チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

155 / 199
前回までの閲覧、ご感想、評価。
誠にありがとうございました。
割と攻勢に悩んだ最新話です。


何度でも上げよう、反撃の狼煙

「ん、しょと」

 

S.O.N.G.技術班にあてがわれた、小規模な実験用の部屋。

小さな体で、機材を運び込んでいたエルフナイン。

 

「すごいな、これってウェル博士の?」

「はい!あ、その燭台は平行になるようお願いします」

「はーい、誰かメジャー持ってこーい」

 

準備を手伝っていた職員の質問を肯定しながら、てきぱき指示を出していく。

 

「あのチップの中にあった、装者の強化プランの一つ『ダイレクト・フィードバック・システム』・・・・」

 

『ダイレクト・フィードバック・システム』。

装者育成プランの一つとして、ウェルが構想していた計画の一つだ。

熟練者の経験値を直接脳にインプットすることで、初心者の経験値不足を補おうという趣旨だが。

 

「元々神獣鏡に組み込む予定だったんだっけ?」

「はい。ですが、未来さんがLiNKER有りきと言えど、システム補助が不要な数値を出したことからやめた様です」

 

他にも、心臓と同じく人体の生命線であり、かつより繊細な部位である脳をいじることになるので。

失敗のリスクが高いのはもちろん、倫理的にどうだろうかとなり。

実現こそしなかったらしいが。

本当にどうしようもないほど追い込まれた時の最終手段として、データだけ残しておいた状態だったそうな。

 

「でも、これでどうやってLiNKERを作るんだ?」

「えっと、正確には、レシピを探るんです」

 

――――LiNKERは未だ、改良レシピが確立されていない。

一番の手がかりであるウェルのチップは解析が済んでおらず。

唯一基盤となるレシピを知っている了子は、松代の攻防にて、片腕を失う重傷を負い未だ目覚めない。

 

「とはいえ、ウェル博士のチップは解析がほとんど終わっています。未だ難航しているのは、薬品を何処に作用させるか」

「ああ、そういえば脳をどうこうって言ってたっけ?」

「はい、フォニックゲインを生み出すことも、副作用を抑え込むことも。脳の、同じある領域が関係しているそうで」

 

『話が見えてきたぞ』と、職員は相槌を打って。

 

「それをこのシステムで探ろうって魂胆か」

「はい!」

 

肯定したエルフナインの笑顔に、何人かの同僚達が胸を抑えるのを横目に。

話していた向田は、いつもの風景だなと思いながらさらに質問を重ねた。

 

「具体的にどうやるか聞いても?」

「えっと、フォニックゲインが脳で生成されることは、皆さんご存知のことだと思うのですが・・・・先日の、松代の攻防を思い出してほしいんです」

「松代の?」

 

未だ苦い感覚が新しい地名を上げられて、首を傾げる職員。

記憶をまさぐって、あ、と声を出す。

 

「もしかして、マリアさん?」

「その通りです!イヨとの戦闘の中で、マリアさんの能力値が大幅に上昇してましたよね?」

「ああ、データでだけど見たよ。LiNKER無し、イグナイトも使って負担が大きかったはずなのに、あの一瞬だけ飛びぬけて適合係数が跳ね上がってた」

「私も見た見た!それだけじゃなくて、係数関係ないはずの呪術も破ってたよね!?」

 

会話に割って入ってきた女性研究員を皮切りに、手伝っていた職員達が口々に『そういえば』『すごかったよな』と頷きあう。

 

「加えて、視認出来るほどのオーラ・・・・マリアさんの脳領域を、この錬金術でアレンジした、ダイレクトフィードバックシステムで探ることができれば」

「LiNKERのレシピを、完全に解明することができる!!」

 

彼らが話しているうちに各々の準備が終わったらしい。

 

「よっしゃ、もうひと踏ん張りだぞお前ら!」

「おーッ!!」

 

各々拳を突き上げて、気合を入れ直す技術班なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――チョコ明太子味って大分攻めてるよね」

「ハニーピクルスホイップ食ってるやつが抜かしおる」

「いや、冗談みたいだけど合うのよこれ」

「こっちもおいしいよ食べてみなー」

「ちょ、ま、もががが・・・・!」

 

ギャーッ!!濃いたらことチョコレートがランバダ踊りだした!!

やめろやめろ徒党を組むな『自分チョコバナナっす』って顔でパレードするんじゃないよ!!

