チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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本命は未来さんサイド、だけどエルフナインちゃんの活躍手を抜くのはちょっと・・・・。
大分難産でした。


真実の人

――――りんごはうかんだ おそらに

 

――――りんごはおっこちた じべたに

 

子ども達の無邪気な歌声に、エルフナインは目を覚ました。

体を起こして見渡せば、一面の花畑。

鮮やかな黄色が眩しいその中で、花冠を作って遊ぶ少女達がいる。

幼いながらも、見え隠れする面影はよく知っているものだった。

 

「・・・・マリアさんの脳領域に、上手く入り込めたようですね」

 

この先の人生で待っていることなど、まだ何も知らずに。

屈託のない笑みを浮かべているマリアは、まだ十にも満たないだろう。

隣にいるのは、今は亡き妹か。

 

「・・・・行かなければ」

 

胸に募った、言いようのないやるせなさをなだめすかして。

エルフナインは立ち上がった。

歩みに合わせて場面が変わっていくので、道に迷うことはなさそうだが。

油断は出来ない。

マリアの脳領域は、現在エルフナインという異物に侵入されている状態だ。

いつ命が脅かされてもおかしくないのだ。

 

「何かあるはず・・・・あの日、呪縛すら打ち破ったマリアさんの脳領域になら、きっと・・・・!」

 

一歩、一歩、確実に。

目的を目指して、ひたすら前進する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いて!!でも急いでシェルターに入ってください!」

「シンフォギアがすでに出撃しています!慌てなくて大丈夫です!!」

 

人々が逃げ惑う街中。

S.O.N.G.本部へ向かっていた未来は、途中見つけたエージェント達に混じって避難誘導を行っていた。

シンフォギアの存在が公になっていることが功を奏し、一般人は比較的落ち着いて行動している。

 

「今ので最後?」

「だな、総員指定の位置まで下がれ!逃げ遅れなどの想定外に備えて、待機!」

「了解ッ!」

「未来ちゃんもありがとう、本部まで送るよ」

「ありがとうございます」

 

避難も粗方終わり、目立った怪我人がいないことにほっとする未来。

職員の一人に付き添われ、当初の目的地へ足を向けた。

 

「向こうに車があるから、それで行こう」

「はいッ!」

 

人がまばらになった中を駆け抜けていくが。

段々と大通りから離れているのに気付いた未来は、違和感を抱き始める。

気のせいかと考えもしたが、しかし。

それにしたって、薄暗い方へ薄暗い方へと向かっているこの現状に。

十代半ばの少女が、どうして臆せずにいられようか。

 

「ぁ、あの!」

「何でしょう?」

 

思わず足を止め、先導していた職員を呼び止めた。

声が上ずったのは、急停止したからだと何とか思い込む。

 

「わたし達、本部に向かっているんですよね?」

「ええ、そうですよ?」

「じ、じゃあ、どうして通りから離れて行っているんですか?車はどこに?本部にはいつ着くんですか!?」

 

確信めいた悪寒に従って、一歩一歩後ずさりながら問いかけをぶつければ。

なだめようともしてこなかった職員は、大きくため息。

笑いかけてくれていたはずの表情を、一変させて。

 

「――――存外、早く気付いたものね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

歩めば歩むほど、進めば進むほど。

目まぐるしく変化していくマリアの脳領域、その景色。

まるで嵐の中心にいると錯覚するような、情報の濁流の中。

エルフナインは一歩一歩踏み進めて、手がかりにつながりそうなものを探していく。

幼い足取りで戦火から逃げる様子、白い孤児院(F.I.S.)でのモルモット生活。

そして、妹との死別。

何度打ちひしがれながらも、時には奮起して、時には他にそうするしかなくて。

立ち上がって歩き出すマリアの姿に。

目的のものを見つけられない弱音を励まされながら、エルフナインは走っていた。

 

「時間はどのくらい経ったんだろう・・・・はやく手がかりを見つけないと、マリアさんにも負荷が・・・・!」

 

はやる心を宥めて、次へ進もうとした時だった。

――――突如として、吹き渡る風。

前触れなく現れた奔流が、空間を押し広げるようにうねり、駆け巡っていく。

警戒露わに足を止めたエルフナインの目の前で、瓦礫の街を作り終えると。

最後に人影を一つ添えたのだった。

エルフナインも良く知っている、その顔は。

 

「響さん・・・・!」

 

もちろん本人ではない。

ここがマリアの脳領域であることを考えるなら・・・・!

 

「うわぁッ!?」

 

案の定、襲い掛かって来た。

紙一重を転びながら避けて、砂を払わないまま立ち上がる。

 

「やはり、免疫反応・・・・侵入者であるボクを排除しようと・・・・!」

 

濃い敵意を放つ両目に、うっかり騙されそうになるが。

正当性があるのは、圧倒的にあちらの方だ。

いかなる障害をも排除するという意思は、確かにかつての響がぴったりだが。

今のエルフナインに、そんなことを考える余裕はない。

現れた『響』も当然、あらゆる雑念を捨てて『侵入者(エルフナイン)』の排除にかかる。

背が低いエルフナインに合わせ、蹴りを中心に攻撃。

刃を放つのはもちろん、時には『手』を使って捕獲しようとしてきた。

 

(こんなところで、やられるわけには・・・・!)

