次回もわりとすぐ上げられると、いいな・・・・!
それはそうと。
先日、Twitterにてクロのイラストを頂きました。
いい加減ギャラリーなり何なりを作るべきかと考えておりますが、如何せん、そしてありがたいことにたくさんあるので。
さぁーてどうすっぺ。
「・・・・お前は、何故戦える?」
皮切りは、いつかも聞いた言葉からだった。
「お前が『守りたい』とのたまうものの中には、一度は裏切り、ありもしない罪過を押し付け、徹底的に痛めつけた人間たちも含まれているだろう?」
「そりゃあ、そうですけど」
それがいったいどうしたんだろう?
首をかしげていると、サンジェルマンさんの唇が動いたのが見えた。
「・・・・・私もかつて、身分を理由に虐げられたことがあった。掃き溜めで足搔き、学び、もがく中で、人類が背負わされた呪いのことを知った」
「――――ッ!?」
・・・・それって、まさか。
「『バラルの呪詛』・・・・お前もよく知っているだろう」
「ッ、それで何をするつもりだ・・・・!?」
人類全体に影響を与えている、言い方を変えれば与えられる代物。
少しいじれば世界征服だって夢じゃないものについて言及したんだ。
警戒するなって方がおかしい。
「――――無論」
目に見えて身構えたわたしに、『落ち着け』の一言も言わないサンジェルマンさん。
「人類の解放だ」
必要もないと言わんばかりに、そんなことを告げた。
・・・・なんか、思ったよりも平和な目的。
思わず拍子抜けして、ぽかんと呆けてしまった。
「そも、人々が互いを虐げるようになったのは何故か、人々が互いを攻撃するようになったのか・・・・・言うまでもない」
指が、高く、向けられる。
はるか上空、ちょうど昼間に顔を出した月へと。
「神々の都合で人類に押し付けられた、『バラルの呪詛』こそが全ての原因、あらゆる災禍の源・・・・!」
「・・・・解放って割には、ずいぶん人死にが出ているね?」
「五千年にわたって人類を縛ってきた、神の呪いに手を出すのだ・・・・・犠牲なくして叶えられるわけがなかろう?」
いや、そりゃそうだけど・・・・。
・・・・でも、サンジェルマンさんが本気であるのは理解できた。
あの目、思い出した。
わたしだ。
世界を放浪していた頃、何が何でも未来を守ろうと思っていた頃。
なんとなく覗いた鏡で、時々見ていたわたしの目。
目的の為なら、願いの為なら。
どんな汚泥もかぶろうと覚悟を決めた、同じ目。
「改めて問おう、立花響」
その目が、問いかけてくる。
「お前は何故戦える?人の汚濁を知ってなお、何故守ろうと考えられる?」
見下ろす視線は、逃げを許してくれない。
「私と同じ絶望を知って、何を寄る辺と握りしめる?」
震える様に聞こえる声から。
どこか、羨望すらも抱いた疑問をぶつけられた。
わたしが、戦う理由。
ルナアタック、執行者事変、魔法少女事変を経ても、まだ誰かの為に戦える理由。
――――確かに、サンジェルマンさんの言うとおりだ。
世界を三度も救っているんだし、助けてくれた人達への恩なら充分に返せているだろう。
少なくとも、
・・・・・だけど、わたし自身は。
「――――証だ」
「証?」
伏せていた目を開いて、いつの間にか握り締めていた拳を胸に当てて。
上方のサンジェルマンさんを見上げた。
「誰が何と言おうと、被害者のほとんどが同じ犯罪者であろうと。わたしが誰かを殺したという過去はついてくる。わたしだって、否定するつもりはないし、逃げるつもりもない」
リセットすることも叶わない事実は、もはや死ぬことでしか逃げ切ることが出来ない。
だけど、
「未来は、みんなは、そんなわたしを信じて、手を繋いでくれた。日向に引き上げる価値があると、見出してくれたんだ」
だから、
「わたしには、信頼を裏切ってはならない義務がある。みんなの選択の正しさを、証明し続ける責任がある」
もう、『原作』なんて。
二の次でしかない。
わたしの人生は、命は。
多くの人を巻き込んでしまっている。
とっくに、個人のものではない。
だから・・・・!