・・・・気を取り直して。

おっす、おら響(某御大風に)

松代の攻防でボッコボコにされちゃったので、他のみんなより長めのお休みをもらったわたしです。

いや、絆創膏と包帯まみれになるだけだったわたしはいいんだよ。

問題は了子さんだ。

あの日風鳴機関に出向していた了子さんは、ダウンしてしまったわたし達を庇ってくれたけど。

その代償として、全身に重度の火傷を負うだけじゃなく。

左腕まで失くしてしまった。

現在、二課時代から縁のある病院で治療中。

意識はまだ戻っていない。

倒れるところを直接目にしてしまったらしいクリスちゃんは、鬼気迫る表情で訓練の毎日だ。

翼さんやマリアさんがついてるから大丈夫だとは思うんだけど・・・・ルナアタックの頃の、ピリピリした雰囲気が戻ってきてるからなぁ。

心配だ。

――――『ラピス=フィロソフィカス』。

それがあの日、わたし達を追い込んだファウストローブ、ならびに聖遺物の正体だ。

『賢者の石』の名前で広く知られているそいつの特性は、『徹底した浄化作用』。

あらゆる不浄、害毒、呪いを打ち払うその有り方は。

わたし達の奥の手の一つであるイグナイトモジュールを、完全な泣き所にしてしまっていた。

現在はひとまず戦力不足だけでもどうにかしようと、エルフナインちゃんが頑張っているみたいだけど・・・・はてさて。

 

「あ、これもおいしい。ピクルスの塩気(しおっけ)とポリポリがイイネ」

「でしょー」

 

とはいえ、さんざん心配したり気を揉んだくらいでどうにかなるのなら。

そもそもこんなに問題になってないはずだからね。

言葉をうまく紡げない外野は、黙って見守るしか出来んのですよ・・・・。

ってなわけで、今は弓美ちゃん達と久々におデート。

立ち寄った屋台村で、美食の新境地に挑んでいた次第。

いやぁ、わたしにチョコ明太子は早すぎたなぁ・・・・。

なんて、クレープを頬張った。

 

「・・・・ん?」

 

ふいに、ニュースを垂れ流していた街頭モニターに目をやると。

最近見た覚えのある顔が、車椅子に乗って空港にいる映像が流れていた。

付き添って来たらしいお姉さんが、彼の車椅子を押している。

・・・・手術成功するといいな、ステファン君。

 

「何か気になるの?」

「んーにゃ、なんにも」

 

未来に返事しながら、クレープの最後の一口を放り込んだ。

うん、美味い。

他のみんなも食べ終えて、どこに行こうかと話し合っている。

カラオケか買い物か、絞った二つの行先を、じゃんけんで決めようとした時だった。

街中に響き渡ったのは、ノイズの出現を知らせるJアラート。

・・・・カァーッ!公務員はつらいなァーッ!!

 

「お仕事モードだね、ビッキー」

「そーいうこと!いってきマース!」

「みんなも早く安全なところに!」

 

わたしは現場へ、未来は本部へ。

それぞれの現場へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

「パヴァリア光明結社の襲撃!?こんな時に!!」

「いや、敵さんがこっちの都合考えてくれるわきゃねーだろ」

「対話してる間に待っててくれるノイズを見習えよ!!頼むから!!」

 

S.O.N.G.本部、エルフナインがLiNKERのレシピを探ろうとしていた実験室。

響き渡るアラートに、エルフナイン始め職員達が困った顔をする中。

表情を引き締めて考え込んでいたマリアは、次の瞬間目を見開いて。

 

「狼狽えるなッ!!」

 

その一喝で、動揺を一気に沈めた。

 

「慌てたところで戦力差は覆らないッ!ならば抗うのみッ!!やることはこれまでと変わらないはずよッ!!」

 

一人一人と視線を合わせながら、立ち上がるための言葉を紡ぐ。

 

「構うことはないわエルフナイン、実験を始めましょう!戦闘管制を担当する者は、急ぎ司令室へ!!」

「ッわ、分かりました!!技術班で、LiNKER製造に任命された方は、製造準備をお願いします!!マリアさんの脳領域から帰還次第、すぐに作ります!!」

「りょーかい!みんな行くよ!」

「司令室いってきまーす!!」

「マリアさん、エルフナインちゃん、頑張って!」

 

気を取り直したエルフナインと共に飛ばされてきた指示を受け、職員達が迅速に動き出した。

 

「レイアはここに残って、実験の管制を!調さんと切歌さんも、ひとまずこちらで待機をお願いします!!」

「派手に了解」

「分かったデス!」

 

一通り人がはけ、静まり返ったところで。

未だ緊張した面持ちのエルフナインに、マリアが不敵に笑いかけた。

 

「精神に他者を受け入れる危険性は、あなたの説明で重々承知した・・・・だけど、乗り越えなければならないというなら、成し遂げるまで」

「マリアさん・・・・」

 

エルフナインが抱える不安へ、止めを刺すように。

 

「この命、信頼しているからこそあなたに預けるッ!ともに生きて戻るわよ!」

「・・・・はいッ!!」

 

頷きあったその顔に、一切の陰りはない。




某錬金術漫画で、賢者の石の別名を一生懸命覚えた人。
手を上げてください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。