だった。

 

「・・・・ッ!?」

「・・・・ッ!!」

 

確実にサンジェルマンさんじゃない爆発。

音の方に顔を向けると、土煙が上がっている。

そこから不自然に伸びた個所から、出てきたのは。

 

「未来ッ!!?」

 

ああ、なんてことだ。

想像以上にズタボロじゃないか!?

ホバーを駆使して、地面への強打を免れたみたいだけど。

立つこともままならないほどふらふらだ。

先に向かってた調ちゃんと切歌ちゃんは!?一緒じゃないの!?

わたしが把握出来てない間に、何がッ――――

 

「――――ッ」

 

狼狽するわたしに、答えを送るように。

その人は現れた。

銀色の髪を翻して、紅い瞳を鋭く細めて。

振り上げた鎌の切っ先で、未来を両断しようとした。

 

体が、動く。

 

サンジェルマンさんの攻撃が掠ったけど、些細なことだ。

すぐに未来を確保のち、ボロボロになった手を盾にしながら飛びのく。

・・・・とぼけようが、ない。

混乱が一周回って、頭が澄み渡る。

目の前に。

今、わたしの目の前にいるのは。

 

「・・・・・み、く?」

 

堪え切れなかった声が、口から零れ出ると。

髪も目も、すっかり変わり果ててしまった彼女は。

少しだけ大人っぽくなった顔で笑ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、貴女もこちらにいらしたんですか。サンジェルマン様」

「貴女、イヨ?」

 

片腕を犠牲にしてでも味方を庇った響に感心しながら、神獣鏡(小日向未来)を追い詰めた人物を見るサンジェルマン。

見覚えこそなかったものの、相手が口を開いたことで何者かを察する。

 

「はい、面を取っての対面は初めてですね」

「え、ええ・・・・そんな顔だったの・・・・」

 

決して外すことのなかった布面が取り払われたことが、それなりに衝撃だった様だ。

サンジェルマンは、柔和に笑うイヨと響が抱えている未来を交互に見ている。

 

「心中、お察し致します・・・・ですが、私がこちら側であることは変わりません」

 

上司の戸惑いを察してか、苦笑いを浮かべていたイヨは。

『そして』の一言から豹変する。

 

「私が、神獣鏡を仕留めるということも」

「・・・・~~ッ!」

「――――そんなことッ!!」

「――――させない!!」

 

響が叫ぶ前に、調と切歌が駆け付けた。

二人とも煤けていたり、派手な擦り傷があったりとそこそこボロボロだったが。

まだまだ活気に溢れている。

 

「響さん、ごめんなさい」

「あいつのギアに苦戦しちゃったデス」

 

申し訳なさそうに話しかけてきた声に、動揺から立ち直った響。

未来をさらに庇う様に抱きしめた。

だが、

 

「響、大丈夫。離して」

「未来、だけど」

「お願い」

 

他でもない未来が、響の手を取って解かせると。

痛みを堪えながらもゆっくり立ち上がる。

 

「あいつには、聞かなきゃいけないことが山ほどあるの」

 

眼光強く、イヨを見据えた横顔に。

白旗を上げるように、響は手をひらひらさせた。

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

「切歌ちゃんはわたしと一緒に攻撃!未来は調ちゃんと援護をお願い!」

 

言いようもない怪我人だからね。

いのちだいじに!!

切歌ちゃんと並んで突っ込み、相手の照準が未来達へ向かわないようにかく乱する。

 

「――――壊れた機械は 夢を見ている」

 

イヨさんが歌い始めた傍ら、サンジェルマンさんがガンブレードを翳して突っ込んできたので。

こっちも刃を出して鍔迫り合い。

叩き落とすように相手の得物を押し下げ、滑らせるように一閃。

 

「永遠に醒めぬ時を奏でて」

 

蹴り飛ばしたところへ、切歌ちゃんが大振りの斬り下しを放つ。

わたしが追撃を叩き込もうとすると、鼻っ柱をかすめるレーザー。

一瞥すると、イヨさんが指先をこっちに向けてるのが見えた。

 

「あとどれくらいの 夜を紡げば」

 

放たれる弾丸も対処してる間に、一歩下がったイヨさんが結晶を錬成。

高低様々な空中に配置される。

レーザーが反射されそう。

それで、こう、実写版バイ〇ハ〇ードみたいなサイコロステーキを作りにかかるかもしれない・・・・!!

某先輩?ほら、あの人は糸だから・・・・。

違うにしても、放置すんなって本能がささやいてる。

 

「あなたを照らす 光になれる?」

 

とはいえ、そう簡単にさせてくれるわけないよなぁ・・・・!

イヨさんの思惑を知ってか知らずか、破壊を狙おうとするとサンジェルマンさんが邪魔してくる。

 

「舐めんなッ!!」

「デースッ!!」

 

わたしはジャマダハルで、切歌ちゃんは鎌で。

レーザーを反射しながら、しれっと利用して狙い撃ってやる。

思惑通り、サンジェルマンさんの眉間が鬱陶しいとばかりに皺が寄った。

 

「目をそらさないで あなたの想うわたしじゃなくても」

 

銃を持った腕を、蹴りや手刀で打ちながら。

銃口を向けるのを阻止、徹底的に邪魔してやる。

だけど、イヨさんがレーザーを発射したことで進撃は止められてしまう。

 

「――――空白から未来へ綴る調べを 捉えて」

 

ここで、ついに結晶の仕掛けが発動した。

イヨさんが飛び出したと思ったら、その姿が消えていた。

 

「Just call my name, So call my name.」

「あああッ!?」

「ぐあ、ッ、調ちゃん!」

 

と、認識した直後に悲鳴。

振り向くと、調ちゃんが未来ごと倒れていた。

 

「ア、アイツ、どうやって!?」

「よそ見してる余裕なんてあるのかしら!?」

 

サンジェルマンさんは、驚く暇すら与えてくれない。

で、でも。

何が、起こったんだ。

この一瞬で、どうやって移動を!?