 

まだ何の手がかりも掴めていない。

腕っぷしが絶望的なのは理解しているが、それでもやられるわけにはいかない。

 

「ボクは、まだッ・・・・マリアさん達の信頼に、応えていないッ!!」

 

あっという間に距離を詰め、足を天高く上げる『響』。

逃れられない速度のはずのそれが、ゆっくり迫って来るに見える中。

必死に頭を回転させて、活路を見出そうとした。

そんな時だ。

また、風が吹き抜けた。

白銀をきらめかせた『彼女』は、瞬く間に『響』とエルフナインの間に割って入り。

 

「――――はあぁッ!!!!」

 

『響』を、大きく叩き飛ばした。

いっそ桃色がかったストロベリーブロンドが、衝撃に靡いてきらきらと輝く。

呆然とするエルフナインの方へ、振り向いたその顔は。

 

「・・・・ま、マリアさん?」

「さっきぶりね、エルフナイン」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴ、その人だった。

 

「こ、これはボクの妄想?それとも脳領域の記憶・・・・?」

「あら、つれないこと・・・・一緒に戻ろうって約束したじゃない」

 

自信たっぷりの笑みで、容易く本物であると証明して見せたマリアは。

再び飛び掛かって来た『響』の攻撃に、難なく対応して見せる。

掴みかかって来た『手』すらも難なく切り裂いて、

 

「――――ッ!?」

「悪いけど、今過去(あなた)にかまっている暇はないの」

 

驚愕に目を見開く『響』を、あっという間に無力化してしまった。

 

「こっち!」

「あっ・・・・!」

 

そしてエルフナインの手を取って、颯爽と走り出す。

再びうねる空気。

目の前に現れたのはノイズの群れ。

 

「随分なじみ深い顔ねッ!」

 

もちろん、マリアが臆する理由などない。

立ち塞がる者は当然として、エルフナインを狙うものをも。

蛇腹状にした剣で両断していく。

 

「ここが私の中であるというのならッ!!」

 

もう一捻りして、第二陣も撃破。

 

「好き勝手させてもらうわッ!!」

「ふえぇ・・・・」

 

後続もまとめて吹き飛ばす様は、まさに獅子奮迅といったところか。

先ほどまでの緊張感が、感嘆とともに抜けていくのを感じながら。

エルフナインは未だ存在する瓦礫に躓きながらも、マリアの背中を必死に追いかけた。

 

「もうそろそろ、何か見えても・・・・ッ!?」

 

余裕が生まれたことで、見えるものかもしれないと。

わずかな希望を抱いた、その時だ。

 

「うわぁッ!?」

「エルフナインッ!?くっ・・・・!!」

 

足元が、ぐわんとうねって暴れだした。

産まれた奈落に危うく放り出されるところを、マリアが跳躍のちに確保する。

安全な足場を伝って直ちに退避を試みたものの、逃げ切る前にすべてが崩落してしまった。

こうなったなら、もう落ちる他ない。

 

「ッ、しっかりつかまっていなさい!!」

 

文字通りの底なしを前に怯んだエルフナインを、両腕でしっかり抱え直して。

マリアは眼前の暗闇に挑みかかって。

――――――意識を、飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・生き、ている?」

 

一体どれほどの時間が経っただろうか。

意識を取り戻したマリアがまず行ったのは、自らとエルフナインの安否確認だった。

寝起きの様なおぼつかない目を何とか動かすと、幸いすぐそばで力なく浮いているのを発見する。

生きていることにほっとしながら、確保と同時に周囲の観察に努めた。

立つべき地面はなく、黒やピンクなどがカラフルに蠢く空間は。

まるでサイケデリックなオーロラの中にいる様だ。

 

「――――お目覚めの様ですね」

 

ふいに、そんな声がかかった。

聞き覚えのある、そして二度と聞くことがないはずのそれに。

マリアが弾かれたように振り向けば。

 

「おやおや、ずいぶん面白い顔をしていらっしゃる」

 

やはり、よく知っている白衣が揺れた。

 

「な、何故お前がここに!?」

「何故だって?そんなの、決まっているじゃないですかッ!!」

 

素直に疑問をぶつければ、そいつは、ウェルは。

舞台俳優の様な所作で両手を広げて。

 

「あなた達が望むものを所有するッ!!僕こそが真実の人ッ!」

 

「ドクタアアアアアァァーッ!ウェルッ!!」

 

運動神経が鈍いと忘れそうなキレのある動きを見せたのだった。




次はもうちょっと早く上げられるはず・・・・!

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