「選択の正しさを示し続ける為、信頼に応える為に・・・・わたしは、拳を握り続ける」
それが、彼らに報いる唯一の方法だ。
これが、『立花響』の新たな生き方だ。
「・・・・・証の為。罪に手を染めたからこそ、か」
「お気に召さない?」
「いや、納得出来るものだ」
ちょっとクサいこと言っちゃったかしらなんて心配し始めた頃。
サンジェルマンさんが口を開いた。
言動から見るに、及第点はもらえたみたい。
「――――嗚呼、故にこそ」
ぎらり、と。
眼光が迸る。
「我らの障害足りえるよ、
向けられる銃口、展開された錬金術の陣。
それら全ての照準は、わたしに定められている。
「その証とやら、私にも見せてくれるのだろう?」
「・・・・当然」
挑発的な笑顔に、こっちもつられて笑ったのが分かった。
◆ ◆ ◆
「何処で、ねえ?」
露になったものを艶めかしい手で撫でながら、嘲笑うような息で布面を揺らすイヨ。
向けた気迫も何処吹く風といった態度に、未来の口元が軋んだ音を立てる。
「自分が一番知っているんじゃないの?」
「ッ、この・・・・!!」
「み、未来さん!!」
「無茶デスよ、その怪我じゃ返り討ちがオチデス!」
今にも飛び掛かりそうな未来を、何とか抑え込む調と切歌。
いつになく頭に血が上っている様に、戦々恐々としている。
イヨは、そんな三人をクスクス嗤いながら眺めていた。
「ふふふ・・・・後輩さん達の言う通りよ。そんな死に体で立ち向かったところで、無駄死にが良いところでしょうね」
最も、と。
袖の下を見せつけるように、右の手をするりとはためかせて。
「これが見えただけでその体たらく、万全であってもこちらの負けはないけれど」
付け加えられる嗤い声。
明らかな挑発は、未来の怒りに多量の油をぶちまけた。
「ッうあああああああ!!」
シャトルマーカーを射出。
撃ったレーザーを反射させ、収束して放つ。
イヨは松代で使ったリフレクターを展開。
難なくいなすと、お返しとばかりに炎を放ってくる。
続けて土の陣を展開。
未来のアームドギアを模したものを錬成してみせた。
「こ、のぉ!!!」
疲労の色濃い腕が放つ攻撃を捌きながら、未来を懐へ誘っていく。
「だ、だめデス。完全にお冠デスよ!」
「とにかく止めないと。このままじゃ未来さん、大変なことになっちゃう・・・・!」
「が、合点!」
いつにない激昂をする未来に戸惑いながらも、その負傷を気遣い制止を判断した調と切歌。
まずはイヨを引き離そうと、それぞれの飛び道具を牽制で放った。
未来との戦闘の中で、容易くそれを補足していたイヨは。
一瞥すると同時に手をかざす。
現れたのは、巨大な二枚の鏡。
切歌の呪りeッTぉと、調の百輪廻を掬い取るように回転すると。
そのままイヨのもとへ舞い戻っていく。
「吸収された!?」
驚愕も束の間、一枚は鏡を核としたビーム体の鎌へ。
もう一方はさらに分裂すると、そのまま凶悪なギザ歯を纏って巨大な丸鋸に変化した。
「違う、コピー!!」
「そんなんありデスか!?」
切歌の素っ頓狂な声を他所に、凶刃が未来へ襲い掛かる。
驚いているばかりではないと立ち直った二人は、ほぼ同時に駆け出した。
「ッ、させないデスよ!!」
何とか割り込んだ切歌がビーム鎌を受け止め、調が追撃を加えてイヨを引きはがす。
どさくさに紛れてしつこく未来を狙ってきた丸鋸鏡も、直ちに対処。
弾き飛ばして、イヨの方へ突き返した。
「後輩二人にお守されて、ずいぶん情けない様ね。『これ』について聞くんじゃなかったの?」
イヨは、再び袖の下をちらつかせながら挑発してくる。
「未来さん、聞かなくていい!!」
「ここで乗ったら、あいつの思うツボデスよ!!」
「分かってる・・・・二人ともありがとう」
上っていた血がある程度引いたことと、調と切歌に諫められたこともあって。
未来は何とか落ち着くことが出来た。
『袖の下』を使った挑発はもう効かないと分かったのか、イヨは何度目かわからないため息を吐きながら。
鎌を握りなおして、飛び出した。
「ッ!!」
接近してきた鎌に、同じく鎌使いの切歌が応戦。
回転させながら斬撃の応酬を繰り広げる。
さらに分裂した丸鋸鏡も、切り付けるだけではなく。
イヨが放った複数の光弾を反射して、不規則な弾幕を生み出していた。
文字通り刈り取りに来る斬撃に加えて、隙あらば頭や足元を穿ってくる光弾。
だが、切歌は苦い顔を晒さない。
「切ちゃん!!」
二刃そろったザババには、可能性が溢れているのだから。
調が光弾を防ぎ、弾き、時には斬撃もカバーする。
二人で一つの攻撃は、順調にイヨを押し込んでいく。
イヨも、戦況の傾きに気づき始めた。
彼女自身それなりに研鑽を重ねているので、決して劣っているはずはないのだが。
それでも追い込んでくる二人には、もはや感嘆すら覚えている。
「舐めてもらっちゃ・・・・!」
イヨが冷静に分析していた様子を、『余裕がある』と思った切歌。
攻撃のテンポを上げ、相手の調子を崩して。
「困るデス!!」
手傷を追わせるつもりで、強い一撃を叩き込んだ。
上に打ち上げる斬撃は、咄嗟の一手で軌道をずらす。
――――思えば、イヨ自身も油断していたのだろう。
だから、
「――――ッ!?」
切っ先に、まんまと布面を引っかけて。
取らせてしまった。
舞い踊る、銀糸のような長い髪。
黄ばんだリボンに纏められたそれが、白日の下にさらされる。
瞳はいっそおぞましい位に紅く煌めき、彼女が只人ではないことを示している。
だが、その程度のことは。
実に些細なことだった。
「――――ぇ」
目を、見開く。
調、切歌、何より未来。
三者三様に言葉を失い、呼吸を忘れ、思考を止める。
「――――ふふっ」
髪は白くとも、目が赤くとも。
覆ることのないその顔で。
相手の反応を楽しんだ『彼女』は、紡いだのだ。
「――――Rei shen shou jing rei zizzl」
寸分違わぬ、その音色を。
「この、アウフヴァッヘン波形は・・・・!?」
S.O.N.G.指令室。
イヨが放ったアウフヴァッヘン波形の解析結果に、誰も彼もが信じられないと。
目を見開いたり、言葉を失ったりしてしまっている。
「――――まさか、君は」
走馬灯のように駆け巡った、これまでの情報。
ある可能性を導き出した弦十郎は、呆然と呟く。