 

「散りゆくひとひらを」

「このッ!!」

 

調ちゃんの下から這い出た未来が、接近してたイヨさんに一撃加えようとするけど。

またまばたきのうちに消えてしまう。

 

「数えてください」

「あああ――――ッ!!!」

「未来ーッ!!」

「あなたのその胸で」

 

今度は未来の後ろに現れて、背中を思いっきり蹴り飛ばした。

・・・・あんまりに刹那的な出来事だったけど。

今度ははっきり見えた。

『鏡面』だ。

結晶に写った、微かな鏡像の世界。

イヨさんはそれらを、光と一緒に渡り歩いて動いている・・・・!!

こうなると、ビルの窓や、水たまりの水面、捨てられた瓶・缶のゴミに、わたし達のギアすらも。

彼女の足場足りえるということになる!!

 

「そんな無茶苦茶な、ぐう!!」

 

同じくからくりに気づいたらしい切歌ちゃんも、素っ頓狂な声を上げていた。

わたし達がサンジェルマンさんに手古摺っている間に、未来への猛攻は続いていく。

・・・・元々限界だった未来は、離れていてもはっきり分かるほど喘いでいる。

聞こえる呼吸は、まるでふいごの様だ。

 

「片手間に勝てるなどと思わないことね」

「な、があッ!?」

 

そうやってよそ見をしてしまっていたから、してやられてしまった。

サンジェルマンさんの錬金術を避け損ねて、切歌ちゃん共々捕らえられてしまう。

 

「わたしはまだ わたしでありたい」

「ッ未来さんから・・・・」

 

ふらふらの状態から立ち上がったのは、調ちゃんだ。

頭の丸鋸に加えて、両手にヨーヨーを構えて。

 

「離れてッ!!」

 

飛び出した。

丸鋸を放ってイヨさんを引きはがすと、ヨーヨーのワイヤーと本体の刃を縦横無尽に展開して。

近づけまいと、奮闘してくれたんだけども。

 

「甘いよ、調ちゃん」

「――――えっ?」

 

また鏡面移動!!

ワイヤーから飛び出たのが見えた。

光を受けて反射するものであれば、本当に何でもいいってか!?

 

「おやすみ」

「調ッ!」

 

結晶から抜け出すまでの間に、首元に一撃叩き込まれて気絶してしまった。

・・・・切歌ちゃん共々、こうしてる場合じゃない。

未来が危ない!!

 

「ぐっ、このォッ!!」

 

片足のジャッキが動いたので、それを突破口に脱出を図る。

一方の未来は、倒れた調ちゃんを庇いながらシャトルを発射。

少しでも時間を稼ごうとしているけれども。

 

「何を無意味なことを、いっそ涙ぐましいわね」

 

イヨさんは、調ちゃんに話しかけた時とは正反対の、冷え切った声でレーザーを放って。

反射で増幅させた弾幕が、あっと言う間にシャトルを全滅させてしまった。

 

「ど、どうして・・・・!?」

 

わたしが何とか両足を解放させた横で、諦めていない未来が問いかける。

 

「どうして、わたしを殺そうとするの!?わたしが死んだら、あなただって――――」

「――――愚問、全く以て愚問だわ」

 

よし、両手もいけた!

 

「未来ッッッ!!!!」

 

多少残った結晶はそのままに。

未来と調ちゃんと助けるべく駆け出す。

頭によぎるのは、ステファン君と了子さん。

一人は片足、一人は片腕。

わたしが不甲斐ないばっかりに、わたしが鈍間だったばっかりに。

もう取り返しができない大怪我を負わせてしまった二人。

彼らを大切に思っていた人達を、悲しませてしまった二人。

――――急げ、急げ、急げッ!!

未来を守れ、調ちゃんを救え!!

これ以上、何も傷つけさせて。

溜まるものかッ!!

走る、進む、駆ける。

一歩でも一秒でも、速く!!

助けるべき人達の下へ、たどり着け!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

だ、けど。

だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは結局。

肝心なところで、とんでもない役立たずに成り下がってしまって。

 

 

 

 

 

 

「――――神獣鏡の退魔の由来は」

 

イヨさんは、右腕を。

わたしと、未来の家で『封印(ほかん)』しているはずの、手甲から。

刺突刃を伸ばして。

 

「その名の通り、描かれた神獣から来ている」

 

深く、深く。

未来の鳩尾から。

穿ち上げるように、突き刺して。

 

「『獣殺し』は、よく効くでしょう?」

 

無情に、捻った。

 

「~~~~~ッ、未来ウゥ――――ッ!!!!」

 

未来の、空を突き刺すような悲鳴をかき消すほど叫んだ。

激情の横で、『こんな大声が出せたんだ』と。

見当違いに冷静な部分が残っている。

拳を一発、地面を抉る勢いで放つ。

必死に未来を搔き抱きながら。

血が巡りすぎて狭まった視界で、イヨを捉えた。

 

「――――小日向未来」

 

一方のイヨの顔は、高揚している様だった。

笑ってこそいないものの、爛々と光る眼で見つめ返して。

 

「愛しているなら、死ね」

 

テレポートジェムの光に包まれながら、吐き捨てた。




今回イヨさんが劇中で歌いました曲は、天野月子さんの『ゼロの調律』です。
使用に当たりまして、一番と二番を少しツギハギしました。
フルもとってもエモいので、良ければチョイワル抜きでも聞いてくださいな。

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