誠にありがとうございました。
割と攻勢に悩んだ最新話です。
「ん、しょと」
S.O.N.G.技術班にあてがわれた、小規模な実験用の部屋。
小さな体で、機材を運び込んでいたエルフナイン。
「すごいな、これってウェル博士の?」
「はい!あ、その燭台は平行になるようお願いします」
「はーい、誰かメジャー持ってこーい」
準備を手伝っていた職員の質問を肯定しながら、てきぱき指示を出していく。
「あのチップの中にあった、装者の強化プランの一つ『ダイレクト・フィードバック・システム』・・・・」
『ダイレクト・フィードバック・システム』。
装者育成プランの一つとして、ウェルが構想していた計画の一つだ。
熟練者の経験値を直接脳にインプットすることで、初心者の経験値不足を補おうという趣旨だが。
「元々神獣鏡に組み込む予定だったんだっけ?」
「はい。ですが、未来さんがLiNKER有りきと言えど、システム補助が不要な数値を出したことからやめた様です」
他にも、心臓と同じく人体の生命線であり、かつより繊細な部位である脳をいじることになるので。
失敗のリスクが高いのはもちろん、倫理的にどうだろうかとなり。
実現こそしなかったらしいが。
本当にどうしようもないほど追い込まれた時の最終手段として、データだけ残しておいた状態だったそうな。
「でも、これでどうやってLiNKERを作るんだ?」
「えっと、正確には、レシピを探るんです」
――――LiNKERは未だ、改良レシピが確立されていない。
一番の手がかりであるウェルのチップは解析が済んでおらず。
唯一基盤となるレシピを知っている了子は、松代の攻防にて、片腕を失う重傷を負い未だ目覚めない。
「とはいえ、ウェル博士のチップは解析がほとんど終わっています。未だ難航しているのは、薬品を何処に作用させるか」
「ああ、そういえば脳をどうこうって言ってたっけ?」
「はい、フォニックゲインを生み出すことも、副作用を抑え込むことも。脳の、同じある領域が関係しているそうで」
『話が見えてきたぞ』と、職員は相槌を打って。
「それをこのシステムで探ろうって魂胆か」
「はい!」
肯定したエルフナインの笑顔に、何人かの同僚達が胸を抑えるのを横目に。
話していた向田は、いつもの風景だなと思いながらさらに質問を重ねた。
「具体的にどうやるか聞いても?」
「えっと、フォニックゲインが脳で生成されることは、皆さんご存知のことだと思うのですが・・・・先日の、松代の攻防を思い出してほしいんです」
「松代の?」
未だ苦い感覚が新しい地名を上げられて、首を傾げる職員。
記憶をまさぐって、あ、と声を出す。
「もしかして、マリアさん?」
「その通りです!イヨとの戦闘の中で、マリアさんの能力値が大幅に上昇してましたよね?」
「ああ、データでだけど見たよ。LiNKER無し、イグナイトも使って負担が大きかったはずなのに、あの一瞬だけ飛びぬけて適合係数が跳ね上がってた」
「私も見た見た!それだけじゃなくて、係数関係ないはずの呪術も破ってたよね!?」
会話に割って入ってきた女性研究員を皮切りに、手伝っていた職員達が口々に『そういえば』『すごかったよな』と頷きあう。
「加えて、視認出来るほどのオーラ・・・・マリアさんの脳領域を、この錬金術でアレンジした、ダイレクトフィードバックシステムで探ることができれば」
「LiNKERのレシピを、完全に解明することができる!!」
彼らが話しているうちに各々の準備が終わったらしい。
「よっしゃ、もうひと踏ん張りだぞお前ら!」
「おーッ!!」
各々拳を突き上げて、気合を入れ直す技術班なのであった。
◆ ◆ ◆
「――――チョコ明太子味って大分攻めてるよね」
「ハニーピクルスホイップ食ってるやつが抜かしおる」
「いや、冗談みたいだけど合うのよこれ」
「こっちもおいしいよ食べてみなー」
「ちょ、ま、もががが・・・・!」
ギャーッ!!濃いたらことチョコレートがランバダ踊りだした!!
やめろやめろ徒党を組むな『自分チョコバナナっす』って顔でパレードするんじゃないよ!!
・・・・気を取り直して。
おっす、おら響(某御大風に)
松代の攻防でボッコボコにされちゃったので、他のみんなより長めのお休みをもらったわたしです。
いや、絆創膏と包帯まみれになるだけだったわたしはいいんだよ。
問題は了子さんだ。
あの日風鳴機関に出向していた了子さんは、ダウンしてしまったわたし達を庇ってくれたけど。
その代償として、全身に重度の火傷を負うだけじゃなく。
左腕まで失くしてしまった。
現在、二課時代から縁のある病院で治療中。
意識はまだ戻っていない。
倒れるところを直接目にしてしまったらしいクリスちゃんは、鬼気迫る表情で訓練の毎日だ。
翼さんやマリアさんがついてるから大丈夫だとは思うんだけど・・・・ルナアタックの頃の、ピリピリした雰囲気が戻ってきてるからなぁ。
心配だ。
――――『ラピス=フィロソフィカス』。
それがあの日、わたし達を追い込んだファウストローブ、ならびに聖遺物の正体だ。
『賢者の石』の名前で広く知られているそいつの特性は、『徹底した浄化作用』。
あらゆる不浄、害毒、呪いを打ち払うその有り方は。
わたし達の奥の手の一つであるイグナイトモジュールを、完全な泣き所にしてしまっていた。
現在はひとまず戦力不足だけでもどうにかしようと、エルフナインちゃんが頑張っているみたいだけど・・・・はてさて。
「あ、これもおいしい。ピクルスの
「でしょー」
とはいえ、さんざん心配したり気を揉んだくらいでどうにかなるのなら。
そもそもこんなに問題になってないはずだからね。
言葉をうまく紡げない外野は、黙って見守るしか出来んのですよ・・・・。
ってなわけで、今は弓美ちゃん達と久々におデート。
立ち寄った屋台村で、美食の新境地に挑んでいた次第。
いやぁ、わたしにチョコ明太子は早すぎたなぁ・・・・。
なんて、クレープを頬張った。
「・・・・ん?」
ふいに、ニュースを垂れ流していた街頭モニターに目をやると。
最近見た覚えのある顔が、車椅子に乗って空港にいる映像が流れていた。
付き添って来たらしいお姉さんが、彼の車椅子を押している。
・・・・手術成功するといいな、ステファン君。
「何か気になるの?」
「んーにゃ、なんにも」
未来に返事しながら、クレープの最後の一口を放り込んだ。
うん、美味い。
他のみんなも食べ終えて、どこに行こうかと話し合っている。
カラオケか買い物か、絞った二つの行先を、じゃんけんで決めようとした時だった。
街中に響き渡ったのは、ノイズの出現を知らせるJアラート。
・・・・カァーッ!公務員はつらいなァーッ!!
「お仕事モードだね、ビッキー」
「そーいうこと!いってきマース!」
「みんなも早く安全なところに!」
わたしは現場へ、未来は本部へ。
それぞれの現場へ駆け出した。
◆ ◆ ◆
「パヴァリア光明結社の襲撃!?こんな時に!!」
「いや、敵さんがこっちの都合考えてくれるわきゃねーだろ」
「対話してる間に待っててくれるノイズを見習えよ!!頼むから!!」
S.O.N.G.本部、エルフナインがLiNKERのレシピを探ろうとしていた実験室。
響き渡るアラートに、エルフナイン始め職員達が困った顔をする中。
表情を引き締めて考え込んでいたマリアは、次の瞬間目を見開いて。
「狼狽えるなッ!!」
その一喝で、動揺を一気に沈めた。
「慌てたところで戦力差は覆らないッ!ならば抗うのみッ!!やることはこれまでと変わらないはずよッ!!」
一人一人と視線を合わせながら、立ち上がるための言葉を紡ぐ。
「構うことはないわエルフナイン、実験を始めましょう!戦闘管制を担当する者は、急ぎ司令室へ!!」
「ッわ、分かりました!!技術班で、LiNKER製造に任命された方は、製造準備をお願いします!!マリアさんの脳領域から帰還次第、すぐに作ります!!」
「りょーかい!みんな行くよ!」
「司令室いってきまーす!!」
「マリアさん、エルフナインちゃん、頑張って!」
気を取り直したエルフナインと共に飛ばされてきた指示を受け、職員達が迅速に動き出した。
「レイアはここに残って、実験の管制を!調さんと切歌さんも、ひとまずこちらで待機をお願いします!!」
「派手に了解」
「分かったデス!」
一通り人がはけ、静まり返ったところで。
未だ緊張した面持ちのエルフナインに、マリアが不敵に笑いかけた。
「精神に他者を受け入れる危険性は、あなたの説明で重々承知した・・・・だけど、乗り越えなければならないというなら、成し遂げるまで」
「マリアさん・・・・」
エルフナインが抱える不安へ、止めを刺すように。
「この命、信頼しているからこそあなたに預けるッ!ともに生きて戻るわよ!」
「・・・・はいッ!!」
頷きあったその顔に、一切の陰りはない。
某錬金術漫画で、賢者の石の別名を一生懸命覚えた人。
手を上げてください。